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肆
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やっと村に帰って来た時はもう夕暮れだった。
村の伝達網の早さで、馬車が家に着く頃にはジェイクの馬も着いていた。
「アイリス! 無事だったか!」
「大丈夫よ、私はただの没落貴族って分かってもらったから」
「あの~、せっかくの再会の場面にすみませんが…」
「はい?」
「今晩、私と御者をここの庭に泊めてもらえませんか?」
「何だと!?」
ジェイクが怒りの声をあげる。
「これからまた帰るとしたら、途中で真っ暗になるんで危ないんですよ。それに、馬も夜明けから働いているんで休ませてあげたくて…」
「ふざけるな! 女性の一人暮らしの家に男を入れられるか!」
「家には入りません! 庭でいいですから!」
確かにここら辺の道は細くて足元が悪いので、暗くなってから走るのは危険だ。
「お食事はどうするのですか? 近くに食事をできるお店はありませんわ」
「携帯食があります」
いや、庭で携帯食食べてる人がいるのに自分だけ料理できないでしょう。
「……ふう。食事は提供しますが、ベッドは無いので寝るのは馬車にしてくださいね。馬への水は、裏庭の井戸からどうぞ。飼い葉は無いので、森の草を与えてください」
「ありがとうございます!」
早速、騎士様と御者が馬車から馬を外し始める。
納得してない顔のジェイク。
「……アイリス」
「分かってる。食事だけだから」
「気を付けろよ」
「大丈夫。ところで、今夜と明日の分のパンを買って来てくれない? 一人分しか無いのよ。あと、余ってる食器も貸して?」
と、パン代をジェイクに渡すと
「お金を取るのか!」
後ろから騎士様の責めるような声がした。
あー。『女性にお金を払わせない』は貴族だけの常識だと知らないんだ。平民はおかみさんが財布のひもを握ってるから女性がお金を払うんですよー。
なんて喧嘩を売るわけにいかないので
「騎士様は、私がこの男から施しを受けろとおっしゃるので……?」
と、思いっきり冷たい声で言ってやった。
「ん? そうだな。施されるわけには……」
うんうんと納得して馬を引いて裏庭に行く騎士様たち。
「じゃあ、私は料理に取り掛かるからパンと食器をお願いね」
「本当にあんなのを泊めるのか」
「泊めるって、庭よ。他に手は無いし」
ジェイクはパンと食器を渡す時まで「気を付けろ」と言っていた。
準備が終わったころにはすっかり暗くなっていた。馬車の中で休んでいる騎士様と御者様を家に招く。
二人は、皺にならないよう部屋のあちこちに掛けてある刺繍された服に驚いたようだ。
「これは、ベータムの山岳民族の……」
「はい、そちらをヒントにしています」
「手間が掛かり過ぎると、もうベータムでも作る人がいないのに」
「実はかなり簡略化してるんですよ。他に、モチーフの繋ぎ目を、こっちは凹、こっちは凸にして、デザインのようにしたり」
「すごいな…」
「他にも刺繍を覚えたい人がいますから、そのうちアルファス産の服がベータムで売られるかもしれませんよ。それよりお食事にしましょう」
食器もカトラリーもバラバラな質素な食事だけど、携帯食よりはマシだろう。
それなりに話もはずんで食事をしていると、カラカラカラ…と、木片がぶつかり合う音がした。まさか、獣除けの罠に引っかかってくれるとは。
固まった二人に、
「お待ちかねのお客様がいらっしゃいましたよ」
と声をかける。
「お庭でお迎えしてください。絶対に家の中に入れないでくださいね」
最後まで聞かずに、剣を取って御者が外に飛び出す。何か言いたそうな騎士様も後を追い、私はドアの鍵を閉めた。
外から男の怒号と剣のぶつかる音が聞こえてくる。
こっそり裏口から出て庭を覗くと、庭には黒装束の人が五人もいた。五人という事は、私たち三人全員を殺すつもりで来たのだろう。
私は用意しておいた松明に次々と火を付けて、庭のあちこちに突き刺す。火で明るくなった庭では黒装束も意味が無い。隠し持ったナイフもバレバレだ。
私に気付いた男が私に剣を向けるが、ひょいひょいと躱して松明で押し返す。
そこに、森から騎士様と同じ騎士服を着た男たちがなだれ込んで来た。その隙に裏口から家に入って鍵をかけた。
王太子妃教育で、騎士団長に「防御のために、剣筋を見切って剣尖を躱せ」という授業をやらされた時は「無理無理、絶対無理~!」だったけど、今回は素人に毛が生えたレベルの、剣を大きく振り回すタイプの相手だったので私にも切っ先を見切れた。
勉強というのは何でも無駄にはならないものなのね~、と思いつつ家中のドアや窓の鍵をしっかり確認して、家の中に引き篭もる。
村の伝達網の早さで、馬車が家に着く頃にはジェイクの馬も着いていた。
「アイリス! 無事だったか!」
「大丈夫よ、私はただの没落貴族って分かってもらったから」
「あの~、せっかくの再会の場面にすみませんが…」
「はい?」
「今晩、私と御者をここの庭に泊めてもらえませんか?」
「何だと!?」
ジェイクが怒りの声をあげる。
「これからまた帰るとしたら、途中で真っ暗になるんで危ないんですよ。それに、馬も夜明けから働いているんで休ませてあげたくて…」
「ふざけるな! 女性の一人暮らしの家に男を入れられるか!」
「家には入りません! 庭でいいですから!」
確かにここら辺の道は細くて足元が悪いので、暗くなってから走るのは危険だ。
「お食事はどうするのですか? 近くに食事をできるお店はありませんわ」
「携帯食があります」
いや、庭で携帯食食べてる人がいるのに自分だけ料理できないでしょう。
「……ふう。食事は提供しますが、ベッドは無いので寝るのは馬車にしてくださいね。馬への水は、裏庭の井戸からどうぞ。飼い葉は無いので、森の草を与えてください」
「ありがとうございます!」
早速、騎士様と御者が馬車から馬を外し始める。
納得してない顔のジェイク。
「……アイリス」
「分かってる。食事だけだから」
「気を付けろよ」
「大丈夫。ところで、今夜と明日の分のパンを買って来てくれない? 一人分しか無いのよ。あと、余ってる食器も貸して?」
と、パン代をジェイクに渡すと
「お金を取るのか!」
後ろから騎士様の責めるような声がした。
あー。『女性にお金を払わせない』は貴族だけの常識だと知らないんだ。平民はおかみさんが財布のひもを握ってるから女性がお金を払うんですよー。
なんて喧嘩を売るわけにいかないので
「騎士様は、私がこの男から施しを受けろとおっしゃるので……?」
と、思いっきり冷たい声で言ってやった。
「ん? そうだな。施されるわけには……」
うんうんと納得して馬を引いて裏庭に行く騎士様たち。
「じゃあ、私は料理に取り掛かるからパンと食器をお願いね」
「本当にあんなのを泊めるのか」
「泊めるって、庭よ。他に手は無いし」
ジェイクはパンと食器を渡す時まで「気を付けろ」と言っていた。
準備が終わったころにはすっかり暗くなっていた。馬車の中で休んでいる騎士様と御者様を家に招く。
二人は、皺にならないよう部屋のあちこちに掛けてある刺繍された服に驚いたようだ。
「これは、ベータムの山岳民族の……」
「はい、そちらをヒントにしています」
「手間が掛かり過ぎると、もうベータムでも作る人がいないのに」
「実はかなり簡略化してるんですよ。他に、モチーフの繋ぎ目を、こっちは凹、こっちは凸にして、デザインのようにしたり」
「すごいな…」
「他にも刺繍を覚えたい人がいますから、そのうちアルファス産の服がベータムで売られるかもしれませんよ。それよりお食事にしましょう」
食器もカトラリーもバラバラな質素な食事だけど、携帯食よりはマシだろう。
それなりに話もはずんで食事をしていると、カラカラカラ…と、木片がぶつかり合う音がした。まさか、獣除けの罠に引っかかってくれるとは。
固まった二人に、
「お待ちかねのお客様がいらっしゃいましたよ」
と声をかける。
「お庭でお迎えしてください。絶対に家の中に入れないでくださいね」
最後まで聞かずに、剣を取って御者が外に飛び出す。何か言いたそうな騎士様も後を追い、私はドアの鍵を閉めた。
外から男の怒号と剣のぶつかる音が聞こえてくる。
こっそり裏口から出て庭を覗くと、庭には黒装束の人が五人もいた。五人という事は、私たち三人全員を殺すつもりで来たのだろう。
私は用意しておいた松明に次々と火を付けて、庭のあちこちに突き刺す。火で明るくなった庭では黒装束も意味が無い。隠し持ったナイフもバレバレだ。
私に気付いた男が私に剣を向けるが、ひょいひょいと躱して松明で押し返す。
そこに、森から騎士様と同じ騎士服を着た男たちがなだれ込んで来た。その隙に裏口から家に入って鍵をかけた。
王太子妃教育で、騎士団長に「防御のために、剣筋を見切って剣尖を躱せ」という授業をやらされた時は「無理無理、絶対無理~!」だったけど、今回は素人に毛が生えたレベルの、剣を大きく振り回すタイプの相手だったので私にも切っ先を見切れた。
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