私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ

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「その後は平民になったので貴族社会はよくわかりませんが、アズール様とパトリシア様は結婚しました。でも、貴族たちは長年婚約していた私への処遇を見て忠誠心を失った者も多く、王家は求心力を失いました。そして、王位に就いたアズール様はベータム王国に宣戦布告をしたのです。それは多分、戦によって貴族を一枚岩にしようとしたのと、勝利して“強い王”とアピールしたかったのだというのが、父・コンウォール侯爵の推察です」

 あ、父ももう平民になったんだっけ。

 アズール様が宣戦布告した時、もうついていけないと爵位と領地の返上を申し出て、私財を戦費に提供する代わりに領民の徴兵を無くしてもらったと、別れの挨拶に来た。今、家族はベータムと反対側のレガンマ国に移住している。まあ、「国が落ち着いたら、平民として遊びに来るから」と言ってたから、そのうちやって来そうだけど。

 そして、戦争は全然アズール様の思い通りには行かず、敗戦となった。

「これ以上のことは分かりません」
 なんせ村で刺繍しかしてませんから。

「では、あなたは王妃となる教育を受けているのですな」
「は? はい…」
「実は、いずれこのアルファスはベータム王国の属国アルファス王国となって、ベータムの王族が治めることになるのですが、それにはアルファス人の妻がいる方がスムーズにいくのではと考えまして」
 嫌な予感。
「あなたは王族の血も引いているとか」
「曾祖母が王女でしたが…それくらいの血を引いた貴族なら他にも沢山いますわ」
「私どもは是非あなたに王子と結婚していただきたい」
「私は平民ですわ。おそれ多いので遠慮いたします」
「ゆっくり考えてください」
 考えても同じです……。仕事をしてるふりをしてる文官たちが動揺してますよ……。

 
 ソルドレイル様の部屋を辞して、騎士様の先導で王城の廊下を歩く。

「お腹空きませんか?」
 そう言えばもうお昼だ。
「城の職員用の食堂があるんですが、そこでお昼にしませんか? あ! 無理言って来てもらったんで奢りますから!」
 食堂の金額ならそう高くも無いだろう。
「じゃあ、遠慮なく奢っていただきますわ」
 緊張でお腹が空いてないけど、これからまた2.3時間馬車に揺られるなら食べておいた方がいい。

 騎士様に案内されて、広い食堂に踏み入れる。厨房を覗くと、アルファス人とベータム人両方が働いていた。ベータムの料理も提供できるようにだろうが、料理法で対立しないのだろうか、などと心配してしまう。

「なんだよルクレス、ここでまで仕事かよ!」
 食事をしながら書類を読んでいた男性を騎士様がからかった。
「カールこそ、貴族令嬢をこんなむさ苦しいところに連れてくるなよ」
『貴族ではありませんわ。平民のアイリスと申します』
『え? ベータム語が話せるんですか? あ、私はルクレス・ヒキンジェと言います』
 はい、王太子妃教育で、ベータム語とレガンマ語はみっちり教えこまれました。

『ヒキンジェ様。この地図、ワルスワ領の担当ですのね。あちらは山が多いので大変でしょう』
『分かってくれますか!』
 ヒキンジェさんは自分のテーブルに私たちを座るように勧めると、書類を広げる。
『どう見ても平地だけじゃ無理な収穫量なのに、どの山のどこに畑があるのかの資料が無いんですよ~! もう、調査にどれだけの山に登ればいいんだか……』

 ワルスワ、ワルスワ……王太子の婚約者時代に、視察に行った所だ。確かあそこには領主より詳しい人が……。小柄でヘビースモーカーのおじさんだ。

『あ! リズロット家! 平民だけど苗字をもらっている旧家なんですが、名主なぬしとして領民をまとめているんです。そちらなら、どこに誰がどんな畑を作っているか全部把握してますわ』
『平民かー! 道理で見つからないわけだ。早速行ってみます!』
『あの…、行ってもベータムの方に簡単には教えないと思いますわよ』
『覚悟の上です! アイリス様のお名前を出してもよろしいですか?』
『かまいませんけど、私の事など覚えていらっしゃるか…』
 当時の私は“王家のオマケ”だ。

『絶対に覚えていますよ!』
『ふふっ。もしそうだったら、体のために煙草は控えるよう伝えてくださいね』

 何度もお礼を言って去っていくヒキンジュさん。
「やっと食事ができる」
 不機嫌な騎士様の声に吹き出してしまった。

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