3 / 7
参
「その後は平民になったので貴族社会はよくわかりませんが、アズール様とパトリシア様は結婚しました。でも、貴族たちは長年婚約していた私への処遇を見て忠誠心を失った者も多く、王家は求心力を失いました。そして、王位に就いたアズール様はベータム王国に宣戦布告をしたのです。それは多分、戦によって貴族を一枚岩にしようとしたのと、勝利して“強い王”とアピールしたかったのだというのが、父・コンウォール侯爵の推察です」
あ、父ももう平民になったんだっけ。
アズール様が宣戦布告した時、もうついていけないと爵位と領地の返上を申し出て、私財を戦費に提供する代わりに領民の徴兵を無くしてもらったと、別れの挨拶に来た。今、家族はベータムと反対側のレガンマ国に移住している。まあ、「国が落ち着いたら、平民として遊びに来るから」と言ってたから、そのうちやって来そうだけど。
そして、戦争は全然アズール様の思い通りには行かず、敗戦となった。
「これ以上のことは分かりません」
なんせ村で刺繍しかしてませんから。
「では、あなたは王妃となる教育を受けているのですな」
「は? はい…」
「実は、いずれこのアルファスはベータム王国の属国アルファス王国となって、ベータムの王族が治めることになるのですが、それにはアルファス人の妻がいる方がスムーズにいくのではと考えまして」
嫌な予感。
「あなたは王族の血も引いているとか」
「曾祖母が王女でしたが…それくらいの血を引いた貴族なら他にも沢山いますわ」
「私どもは是非あなたに王子と結婚していただきたい」
「私は平民ですわ。畏れ多いので遠慮いたします」
「ゆっくり考えてください」
考えても同じです……。仕事をしてるふりをしてる文官たちが動揺してますよ……。
ソルドレイル様の部屋を辞して、騎士様の先導で王城の廊下を歩く。
「お腹空きませんか?」
そう言えばもうお昼だ。
「城の職員用の食堂があるんですが、そこでお昼にしませんか? あ! 無理言って来てもらったんで奢りますから!」
食堂の金額ならそう高くも無いだろう。
「じゃあ、遠慮なく奢っていただきますわ」
緊張でお腹が空いてないけど、これからまた2.3時間馬車に揺られるなら食べておいた方がいい。
騎士様に案内されて、広い食堂に踏み入れる。厨房を覗くと、アルファス人とベータム人両方が働いていた。ベータムの料理も提供できるようにだろうが、料理法で対立しないのだろうか、などと心配してしまう。
「なんだよルクレス、ここでまで仕事かよ!」
食事をしながら書類を読んでいた男性を騎士様がからかった。
「カールこそ、貴族令嬢をこんなむさ苦しいところに連れてくるなよ」
『貴族ではありませんわ。平民のアイリスと申します』
『え? ベータム語が話せるんですか? あ、私はルクレス・ヒキンジェと言います』
はい、王太子妃教育で、ベータム語とレガンマ語はみっちり教えこまれました。
『ヒキンジェ様。この地図、ワルスワ領の担当ですのね。あちらは山が多いので大変でしょう』
『分かってくれますか!』
ヒキンジェさんは自分のテーブルに私たちを座るように勧めると、書類を広げる。
『どう見ても平地だけじゃ無理な収穫量なのに、どの山のどこに畑があるのかの資料が無いんですよ~! もう、調査にどれだけの山に登ればいいんだか……』
ワルスワ、ワルスワ……王太子の婚約者時代に、視察に行った所だ。確かあそこには領主より詳しい人が……。小柄でヘビースモーカーのおじさんだ。
『あ! リズロット家! 平民だけど苗字をもらっている旧家なんですが、名主として領民をまとめているんです。そちらなら、どこに誰がどんな畑を作っているか全部把握してますわ』
『平民かー! 道理で見つからないわけだ。早速行ってみます!』
『あの…、行ってもベータムの方に簡単には教えないと思いますわよ』
『覚悟の上です! アイリス様のお名前を出してもよろしいですか?』
『かまいませんけど、私の事など覚えていらっしゃるか…』
当時の私は“王家のオマケ”だ。
『絶対に覚えていますよ!』
『ふふっ。もしそうだったら、体のために煙草は控えるよう伝えてくださいね』
何度もお礼を言って去っていくヒキンジュさん。
「やっと食事ができる」
不機嫌な騎士様の声に吹き出してしまった。
あ、父ももう平民になったんだっけ。
アズール様が宣戦布告した時、もうついていけないと爵位と領地の返上を申し出て、私財を戦費に提供する代わりに領民の徴兵を無くしてもらったと、別れの挨拶に来た。今、家族はベータムと反対側のレガンマ国に移住している。まあ、「国が落ち着いたら、平民として遊びに来るから」と言ってたから、そのうちやって来そうだけど。
そして、戦争は全然アズール様の思い通りには行かず、敗戦となった。
「これ以上のことは分かりません」
なんせ村で刺繍しかしてませんから。
「では、あなたは王妃となる教育を受けているのですな」
「は? はい…」
「実は、いずれこのアルファスはベータム王国の属国アルファス王国となって、ベータムの王族が治めることになるのですが、それにはアルファス人の妻がいる方がスムーズにいくのではと考えまして」
嫌な予感。
「あなたは王族の血も引いているとか」
「曾祖母が王女でしたが…それくらいの血を引いた貴族なら他にも沢山いますわ」
「私どもは是非あなたに王子と結婚していただきたい」
「私は平民ですわ。畏れ多いので遠慮いたします」
「ゆっくり考えてください」
考えても同じです……。仕事をしてるふりをしてる文官たちが動揺してますよ……。
ソルドレイル様の部屋を辞して、騎士様の先導で王城の廊下を歩く。
「お腹空きませんか?」
そう言えばもうお昼だ。
「城の職員用の食堂があるんですが、そこでお昼にしませんか? あ! 無理言って来てもらったんで奢りますから!」
食堂の金額ならそう高くも無いだろう。
「じゃあ、遠慮なく奢っていただきますわ」
緊張でお腹が空いてないけど、これからまた2.3時間馬車に揺られるなら食べておいた方がいい。
騎士様に案内されて、広い食堂に踏み入れる。厨房を覗くと、アルファス人とベータム人両方が働いていた。ベータムの料理も提供できるようにだろうが、料理法で対立しないのだろうか、などと心配してしまう。
「なんだよルクレス、ここでまで仕事かよ!」
食事をしながら書類を読んでいた男性を騎士様がからかった。
「カールこそ、貴族令嬢をこんなむさ苦しいところに連れてくるなよ」
『貴族ではありませんわ。平民のアイリスと申します』
『え? ベータム語が話せるんですか? あ、私はルクレス・ヒキンジェと言います』
はい、王太子妃教育で、ベータム語とレガンマ語はみっちり教えこまれました。
『ヒキンジェ様。この地図、ワルスワ領の担当ですのね。あちらは山が多いので大変でしょう』
『分かってくれますか!』
ヒキンジェさんは自分のテーブルに私たちを座るように勧めると、書類を広げる。
『どう見ても平地だけじゃ無理な収穫量なのに、どの山のどこに畑があるのかの資料が無いんですよ~! もう、調査にどれだけの山に登ればいいんだか……』
ワルスワ、ワルスワ……王太子の婚約者時代に、視察に行った所だ。確かあそこには領主より詳しい人が……。小柄でヘビースモーカーのおじさんだ。
『あ! リズロット家! 平民だけど苗字をもらっている旧家なんですが、名主として領民をまとめているんです。そちらなら、どこに誰がどんな畑を作っているか全部把握してますわ』
『平民かー! 道理で見つからないわけだ。早速行ってみます!』
『あの…、行ってもベータムの方に簡単には教えないと思いますわよ』
『覚悟の上です! アイリス様のお名前を出してもよろしいですか?』
『かまいませんけど、私の事など覚えていらっしゃるか…』
当時の私は“王家のオマケ”だ。
『絶対に覚えていますよ!』
『ふふっ。もしそうだったら、体のために煙草は控えるよう伝えてくださいね』
何度もお礼を言って去っていくヒキンジュさん。
「やっと食事ができる」
不機嫌な騎士様の声に吹き出してしまった。
あなたにおすすめの小説
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
婚約破棄は大歓迎! 悪役令嬢は辺境でぐうたらスローライフを送りたい ~二度寝を邪魔する奴は、王太子でも許しません~
小林 れい
ファンタジー
煌びやかな夜会で、婚約者であるジークフリート王太子から「婚約破棄」を突きつけられた公爵令嬢ユーラリア。 「身に覚えのない罪」で断罪される彼女に、周囲は同情の視線を向けるが——。
(((きたぁぁぁ! 自由だ! これで毎日、お昼過ぎまで寝られる!!)))
実は彼女、前世の記憶を持つ転生者。 過労死した前世の反省から、今世の目標は「絶対に働かないこと」。 王妃教育という名の地獄から解放されたユーラリアは、慰謝料として手に入れた北の果ての別荘へと意気揚々と旅立つ。
待っていたのは、フカフカの羽毛布団と、静かな森。 彼女はただ、お菓子を食べて、二度寝をして、ダラダラ過ごしたいだけだった。
しかし——。 「眩しいから」と魔法で空を曇らせれば、**『干ばつを救った聖女』と崇められ。 「動くのが面倒だから」と転移魔法でティーカップを寄せれば、『失伝した超魔法の使い手』**と驚愕される。
さらに、自分を捨てたはずの王太子が「君の愛が恋しい」と泣きつき、隣国の冷徹な軍事公爵までが「君の合理的な休息術に興味がある」と別荘に居座り始めて……!?
「お願いですから、私の睡眠を邪魔しないでいただけますか?」
勘違いと怠惰が加速する、最強ニート令嬢のスローライフ(?)物語!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?
もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。
政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。
王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。
王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。
オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。
虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~
日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。
彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。
一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。
わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね
ともボン
恋愛
伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。
「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」
理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。
さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。
屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。
「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」
カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。
気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。
そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。
二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。
それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。
これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。