神官姫と最強最弱の王

深也糸

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第一話 運命の出会い

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 季節は春になったばかり。
 固い蕾が綻びはじめ、草木や花もいっせいに芽吹く。
 マグノリアの白い花が王城を埋めるように咲き始める頃だった。
 まだ肌寒いけれど、あたたかくまばゆく日差しがさす。
 これから何か新しいことがはじまりそうと、そう期待に胸を膨らませて。


 招集された人々のざわめきと視線が行き交う王城の謁見の間。
 盛大な式典が催される。玉座におわす人物はリヴェラ・ライト・アズカヴァル。
 頭上に王冠を戴き、マントを纏う。アズカヴァルの国王陛下である。
 濡れたような漆黒の短い髪に輝くような黄金色のひとみ
 まなじりが上り、気の強そうな容貌をしている。
 リヴェラ王は少年王である。
 齢十八になる。成人を迎えたばかりだが、実年齢よりも少し幼く見える。

「よくぞ参られた。おもてを上げよ」
 跪いて、深々と首を垂れたままの姫君が国王の声により、ゆっくりと白いレースのベールを纏った顔を上げる。それは、月光のような息を呑むほどの美しい姫だった。

 白皙のおもて。光をより集めたような長い銀糸の髪を一纏めにして背中に流し、髪と同じ色の銀色の睛は、切れ長の睛を長い睫毛が縁取られ、吸い込まれそうなほど不思議な色を湛えていた。鼻筋もすっと通り、桜色の形のいい唇。すべてが一級品で、顔全体のパーツが整っていた。
 纏っているものは婚礼衣装ではなく白い法衣であり、すらりと背が高く、スタイルのよさが際立っている。

 このたびは近隣諸国から若き国王に娶せるため、隣国・リゼルハイドから姫が呼び寄せられていた。

 姫をひと目見るなり、式典の列席者からは感嘆の溜息が漏れた。
「お初にお目にかかります。シファ・ヴィオラ・リゼルハイドと申します。
 お会いでき、至極光栄でございます」
「わざわざ遠方よりお越しいただき、ご苦労だった」

 睥睨へいげいする視線。
 階段の最上部にある王の玉座から下にいる姫までだいぶ距離があり、何だか見下すような態度ではっきりって偉そうだ。
 この場にいる誰もが姫に魅了されているというのに、王はとりたてて姫の容貌に関心を持った様子はない。


 リヴェラ王の両隣に近衛騎士がふたり控えている。どちらも短髪で同じ年頃の少年のようだ。
 黒髪の方はムスリと不機嫌そうにしている。
 オレンジ色の髪の方は柔和な顔立ちをしていて、きれいな人ですねと王に耳打ちしていた。姫を好意的に捉えているようだ。

「ときに、姫君。こちらに向かう際にそなたは供の従者もあまりつけず、調度類や装身具などあまり持ち寄らなかった様子だが、如何様いかようか」
 嫌味とも取れる云い方で、どうやら姫に対して猜疑心を持っている様子だ。
 云いえて妙だと云っている。
 実際、同行する馬車や馬の数も極端に少なかった。お忍びで何処かに出掛けるときでさえ、このように少数はありえない。

「身ひとつでここまで参りました。国王陛下のもとに行くのならと、覚悟を据えて着の身着のまま。余計な物を持ち寄らず、必要最低限のもので飛び込んで行きました。この国の法や習わし、秩序、文化に至るまですべて、この国の色に染まってゆきたいというあらわれでもあるのです」
 よく分からない道理だと思いながらもリヴェラ王は、姫君なりの決意のあらわれだったのかと理解した。トン、と脇息を指先で叩く。

「まぁよい。そなたがそうしたいのなら、これ以上は何も云うまい。いずれ
 必要なものがあれば何でも申せ、すぐに用意いたそう」
「お気遣いいただきありがとうございます。大変に勿体もったいないお言葉でございます」
「堅苦しい言葉遣いは無用だ。しばらくここに留まるつもりなら、寛いでゆくがいい」
 と云うが、姫は元より、王の方がよっぽど堅苦しい言葉遣いをしていた。
 けれど、式典の場なのだから致し方ない。


 仏頂面で不遜と思える態度。王様だから仕方がないと云えばそうなんだけど。
 思ったより乱暴な口調でびっくりしてしまう。
 う……ん、今どきの男子って、みんなこんなモノなのかなぁ。

 十年前に会ったときはただただ可愛かった。素直でかいがいしくて。それが、成長するとこうなるのか。
 月日の移り変わりを無常に思いつつも、少々生意気できかん気のある方が調教や開発のしがいがあるかもなぁ。
 と、リゼルハイドの姫______シファは内心物騒なことを考えていた。
 ああ、いい声でくんだろうな。かせてみたいな……と、うっとりする。


「それでは、不束者ではございますが、何卒よろしくお願い致します」
 己の妄想はよそに、何事もなかったように慇懃に振る舞い、最後にもう一度、シファは膝をついて首を垂れる。
「_________心ゆくまでアズカヴァルにおられるがよい。歓迎いたそう」
 言葉とは裏腹に、心の篭らない声。

 式典では歓迎の意を表するために楽隊の演奏と舞いが催され、姫も錫杖を手にし、奉納舞を舞った。
 シャンシャンと鈴の音が軽やかに鳴り響く。そのたびに動かす手先。
 指先まで神経がゆき届いた舞いは繊細で奥ゆかしく、ひとつひとつの所作が人々を魅了するものだった。ゆえに、列席する人々の拍手と溜息と称賛の声が絶えなかった。


 ____________やれやれ、やっと終わった。
 といっても、まだまだこれからだ。

 式典を終え、余韻に浸る暇はなく、リヴェラ王は吐息をついた。
 溜まっていた書類を片付けるためにまた一仕事をしなければならない。
 従者を引き連れ、廻廊かいろうを歩いていた。ちょうどそのときだった。
 待ち構えていた隣国の姫シファに手を引かれ、強引に導かれる。

「城の中を案内して下さい」
「なぜ、姫君がここに?」驚きつつも、「いや、まだ政務が残っている」
 毅然と云い放つリヴェラに、近衛騎士のひとりがにっこりしながら
「いいえ、陛下、今日は一日姫をエスコートしていただきたいのです。
 心配はご無用です」

「それに、案内するのは俺ではなくてもいいだろう」と、姫に聞こえないように騎士に耳打ちすると今日一日ぐらい差し支えない。こまごまとした雑務や書類はすべてこちらが片付けておくから。と、もうひとりの近衛騎士に説得され、これからふたりで親睦を深めるための時間を過ごすことになる。


 アズカヴァルに着けば、すぐに国王と姫君の婚礼の儀をすませるのかと思ったら、あくまで婚約程度のものだった。まずは時間をかけて関係を育むことからはじまるのだった。

 婚礼の準備には時間がかかる。長いと数か月かかることもある。ドレスのあつらえからはじまり、近隣諸国から王族、要人を招集したりといろいろと手間がかかる。
 一国の王と姫の晴れ舞台には国中が盛大に祝い、絢爛豪華なものになるであろうと想像がつく。

 廻廊かいろうの至る所に前王ヴァイス・ヴァン・アズカヴァルの巨大な肖像画が掛けられていて、未だ前王の影響を強く受けていて、その時代の名残りが色濃く残っていた。
 威厳があり、唯一絶対の君主だった。
 獅子のたてがみのように赤みがかった茶色の髪と黄金色のひとみを有していたので、別名・獅子王とも呼ばれていた。

 リヴェラの父親であり、偉大なる王。前王、ヴァイス・ヴァン・アズカヴァルは戦場では負け知らずで、無敵の強さを誇っていた。
 二年前に先の王が崩御した後、嫡子のリヴェラ・ライト・アズカヴァルが王位を継承した。
 父親譲りの強さは申し分ないが、まだまだ未熟者であり、王としての資質がともなわない。行く末が不安だと噂する者が後を絶たない。


「あと二年早ければ……」
 ヴァイス王とは生前に謁見することは叶わなかった。
 伝え聞くかぎり、豪胆な人間性ゆえに平民からの成り上がりだと思われているが、実は王族の血筋の人間であり、文武両道であるうえ品位も兼ね備えていた人物だったそうだ。
 リヴェラの母である今は亡きルルエラ王妃は絶世の美女であったそうだ。ヴァイス王は妃を寵愛するあまり、ほかの側妃をもうけなかった。という。
 ゆえにヴァイス王の嫡子はリヴェラしかいないのだ。
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