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第二話 運命の出会い 2
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王冠とマントを脱ぎ、オーバーコートに着替えてからリヴェラは城を案内する。
シファは式典のときに着ていた白い法衣のままだ。
その足で王城の中にある図書館へと赴く。
ずらりと背の高い木製の本棚が並び、圧巻の光景だ。
書物の背表紙が深緑に統一されて、神道や神話、古典と豊富に取り揃えてある。
一冊手に取って、シファはペラペラとページを捲ってみる。
「休日は本を読んで過ごすことが多いのです。まぁ殆ど仕事がらみの本になってしまいますが」
「は、一国の姫が仕事をしているのか?」
「教会で神官をしております」
法衣を身に纏っているのはそういうことなのか。先ほど自己紹介で云っていたような気がするが、詳しいことは殆ど聞いていなかった。
神官として週四日働いているという。資料集めにも膨大な時間を割くのだそうだ。
「普段教会で勤めをはたし、休日も勉学に励むのか結構なことだ」
書庫の蔵書を確かめてから、満足げに両手に本を積み上げ運ぶ。さっそく借りるつもりだ。
「こちらの国の文字は読めるのか?」と訊くと、「ええ」とにっこりとする。
リヴェラは顔をしかめ苦い顔をする。文学は苦手で、断然武芸や魔法の方が得意で興味があるし、そもそも教科書以外の本は読まない。
「神道のほかにどんな本が好きなんだ?」
「詩集とか恋愛本とか、活字なら何でも好きです」
「そうか……」
趣味が合いそうにないなと、辟易する。
そもそも女子が学ぶ必要があるのかと時代錯誤なことを考えていた。
書庫を出た後、談話室、厨房へとつづき、城の中を歩き回る。
気になるものがあれば、すぐに足を止め、好奇心が止まらないという様子。
あれがしたいこれがしたいと自分をリードし、まるで自分の城のように先導する。
無邪気に振舞いながらも、異国の姫は大人びていた。
リヴェラよりもだいぶ年上で、並ぶと随分背が高いことがわかる。
で、でかい。自分よりも十センチ以上高いかもしれない……。
身長差に内心リヴェラはショックを受けていたのだった。
王城の外に出て、次は庭へと案内する。よく晴れ渡った青空。幸い今日は天気がよく、向こうの山の稜線がぼやけて見える。
広大な庭園は見渡す限りつづく大草原のようだ。敷地の奥には緑深い森を擁する。
王城の一角に離れのように礼拝堂もあった。信心深いシファは両手を組み合わせて、これで毎朝お祈りできると安心する。
つづいて、シファは花がたくさん咲いている場所に行きたいと云い出した。
リヴェラが子供の頃に何度か行ったことがある場所に案内するつもりでいたが、そこに行くには、まず大きな川を渡らなければならない。
陽の光を受けて、きらきらと水面が輝き、敷き詰められた石がはっきり見えるほど、川の水は澄んでいた。橋が架かっていないので、ところどころにある大きな飛び石の上を歩いて渡る以外に手段がない。流れはゆるやかで水深は浅いので、落ちても大した怪我はしないだろうが、濡れるのは嫌だろう。
「危ないから気をつけろ」と注意を促してみたものの。
姫には無理をさせてはいけないから、やっぱりやめればよかったかという考えが過る。
「そうだ……手をつなげばいい」
自分から積極的にというわけではないが、安全のためこうした方がいいような気がした。
ぶっきらぼうなのは、ただ女性に免役のないせいかもしれない。
ためらいがちに手を伸ばしたリヴェラから、一瞬、照れのようなものが見えたからだ。
「ありがとうございます」
彼女はにっこりとしてリヴェラの好意を受け取った。
手を繋いだだけで距離がぐっと縮まったような感覚に陥る。
剣の鍛錬のせいかリヴェラの手の感触は節くれ立って堅く、シファの手はつめたく包み込むようなしなやかな手で、リヴェラより大きかった。
注意深く飛び石に足を置き、手をつなぎながら一歩づつ先を行く。
あっ、とリヴェラはバランスを崩して前のめりになる。
「危ない……!」
足を滑らせ、躓きそうになったそのとき。シファはリヴェラをひょい、と彼を軽々と抱きかかえる。すごい力持ちだ。人は見かけによらず。
何が起こったのか一瞬わからないまま、驚くと同時に
___________なんてザマだ、女子にこんなことをさせているなんて!
と、リヴェラの脳が混乱した。
「いいから、下ろせ、すぐに!!」
かっ、と恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら怒鳴ると、シファは意味が分かりかねないというような顔をして、リヴェラの抗議を無視してそのまま構わず飛び石を超えてゆく。
「待ってください、すぐに渡り切りますから」
速足で向こう際に辿り着くとやっと下ろしてくれた。
「さぁ、着きましたよ」
トン、と地面に足を落とされたときには何とも云えず不甲斐ない気持ちになった。しがみつくだけで何もできなかった。
……うぅ、
リヴェラは情けない声を漏らし、立ち尽くす。
自分がエスコートするどころか逆に守られてしまい、絵に描いたようなおんぶにだっこの状態だったことがショックで、しばらく立ち直れそうになかった。
「あの、行きましょうか」
シファに促されて、はっと我に返る。
そ、そうだ。先を行かなくては。無事渡り切ったところで、花畑にまでの道を先導してズンズン歩く。歩くのが早くてシファは置いて行かれそうになる。
「待ってください。あの、もう少しゆっくり歩いてほしいのですが」
「そうか、なら。そうしよう」と、若干リヴェラは歩く速度を落とす。
川を渡っていた先程とは打って変わって距離を取って歩きはじめたことが気にかかる。
おそるおそるシファは問い掛ける。
「あの、手を繋がないのですか?」
「もう川を渡り切ったのだから、繋ぐ必要はないだろう」
「そんなぁ。もう一度手を繋ぎましょうよ」
「あれは危ないから必然的に取った行為だ。今はもう手を繋がずともよい」
「でも、私は繋ぎたいのです」
頑として主張すると、「頼むから、遠慮してくれ」と、つれない態度だ。
さっき川を渡ったときに親密になるどころか逆に距離を取られてしまった。
何か勘に触るようなことをしてしまったのだろうか。シファは考えてしまう。
歩く速度を落としたにもかかわらず相変わらずリヴェラが速足なので、シファは必死に
追いかけて思わずリヴェラのオーバーコートの裾を掴んだ。すると
「……あっ!」
突如。踏み込んだ足が沈みゆく。ありえない出来事が起こる。
草の生い茂る地面が陥没する。それもかなり広範囲のもので、ぽっかりと巨大な穴があく。
シファはリヴェラを抱き込む。庇おうとした咄嗟の判断だったのだろう。
「______________うわあああああ」
悲鳴を上げ、抱き合ったまま二人はその巨大な穴へと真っ逆さまに落ちる。
もしかして落とし穴でも掘ってあったのか?
そう思うほど深い。高さはどのくらいで、何メートルぐらいの深さなのだろうか?
滞空時間は数十秒ほど。というとかなり深い。
急降下しつつ、何も考えられなくなり、頭の中が真っ白になる。落ちたらどれほどの怪我を負うだろうかということにも考えが及ばなかった。
いつの間にか地面に叩きつけられたものの、たいした強い衝撃もなかった。
幸い、下は柔らかい草地になっていてクッションになって無事だったようだ。
ゆっくりと眼を開く。
_____________あれっ、なんだ……ここは……?
「お怪我は、ございませんか、リヴェラ様」
抱き合った身体を離し、ゆるゆると上体を起こし、リヴェラは辺りを見渡す。
「落とし穴かと思ったら、風穴になっていたというわけか」
今いる場所____________この空間全体の中が鍾乳洞になっていて、周囲を囲むように滝が流れている。まるで荘厳な神殿のようだ。
岩や断層に雨水が入り込み、削られて溶かされて中に空洞ができ、何万年、何億年とわたって築き上げられる
自然のなせる業である。
シファは式典のときに着ていた白い法衣のままだ。
その足で王城の中にある図書館へと赴く。
ずらりと背の高い木製の本棚が並び、圧巻の光景だ。
書物の背表紙が深緑に統一されて、神道や神話、古典と豊富に取り揃えてある。
一冊手に取って、シファはペラペラとページを捲ってみる。
「休日は本を読んで過ごすことが多いのです。まぁ殆ど仕事がらみの本になってしまいますが」
「は、一国の姫が仕事をしているのか?」
「教会で神官をしております」
法衣を身に纏っているのはそういうことなのか。先ほど自己紹介で云っていたような気がするが、詳しいことは殆ど聞いていなかった。
神官として週四日働いているという。資料集めにも膨大な時間を割くのだそうだ。
「普段教会で勤めをはたし、休日も勉学に励むのか結構なことだ」
書庫の蔵書を確かめてから、満足げに両手に本を積み上げ運ぶ。さっそく借りるつもりだ。
「こちらの国の文字は読めるのか?」と訊くと、「ええ」とにっこりとする。
リヴェラは顔をしかめ苦い顔をする。文学は苦手で、断然武芸や魔法の方が得意で興味があるし、そもそも教科書以外の本は読まない。
「神道のほかにどんな本が好きなんだ?」
「詩集とか恋愛本とか、活字なら何でも好きです」
「そうか……」
趣味が合いそうにないなと、辟易する。
そもそも女子が学ぶ必要があるのかと時代錯誤なことを考えていた。
書庫を出た後、談話室、厨房へとつづき、城の中を歩き回る。
気になるものがあれば、すぐに足を止め、好奇心が止まらないという様子。
あれがしたいこれがしたいと自分をリードし、まるで自分の城のように先導する。
無邪気に振舞いながらも、異国の姫は大人びていた。
リヴェラよりもだいぶ年上で、並ぶと随分背が高いことがわかる。
で、でかい。自分よりも十センチ以上高いかもしれない……。
身長差に内心リヴェラはショックを受けていたのだった。
王城の外に出て、次は庭へと案内する。よく晴れ渡った青空。幸い今日は天気がよく、向こうの山の稜線がぼやけて見える。
広大な庭園は見渡す限りつづく大草原のようだ。敷地の奥には緑深い森を擁する。
王城の一角に離れのように礼拝堂もあった。信心深いシファは両手を組み合わせて、これで毎朝お祈りできると安心する。
つづいて、シファは花がたくさん咲いている場所に行きたいと云い出した。
リヴェラが子供の頃に何度か行ったことがある場所に案内するつもりでいたが、そこに行くには、まず大きな川を渡らなければならない。
陽の光を受けて、きらきらと水面が輝き、敷き詰められた石がはっきり見えるほど、川の水は澄んでいた。橋が架かっていないので、ところどころにある大きな飛び石の上を歩いて渡る以外に手段がない。流れはゆるやかで水深は浅いので、落ちても大した怪我はしないだろうが、濡れるのは嫌だろう。
「危ないから気をつけろ」と注意を促してみたものの。
姫には無理をさせてはいけないから、やっぱりやめればよかったかという考えが過る。
「そうだ……手をつなげばいい」
自分から積極的にというわけではないが、安全のためこうした方がいいような気がした。
ぶっきらぼうなのは、ただ女性に免役のないせいかもしれない。
ためらいがちに手を伸ばしたリヴェラから、一瞬、照れのようなものが見えたからだ。
「ありがとうございます」
彼女はにっこりとしてリヴェラの好意を受け取った。
手を繋いだだけで距離がぐっと縮まったような感覚に陥る。
剣の鍛錬のせいかリヴェラの手の感触は節くれ立って堅く、シファの手はつめたく包み込むようなしなやかな手で、リヴェラより大きかった。
注意深く飛び石に足を置き、手をつなぎながら一歩づつ先を行く。
あっ、とリヴェラはバランスを崩して前のめりになる。
「危ない……!」
足を滑らせ、躓きそうになったそのとき。シファはリヴェラをひょい、と彼を軽々と抱きかかえる。すごい力持ちだ。人は見かけによらず。
何が起こったのか一瞬わからないまま、驚くと同時に
___________なんてザマだ、女子にこんなことをさせているなんて!
と、リヴェラの脳が混乱した。
「いいから、下ろせ、すぐに!!」
かっ、と恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら怒鳴ると、シファは意味が分かりかねないというような顔をして、リヴェラの抗議を無視してそのまま構わず飛び石を超えてゆく。
「待ってください、すぐに渡り切りますから」
速足で向こう際に辿り着くとやっと下ろしてくれた。
「さぁ、着きましたよ」
トン、と地面に足を落とされたときには何とも云えず不甲斐ない気持ちになった。しがみつくだけで何もできなかった。
……うぅ、
リヴェラは情けない声を漏らし、立ち尽くす。
自分がエスコートするどころか逆に守られてしまい、絵に描いたようなおんぶにだっこの状態だったことがショックで、しばらく立ち直れそうになかった。
「あの、行きましょうか」
シファに促されて、はっと我に返る。
そ、そうだ。先を行かなくては。無事渡り切ったところで、花畑にまでの道を先導してズンズン歩く。歩くのが早くてシファは置いて行かれそうになる。
「待ってください。あの、もう少しゆっくり歩いてほしいのですが」
「そうか、なら。そうしよう」と、若干リヴェラは歩く速度を落とす。
川を渡っていた先程とは打って変わって距離を取って歩きはじめたことが気にかかる。
おそるおそるシファは問い掛ける。
「あの、手を繋がないのですか?」
「もう川を渡り切ったのだから、繋ぐ必要はないだろう」
「そんなぁ。もう一度手を繋ぎましょうよ」
「あれは危ないから必然的に取った行為だ。今はもう手を繋がずともよい」
「でも、私は繋ぎたいのです」
頑として主張すると、「頼むから、遠慮してくれ」と、つれない態度だ。
さっき川を渡ったときに親密になるどころか逆に距離を取られてしまった。
何か勘に触るようなことをしてしまったのだろうか。シファは考えてしまう。
歩く速度を落としたにもかかわらず相変わらずリヴェラが速足なので、シファは必死に
追いかけて思わずリヴェラのオーバーコートの裾を掴んだ。すると
「……あっ!」
突如。踏み込んだ足が沈みゆく。ありえない出来事が起こる。
草の生い茂る地面が陥没する。それもかなり広範囲のもので、ぽっかりと巨大な穴があく。
シファはリヴェラを抱き込む。庇おうとした咄嗟の判断だったのだろう。
「______________うわあああああ」
悲鳴を上げ、抱き合ったまま二人はその巨大な穴へと真っ逆さまに落ちる。
もしかして落とし穴でも掘ってあったのか?
そう思うほど深い。高さはどのくらいで、何メートルぐらいの深さなのだろうか?
滞空時間は数十秒ほど。というとかなり深い。
急降下しつつ、何も考えられなくなり、頭の中が真っ白になる。落ちたらどれほどの怪我を負うだろうかということにも考えが及ばなかった。
いつの間にか地面に叩きつけられたものの、たいした強い衝撃もなかった。
幸い、下は柔らかい草地になっていてクッションになって無事だったようだ。
ゆっくりと眼を開く。
_____________あれっ、なんだ……ここは……?
「お怪我は、ございませんか、リヴェラ様」
抱き合った身体を離し、ゆるゆると上体を起こし、リヴェラは辺りを見渡す。
「落とし穴かと思ったら、風穴になっていたというわけか」
今いる場所____________この空間全体の中が鍾乳洞になっていて、周囲を囲むように滝が流れている。まるで荘厳な神殿のようだ。
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