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第十話 日常賛美 4
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「宿題出したんですけど。三人とも同じところで間違っているんですけど、誰かひとりのノートを丸写ししましたね」
「うわ、ばれたか……」
では、リヴェラは今何をしているかというと、場面は移り変わり王城の執務室にて。横長の木の机と椅子が並べられ、ふたりの近衛騎士と共に授業を受けているところだった。
「そんなんじゃ、勉強にならないでしょう」
教育係のグロウが叱責している。
肩にかかるグレーの髪に銀縁眼鏡をかけている神経質そうな男性。名前はグロウ・ミーム。年齢は三十代。ややこしいが、名前はグレーではなくグロウだ。
普段は王を補佐する宰相の職を務めている。
「忙しくてやる暇がなくて」「分かんないよ、こんな問題」「サフが間違えるからいけないんだよ」
生徒である三人とも、それぞれに文句を垂れて、むくれる。
「そんなに難しい問題でもなかったはずですよ。ちゃんと勉強しないといけないですね。あなた方は要領が悪いので、人の三倍励まないと」
ひどい云いようだが、三人の学力は人並以下で、学力差はどんぐりの背比べのようなものだ。
リヴェラには近衛騎士がふたりいる。
黒髪で気の強い気質のライラが十九歳。
オレンジ色の髪で、控えめで大人しく柔和な少年の名前がサフ。十七歳。
リヴェラは十八歳なので、三人はひとつづつ歳が違う。
ひとつ年上のライラとひとつ年下のサフ。
幼馴染であり、兄弟のように育った侍従である。
「グロウ先生、いくつになるまで俺は授業を受け続けなければならないのですか?」
「最低でも二十歳になるまでリヴェラ様の勉強を見ろと、勅令で決まっております。あなたは国を治める立場でありながら歴史、経済、文学とモノを知らなさすぎます。ヴァイス陛下はひとりっ子だから甘やかしすぎたと嘆いておられました。それに側近である二人も馬鹿すぎるからついでに教えてやってほしいと頼まれているので」
「二十歳までって、遅いのか妥当なのか分からないな」
「あと二年もあるのか」とライラが溜息をつき、「あと二年だけじゃないか」とサフが云う。人によって意見が分かれる。
「この国は十八歳で成人ですけど、昔は十五歳で成人して一人前の大人だって云われていました。最近の諸外国は年齢が伸びて二十歳で成人だっていっているところもあるし、いいんじゃないんですか」
「学力が低すぎて、今のままでは不安すぎるからって直接云えばいいだろ」
「そうですね。このまま、無知のままで野放しにしてしまうと、諸外国にバカだってバレて恥をかきます」
リヴェラの云うことに、ことごとく歯に衣着せぬ云い方で畳み掛ける。
宰相というハイスペックな地位もそうだし、グロウはそこそこ背も高くて顔もよいのに、口うるさく真面目くさっているせいで、全然恰好よくもいい男にも見えない。残念でしょうがない人物だった。
「剣の鍛練や魔法も大事でしょうけど、勉学も疎かにしてはならないです。このままのペースでいって大丈夫なのか心配になります。あなた方の学力では本当に二十歳で勉強を終了していいものかあやしいものですね」
「う、うううう……」
なんか悔しいけど、事実なのでリヴェラは反論できない。
「これからは武力ではなく、知力がモノをいうご時世のようですからね」
そうなのだ。近年強さだけを求められる時代ではなくなってきた。
戦争で領土を増やし、勢力を増し、栄華を誇ったのは遥か昔のように思えてくる。
二十年前までのことだそうだ。次第に戦争が廃れる世の中に移り変わった昨今。
シファの父、リセルハイドの国王、マールテンのおかげで今では貿易業が主の時代になり、生産能力の高い国が富を築き、国力を増している。
「そんなにリゼルハイドは裕福な国なのか?」
「貿易で国が豊かになったそうです。我が国も何か名産品を作って、一山当てた方がいいんじゃないんでしょうか」
「う~~~~ん、何かあったか?」
「通常、輸入品は絹織物、工芸品、長期間保存がきく豆や穀物などが多いので、長距離の運搬にも耐えれて、かつ痛みにくいものが推奨されますよ」
「この国の特産物ってなんだったっけ?」とライラが訊く。
「大したものはなかったよな。麦とかキャベツとかレタスだったかな」とサフ。
「それじゃあダメだな。麦はともかく葉物野菜はよくないだろー」
リヴェラが口を挟むと、ライラが思い出す。
「特産品だと工芸品のほかにお菓子でもいいんだよな。厨房のコックが作るガレットやパンケーキがいいんじゃないか。旨いぞ。それを名物にすればいいんじゃないのか?」
それぞれの見当違いの意見にグロウが困り果てた。
「あのー、できれば保存のきく物がいいんですけど……」
「あとで、臣下たちに議会で聞いてみる」
リヴェラが深く溜息をつく。
あれやこれやと雑談を交わし、碌に身もない話に花を咲かせている。
今こうしていることは、とてつもなく平和なのかもしれないと、ひそかに思う。
そういえばとグロウが過去の出来事を振り返る。
「________________大変でしたね、あのときは」
今から二年前。先王・ヴァイス国王が崩御して、古株ばかりの重臣たちが反乱し、クーデターが起こったのだ。
我々が仕えているのはあの偉大なる王だ。こんな子供を王に据えるわけにもいかないと騒ぎ出し、全面戦争に発展した。(城の中でだけでドンパチやっただけだけど)
リヴェラが王位継承して即位することができて何よりだった。
騒動を収めて排除できただけでも万々歳だろう。
奴らを遥か辺境の地に島送りにしてやったのは精一杯の温情だ。
まるで昨日のことのように思い起こされる。
国王の崩御の直後にこんなに強烈な出来事があったのだ。
「くっそ~~~~今思い出しただけでも腹が立つ。余計なことをしなければ退職後も安泰でいられたろうに」
古株を追い遣り、若いメンバーに一新されたのはいいが、経験不足。知識不足。
なので、今現在、国力は著しく低い。
リヴェラは、このときのトラウマが尾を引いている。身内が急に裏切るのだ。
なので、人一倍よそ者が入ってくるのは敏感になる。
シファのようによそから入ってきた人物にはとくに猜疑心を持つのも当然だろう。
リヴェラの不遜な態度は、舐められないよう虚勢を張っているからだった。
「_________ところで、リヴェラ様、姫を迎えることに相成りましたがいかがでしたか?」
「俺、あいつ嫌だ」
「そうは云っても決まっていることですし、裕福な商業の国ですから同盟を結ぶことに損はないはずです」
「王の権限でこの縁談を破談にすることはできないのか?」
「そんな権限はございません」
にべもなく返される。
午前中に授業を終え、大臣たちの集まる議会をすませた後。
人払いをしてリヴェラはグロウと個別で会話をしている。
周囲の人間にもそうだし、幼馴染のライラとサフにも聞かれたくはないデリケートな会話だからだ。信頼を寄せている年長者のアドバイスを参考にするために度々相談に乗って貰っているのだった。
「十八歳になって成人するするなり、城の者はそわそわと皆は俺に妃を娶り世継ぎを設けよと期待をこめて見つめてくるようになった。俺は王としての自分の立場をよくわきまえている。期待には応えるつもりだけど……」
一瞬、思い詰めたような顔をして、グロウの前では十八歳の少年らしくリヴェラは本音を洩らす。
「どうにも腑に落ちない。なんだか、実感が伴わないというか……」
無理もない。この前まで王子として過ごしていたのに二年前に王位継承して、まだ成人したばかりなのだ。
戸惑いもあるだろう。
「うわ、ばれたか……」
では、リヴェラは今何をしているかというと、場面は移り変わり王城の執務室にて。横長の木の机と椅子が並べられ、ふたりの近衛騎士と共に授業を受けているところだった。
「そんなんじゃ、勉強にならないでしょう」
教育係のグロウが叱責している。
肩にかかるグレーの髪に銀縁眼鏡をかけている神経質そうな男性。名前はグロウ・ミーム。年齢は三十代。ややこしいが、名前はグレーではなくグロウだ。
普段は王を補佐する宰相の職を務めている。
「忙しくてやる暇がなくて」「分かんないよ、こんな問題」「サフが間違えるからいけないんだよ」
生徒である三人とも、それぞれに文句を垂れて、むくれる。
「そんなに難しい問題でもなかったはずですよ。ちゃんと勉強しないといけないですね。あなた方は要領が悪いので、人の三倍励まないと」
ひどい云いようだが、三人の学力は人並以下で、学力差はどんぐりの背比べのようなものだ。
リヴェラには近衛騎士がふたりいる。
黒髪で気の強い気質のライラが十九歳。
オレンジ色の髪で、控えめで大人しく柔和な少年の名前がサフ。十七歳。
リヴェラは十八歳なので、三人はひとつづつ歳が違う。
ひとつ年上のライラとひとつ年下のサフ。
幼馴染であり、兄弟のように育った侍従である。
「グロウ先生、いくつになるまで俺は授業を受け続けなければならないのですか?」
「最低でも二十歳になるまでリヴェラ様の勉強を見ろと、勅令で決まっております。あなたは国を治める立場でありながら歴史、経済、文学とモノを知らなさすぎます。ヴァイス陛下はひとりっ子だから甘やかしすぎたと嘆いておられました。それに側近である二人も馬鹿すぎるからついでに教えてやってほしいと頼まれているので」
「二十歳までって、遅いのか妥当なのか分からないな」
「あと二年もあるのか」とライラが溜息をつき、「あと二年だけじゃないか」とサフが云う。人によって意見が分かれる。
「この国は十八歳で成人ですけど、昔は十五歳で成人して一人前の大人だって云われていました。最近の諸外国は年齢が伸びて二十歳で成人だっていっているところもあるし、いいんじゃないんですか」
「学力が低すぎて、今のままでは不安すぎるからって直接云えばいいだろ」
「そうですね。このまま、無知のままで野放しにしてしまうと、諸外国にバカだってバレて恥をかきます」
リヴェラの云うことに、ことごとく歯に衣着せぬ云い方で畳み掛ける。
宰相というハイスペックな地位もそうだし、グロウはそこそこ背も高くて顔もよいのに、口うるさく真面目くさっているせいで、全然恰好よくもいい男にも見えない。残念でしょうがない人物だった。
「剣の鍛練や魔法も大事でしょうけど、勉学も疎かにしてはならないです。このままのペースでいって大丈夫なのか心配になります。あなた方の学力では本当に二十歳で勉強を終了していいものかあやしいものですね」
「う、うううう……」
なんか悔しいけど、事実なのでリヴェラは反論できない。
「これからは武力ではなく、知力がモノをいうご時世のようですからね」
そうなのだ。近年強さだけを求められる時代ではなくなってきた。
戦争で領土を増やし、勢力を増し、栄華を誇ったのは遥か昔のように思えてくる。
二十年前までのことだそうだ。次第に戦争が廃れる世の中に移り変わった昨今。
シファの父、リセルハイドの国王、マールテンのおかげで今では貿易業が主の時代になり、生産能力の高い国が富を築き、国力を増している。
「そんなにリゼルハイドは裕福な国なのか?」
「貿易で国が豊かになったそうです。我が国も何か名産品を作って、一山当てた方がいいんじゃないんでしょうか」
「う~~~~ん、何かあったか?」
「通常、輸入品は絹織物、工芸品、長期間保存がきく豆や穀物などが多いので、長距離の運搬にも耐えれて、かつ痛みにくいものが推奨されますよ」
「この国の特産物ってなんだったっけ?」とライラが訊く。
「大したものはなかったよな。麦とかキャベツとかレタスだったかな」とサフ。
「それじゃあダメだな。麦はともかく葉物野菜はよくないだろー」
リヴェラが口を挟むと、ライラが思い出す。
「特産品だと工芸品のほかにお菓子でもいいんだよな。厨房のコックが作るガレットやパンケーキがいいんじゃないか。旨いぞ。それを名物にすればいいんじゃないのか?」
それぞれの見当違いの意見にグロウが困り果てた。
「あのー、できれば保存のきく物がいいんですけど……」
「あとで、臣下たちに議会で聞いてみる」
リヴェラが深く溜息をつく。
あれやこれやと雑談を交わし、碌に身もない話に花を咲かせている。
今こうしていることは、とてつもなく平和なのかもしれないと、ひそかに思う。
そういえばとグロウが過去の出来事を振り返る。
「________________大変でしたね、あのときは」
今から二年前。先王・ヴァイス国王が崩御して、古株ばかりの重臣たちが反乱し、クーデターが起こったのだ。
我々が仕えているのはあの偉大なる王だ。こんな子供を王に据えるわけにもいかないと騒ぎ出し、全面戦争に発展した。(城の中でだけでドンパチやっただけだけど)
リヴェラが王位継承して即位することができて何よりだった。
騒動を収めて排除できただけでも万々歳だろう。
奴らを遥か辺境の地に島送りにしてやったのは精一杯の温情だ。
まるで昨日のことのように思い起こされる。
国王の崩御の直後にこんなに強烈な出来事があったのだ。
「くっそ~~~~今思い出しただけでも腹が立つ。余計なことをしなければ退職後も安泰でいられたろうに」
古株を追い遣り、若いメンバーに一新されたのはいいが、経験不足。知識不足。
なので、今現在、国力は著しく低い。
リヴェラは、このときのトラウマが尾を引いている。身内が急に裏切るのだ。
なので、人一倍よそ者が入ってくるのは敏感になる。
シファのようによそから入ってきた人物にはとくに猜疑心を持つのも当然だろう。
リヴェラの不遜な態度は、舐められないよう虚勢を張っているからだった。
「_________ところで、リヴェラ様、姫を迎えることに相成りましたがいかがでしたか?」
「俺、あいつ嫌だ」
「そうは云っても決まっていることですし、裕福な商業の国ですから同盟を結ぶことに損はないはずです」
「王の権限でこの縁談を破談にすることはできないのか?」
「そんな権限はございません」
にべもなく返される。
午前中に授業を終え、大臣たちの集まる議会をすませた後。
人払いをしてリヴェラはグロウと個別で会話をしている。
周囲の人間にもそうだし、幼馴染のライラとサフにも聞かれたくはないデリケートな会話だからだ。信頼を寄せている年長者のアドバイスを参考にするために度々相談に乗って貰っているのだった。
「十八歳になって成人するするなり、城の者はそわそわと皆は俺に妃を娶り世継ぎを設けよと期待をこめて見つめてくるようになった。俺は王としての自分の立場をよくわきまえている。期待には応えるつもりだけど……」
一瞬、思い詰めたような顔をして、グロウの前では十八歳の少年らしくリヴェラは本音を洩らす。
「どうにも腑に落ちない。なんだか、実感が伴わないというか……」
無理もない。この前まで王子として過ごしていたのに二年前に王位継承して、まだ成人したばかりなのだ。
戸惑いもあるだろう。
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