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◇
成瀬と篠原が幼稚園児の頃、二人で一緒にエスパーごっこをしてよく遊んだ。
「大きくなったら、二人でエスパーになろうな!」
輝く笑顔で篠原が成瀬にそう言ったのを、成瀬は今でもよく覚えている。
「うん! 約束!」
その時の成瀬は、エスパーになるという期待と希望に満ち溢れていた。
テレビなどで話題になるエスパー。それを見てエスパーになりたいと夢を持つ子供達はたくさんいた。
それから小学生に上がってからは、篠原と一緒になって勉強や体力作りをこなし、能力が現れるのを待った。篠原は勉強も身体能力も抜群に良く、成瀬は追いつくのに必死だった。
勉強もできないし、体を作ることに関しては大の苦手だった。でも、それも篠原がずっと励ましてくれたおかげでやってこれた。
篠原は統率力があって、何かあった時に頼りになる男だった。周りを魅了する満ち溢れたオーラがあり、憧れの存在だ。
結局、高校の時にエスパーの能力が出現したのは篠原だけで、成瀬はガイドの素質があることがわかった。
ずっと憧れていたエスパーになるという夢が打ち破られた瞬間、成瀬は絶望した。
涙も出ず、ただ茫然と「エスパーの素質なし」という能力値の紙を握りしめていた。
いつまでも落ち込む成瀬の肩を抱いて、篠原が言った。
「お前さ……俺のガイドになればいいじゃん」
「……え?」
「ガイドがいなきゃ、エスパーはいつかガタがきて壊れちまうだろ? そうならないようにお前が俺を救ってくれよ。俺はこれから一流のエスパーになる! お前が今まで努力してきた分も……。だから、暖は俺を救うパートナーになってくれ」
照れくさそうに鼻の頭を赤くしながら、握手を求めるように成瀬に手を伸ばした。
それが、成瀬にとっては救いの手に見えた。
自分みたいな才能もなにもない人間に対しても、篠原はずっと見捨てずにいてくれた。
しかも、「パートナー」という言葉がなによりも嬉しかった。
エスパーとして一緒に背中を支え合って戦うことはもう叶わないが、ガイドであれば、篠原と対等の関係でお互いを支え合うことができる存在になれる。
エスパーを支える専属ガイドとして求められた。篠原の隣にいてもいいと言ってもらえたのだ。
エスパーの素質がないと突きつけられて、自分の存在意義を一気に見失ってしまった。そんな時に救世主のように真っ暗な暗闇から成瀬を救ってくれた。
「っ、うん……!」
ぎゅっと篠原の手を取った。
「おい、泣くなよ。泣き虫」
「ご、ごめ……っ」
一気にこぼれ落ちた涙は、頬を伝って地面に落ちる前に篠原が制服の袖で拭ってくれた。ずびずびと鼻水が出ても、「汚ねぇな」と口では言いながらも抱きしめてくれた。
彼の隣に堂々と立ちたい。
彼に追いつきたい。
ただランクを上げたいのではない。篠原の隣に立って、彼を支えられるようになりたいのだ。
たとえ篠原に嫌われていても、ランクを上げてS級になることができればいつかきっと篠原は成瀬を頼ってくれる。
そんなわずかな希望にしがみついて、ギルド長からも解雇通知がされないことをいいことに、のうのうと居座っているのだ。
惨めな自分に嫌気がさすけれど、他に方法がない。
◇
「あの、鷹宮さん……お話ってなんですか?」
「まぁ、そんな緊張しないでくれ」
数日後、成瀬は、話があるとギルド長の部屋に呼ばれた。広い部屋なのに、ドンと豪快に筋肉質な鷹宮がいるだけで圧迫感がある。
ギルド長室に正式に呼ばれることなどほとんどなく、緊張するなというほうが難しい。
部屋の隅にはモンスターを倒した功績を讃えて、トロフィーやメダル、表彰状なんかがずらりと飾られていた。
成瀬が初めてここに入ったのは、篠原と入団した日だったな、と思い出していた。
あれから三年も経ち、二十歳を迎えた自分の成長が見えないことに焦りを感じる。
部屋にある応接用のソファに座らされて、温かいお茶を勧められた。
テーブルを挟んで向い側に大きく座る鷹宮をチラチラと盗み見る。一体何の話なのだろうかと考えてみるが、悪い予感しかない。
もしかして、ついに解雇通知をされてしまうのだろうか。
心臓が嫌な音を立て始めた。
「成瀬くんには、B級ギルド『浄化の風』にいってもらいたいんだ」
ついにこの時が来てしまった。
「……それはこのギルドを辞めろということでしょうか」
成瀬は悲痛な面持ちで下を向くことしかできない。ぎゅっと膝に置いた両手の色が変わるくらい握り込んだ。
「いや、そうじゃない。移籍という形にはなるが、成瀬くんにとって悪い話じゃないと思うんだ。もちろん、このギルドにとっても」
否定はしているが、それは戦力外通告と同じこと。お荷物のF級ガイドがいても、S級ギルドの何の役にも立たない。わかっていたことじゃないか。
「B級ギルドといっても、『浄化の風』はヒーラーやガイドが多いギルドなんだ。移籍してガイディングの経験を積むことで、きっと成瀬くんは今よりも成長できる。S級になることだって夢じゃないはずだ」
鷹宮はそう続けた。
「僕が、ランクを上げればいいですか? そしたら移籍せずにここに残れますか」
下を向いたまま成瀬は鷹宮に言った。
底辺ランクのガイドだから、移籍の話が出てしまった。ならば、今すぐにでもランクを上げることができれば『エターナルピース』に残ることができるかもしれない。成瀬はそう考えた。
「ランクを上げるのは、そうすぐにできることではないのはわかるだろう?」
「自分よりランクが上のエスパーと接触ガイディング以上のことをすれば、上がるはずですよね」
「成瀬くん、焦る気持ちはわかるが、ガイドが闇雲にガイディングしたとしても能力値が上がるわけでは……」
「このギルドにいるガイドはみんな低ランクでしたが、高ランクエスパーの専属ガイドになってすぐに上がっていったと聞いています」
「それは元々うちに入団したガイドとエスパーの関係が……」
鷹宮は困った顔で成瀬に説明しようとしたが、何かに気がつき、顔を上げてドアの向こう側を見た。
「……どうしてもランクを上げたいのか?」
「はい。僕はここにいなきゃ意味がないんです」
(蓮司くんと同じギルドにいなければ、彼を支えることができなくなってしまう)
鷹宮は思案顔で少し考えてから成瀬に聞いた。
「手っ取り早くランクを上げるのに必要なことはわかっているな?」
「もちろんです」
「覚悟はできているか?」
じっと我慢して痛みに耐えていればいいだけだろう。我慢することには慣れている。成瀬はこの時はそうたかを括っていた。
「はい」
返事をした瞬間に、成瀬は目にも見えない速さで鷹宮に押し倒されていた。
エスパーの能力を使ったのかとさえ思うほどだった。
ソファに仰向けの状態で、視界の先には鷹宮の巨体しか見えない。強い力で体の自由を奪われて、今まで感じたことのない恐怖を感じた。
「……一度始まったら最後まで止めてやれないぞ。いいのか?」
穏やかで頼りになる団長の顔は、いまやただの男の顔をしていた。
覚悟を決めたはずなのに、冷や汗がじっとりと体から滲み出てきてくるのがわかった。
ゴクリと生唾を飲んでも、恐怖で声が出なくて返事ができないままだった。それを肯定ととらえたのか、ゆっくりと接近してくる鷹宮の顔。
ソファを掴み、ぎゅっと目をつぶった。
「……れ、蓮司くんっ」
成瀬と篠原が幼稚園児の頃、二人で一緒にエスパーごっこをしてよく遊んだ。
「大きくなったら、二人でエスパーになろうな!」
輝く笑顔で篠原が成瀬にそう言ったのを、成瀬は今でもよく覚えている。
「うん! 約束!」
その時の成瀬は、エスパーになるという期待と希望に満ち溢れていた。
テレビなどで話題になるエスパー。それを見てエスパーになりたいと夢を持つ子供達はたくさんいた。
それから小学生に上がってからは、篠原と一緒になって勉強や体力作りをこなし、能力が現れるのを待った。篠原は勉強も身体能力も抜群に良く、成瀬は追いつくのに必死だった。
勉強もできないし、体を作ることに関しては大の苦手だった。でも、それも篠原がずっと励ましてくれたおかげでやってこれた。
篠原は統率力があって、何かあった時に頼りになる男だった。周りを魅了する満ち溢れたオーラがあり、憧れの存在だ。
結局、高校の時にエスパーの能力が出現したのは篠原だけで、成瀬はガイドの素質があることがわかった。
ずっと憧れていたエスパーになるという夢が打ち破られた瞬間、成瀬は絶望した。
涙も出ず、ただ茫然と「エスパーの素質なし」という能力値の紙を握りしめていた。
いつまでも落ち込む成瀬の肩を抱いて、篠原が言った。
「お前さ……俺のガイドになればいいじゃん」
「……え?」
「ガイドがいなきゃ、エスパーはいつかガタがきて壊れちまうだろ? そうならないようにお前が俺を救ってくれよ。俺はこれから一流のエスパーになる! お前が今まで努力してきた分も……。だから、暖は俺を救うパートナーになってくれ」
照れくさそうに鼻の頭を赤くしながら、握手を求めるように成瀬に手を伸ばした。
それが、成瀬にとっては救いの手に見えた。
自分みたいな才能もなにもない人間に対しても、篠原はずっと見捨てずにいてくれた。
しかも、「パートナー」という言葉がなによりも嬉しかった。
エスパーとして一緒に背中を支え合って戦うことはもう叶わないが、ガイドであれば、篠原と対等の関係でお互いを支え合うことができる存在になれる。
エスパーを支える専属ガイドとして求められた。篠原の隣にいてもいいと言ってもらえたのだ。
エスパーの素質がないと突きつけられて、自分の存在意義を一気に見失ってしまった。そんな時に救世主のように真っ暗な暗闇から成瀬を救ってくれた。
「っ、うん……!」
ぎゅっと篠原の手を取った。
「おい、泣くなよ。泣き虫」
「ご、ごめ……っ」
一気にこぼれ落ちた涙は、頬を伝って地面に落ちる前に篠原が制服の袖で拭ってくれた。ずびずびと鼻水が出ても、「汚ねぇな」と口では言いながらも抱きしめてくれた。
彼の隣に堂々と立ちたい。
彼に追いつきたい。
ただランクを上げたいのではない。篠原の隣に立って、彼を支えられるようになりたいのだ。
たとえ篠原に嫌われていても、ランクを上げてS級になることができればいつかきっと篠原は成瀬を頼ってくれる。
そんなわずかな希望にしがみついて、ギルド長からも解雇通知がされないことをいいことに、のうのうと居座っているのだ。
惨めな自分に嫌気がさすけれど、他に方法がない。
◇
「あの、鷹宮さん……お話ってなんですか?」
「まぁ、そんな緊張しないでくれ」
数日後、成瀬は、話があるとギルド長の部屋に呼ばれた。広い部屋なのに、ドンと豪快に筋肉質な鷹宮がいるだけで圧迫感がある。
ギルド長室に正式に呼ばれることなどほとんどなく、緊張するなというほうが難しい。
部屋の隅にはモンスターを倒した功績を讃えて、トロフィーやメダル、表彰状なんかがずらりと飾られていた。
成瀬が初めてここに入ったのは、篠原と入団した日だったな、と思い出していた。
あれから三年も経ち、二十歳を迎えた自分の成長が見えないことに焦りを感じる。
部屋にある応接用のソファに座らされて、温かいお茶を勧められた。
テーブルを挟んで向い側に大きく座る鷹宮をチラチラと盗み見る。一体何の話なのだろうかと考えてみるが、悪い予感しかない。
もしかして、ついに解雇通知をされてしまうのだろうか。
心臓が嫌な音を立て始めた。
「成瀬くんには、B級ギルド『浄化の風』にいってもらいたいんだ」
ついにこの時が来てしまった。
「……それはこのギルドを辞めろということでしょうか」
成瀬は悲痛な面持ちで下を向くことしかできない。ぎゅっと膝に置いた両手の色が変わるくらい握り込んだ。
「いや、そうじゃない。移籍という形にはなるが、成瀬くんにとって悪い話じゃないと思うんだ。もちろん、このギルドにとっても」
否定はしているが、それは戦力外通告と同じこと。お荷物のF級ガイドがいても、S級ギルドの何の役にも立たない。わかっていたことじゃないか。
「B級ギルドといっても、『浄化の風』はヒーラーやガイドが多いギルドなんだ。移籍してガイディングの経験を積むことで、きっと成瀬くんは今よりも成長できる。S級になることだって夢じゃないはずだ」
鷹宮はそう続けた。
「僕が、ランクを上げればいいですか? そしたら移籍せずにここに残れますか」
下を向いたまま成瀬は鷹宮に言った。
底辺ランクのガイドだから、移籍の話が出てしまった。ならば、今すぐにでもランクを上げることができれば『エターナルピース』に残ることができるかもしれない。成瀬はそう考えた。
「ランクを上げるのは、そうすぐにできることではないのはわかるだろう?」
「自分よりランクが上のエスパーと接触ガイディング以上のことをすれば、上がるはずですよね」
「成瀬くん、焦る気持ちはわかるが、ガイドが闇雲にガイディングしたとしても能力値が上がるわけでは……」
「このギルドにいるガイドはみんな低ランクでしたが、高ランクエスパーの専属ガイドになってすぐに上がっていったと聞いています」
「それは元々うちに入団したガイドとエスパーの関係が……」
鷹宮は困った顔で成瀬に説明しようとしたが、何かに気がつき、顔を上げてドアの向こう側を見た。
「……どうしてもランクを上げたいのか?」
「はい。僕はここにいなきゃ意味がないんです」
(蓮司くんと同じギルドにいなければ、彼を支えることができなくなってしまう)
鷹宮は思案顔で少し考えてから成瀬に聞いた。
「手っ取り早くランクを上げるのに必要なことはわかっているな?」
「もちろんです」
「覚悟はできているか?」
じっと我慢して痛みに耐えていればいいだけだろう。我慢することには慣れている。成瀬はこの時はそうたかを括っていた。
「はい」
返事をした瞬間に、成瀬は目にも見えない速さで鷹宮に押し倒されていた。
エスパーの能力を使ったのかとさえ思うほどだった。
ソファに仰向けの状態で、視界の先には鷹宮の巨体しか見えない。強い力で体の自由を奪われて、今まで感じたことのない恐怖を感じた。
「……一度始まったら最後まで止めてやれないぞ。いいのか?」
穏やかで頼りになる団長の顔は、いまやただの男の顔をしていた。
覚悟を決めたはずなのに、冷や汗がじっとりと体から滲み出てきてくるのがわかった。
ゴクリと生唾を飲んでも、恐怖で声が出なくて返事ができないままだった。それを肯定ととらえたのか、ゆっくりと接近してくる鷹宮の顔。
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