傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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 もし結婚相手を見つけられなくても、出資者を見つければいいのだし、話しかけてうちの牧場の良さを伝えたら、出資してくれる人が1人くらい見つかるかもしれない。
 最悪、気の合う男性と友達になるのでもいい。
 そこから交友関係が広がっていくかもしれないし。

 私は父の希望とは異なった期待を胸に、煌びやかな会場へと足を踏み入れた。

 今日はいつもよりうんと大人びたドレスを身につけていた。
 母が昔着ていたもので、私はずっと憧れていた。やっと着る機会に恵まれて、今日を楽しみにしていたのだ。

 豊満な胸を強調するようにきゅっとくびれを締めたデザイン。紺色の艶のあるスカート生地が、私が歩くたびに波打つを見るだけで心が躍って、勝手に早足になってしまう。
 首元が詰まっているのが窮屈に感じるが、私にとっては動きが取りづらい方が落ち着いて見えていいかもしれない。

 お直しをして今の流行に少しだけでも近づけてもらったつもりだったが、会場の女性たちの方がキラキラと輝いて見えた。

 踊り出しそうな私の足取りはゆっくりになり、立ち止まった。

 腹が減っては戦はできぬ。まずは腹ごしらえからしようかしら。

 豪華絢爛なダンスフロアに心を惹かれつつも、立食会場へと足を伸ばそうとした。

 すると、すぐに若い男性から声をかけられる。

「レディ、よろしかったらこちらをどうぞ」

 彼の手には飲み物が入った細いグラス。グラスも凝っていて、模様がついていて高級そうな代物だった。グラスの中では、しゅわしゅわと気泡が上に向かっている。

 男の顔を見ると、なかなかに整っている。着ているタキシードは皺がなくぴったりと彼の体に合っていて、胸ポケットから出しているハンカチも良いものそうだし、チラリと見せつけてきた懐中時計も高そうだ。

 出資者としても夫としてもいい候補になりそうだ、などと失礼にも値踏みして思わずニンマリとしてしまった。

「ありがとう」

 にっこり笑って、なるべく優雅に受け取ろうとしたその時、ドン! と彼の後ろから誰かが勢いよくぶつかり、その衝撃で彼の手にあった飲み物が私のドレスに降りかかった。

「なんてことだ! 俺としたことが申し訳ない。レディ、ドレスが台無しになってしまったようだ。すぐに洗い流さないと染みになってしまう!」

 ぶつかってきた紳士な男性は少し大袈裟にそう謝ってきた。

 幸い、色の付いていないシャンパンだったようで、ドレスが濡れただけだった。そんなに気にしなくてもいいのに。

「いえ、大したことはないので大丈夫ですわ」

 その紳士は私の言葉を信用しなかったのか、若い男性に指示を出した。 
 
「君、使用人を呼んできてくれないか」

「え? い、いや私が彼女のそばにいますから……」

「ここは私に任せてくれないか。レディを水浸しにしてしまった上に、そのまま放置するなんてそんなことは紳士としてあるまじきことだろう?」

 にこやかで口調も柔らかいはずなのに、圧倒的な力を見せつけられているような感覚になる。
 私が言われたわけではないのに、なぜか彼の言うことを聞かなければという気持ちにさえなってくる。

「どこか質の悪い男に引っかかってしまうかもわからない」

 ギラリと猛獣のような怖さのある目だった。

「っ……ええ……そうですね。わかりました」

 ビクリと肩を揺らして身を引き、逃げるように男性はこの場から急足で過ぎ去っていった。
 その後ろ姿が、尻尾を巻いて逃げ出す小犬のようでなんだか笑ってしまいそうになった。

 そして、彼の急ぎようから、もうここには戻ってこないだろうことは予想できた。

 私の方に向き直り、シルクのハンカチを差し出してきた。濡れたドレスを拭くために渡してきたのだろう。

「レディ、男から渡される飲み物を気軽に受け取ってはなりませんよ。何が入っているかわかったものではない」

 最初の演技がかった慌てようとは打って変わって、厳しい重低音が上から降り注いだ。

 (やはりさっきのシャンパンに何か入っていたのね)

 私は差し出されたハンカチを受け取る。つるりとした肌触りがいい。思わず頬ずりしたくなるほどだ。

「あら、それは残念だわ。もし襲われでもしたら、それを盾にあのお金持ちの男性に結婚を迫ろうと思っていましたのに」

 私は首をこてりと斜めにしてくすっと笑って長身の彼を見上げた。
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