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しおりを挟む紳士はぽかん、とした顔になって途端に笑い転げ出した。
「ははは、これはこれは。それは余計なことをしてしまったね。謝罪するよ」
屈託なく笑う笑顔が眩しく輝く。タキシードの下にはたくましい筋肉が盛り上がり、隠しきれないセクシーさが滲み出ていた。
「だがさっきの彼はやめておいた方がいい。借金まみれのしがない男爵家の三男坊だ」
「そうだったんですね。私ったら金目の物に疎くって……」
借金があるとはわからなかった。私もこのパーティーに出席するために見栄を張ってドレスを着てきたから、この会場には私のように見目だけ着飾ってきている人もいるのかもしれない。
「あなたはお貴族様の事情にお詳しいのね。色々と教えていただきだいわ。私におすすめの方はだれ?」
「くく、君は本当に面白い、レディ。君みたいな女性には初めて出会ったよ」
私に興味がある、と隠さずに面白がる彼の目線は私に釘づけになっていた。
それから私たちは軽食をつまみながら色々な話をした。
なぜか私たちの波長はぴったりと合った。こんな身分の高そうな極上の男性と自分がどうこうなるとは考えられない。
だけど、初めてきた煌びやかなパーティーに当てられてか、舞い上がって自分の状況を洗いざらい話してしまった。余計なことまで全て。
母が亡くなって私は学校を辞めざるをえなかったこと。本当は牧場経営ではなく教師をしたかったこと。経営がうまく行っていないこと。
けれど父を愛しているし、このまま牧場を手放すことはしたくない。だから、出資者になりそうな結婚相手を探していること。
「どなたか私の結婚相手になって、牧場を継いでくれそうな方はいらっしゃるかしら?」
「俺はどうだ? 自分で言うのもなんだが中々整った顔立ちをしているし、君の牧場にも満足のいく出資金を支払うことができる」
冗談まじりにも自信満々な遊び人の顔でそんなことを言ってきた。
「あなたが? あなたが牧場の牛や馬を世話しているところなんて想像もつかないけれど」
屈強そうな体は力作業にはもってこいだが、高そうなタキシードやきっちりと固めた金髪のオールバックの髪に作業服と麦わら帽子が似合うとは到底思えなかった。
「昔は小さな町で育ての親が飼っていた馬の世話をしていたことがある。馬の扱いに関してはそこらのお貴族様より詳しいよ。それに、いつかのんびり馬の世話をしてみたいと思っていたところだったんだ。牧場経営はぴったりだ」
驚きの提案だったが、でもなぜか悪くないと思ってしまった。最初と比べるとかなり打ち解けた口調で話し始め、お互いの雰囲気もかなりよくなっていた。
私の腰に添えられた彼の手に力が入る。
「俺もそろそろ身を固めるべきかと思っていたところだし。それに、君となら退屈しないだろう?」
だが、刺激的すぎる危険な男の香りがする。彼からただようシトラスの爽やかな香水の香りでは、滲み出る獰猛さが隠しきれていなかった。
「候補者として考えておくわね。ああ、そうだわ、どなたがプロミネンス伯爵かしら? 教えてくださる?」
彼に惹かれているとは知られないようにそっけない返事をした。
「どうして知りたいんだ?」
彼の目がギラリと冷たく光った。獰猛な目だ。なぜかショックを受けて落胆しているように見えてならなかった。
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