傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

文字の大きさ
44 / 55

16戦争

しおりを挟む





 毎日が過ぎていく。

 自分でも気づかないうちに彼の姿を探して窓の外を見つめていた。

 もう来ない彼を毎日待っていた。

 彼が来ないことを望んだのは自分のはずなのに、どうしてこんなにも切なくなるのだろう。彼が恋しくて泣きたくなるのだろう。私はどうしたかったのか。どうしたらよかったのか。

 全てを話してランドルフと3人で暮らせると期待してしまったのだろうか。
 だからこんなにも心に彼が残っている。
 
 でもこれでいいんだ。そう自分に思い込ませようとした。

 もう彼を忘れて前に進みたい。

 

 私はケビンの寝室へと足を踏み入れた。

「ケビン、抱きしめてほしいの」

 暗くなった寝室のベッドで小さなライトをたよりにケビンが新聞を読んでいる。見出しにはでかでかと「開戦」の文字が印字されていた。最近情勢があやしく、近々戦争が起こるのだ。

「抱きしめてって……どうしたんだジュリア?」

 うろたえながらもケビンがベッドの端によって私の入るスペースを作ってくれた。
 
「なにかあったのか?」

 心配そうに、彼は隣に座った私の顔を覗き込む。彼の温かな手が頬に触れる。じんわりと温かくて、ぽかぽかとあたたまってくるようだ。

 こんな優しい手を、私は利用しようとしている。

「お願い、抱いて」

 彼に自分から抱きついた。強く抱き返して欲しいのに、彼は私をなにか力を入れたら壊れてしまう花のように優しく両腕で包み込んだ。

「本当にいいのかい?」

 彼のいつもとは違う熱の入った声色で、私の耳元で囁いた。

「ええ」

「後悔しない?」

「しないわ」

 強く抱きついているから互いの表情を確認することはできない。

 彼が私の腕を解きほぐして、顔を近づけてきた。ぎゅっと目を瞑ってその時を待った。

 けれどなかなか彼の唇は来ない。

 なぜ? ケビンたらどうしちゃったの、と私がやっと目を開けると、ぎゅっと鼻をつままれて変な声が出た。

「んぐっ!」

「強がるからこんなことになるんだ」

「つ、強がってなんかないわよ!」

 つままれた鼻を手で庇いながら鼻声で答えた。さっきまでのあやしい雰囲気は完全に消し飛んでしまった。

「僕の前では無理をしないでくれ」

「……してない」

「約束して。もうこんなことはしないって」

「無理なんてしてないのに」

「ジュリア」

 生徒と先生だった頃のように、聞き分けのない子に言い聞かせるみたいな口調だ。
 ため息を吐いて観念した。
 
「わかったわ」

「よし、いい子だ」

「もうっ、子ども扱いしないでよ」

 まだ私のことを生徒だと思っているのかしら。不機嫌さを曝け出して顔を背けた。

「子どもだなんて思ってたらこんなことしないよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?

基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。 彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。 仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。 王は今日も愛妾のもとへ通う。 妃はそれは構わないと思っている。 元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。 しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。 廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。 王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。 しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。 虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。 ※初っ端から乳弄られてます

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます

基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」 婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。 愛する女は彼女だけとのことらしい。 相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。 真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。 だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。 「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」 彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。 しかし、結婚はするという。 結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。 あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。

【完結】 その身が焼き切れるほどの嫉妬をあなたにあげる

紬あおい
恋愛
婚約を解消されたのは、私ではなく、あなたの方。 嫉妬の苦しみをあなたも味わうといい。私のことはご心配なく。 私は幸せになります。 公開初日は二時間毎に更新 その後は六時間毎に更新 よろしくお願い申し上げます。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 設定は独自の世界観です。 ゆるゆるで、おかしいのも意図的だったり、単に文章力や知識不足に因るものです。 お好みに合わない場合は、そっとブラウザバックをお願い致します。m(_ _)m

処理中です...