傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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 そのままクリスティーナはわんわんとハンカチに涙を染み込ませていった。

「1人で大変だったわね。私が来たからもう大丈夫よ。今夜からは私が対応するから、あなたはゆっくり休みなさい」

「ですが、ジュリア様にこんなことをさせる訳にはいきません」

「クリスティーナ、私はまだ彼の妻なの。戸籍上ではね」

 パチリ、とウィンクをしてクリスティーナを慰めるつもりで明るく振る舞った。

「奥様……」

 彼女はうるうるとまた瞳を揺らす。
 
「だから、本来は私がやるべき役目なのよ。あなたに負担をかけてしまってむしろ申し訳なかったわ。ありがとう、クリスティーナ」

 彼女はまたおいおいと私に抱きついて泣いていた。本当に1人では限界だったのだろう。

 

 私はセーラをクリスティーナに預けて、ランドルフのいる病室へと1人入って行った。

 ぽつんと広い部屋のベッドの真ん中にランドルフが上体を起こしたまま動かずにいる。

 艶のある金髪は錆びたように潤いをなくし、たくましい体は病人らしく細く痩せこけていた。両目にはぐるぐる巻きに包帯が巻かれている。

 こっそりと部屋に入ったつもりだったが、すぐに気づかれてしまった。

「誰だ?! 誰も入るなと言ってあるだろう!!」

 弱々しい病人に似つかわしくないほどの声量でこちらを威嚇する。けれど、それは虚勢であると私にはわかった。

 ベッドサイドに腰を下ろし、ランドルフに声をかけた。

「私よ」

 一言そう言った。

 彼はびくりと手を震えさせて顔をこちらに向けた。

「ジュ、ジュリアなのか……?」

 一気に弱気になった彼の声はいつもの傲慢さはなかった。

「ええ」

「ジュリア……!」

 必死に私の腕を掴み、体中を触って確かめた。目が見えないから当然だろう。そして、私の顔に触れる。がさがさの乾いた指が、私の肌にひっかかる。そうして、彼の細くなってしまった腕の中に掻き抱かれた。

「会いたかった……」

 嗚咽を漏らす彼の背中を、私はずっと撫でていた。
 けれど、ぐいっとランドルフに肩を押された。

「ジュリア、どうして来たんだ」

 会いたかった、と私に焦がれていた声色とは打って変わって、困惑の色が見られた。

「あなたの様子が心配だったからよ。クリスティーナにあなたのことを聞いたの」

「……そういうことか。来てくれてありがとう。だが、俺は大丈夫だから。君は彼の元に帰るといい」

 冷たい物言いに、わたしの方が混乱した。

「そんなわけにはいかないわ。あなたが心配なの。そばに居させて」

「いいって言ってるだろ!」

 やけになって怒鳴ってくるが、私は引かない。

「だけどランドルフ、このままでは」

「俺が大丈夫と言っているんだ。俺にかまわないで、放っておいてくれよ」

「できないわそんなこと」

「大学の有名教授だか名誉教授だかなんだか知らないが、あいつのところへでもどこでもいけばいいだろ」

「ケビンの元にはもう戻らないの」

「あいつのことが好きなんだろう?子どもだって作ったんだから」

 セーラはあなたの子だわ。あなたと私が愛し合った証。

「あなたのそばにいるわ、ランドルフ」

 どれだけ罵倒されても、拒否されても、居座るつもりだ。
 今度こそ逃げない。彼のそばを離れない。

「くそっ……! こんな姿、君に見られたくないんだ。情けない姿を見せたくない。だからもう、俺の前から消えてくれ」

 私を拒むのは、怖いからなんだとわかった。傲慢さは、彼の弱い部分を隠すためなんだ。

「私があなたを支えたいの。どうか私を受け入れてランドルフ」

 両目に巻いた包帯に涙が滲む。彼の震える手を上から握った。




 私は夜、彼が眠りにつくまでずっとそばについていた。
 すうっと息が落ち着いて眠った後、しばらくしてランドルフが苦しみ出した。

「ううっ……、すまない、ショーン。俺を庇ったせいでお前が……、俺が悪かった……俺が死ねばよかったんだ。だから、そんな目で見ないでくれ……っ」

「ランドルフ、起きて。お願いだから」

 体をゆすって起こそうとしても、なかなか起きずに悪夢にうなされたままだ。

 ランドルフはずっと味方の兵士に謝っているようだった。きっと、その兵士はランドルフを庇って死んだのだろう。
 その時の敵の攻撃の破片がランドルフの目を傷つけたのかもしれない。
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