傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

文字の大きさ
55 / 55

20-2

しおりを挟む
 その後、私はクリスティーナに娘の面倒を任せながら、目の見えないランドルフの看病をした。

 戦争を経験し悪夢を乗り越えたことで、彼は傲慢さが溶けきって優しく穏やかになった。
 けれど目が見えなくなったことでできることは限られて、弱りきった脚では歩くこともままならない。
 そんな彼を私は支えたいと思った。私たちの幸せな日常を守るために戦場に行き、戦った彼を助けたい。そして、戦場で負った傷のせいで視力を失ってしまったのだから。
 けれどやはり、一番の理由は、彼の子どもへの態度が変わったことだった。
 娘を支えたいという気持ちに私は動かされた。
 私の、私たちの子どもを大切に思う彼の気持ちが私には嬉しかったのだ。
 そして、彼から子どもとの時間を奪ってしまったということにも罪悪感を感じていた。

 そして目が見えないながらも、ランドルフは娘と関わろうとして努力した。
 ランドルフの体力が戻って、1人で壁を伝ってあるけるようになったころから、娘と一緒に遊んだり、抱っこしたり、寝かしつけてくれるようになった。自ら娘の人生に関わろうと、娘の人生の一部になろうとする努力が見えた。

 そして、娘は遊んでくれるランドルフに懐き始めた。
 それが彼にはとても幸せなことのようで、笑顔が屋敷に溢れていった。
 昔のように、ランドルフを恐れて彼の顔色をうかがうような空気は使用人の間にもなくなっていった。

 その後、残骸で眼球が傷ついた瞳に回復の兆しが見えた。
 残念ながら右目の回復は叶わなかったが、医者も驚きの回復力で左目だけはわずかに視力が回復したのだった。

「また会えて嬉しいよ、俺の光り輝く天使たち」

 もう失われてしまった右目に眼帯をはめて、視力の回復した左目を開いて私たちを一番に見たランドルフ。彼が言った最初の言葉だった。

 美しかった真っ青なスカイブルーの瞳は濁りをみせていたが、しっかりと大きく目を開いていた。彼の瞳の奥に私たちの姿がありありと写っている。

 愛情深い目付きで笑うランドルフ。私の手を取って手の甲にキスをする。

「俺が君を愛することを、もう一度だけ許してもらえないだろうか」

 許しを乞うランドルフ。傲慢で、いつも自信たっぷりで、彼は自分本位に振る舞っていた。
 けれどそれが彼の魅力の一部でもあった。強く引き締まった体、自信満々の精悍な顔つき。いつでも前を向いて引っ張っていってくれる力強さが彼にはあった。

 今の彼はその時の彼とは変わってしまった。けれど彼の存在感は圧倒的で、傲慢さのかわりに優しさと穏やかさで溢れていた。彼の新しい魅力に私はどんどん惹かれていく。
 彼と接している間中ずっと感じていた。

 ランドルフを愛している。
 あのパーティーで一目、彼と目が合ってから彼に惹かれ、好きになった。
 けれどその好きは愛に変わっていた。

「ランドルフ、愛しているわ」

「俺もずっと君を愛するよ。これから一生をかけてそれを証明していくから」

 見ていて欲しい、そう言って向かってくる唇に、そっと私も唇を重ねた。






 寝室のベッドに仰向けになると、ランドルフが上に上がってくる。

 ギシギシとベッドが遠慮がちに軋む音が聞こえてきた。

 私の存在を確かめながら、たどたどしくも優しい手が私の肌を撫でていく。

 互いの吐息は熱くなり、体はかつてひとつであったかのような錯覚をさせるほど溶け合う。

 ランドルフと私がキスをしようとした時だった。

「いっ……」

「っ、すまない」

 ランドルフの歯が私の唇に当たった。ランドルフは私の体から離れようと体を上げる。

「こんなの大したことはないわ。やめないで」

 私は彼の肩に縋りついた。

「だが……」

 まだ何か言おうとした彼に、私からキスをしたが、ランドルフの動きはぎごちなくて戸惑っていた。それでも構わずにちゅ、ちゅ、と軽くキスをたくさんする。

 片目が見えないから、至近距離であっても距離感が掴みにくいのだろう。

 私の上で固まってしまって動けなくなったランドルフに、そっと耳打ちしてささやいた。

「今日は私がリードしてあげる」

「なっ……」

 するとランドルフは言葉を失って頬を染ると、初心な顔を見せた。見たこともない顔に私はたまらずくすくすと笑ってしまった。

 私がからかっていると思ったのか、とたんにランドルフは拗ねた少年の顔になった。指で私の唇の位置を確認しながら、ランドルフの方からキスをしてきた。

「俺にさせてくれ。俺がしたいんだ」

「あなたのお願いじゃ、しょうがないわね。させてあげるわ」

 なんて言う余裕があったのは最初だけだった。




「ン……はぁっ、ぁ、あぁ……ランドルフっ……っ!」

「ジュリア、ああ、久しぶりの君の中はすごいな」

「い、やぁ……く、んんっ……」

 最初はたどたどしく、まさに初めてするかとのような手付きで始まったのに、だんだん思い出したのか腰の動きが艶かしく激しくなっていった。

 だけれど、昔のように強すぎる快感を情熱的に打ちつけられるだけじゃなかった。自分の欲求を満たそうとするのではなく、私の様子をずっと見ながら、じわじわと共に高みに上がっていくのがわかる。

 それが嬉しかった。ランドルフと同じところにいられるのが、こんなにも幸せに思えるなんて。


「君を愛している」


 返事の代わりに、私は彼の右目の眼帯にキスをした。













 
 





しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...