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その後、私はクリスティーナに娘の面倒を任せながら、目の見えないランドルフの看病をした。
戦争を経験し悪夢を乗り越えたことで、彼は傲慢さが溶けきって優しく穏やかになった。
けれど目が見えなくなったことでできることは限られて、弱りきった脚では歩くこともままならない。
そんな彼を私は支えたいと思った。私たちの幸せな日常を守るために戦場に行き、戦った彼を助けたい。そして、戦場で負った傷のせいで視力を失ってしまったのだから。
けれどやはり、一番の理由は、彼の子どもへの態度が変わったことだった。
娘を支えたいという気持ちに私は動かされた。
私の、私たちの子どもを大切に思う彼の気持ちが私には嬉しかったのだ。
そして、彼から子どもとの時間を奪ってしまったということにも罪悪感を感じていた。
そして目が見えないながらも、ランドルフは娘と関わろうとして努力した。
ランドルフの体力が戻って、1人で壁を伝ってあるけるようになったころから、娘と一緒に遊んだり、抱っこしたり、寝かしつけてくれるようになった。自ら娘の人生に関わろうと、娘の人生の一部になろうとする努力が見えた。
そして、娘は遊んでくれるランドルフに懐き始めた。
それが彼にはとても幸せなことのようで、笑顔が屋敷に溢れていった。
昔のように、ランドルフを恐れて彼の顔色をうかがうような空気は使用人の間にもなくなっていった。
その後、残骸で眼球が傷ついた瞳に回復の兆しが見えた。
残念ながら右目の回復は叶わなかったが、医者も驚きの回復力で左目だけはわずかに視力が回復したのだった。
「また会えて嬉しいよ、俺の光り輝く天使たち」
もう失われてしまった右目に眼帯をはめて、視力の回復した左目を開いて私たちを一番に見たランドルフ。彼が言った最初の言葉だった。
美しかった真っ青なスカイブルーの瞳は濁りをみせていたが、しっかりと大きく目を開いていた。彼の瞳の奥に私たちの姿がありありと写っている。
愛情深い目付きで笑うランドルフ。私の手を取って手の甲にキスをする。
「俺が君を愛することを、もう一度だけ許してもらえないだろうか」
許しを乞うランドルフ。傲慢で、いつも自信たっぷりで、彼は自分本位に振る舞っていた。
けれどそれが彼の魅力の一部でもあった。強く引き締まった体、自信満々の精悍な顔つき。いつでも前を向いて引っ張っていってくれる力強さが彼にはあった。
今の彼はその時の彼とは変わってしまった。けれど彼の存在感は圧倒的で、傲慢さのかわりに優しさと穏やかさで溢れていた。彼の新しい魅力に私はどんどん惹かれていく。
彼と接している間中ずっと感じていた。
ランドルフを愛している。
あのパーティーで一目、彼と目が合ってから彼に惹かれ、好きになった。
けれどその好きは愛に変わっていた。
「ランドルフ、愛しているわ」
「俺もずっと君を愛するよ。これから一生をかけてそれを証明していくから」
見ていて欲しい、そう言って向かってくる唇に、そっと私も唇を重ねた。
◇
寝室のベッドに仰向けになると、ランドルフが上に上がってくる。
ギシギシとベッドが遠慮がちに軋む音が聞こえてきた。
私の存在を確かめながら、たどたどしくも優しい手が私の肌を撫でていく。
互いの吐息は熱くなり、体はかつてひとつであったかのような錯覚をさせるほど溶け合う。
ランドルフと私がキスをしようとした時だった。
「いっ……」
「っ、すまない」
ランドルフの歯が私の唇に当たった。ランドルフは私の体から離れようと体を上げる。
「こんなの大したことはないわ。やめないで」
私は彼の肩に縋りついた。
「だが……」
まだ何か言おうとした彼に、私からキスをしたが、ランドルフの動きはぎごちなくて戸惑っていた。それでも構わずにちゅ、ちゅ、と軽くキスをたくさんする。
片目が見えないから、至近距離であっても距離感が掴みにくいのだろう。
私の上で固まってしまって動けなくなったランドルフに、そっと耳打ちしてささやいた。
「今日は私がリードしてあげる」
「なっ……」
するとランドルフは言葉を失って頬を染ると、初心な顔を見せた。見たこともない顔に私はたまらずくすくすと笑ってしまった。
私がからかっていると思ったのか、とたんにランドルフは拗ねた少年の顔になった。指で私の唇の位置を確認しながら、ランドルフの方からキスをしてきた。
「俺にさせてくれ。俺がしたいんだ」
「あなたのお願いじゃ、しょうがないわね。させてあげるわ」
なんて言う余裕があったのは最初だけだった。
「ン……はぁっ、ぁ、あぁ……ランドルフっ……っ!」
「ジュリア、ああ、久しぶりの君の中はすごいな」
「い、やぁ……く、んんっ……」
最初はたどたどしく、まさに初めてするかとのような手付きで始まったのに、だんだん思い出したのか腰の動きが艶かしく激しくなっていった。
だけれど、昔のように強すぎる快感を情熱的に打ちつけられるだけじゃなかった。自分の欲求を満たそうとするのではなく、私の様子をずっと見ながら、じわじわと共に高みに上がっていくのがわかる。
それが嬉しかった。ランドルフと同じところにいられるのが、こんなにも幸せに思えるなんて。
「君を愛している」
返事の代わりに、私は彼の右目の眼帯にキスをした。
戦争を経験し悪夢を乗り越えたことで、彼は傲慢さが溶けきって優しく穏やかになった。
けれど目が見えなくなったことでできることは限られて、弱りきった脚では歩くこともままならない。
そんな彼を私は支えたいと思った。私たちの幸せな日常を守るために戦場に行き、戦った彼を助けたい。そして、戦場で負った傷のせいで視力を失ってしまったのだから。
けれどやはり、一番の理由は、彼の子どもへの態度が変わったことだった。
娘を支えたいという気持ちに私は動かされた。
私の、私たちの子どもを大切に思う彼の気持ちが私には嬉しかったのだ。
そして、彼から子どもとの時間を奪ってしまったということにも罪悪感を感じていた。
そして目が見えないながらも、ランドルフは娘と関わろうとして努力した。
ランドルフの体力が戻って、1人で壁を伝ってあるけるようになったころから、娘と一緒に遊んだり、抱っこしたり、寝かしつけてくれるようになった。自ら娘の人生に関わろうと、娘の人生の一部になろうとする努力が見えた。
そして、娘は遊んでくれるランドルフに懐き始めた。
それが彼にはとても幸せなことのようで、笑顔が屋敷に溢れていった。
昔のように、ランドルフを恐れて彼の顔色をうかがうような空気は使用人の間にもなくなっていった。
その後、残骸で眼球が傷ついた瞳に回復の兆しが見えた。
残念ながら右目の回復は叶わなかったが、医者も驚きの回復力で左目だけはわずかに視力が回復したのだった。
「また会えて嬉しいよ、俺の光り輝く天使たち」
もう失われてしまった右目に眼帯をはめて、視力の回復した左目を開いて私たちを一番に見たランドルフ。彼が言った最初の言葉だった。
美しかった真っ青なスカイブルーの瞳は濁りをみせていたが、しっかりと大きく目を開いていた。彼の瞳の奥に私たちの姿がありありと写っている。
愛情深い目付きで笑うランドルフ。私の手を取って手の甲にキスをする。
「俺が君を愛することを、もう一度だけ許してもらえないだろうか」
許しを乞うランドルフ。傲慢で、いつも自信たっぷりで、彼は自分本位に振る舞っていた。
けれどそれが彼の魅力の一部でもあった。強く引き締まった体、自信満々の精悍な顔つき。いつでも前を向いて引っ張っていってくれる力強さが彼にはあった。
今の彼はその時の彼とは変わってしまった。けれど彼の存在感は圧倒的で、傲慢さのかわりに優しさと穏やかさで溢れていた。彼の新しい魅力に私はどんどん惹かれていく。
彼と接している間中ずっと感じていた。
ランドルフを愛している。
あのパーティーで一目、彼と目が合ってから彼に惹かれ、好きになった。
けれどその好きは愛に変わっていた。
「ランドルフ、愛しているわ」
「俺もずっと君を愛するよ。これから一生をかけてそれを証明していくから」
見ていて欲しい、そう言って向かってくる唇に、そっと私も唇を重ねた。
◇
寝室のベッドに仰向けになると、ランドルフが上に上がってくる。
ギシギシとベッドが遠慮がちに軋む音が聞こえてきた。
私の存在を確かめながら、たどたどしくも優しい手が私の肌を撫でていく。
互いの吐息は熱くなり、体はかつてひとつであったかのような錯覚をさせるほど溶け合う。
ランドルフと私がキスをしようとした時だった。
「いっ……」
「っ、すまない」
ランドルフの歯が私の唇に当たった。ランドルフは私の体から離れようと体を上げる。
「こんなの大したことはないわ。やめないで」
私は彼の肩に縋りついた。
「だが……」
まだ何か言おうとした彼に、私からキスをしたが、ランドルフの動きはぎごちなくて戸惑っていた。それでも構わずにちゅ、ちゅ、と軽くキスをたくさんする。
片目が見えないから、至近距離であっても距離感が掴みにくいのだろう。
私の上で固まってしまって動けなくなったランドルフに、そっと耳打ちしてささやいた。
「今日は私がリードしてあげる」
「なっ……」
するとランドルフは言葉を失って頬を染ると、初心な顔を見せた。見たこともない顔に私はたまらずくすくすと笑ってしまった。
私がからかっていると思ったのか、とたんにランドルフは拗ねた少年の顔になった。指で私の唇の位置を確認しながら、ランドルフの方からキスをしてきた。
「俺にさせてくれ。俺がしたいんだ」
「あなたのお願いじゃ、しょうがないわね。させてあげるわ」
なんて言う余裕があったのは最初だけだった。
「ン……はぁっ、ぁ、あぁ……ランドルフっ……っ!」
「ジュリア、ああ、久しぶりの君の中はすごいな」
「い、やぁ……く、んんっ……」
最初はたどたどしく、まさに初めてするかとのような手付きで始まったのに、だんだん思い出したのか腰の動きが艶かしく激しくなっていった。
だけれど、昔のように強すぎる快感を情熱的に打ちつけられるだけじゃなかった。自分の欲求を満たそうとするのではなく、私の様子をずっと見ながら、じわじわと共に高みに上がっていくのがわかる。
それが嬉しかった。ランドルフと同じところにいられるのが、こんなにも幸せに思えるなんて。
「君を愛している」
返事の代わりに、私は彼の右目の眼帯にキスをした。
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