傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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「やぁ」

 学生と比べ物にならないくらいかけ離れた背格好と体躯を持った男性。溢れんばかりの彼の魅力は、その紳士服に閉じ込めては置けないくらいだった。

「ど、どうして大学にいるの?今日は休みなのに」

 ランドルフは帽子を脱いだ。

「その言葉はそっくりそのまま君にお返しするよ」

 くすりと笑いながら言うランドルフに、私はムッとした。

「私はちょっと探し物をしていただけよ」

「こんな真っ暗な部屋で電気も付けずに?」

 今までの経緯を全て一から彼に説明するなんめ馬鹿らしくてできない。

「別に私の勝手でしょう?」

 つい、言い方がキツくなってしまった。

「探し物をするなら電気くらい付けたほうがいい」

「付けなくていいわ、やめて」

 彼が部屋の電気をつけようとしたので、私は止めた。

「なぜだ?」

「はぁ、もういいから、用がないなら帰ってくれる?」

「用ならあるさ」

 じっと私を見つめてくる視線が熱い。私はその視線に耐えきれずに目を逸らした。

「今日は小さな天使を連れているんだな」

 ランドルフは嬉しそうに笑って、私が抱っこしてるセーラに気がつき、触れようとしてくる。
 私はセーラを起こしたくなくてその手をかわして身を捩った。

「勝手に触らないでちょうだい」

「……悪い」

 触れようとした手をぐっと握りしめて、そのままズボンのポケットへと隠し込んだ。
 凛々しいオオカミのような顔が、叱られた子犬のようにしゅんとしてしまった。

 なんなのよ。そんな顔をしたら、こっちが悪いことをしているみたいじゃない。

「やっと寝てくれたの。だから起こしたくなくて」

 こんな言い訳をするみたいに弁明することになるなら、最初から説明すればよかった。

「いや、勝手に触れようとしたのは俺だ。もう許可なく触れることはしない誓うよ」

 私はこくりと頷いた。

「前にも同じような失敗をしたな。中々、うまくいかないものだ」

 前にもこんなことがあったかしら?この人が再び私の前に現れてからあまり心が落ち着かない日々を送ってきていて、あまり覚えていない。

「探し物をするのを手伝わせてくれ」

「いらないわ。一人で探せるから」

「真っ暗な部屋で、子どもを抱えたまま床の書類をひっくり回すつもりか?」

「……」

 私は今一度部屋を見渡して状況を確認した。確かに、私一人では無謀にも思える。探し出すのは難しいかもしれない。

「ケビンの研究室の子たちにお願いするから大丈夫」

「今日は休日だと言うことをもう忘れたのか? 学生なんてほとんど歩いていなかったが」

「ケビンの生徒は休日もきてる子たちが多いの」

「その子たちは研究をしにわざわざ休日に大学まできているんだろう?」

 ランドルフの言う通りだ。言い返す言葉もない。

「それは、そう……だけど」

「俺なら手は空いていると言っているのに、なぜそこまでして俺を避ける?」

 これ以上あなたと関わりたくないからよ。

 けれど、ケビンの生徒にお願いするのは間違ったことだと彼の言葉を聞いて納得してしまった。書類が今手元にないのは私のせいなのだから、無関係の生徒を巻き込むべきではない。
 ランドルフを避けたいあまり、そんなこともわからなくなっていたなんて。

「そこまで言うのなら、お願いするわ」

 早く目当ての書類を見つけて、家に帰りたい。
 わたしはケビンの優しげな笑顔を思い出そうとした。




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