傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン

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「ケビンのデスクの近くにあるはずだわ」

「近く……ね」

 言いたいことは分かる。

 ケビンのデスクを中心に、乱雑さは激しくなっており、デスクの上も床も書類や研究書が積まれて、足を踏み入れただけで今にも雪崩が起きそうだった。

 ランドルフが呆れた顔をするのも当然だ。
 だが彼は文句も気取った皮肉も言わず、ジャケットを脱いだ。かける所がなかったので、手近の山積みの本の上にジャケットと帽子を置いた。

 彼は皺のないシャツを腕まくりして書類の山に向かっていった。

 書類の山を倒さないように進んでいき、ミミズの這ったような殴り書きのメモ一つ踏みつけないようにしながらデスクまで近づいていった。

「ここに目当ての紙切れがあるといいんだが」

「デスクの周りに『要提出!』って大きく赤字で書かれた書類がないかしら?」

「見当たらないな」

「おかしいわね……最後に見たのはケビンのデスク付近だったのは覚えているから、絶対に近くだと思ったのに」

 見つからないとなると、この書類すべてひっくり返してしらみ潰しに探さないといけなくなる。

 それしか方法はないように思えた。
 そこまでランドルフに付き合ってもらうわけにはいかない。

「もういいわ。明日探すから」

「今日必要なんじゃないのか?わざわざ休日にまで大学へ探しにきたんだ」

「いいの、もう。明日でも大丈夫だから」

 明日の月曜、午前中までに提出しなければならない書類だった。
 研究費のための書類だから、それを提出しなければ来期の研究費がもらえなくなってしまう。

 今は諦めて、ケビンの両親にセーラを預けてからまたこよう。一人で探し続けて見つかれば、提出期限までに間に合うかもしれない。学務課のフランクさんに頼み込めば期限を伸ばしてもらえるかもしれないし。

 これは私のミスだ。ランドルフにつき合わせることはできない。彼には関係のないことだから。

 研究費が貰えないとなってしまったら、私の給与でなんとか工面してもらえるようにケビンに頼みこむしかない。

「天使はぐっすり寝ているな」

「ええそうね」

 朝あんなに騒がしかったのが嘘のように静かに寝てしまっている。

 だが何かいつもとは違っていた。違和感を感じてセーラに呼びかける。

「セーラ?」

 抱っこ紐の中にいたセーラの顔色みると、ぐったりと青ざめていた。

「どうした」

「なんだか、様子がおかしいの」

 私は急いで抱っこ紐を外してセーラの体を抱き直した。

「セーラ?セーラ!」

 呼びかけても答えない。ぐったりとしたまま、目も開けられない状態だった。

「セーラに触れるぞ」

 ランドルフがセーラのおでこと首元に手を当てて熱を測った。

「体温が高すぎるな。かなりの高熱だ」

「そんな……朝はそんなことなかったのに」

「かかりつけの病院はあるのか?」

「家の近くにある病院にいつもいっているわ」

「だったら、そこにすぐに連れていくんだ。子どもの体調は変わりやすいから、何か異変を感じたらすぐに診てもらうのがいい」

「でも、今から向かうには距離がありすぎるわ」

 私は抱っこ紐を付け直そうとした。

「や、やだ、セーラ! しっかりして」

 ブルブルと小さな体が震え出し、口から泡を出し始めてた。

「どうしよう、こんな……セーラ! 目を覚まして」

 わたしはセーラを起こそうと体を揺さぶった。

「よせ、やめるんだ。あまり体をゆすってはいけない」

「セーラが起きないの!」

「体を横向きにしろ、気道を確保するために少しだけ顎を上にあげるんだ」

「え、」

「早くしろ!」
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