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第1章 転生と牧場のはじまり
第3話「畑の来訪者と、兎耳の少女」
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朝の光が、静かに牧場を照らしはじめる。
天城悠翔──はるとは、いつもより少し早く目を覚ました。
「今日は……リンネが来るんだったな」
あの、元気いっぱいの兎獣人少女。昨日の勢いからして、本当に朝一で来そうだと思い、急いで顔を洗って畑へ向かう。
*
ジョウロに水をくみ、昨日買った種を植えていく。
小麦の芽は順調に育ち、にんじんの葉がぴょこっと顔を出している。朝露の匂いに混ざって、どこかほんのり甘い香り。
その時だった。
──バキッ。
「……ん?」
畑の奥から、何かが枝を踏んだような音が聞こえた。
振り返ると、柵の外に何かの影がちらりと動いた。
姿は見えないが、草が踏まれ、土が乱れている。
まるで獣の足跡のような──でも、大きさがおかしい。
「まさか……」
はるとは、慌てて家の裏に回り、農具置き場から棒を一本取り出した。
万が一に備えて、何か武器になりそうなものを持っておきたい。
「まさか、熊とか、そんな大物じゃないよな……?」
その時、
「おーい、はるとーっ! 来たよーっ!」
元気な声とともに、ぴょんぴょん跳ねる影が視界に飛び込んできた。
ふわふわの白い耳としっぽ、そして大きなリュックを背負った少女──リンネだった。
「おはよっ! 来ちゃった!」
「……来たのは嬉しいけど、静かにして! 何か、変な足跡があって──」
「足跡? どんなの? 見せて!」
はるとが案内すると、リンネは畑の隅にしゃがみこみ、鼻をひくひくと動かす。
「うん、これはね、トコトコっていう小型獣の足跡だと思う。匂いでわかるよ!」
「トコトコ?」
「うん、ふわふわしたイタチみたいな動物! 甘い果物が大好きで、たまに村の畑にも出てくるんだ」
「……じゃあ、昨日出荷した果物の匂いに惹かれて来たのかも?」
「かもねー! でも心配しないで。トコトコは人には絶対に害を与えないし、仲良くすればペットにできるんだよ!」
リンネはそう言って、リュックから小さな袋を取り出した。中には干した果物や野菜の皮。
「これ、トコトコが好きなやつ。ちょっと置いて様子見てみよう!」
そうして、畑の端に少しだけ餌を置いて、その場を離れる二人。
「ね、せっかくだし、牧場を案内してよ!」
リンネの無邪気な笑顔に誘われ、はるとはログハウスや道具小屋、井戸などを案内する。
あちこちに「すごーい!」「ゲームの世界みたい!」と素直な反応をしてくれる彼女を見て、はるとは思わず口元を緩めていた。
「ほんとに、楽しそうに見てくれるんだな」
「うんっ。……あたし、小さい頃から動物と暮らすのが夢だったの。自分の牧場って、すごく憧れだったから」
リンネはふと真面目な顔になって、はるとを見つめた。
「だから、あたしも……手伝いたいな。ここのお手伝い。だめ?」
「いや、むしろ助かるよ。ありがとう、リンネ」
「やったーっ!」
リンネがぱあっと笑顔になった瞬間──
──「ぴいっ!」
小さな鳴き声が畑の方から聞こえた。
二人が走って戻ると、餌を置いていた場所に、ふさふさの毛玉のような小動物がいた。丸くて短い足、ちょこちょこ動くしっぽ。目が合うと、ぴっと小さな声を上げて隠れようとした。
「出た! トコトコだ!」
「かわ……いい……」
はるとは思わず声を漏らす。ゲームでも見たことのあるマスコット動物、まさか本物を見られるとは。
リンネがそっと手を伸ばすと、トコトコは逃げる素振りを見せつつも、餌に惹かれて少しずつ近づいてくる。
「焦らず、ゆっくり。トコトコは最初の一口が信頼の証なんだよ」
リンネの声に合わせて、はるともゆっくりしゃがむ。
やがて、トコトコは一口、二口と干し果物をかじり──最後には、リンネの手のひらにちょこんと乗った。
「うわぁ……成功だね!」
「ねぇ、はると。こいつ、牧場で飼おうよ!」
「うん、いいと思う。名前、つけなきゃな」
「ふふっ……じゃあ、“コトコ”ってどう?」
「……逆読み? それ、いいな」
こうして、牧場に最初の動物が仲間入りした。
畑も少しずつ育ち、仲間も増えていく。はるとは実感する。
「この世界でなら──また、人と繋がれるかもしれないな」
静かな春の風の中、兎耳の少女とふさふさの仲間と、新しい一歩が始まった。
*
一方そのころ、現実世界。
ひなのは兄のゲームデータが消えたまま起動できなくなっていることに気づき、首を傾げていた。
「壊れたのかな……?」
ゲーム画面には、ただ“ほのぼのライフ”のロゴだけが表示されている。
しかしその文字は、ほんの一瞬、金色に揺らめいて──次の物語へと、密かに繋がれていた。
---
天城悠翔──はるとは、いつもより少し早く目を覚ました。
「今日は……リンネが来るんだったな」
あの、元気いっぱいの兎獣人少女。昨日の勢いからして、本当に朝一で来そうだと思い、急いで顔を洗って畑へ向かう。
*
ジョウロに水をくみ、昨日買った種を植えていく。
小麦の芽は順調に育ち、にんじんの葉がぴょこっと顔を出している。朝露の匂いに混ざって、どこかほんのり甘い香り。
その時だった。
──バキッ。
「……ん?」
畑の奥から、何かが枝を踏んだような音が聞こえた。
振り返ると、柵の外に何かの影がちらりと動いた。
姿は見えないが、草が踏まれ、土が乱れている。
まるで獣の足跡のような──でも、大きさがおかしい。
「まさか……」
はるとは、慌てて家の裏に回り、農具置き場から棒を一本取り出した。
万が一に備えて、何か武器になりそうなものを持っておきたい。
「まさか、熊とか、そんな大物じゃないよな……?」
その時、
「おーい、はるとーっ! 来たよーっ!」
元気な声とともに、ぴょんぴょん跳ねる影が視界に飛び込んできた。
ふわふわの白い耳としっぽ、そして大きなリュックを背負った少女──リンネだった。
「おはよっ! 来ちゃった!」
「……来たのは嬉しいけど、静かにして! 何か、変な足跡があって──」
「足跡? どんなの? 見せて!」
はるとが案内すると、リンネは畑の隅にしゃがみこみ、鼻をひくひくと動かす。
「うん、これはね、トコトコっていう小型獣の足跡だと思う。匂いでわかるよ!」
「トコトコ?」
「うん、ふわふわしたイタチみたいな動物! 甘い果物が大好きで、たまに村の畑にも出てくるんだ」
「……じゃあ、昨日出荷した果物の匂いに惹かれて来たのかも?」
「かもねー! でも心配しないで。トコトコは人には絶対に害を与えないし、仲良くすればペットにできるんだよ!」
リンネはそう言って、リュックから小さな袋を取り出した。中には干した果物や野菜の皮。
「これ、トコトコが好きなやつ。ちょっと置いて様子見てみよう!」
そうして、畑の端に少しだけ餌を置いて、その場を離れる二人。
「ね、せっかくだし、牧場を案内してよ!」
リンネの無邪気な笑顔に誘われ、はるとはログハウスや道具小屋、井戸などを案内する。
あちこちに「すごーい!」「ゲームの世界みたい!」と素直な反応をしてくれる彼女を見て、はるとは思わず口元を緩めていた。
「ほんとに、楽しそうに見てくれるんだな」
「うんっ。……あたし、小さい頃から動物と暮らすのが夢だったの。自分の牧場って、すごく憧れだったから」
リンネはふと真面目な顔になって、はるとを見つめた。
「だから、あたしも……手伝いたいな。ここのお手伝い。だめ?」
「いや、むしろ助かるよ。ありがとう、リンネ」
「やったーっ!」
リンネがぱあっと笑顔になった瞬間──
──「ぴいっ!」
小さな鳴き声が畑の方から聞こえた。
二人が走って戻ると、餌を置いていた場所に、ふさふさの毛玉のような小動物がいた。丸くて短い足、ちょこちょこ動くしっぽ。目が合うと、ぴっと小さな声を上げて隠れようとした。
「出た! トコトコだ!」
「かわ……いい……」
はるとは思わず声を漏らす。ゲームでも見たことのあるマスコット動物、まさか本物を見られるとは。
リンネがそっと手を伸ばすと、トコトコは逃げる素振りを見せつつも、餌に惹かれて少しずつ近づいてくる。
「焦らず、ゆっくり。トコトコは最初の一口が信頼の証なんだよ」
リンネの声に合わせて、はるともゆっくりしゃがむ。
やがて、トコトコは一口、二口と干し果物をかじり──最後には、リンネの手のひらにちょこんと乗った。
「うわぁ……成功だね!」
「ねぇ、はると。こいつ、牧場で飼おうよ!」
「うん、いいと思う。名前、つけなきゃな」
「ふふっ……じゃあ、“コトコ”ってどう?」
「……逆読み? それ、いいな」
こうして、牧場に最初の動物が仲間入りした。
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*
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