異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ

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第1章 転生と牧場のはじまり

第8話「森の魔獣と、妹の気配」

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「……また来てた、か」

 はるとは、朝の牧場をぐるりと見回しながら呟いた。
 設置した“匂い札”のおかげで被害は出ていないものの、柵の外にはまたあの細長い足跡が残っていた。

「昨日より数が多い……これ、やっぱり“偵察”ってやつか」

 ガルクの群れは通常では考えにくい。だが、群れる個体も稀にいる──と、雑貨屋マリアの話を思い出す。

「単体で来るぶんには対処できるけど、複数なら……ちょっと厄介だな」

 ちらりとナナちゃんを見ると、今朝は落ち着いて朝草を食べている様子。
 けれど、それが逆に不安をあおる。“嵐の前の静けさ”に思えた。



 村へ出かけ、念のため役場に報告しに行くと、思ったよりも事態は深刻だった。

「最近、村の南側の森でも“動物が怯えて逃げ出す”って報告が続いててね……」

 対応してくれた役場の青年、ジークが眉をひそめる。

「村のハンターに調査を依頼してるけど、もし牧場周辺にも被害が出るようなら、避難も考えておいたほうがいい」

「避難、ですか……」

「最悪の場合な。だが、はるとの牧場は森と近い。気をつけてくれ」

 その言葉に、はるとは静かに頷いた。

「……わかりました」



 帰り道。リンネと合流し、途中の道を歩きながら、はるとは報告を済ませた。

「えっ、群れ、かも……って?」

「完全に決まったわけじゃないけど、状況は悪化してる」

 リンネの顔から笑顔が消える。

「ねぇ、はると。もし……もし本当に魔獣の群れが来たら、どうするの?」

「……守るよ。この牧場も、ナナちゃんも。……お前のことも」

 その言葉に、リンネが目を見開いた。
 けれどすぐに、ふっと力が抜けたように笑う。

「そっか。……そっか。うん。大丈夫だよね、はるとがいるなら」

 その笑顔が、妙に切なげに見えたのは、なぜだろう。



 その夜。再び足跡が見つかる。

 今度は、畑のすぐそばまで来ていた。出荷箱の匂いに惹かれたのかもしれない。
 地面には爪痕も残っていて、今までより明らかに“攻撃的”だった。

「これ……もはや時間の問題かもしれないな」

 はるとは、柵の補強を繰り返しながら、対策の計画を練る。

「明日は……動物屋のエマさんにも相談してみよう。もし、避難ルートが必要なら──ナナちゃんを最優先で動かせるようにしておく」

 その決意が固まりかけたそのときだった。

 風が、一瞬止まった。

 空気が凍るような気配。

 ──何かが、すぐそこにいる。

「……っ!」

 振り向いた先の林の影に、何かが光った。
 黄色く、細長い、目。

 ──獣の目だ。

 だが、声を出す間もなく、それはすっと林の奥へと消えた。

「見られてる……」

 背筋を冷たいものが走る。



 一方、現実世界。
 天城ひなのは、部屋に戻っても心臓が落ち着かずにいた。

 ゲーム機の画面には、まだあの選択肢が残っている。

【あなたも、こちらの世界に来ますか?】

 まるで“誰か”が、自分に呼びかけているようだった。

 ひなのはそっと指を画面に乗せる。
 その瞬間、視界が真っ白に染まった。

「っ……!」

 眩しさと耳鳴り。そして、風の音。

 気がついたとき──彼女は、小さな丘の上に立っていた。

 遠くに見える、木造の家。畑。柵。そして、牛舎。

「あれ……? ここって……」

 彼女の目に映ったその風景は──

 かつて兄が夢中になっていた、“ほのぼのライフ”の中の、あの牧場だった。


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