異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ

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第1章 転生と牧場のはじまり

第7話「不審な足跡と、はじまりの不安」

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 深夜。静まり返った牧場に、乾いた風が吹き抜けた。
 ふと、牛舎の奥でナナちゃんが「もぅ……」と不安げに鳴く。

 翌朝──

「ナナちゃん、おはよう……って、どうした?」

 はるとは牛舎に入った瞬間、何か違和感を覚えた。
 ナナちゃんが、いつもよりそわそわと落ち着きがない。餌にも手をつけず、尻尾をふりふりして落ち着かない様子だ。

「なにか……あったか?」

 牛舎の床を見て、はるとは眉をひそめた。

 ──土に、何かの足跡があった。
 細長く、4本の指。人間のものではない。明らかに“獣”のもの。

「昨日までは、こんなのなかったはず……」

 外へ出て、牛舎の裏手へ回ると、さらにいくつもの足跡が点々と続いていた。
 その先には、歪に潰れた柵の一部。

「おいおい、壊されてる……」

 はるとはすぐにジョウロを置いて、ナナちゃんの様子を再確認しに戻る。
 怪我はしていない。けれど、何かに怯えたようなその瞳が胸に引っかかる。



 「リンネ、ちょっといいか?」

 昼過ぎ、村から帰ってきたリンネに、はるとは早速事情を説明した。

「柵が壊れてて、足跡がこんな感じで……」

「それって、もしかしたら“ガルク”かも」

「ガルク?」

「うん。夜行性の小型魔獣。牙は鋭いけど、単独行動しかしない臆病なヤツ。村の近くの森にたまに出るの。家畜を襲うから厄介なんだよね……」

「マジか。そんなのが来たのか」

「でも、大丈夫。今のところケガもないし、きっと“様子見”だったと思う。柵が弱そうなら、一度嗅ぎつけて試しに来たりするんだ」

「……なら、こっちの対策が試されてるわけか」

 はるとは腕を組んで考える。

「柵の補修と、あとは……魔獣避けの鈴とか、そういうのってあるか?」

「あるある! 雑貨屋のマリアが売ってる“匂い札”とか“魔除けフラッグ”が効果あるって聞いたよ!」

「よし、じゃあ買い出しに行こう」

「一緒に行くっ!」



 マリアの雑貨屋に到着すると、彼女はにっこり笑って迎えてくれた。

「あら、あんたたち。噂のカップル来店ってわけ?」

「か、カップルじゃないです!」

「うふふ、冗談よ~。でも、あんたたち見てると和むわ。で、今日は何が目的?」

 はるとは状況を説明すると、マリアは棚の奥から小瓶を取り出した。

「これが“ガルク避けの匂い札”。魔獣が嫌う香草のオイルが染み込んでてね、柵や建物に吊るすと効果的」

「おお……助かります!」

「あと、これも持っていきなさい。これは“村の人が作った魔除け旗”よ。ほとんど迷信だけど、気休めにはなるわ」

 マリアはそう言って、赤い布に刺繍のある小さな旗を渡してくれた。

「……ありがとう。こういうの、意外と心強いです」

「牧場ってのはね、作物と動物だけじゃなく、“人との繋がり”でも守られてるもんなのよ。忘れないでね?」

 その言葉が、どこか胸にしみた。



 牧場に戻ったはるとは、早速柵の補強と匂い札の設置に取りかかる。
 リンネも手伝ってくれ、二人で力を合わせて作業は思いのほか順調に進んだ。

「よし……これで、しばらくは大丈夫、かな」

 ナナちゃんも少し落ち着いた様子で、干し草を食んでいる。
 その姿を見て、はるとはそっと息を吐いた。

「怖い思い、させて悪かったな……ナナ」

「でも、すぐ気づいて守ろうとしてくれたじゃん。ナナちゃん、きっと感謝してるよ」

 リンネが微笑む。焚き火の明かりが揺れ、牧場の夜がふたたび静かに訪れる。

「……この世界も、全部が“ほんわか”ってわけじゃないんだな」

「うん。でも、だからこそ“守りたい”って気持ちも本物になる。ね、はると?」

「ああ。……もっと強くならなきゃな。俺も、この牧場も」

 はるとはナナちゃんの寝息を聞きながら、心に小さな決意を灯した。



 一方そのころ──

 現実世界。
 天城ひなのは、学校帰りにふと兄の部屋に立ち寄った。
 机の上にあるゲーム機は、電源が入っていないはずなのに──わずかに、液晶がきらりと光っていた。

「……え?」

 画面には、見覚えのない選択肢。

【あなたも、こちらの世界に来ますか?】

 ひなのの指が、知らず触れようとしていた──


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