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第1章 転生と牧場のはじまり
第7話「不審な足跡と、はじまりの不安」
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深夜。静まり返った牧場に、乾いた風が吹き抜けた。
ふと、牛舎の奥でナナちゃんが「もぅ……」と不安げに鳴く。
翌朝──
「ナナちゃん、おはよう……って、どうした?」
はるとは牛舎に入った瞬間、何か違和感を覚えた。
ナナちゃんが、いつもよりそわそわと落ち着きがない。餌にも手をつけず、尻尾をふりふりして落ち着かない様子だ。
「なにか……あったか?」
牛舎の床を見て、はるとは眉をひそめた。
──土に、何かの足跡があった。
細長く、4本の指。人間のものではない。明らかに“獣”のもの。
「昨日までは、こんなのなかったはず……」
外へ出て、牛舎の裏手へ回ると、さらにいくつもの足跡が点々と続いていた。
その先には、歪に潰れた柵の一部。
「おいおい、壊されてる……」
はるとはすぐにジョウロを置いて、ナナちゃんの様子を再確認しに戻る。
怪我はしていない。けれど、何かに怯えたようなその瞳が胸に引っかかる。
*
「リンネ、ちょっといいか?」
昼過ぎ、村から帰ってきたリンネに、はるとは早速事情を説明した。
「柵が壊れてて、足跡がこんな感じで……」
「それって、もしかしたら“ガルク”かも」
「ガルク?」
「うん。夜行性の小型魔獣。牙は鋭いけど、単独行動しかしない臆病なヤツ。村の近くの森にたまに出るの。家畜を襲うから厄介なんだよね……」
「マジか。そんなのが来たのか」
「でも、大丈夫。今のところケガもないし、きっと“様子見”だったと思う。柵が弱そうなら、一度嗅ぎつけて試しに来たりするんだ」
「……なら、こっちの対策が試されてるわけか」
はるとは腕を組んで考える。
「柵の補修と、あとは……魔獣避けの鈴とか、そういうのってあるか?」
「あるある! 雑貨屋のマリアが売ってる“匂い札”とか“魔除けフラッグ”が効果あるって聞いたよ!」
「よし、じゃあ買い出しに行こう」
「一緒に行くっ!」
*
マリアの雑貨屋に到着すると、彼女はにっこり笑って迎えてくれた。
「あら、あんたたち。噂のカップル来店ってわけ?」
「か、カップルじゃないです!」
「うふふ、冗談よ~。でも、あんたたち見てると和むわ。で、今日は何が目的?」
はるとは状況を説明すると、マリアは棚の奥から小瓶を取り出した。
「これが“ガルク避けの匂い札”。魔獣が嫌う香草のオイルが染み込んでてね、柵や建物に吊るすと効果的」
「おお……助かります!」
「あと、これも持っていきなさい。これは“村の人が作った魔除け旗”よ。ほとんど迷信だけど、気休めにはなるわ」
マリアはそう言って、赤い布に刺繍のある小さな旗を渡してくれた。
「……ありがとう。こういうの、意外と心強いです」
「牧場ってのはね、作物と動物だけじゃなく、“人との繋がり”でも守られてるもんなのよ。忘れないでね?」
その言葉が、どこか胸にしみた。
*
牧場に戻ったはるとは、早速柵の補強と匂い札の設置に取りかかる。
リンネも手伝ってくれ、二人で力を合わせて作業は思いのほか順調に進んだ。
「よし……これで、しばらくは大丈夫、かな」
ナナちゃんも少し落ち着いた様子で、干し草を食んでいる。
その姿を見て、はるとはそっと息を吐いた。
「怖い思い、させて悪かったな……ナナ」
「でも、すぐ気づいて守ろうとしてくれたじゃん。ナナちゃん、きっと感謝してるよ」
リンネが微笑む。焚き火の明かりが揺れ、牧場の夜がふたたび静かに訪れる。
「……この世界も、全部が“ほんわか”ってわけじゃないんだな」
「うん。でも、だからこそ“守りたい”って気持ちも本物になる。ね、はると?」
「ああ。……もっと強くならなきゃな。俺も、この牧場も」
はるとはナナちゃんの寝息を聞きながら、心に小さな決意を灯した。
*
一方そのころ──
現実世界。
天城ひなのは、学校帰りにふと兄の部屋に立ち寄った。
机の上にあるゲーム機は、電源が入っていないはずなのに──わずかに、液晶がきらりと光っていた。
「……え?」
画面には、見覚えのない選択肢。
【あなたも、こちらの世界に来ますか?】
ひなのの指が、知らず触れようとしていた──
---
ふと、牛舎の奥でナナちゃんが「もぅ……」と不安げに鳴く。
翌朝──
「ナナちゃん、おはよう……って、どうした?」
はるとは牛舎に入った瞬間、何か違和感を覚えた。
ナナちゃんが、いつもよりそわそわと落ち着きがない。餌にも手をつけず、尻尾をふりふりして落ち着かない様子だ。
「なにか……あったか?」
牛舎の床を見て、はるとは眉をひそめた。
──土に、何かの足跡があった。
細長く、4本の指。人間のものではない。明らかに“獣”のもの。
「昨日までは、こんなのなかったはず……」
外へ出て、牛舎の裏手へ回ると、さらにいくつもの足跡が点々と続いていた。
その先には、歪に潰れた柵の一部。
「おいおい、壊されてる……」
はるとはすぐにジョウロを置いて、ナナちゃんの様子を再確認しに戻る。
怪我はしていない。けれど、何かに怯えたようなその瞳が胸に引っかかる。
*
「リンネ、ちょっといいか?」
昼過ぎ、村から帰ってきたリンネに、はるとは早速事情を説明した。
「柵が壊れてて、足跡がこんな感じで……」
「それって、もしかしたら“ガルク”かも」
「ガルク?」
「うん。夜行性の小型魔獣。牙は鋭いけど、単独行動しかしない臆病なヤツ。村の近くの森にたまに出るの。家畜を襲うから厄介なんだよね……」
「マジか。そんなのが来たのか」
「でも、大丈夫。今のところケガもないし、きっと“様子見”だったと思う。柵が弱そうなら、一度嗅ぎつけて試しに来たりするんだ」
「……なら、こっちの対策が試されてるわけか」
はるとは腕を組んで考える。
「柵の補修と、あとは……魔獣避けの鈴とか、そういうのってあるか?」
「あるある! 雑貨屋のマリアが売ってる“匂い札”とか“魔除けフラッグ”が効果あるって聞いたよ!」
「よし、じゃあ買い出しに行こう」
「一緒に行くっ!」
*
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「か、カップルじゃないです!」
「うふふ、冗談よ~。でも、あんたたち見てると和むわ。で、今日は何が目的?」
はるとは状況を説明すると、マリアは棚の奥から小瓶を取り出した。
「これが“ガルク避けの匂い札”。魔獣が嫌う香草のオイルが染み込んでてね、柵や建物に吊るすと効果的」
「おお……助かります!」
「あと、これも持っていきなさい。これは“村の人が作った魔除け旗”よ。ほとんど迷信だけど、気休めにはなるわ」
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*
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「でも、すぐ気づいて守ろうとしてくれたじゃん。ナナちゃん、きっと感謝してるよ」
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