25 / 99
第4章魔王様、ご飯で和解しませんか?
第1話「魔物襲来!? 王都の晩餐会、まさかの中断!」
しおりを挟む
煌びやかなシャンデリアが光を散らし、長いテーブルには山のような料理が並んでいた。
香草を添えたロースト肉、黄金色に輝くパイ、そして私が作った特製のスパイスシチューも、堂々と中央を飾っている。
王都での晩餐会――。
ここまで準備してきた日々を思えば、この光景だけで胸がいっぱいになる。
「カスミアーナ殿、こちらの料理、絶品ですぞ!」
口髭の立派な貴族が、シチューを匙で豪快にすくいながら笑う。
「おかわりもあるぞ!」と厨房仲間が声を上げ、会場は笑いと香りで満たされていた。
(よかった……。これなら、王都の人たちにも“食の力”が届くはず)
ちょうどその時だった。
――バンッ!
会場の扉が勢いよく開き、鎧姿の兵士が息を切らせて飛び込んできた。
「報告! 王都郊外に“黒角の巨獣”が出現! 農地を蹂躙し、こちらに向かって進行中とのこと!」
場の空気が一瞬で凍りつく。
皿を持つ手を止める者、ざわめきながら互いに顔を見合わせる者――。
セイル王子はすぐに立ち上がり、冷静な声で命じた。
「討伐隊を編成する。第一隊は先行、第二隊は防衛線を張れ!」
会場の華やかな雰囲気は一瞬で消え、緊迫感だけが残った。
✳✳✳
私は立ち上がったセイル王子の背中を見つめながら、胸の奥でぐっと何かが熱くなるのを感じた。
このまま見送るなんて、できるはずがない。
「王子、私も行きます!」
思わず声が大きくなって、会場中の視線が一斉にこちらへ集まった。
貴族たちが驚いた顔をする中、セイル王子は苦笑を浮かべる。
「……カスミアーナ殿、戦場は料理場ではない」
「わかってます。でも、みんなが戦うなら、私は“食”で支えます。
怪我をした人にすぐ食べられるものを用意できるし、力が出る料理も作れる。
私の仕事は、剣じゃなくても人を守れるんです!」
言い切った瞬間、厨房仲間のエリクやリサが「私も行きます!」と声を上げた。
会場の端では、農民出身の給仕たちも拳を握って頷いている。
「……わかった。ならば補給部隊として同行してくれ。君たちの食事があれば、兵も士気を保てる」
セイル王子はそう言って、私の肩を軽く叩いた。
それだけで、不安よりもやる気が一気に勝った。
(よし、戦場キッチンの開幕だ!)
✳✳✳
許可が出た瞬間、私たちは厨房へ全力ダッシュした。晩餐会の余韻なんて、鍋の底にこびりついたソースと一緒に後回しだ。
「エリク、非常用の鍋と羽釜、持てる?」 「任せてください! あ、でも羽釜は重——うおっ、とっと……!」 「リサ、乾物庫から豆と押し麦、干し野菜、スープの素をできるだけ。塩は小袋分け。砂糖は半分でいい」 「了解! あ、スパイスは“やさしめブレンド”でいいですか?」 「うん、緊急時だから刺激は控えめ。香りで落ち着くやつを」
私は無限収納(時間停止)の口をぱかっと開く。まるで底なしの井戸。放り込んだ食材は劣化しないし、鍋もスッと入る。便利だけど、取り出す順番を間違えると、鍋がどーんと出てくるのが欠点だ。
「順番マーカー、つけとこ……。鍋→釜→食材→食器→薬湯の束……よし」 「カスミアーナさん、携帯かまどと炭、積みました!」 「助かる! あと、応急食。“握らないおにぎり”も準備しよう」 「握らない……?」 「焼いた薄せんべい状のごはんに塩を刷いて、重ねて包むの。衛生的で崩れにくい、戦場向け」
鑑定眼を起動して、食材の状態を片っ端からチェックする。《保存良好》《水分過多》《発酵開始(良)》……OK、使えるものから優先。塩蔵肉は湯引きして臭み抜き、干し野菜は戻し水をスープに回す。無駄は一滴も出さない。
「護衛の人員はこちらで付ける。準備はいいか?」 入口からセイル王子の声。もう軍装に着替えている。切り替えの早さ、さすが王族。
「はい、出られます!」 「よし、出発だ」
私、エリク、リサ、それに臨時メンバーとして野戦経験のある給仕長ガルベラさんまで合流。王都門前にはすでに補給用の小型馬車が二台待機していた。ひとつは水樽と薪、もうひとつは私たちの“台所一式”。
夜の城門は、警鐘のリズムで開く。門番隊長が私たちを見つけて叫んだ。 「補給隊! 通せ、優先だ!」 「ありがとうございます、帰りに温かいの持ってきますね!」 「生きて帰ってきたら三杯もらう!」
馬車が石畳を離れ、土の道に入る。月は薄雲に隠れたり現れたり、街灯はここまで届かない。代わりに、騎士たちの杖先が淡い光で道筋を示す。
荷台で私は、揺れる箱の中身を押さえながら呼吸を整えた。心臓はバクバク。怖くないと言ったら嘘になる。それでも——
(私にできることがある)
腰のツールポーチを指で確かめる。小包丁、温度石、香袋、火打ち、圧縮布、薬草粉末。忘れ物なし。大丈夫。やれる。
「カスミアーナさん、これ……」 リサが小瓶を差し出す。中は半透明の琥珀色。 「“甘露塩”。疲労回復の微量ミネラル混合。水に一つまみで、兵士がしゃきっとします」 「最高! 補給水に溶かそう。さすがリサ」 「えへへ」
馬車が大きく跳ね、私たちは同時に手すりを掴んだ。前方から、低い地鳴りがゆっくり届く。最初は気のせいかと思うほど遠く、次第に確かな震動へ。
ガルベラさんが顔を上げる。 「……踏み荒らされた土の匂いが混じったね。近いよ」 「王子、隊列を詰めますか?」 「いや、間延びしたほうが危険だ。第二隊との間隔はそのまま——補給隊は我の直後。いいな?」 「了解!」
私は荷台の隅で、火を使わずに作れる準備に切り替える。戻し済みの豆と押し麦を、香袋と一緒に厚手の皮嚢へ。馬の揺れで混ざり、香りが移る。到着してすぐ湯を注げば、五分で“立つ”スープになる。
「エリク、握らないおにぎり、もう一段いける?」 「いけます! 塩刷いて、重ねて、包んで、紐で留める!」 「指差し呼称ありがとう、完璧!」
やがて、王都の灯りが背に遠のき、畑地帯の暗がりが広がる。折れた柵、潰れた畝、まだ新しい爪痕の黒影が月に照らされる。
「到着——前方、被害地帯。全員、警戒!」
セイル王子の声が風に乗って全員に届く。同時に、夜を切り裂くような獣の低鳴が一度。空気が震え、馬が鼻を鳴らした。
私は喉を鳴らして、ごくりと唾を飲み込む。 (大丈夫。怖いのは、みんな同じ。私の役目は、火と匂いで“帰れる場所”を作ること)
馬車が止まる。私は跳ね降りて、合図を出した。 「火はまだ起こさない。まずは水と甘露塩! それから——“香りの標(しるべ)”!」
香袋を三つ、風上へ。穏やかなハーブの香りが夜気に広がる。兵の呼吸が少し整うのがわかった。
次の瞬間、畑の向こうの闇で、月光が黒いものの輪郭をなぞった。大きい。角。肩が岩みたいに盛り上がっている。
“黒角の巨獣”。
遠い雷みたいな足音が、こちらへ一歩、また一歩。
「——来る」
私は背中の無限収納に手を差し入れ、最上段の鍋ではなく、あらかじめ温めておいた香り高い出汁嚢をそっと取り出した。湯に浸せば、戦わずに済むかもしれない一杯につながる。
戦いと炊き出しは、もう始まっている。
次に火を入れるのは、鍋か、勇気か。どちらにせよ、手は止めない。
✳✳✳
畑地帯は、まるで巨大な鍬で一気に耕し直したみたいに、無残だった。
潰れた畝、折れた柵、転がる水桶。土の匂いに、根が切れたばかりの青臭さが混じる。
「風は北西……香りはこっちへ流れるね。補給隊、風下に回って」
「はい!」
私は甘露塩入りの水嚢を配りながら、足跡をしゃがんで鑑定する。踏み跡は深い――ひづめじゃない、四趾。一歩が広い。体重は、ざっくり荷馬車三台ぶん。
地鳴りが一度、二度。
揺れる月明かりの中、畑の向こうの黒が、ぬるりと立ち上がった。
――黒角の巨獣。
背中は岩山みたいに盛り上がり、肩から胸にかけては甲殻。額から伸びる二本の角は墨のように黒く、根元に蔦が絡みついている。けれど――
(……引きずってる。右前脚)
私は反射的に《鑑定眼》を開く。視界の隅に淡い文字が浮かんだ。
> 名称:黒角獣(オルドブル)
体力:37% 精神:22%
状態:飢餓/脱水/外傷(右前脚・深部打撲)
敵対度:警戒(中)→食餌反応(弱)
備考:強い香り・温かい液体に反応して鎮静化傾向
(やっぱり……“戦いたい”んじゃなくて“食べたい”側だ)
「第一列、槍を上げ――」
「王子、待って! 風がよくない。香りで止められる!」
セイル王子がこちらを一瞥し、すぐに合図を変える。
「第一列“構え止め”。投射は許可待ち。補給隊、彼女の指示に従え!」
私は温度石で温めておいた皮嚢に、さきほどの出汁嚢を沈める。ナミロ玉の皮、干し茸、干し小魚粉、少量の甘露塩。火を使わず、湯気だけで殴るレシピ。
「リサ、湯を注いで。エリク、風上十歩先、低い位置で振って香りを漂わせる!」
「了解!」
「うわ、もう匂い来る……お腹空く……!」
ふわりと、あたたかい旨みの匂いが夜に溶けた。
その瞬間、巨獣の耳がぴくりと動く。鼻先が持ち上がり、空気を嗅ぐ仕草。蹄――じゃない、分厚い足が、ひとつ、こちらへ。
ざ……ざ……。
土が鳴るたび、槍の穂先が神経質に揺れた。ひとり、若い兵が恐怖で槍を上げそうになる。
「下ろせ!」
王子の短い叱咤が飛ぶ。
私は兵の前に半歩出て、笑う――震えてない風を装って。
「大丈夫。“ご予約なしのお客様”が匂いにつられて来てるだけ」
「そんなフロア係みたいな台詞を戦場で言うな……!」と小声でレオン副長。うん、私もそう思う。
巨獣は二十歩、十五歩――近い。
角の根元に、古い矢羽根の残骸。右前脚をかばうように着地するたび、わずかに顔が歪む。目は琥珀色で、怒りよりも渇きが濃い。
私は無限収納に手を差し込み、つぎの“香りの標”を取り出した。今度は干し果実を少量潰して、出汁に甘みを足す。飢えた体に“食べられる匂い”を、もう一押し。
「エリク、ゆっくり一歩ずつ後退。こちらが追わないことを見せるの」
「う、うん……!」
風が少しだけ回った。香りが巨獣の真正面にまっすぐ届く。
巨獣の喉がごくりと鳴り、硬い舌で鼻先を一度舐める。
そして、地面に膝をついた。威嚇の踏み鳴らしじゃない。重さを逃がす、傷の痛みをごまかす座り方。
(いける)
私は皮嚢の口を広げ、湯気だけを風に乗せながら、そっと地面に置く。武器には見えない“置き方”。
騎士たちの鎧が一斉に軋んだ。
巨獣が、首を――下げる。
黒い角が月光をはね返し、影が私の足もとまで伸びてきた。
呼吸の熱さが、指先に触れる距離。
「――さあ、“一杯目”だよ」
私は囁いた。
巨獣の大きな鼻面が、湯気の上で止まり、静かに吸い込む音がする。
夜風に、出汁と土と、ちいさな希望の匂いが混じった。
槍はまだ下がったまま。矢もつがえたまま。誰も動かない。
次の瞬間、巨獣の舌が、そっと湯気を舐め取った。
戦闘と炊き出しの境界が、やわらかく溶けはじめる。
✳✳✳
巨獣の舌が湯気をひと掬いした瞬間、全員の肩が同時に上下した。
緊張はまだ消えない。だけど、空気の“とげ”が一本、するりと抜けた感覚。
「……王子、敵対行動なし。どうします?」
「投射、保留。補給隊、続行」
短いやりとりの間に、私は二杯目の準備へ移る。香りだけじゃ足りない。**“飲める形”**を作って、飲み方を学習してもらう。
「リサ、押し麦パック、少量ね。エリク、干し果実は親指の先ほど。甘すぎると喉に張り付く」
「了解!」
「はいっ!」
皮嚢をもう一つ地面に置き、私は両手を開いて見せる。武器も敵意もない“給仕”の所作。
巨獣は私の動きを目で追い、鼻先で皮嚢をコツと押す。とぷん、と汁が揺れ、湯気が鼻面をくすぐった。
「そう、上手。熱いから、ゆっくりね」
巨獣は舌を深く差し入れず、湯気ごと啜るように少しずつ。喉の上下が落ち着いたテンポに変わっていく。
《鑑定眼》をのぞくと、文字が穏やかに更新された。
> 体力:37→41% 脱水:軽減
敵対度:警戒(低)→無害反応(弱)
備考:温飲摂取を学習/痛覚反応継続(右前脚)
(よし、飲み方わかった。次は“効く味”を)
私は無限収納から薬湯束を取り出す。痛みと炎症を鎮める香草(カメリア葉)、疲労回復の微量鉱塩、胃を温める生姜根を糸でまとめたもの。湯にくぐらせると、穏やかな青い香りに生姜の温もりが重なる。
「カスミアーナ殿、近づきすぎだ!」
レオン副長の声。分かる、でも今は引けない。
「大丈夫。**“魔食効果付与”**を乗せます」
私は掌を鍋口にかざし、呼吸を整える。体内の“料理研究家の経験値”を、火加減のように落とし込む感覚。
脳裏にひとつの文字が光った。
> 《魔食効果付与:痛覚緩和(小)+安堵(微)》
対象:摂食者(単)/持続:短
「——いただきます、どうぞ」
合図みたいに、巨獣がまた一口。次の瞬間、強張っていた肩の盛り上がりがわずかにゆるむ。右前脚の荷重が半拍だけ軽くなった。
「……効いてる」
私は自分の声が落ち着いているのに驚いた。膝は少し震えてるのに、手は迷わない。
「第一列、楯はそのまま。槍はさらに下げろ。誰も動くな」
セイル王子も、待つ選択を続ける。
巨獣は三杯目、四杯目とゆっくり口に運び、やがて鼻息に温度が戻った。吐く息が白い霧ではなく、湯気と混じって透明になる。体の芯まで温まった証拠だ。
「今だ、右脚を見る。王子、十歩だけ接近して確認させて」
「護衛二名、同行。最小限でいけ」
私は皮嚢を新しいのと交換しつつ、巨獣の右前脚の外側に回る。光の杖を低く向け、眩しさで刺激しないよう角度を調整。
毛の間に乾いた黒泥。腫れ。古い打撲に加えて、柵板のささくれが刺さっている。
「抜くよ。痛いけど、一瞬」
私は圧縮布で温め、消毒粉を振る。呼吸を合わせて——抜く。
巨獣の喉が低く鳴る。けど、跳ねない。すぐに薬草ペーストを塗り、布で軽く固定。
「いい子。もうちょっとだけ、がんばって」
背中で鎧がわずかに鳴る。護衛の二人が息を止めた気配が伝わってくる。
私は最後の一杯に薄めの甘味を足し、皮嚢の口を巨獣の前へ差し出す。
「カスミアーナさん! 兵が数名、足に来てます!」
エリクの声。振り返ると、緊張と冷えで青い顔の新兵たち。手が震えて槍がガタつくの、危ない。
「はい、“握らないおにぎり”配って! 甘露塩水も。——兵は兵、獣は獣。同時に温めるよ」
リサとガルベラさんが走り、包みを配る。塩気と米の甘み、薄い出汁の香りが列に沿って広がって、若い肩の上下が落ち着く。
「王子、敵対度、無害反応のまま。撤収の導線、作っていい?」
「やれ」
私は風下に香りの標をさらに三つ置き、巨獣から森への緩い道を匂いで示す。
巨獣は皮嚢を最後まで舐め、鼻先を地面に一度押し付けた。感謝の仕草——と、信じたい。
「——帰ろっか」
囁くと、巨獣は重い体を持ち上げ、右脚に無理をかけないよう斜めに歩き始める。槍の列を見ない。私たちも見送るだけ。誰も追わない。
やがて、黒い背中は畑の影に溶け、角の先が月を切って——消えた。
静寂。夜風。遅れて安堵のため息が、波みたいに広がる。
「……戦闘、なしで終わった、のか」
レオン副長の声は、驚きと、少しの笑い。
私はようやく足の震えを認めて、ぺたんと座り込んだ。手の中には、ぬるくなった温度石。
(よかった。間に合った)
《鑑定眼》の隅で、最後の行が光る。
> 備考:味覚学習・帰巣反応(弱)
記録:安全領域に“食の記憶”を紐づけ
セイル王子が歩み寄り、手を差し出す。
「見事だ、カスミアーナ。君の鍋は、今夜この王都で一番強かった」
「鍋は武器ですから」
つい、いつもの軽口が出る。王子が声を出して笑った。兵たちの笑いが連鎖する。
「——撤収。負傷者は補給隊で温かいものを摂ってから帰城する。記録係、**“討伐:非武力収束(食介入)”**と記せ」
私は頷き、立ち上がる。火を起こす番だ。
戦いは終わったけれど、台所戦線はこれから夜食タイムに突入するのだ。
✳✳✳
黒い背中が闇に溶けていったあと、張り詰めていた空気が一気にゆるんだ。
でも——ここからが補給隊の本番だ。
「火、起こします!」「水嚢、こっち!」「握らないおにぎり、追加いきます!」
ぱちぱちと焚き火が走り、鍋底が温度石とともに温まっていく。私は“立つスープ”に刻み野菜を足し、塩気を微調整。甘露塩をひとつまみ、香りづけにナミロ葉を。湯気が夜に花を咲かせた。
「はい、新兵くん、まずは温かいの一口だけ。飲んだら深呼吸」
「……あ、あったか……落ち着きます……」
「えらい。次、二口目はゆっくり噛むみたいに飲むの」
列はすぐに短くなり、頬に色が戻る。エリクは“握らないおにぎり”を三段重ねで器用に包み、リサは薬湯を薄めて“体ぽかぽか茶”に。ガルベラさんは器回収と洗い場を一人で回し、まさに台所戦線の鬼軍曹だ。
「王子、こちら士気、だいぶ回復してます」
「見ればわかる。——カスミアーナ、礼を言うのは勝利後というのが我が家のしきたりだが、今言う。助かった」
「じゃあ、勝利後にもう一回、言ってもらいますね」
「欲張りだな」
「おかわり自由ですから」
笑いが焚き火の上で弾ける。緊張で縮こまっていた肩が、ひとつずつ下がっていくのが見えた。
私は記録用の板に“現地レシピ”を書き起こす。
——黒角対応:香りの標三点→温出汁(甘露塩・干し茸・干し小魚粉)→押し麦+少果実→薬湯束(鎮痛・胃温)→退路誘導(風下)
誰がやっても同じ結果が出せるように、段取りを残しておくのが私の流儀。
「レオン副長、見回りどうです?」
「足跡は森へ一直線。追撃の必要なし。……しかし“食わせて帰す”討伐記録は前代未聞だぞ」
「討伐じゃなくて“送迎プラン:夕食付き”で」
「名付けのセンスが軽い!」と一同につっこまれ、焚き火の周りがまた和む。
ひと息ついたところで、《鑑定眼》を自分に向ける。
体力:62%/精神:68%/料理集中度:高
——まだ動ける。よし、夜食第二波。
「薄めカレー、いきます!」
鍋の端でスパイス袋をごく少量。昨日の“王都版”より刺激を落とし、代わりに香味油をひとしずく。戦のあとは、胃の機嫌最優先だ。
「カレー……だと……」「さっき戦場だったのに……」
「戦場“だから”だよ。心に灯りがいるでしょ?」
兵たちの目がきらりと光る。スプーンが当たる音、ほう、と漏れる息。
さっきまで震えていた手が、今は器をがっちりつかんでいる。生きる力は、ちゃんと腹から上がってくるのだ。
「カスミアーナ殿」
セイル王子が真顔に戻り、小さく声を落とす。
「巨獣の来訪、偶然にしては出来すぎている。農地直進、王都目前での停止、そして……君の ‘香り’ にまっすぐ反応した」
「うん。飢えと傷だけじゃない“理由”、ありそうですね」
王子は頷き、遠くの森を一瞥した。風向きがひとつ変わる。火の粉が小さく跳ね、夜は少しだけ濃くなった。
「帰城したら、被害の補償と農地の復旧段取りを。補給隊は休養を回したのち、報告書を作成……それと、“香りの標”を正式装備に申請しよう」
「やった、王都正式採用……! じゃ、名前は“安心ハーブパック”で」
「だから名付けが軽い」
また笑い。けれど、笑いの底に、全員同じ予感がある。
——今夜は序章にすぎない。
鍋底をさらい、最後の一杯を自分の器に移す。ほどよい温度。疲れた体に、やさしい辛みと甘みが広がった。
(来るなら来い。私たちには鍋がある)
台所戦線の夜は、更けていく。
そして、森の向こうから吹く風が、うっすらと金属の匂いを運んできた。
(……鉄? いや、刻印の油……?)
私は顔を上げる。次の“謎”が、もうすぐこちらに届く。
✳✳✳✳
撤収の準備を進めていると、見張りについていた新兵が駆けてきた。
「王子! 畑の端の茨に、黒い……これ、何かが引っかかってました!」
手渡されたのは、親指ほどの黒い樹脂片に、細い革紐がちぎれてくっついたもの。鼻を近づけると、さっき風の中で感じた金属と油の匂いが濃い。
「“刻印油”の匂いだね」
私は《鑑定眼》を開く。
> 品名:樹脂封蝋(軍務用)
由来:魔王領・辺境警護局
意味:搬送・護送識別用タグ/刻印:東境紋
(やっぱり……“ただの通りすがり”じゃない)
私は膝に板を置き、さっき間近で見た角の根元の焼き模様をスケッチする。黒曜の輪に三本の稲妻、輪の外に小さな点が四つ。
「レオン副長、この紋、心当たり?」
「……ある。魔王領の東境紋だ。境界の出入りを正規に認めた個体につける目印——本来は人里に近づかない約定の印だが……」
「約定つきの個体が、王都の畑に来た?」
セイル王子が眉を寄せる。
「偶発の迷い込みでは整合しない。誰かが“通した”か、“誘った”か、あるいは約定そのものが変化したか」
風が森から吹き、焚き火の煙が少し揺れた。私は樹脂片を布に包み、革紐と一緒に丁寧に袋へしまう。
「記録物、保全。——それと、もう一つ」
私は自分のメモ板を見せた。
“非武力収束(食介入):巨獣、温出汁と薬湯で鎮静/退路誘導成功/右前脚応急処置済。”
「……正式記録に残す。史上初だ、胃袋で撤退させた討伐は」
王子は苦笑し、それから真顔に戻る。
「明朝、対魔王領連絡班を招集。接触の糸口を探る。——カスミアーナ、君にも同席を頼みたい」
「もちろん。ごはんで話せるなら、やってみたいです」
その時、森の方角から、ひゅ、と風を裂く音。護衛が即座に楯を上げ——地面に黒羽の矢が突き立った。矢羽根に結ばれた細い筒。
レオン副長が慎重に回収し、王子へ手渡す。封蝋は……さっきと同じ黒い紋。
王子が封を切り、短い文を読み上げた。
> 『境界にて不測の逸走、陳謝す。
養護に預かった恩、受領した。
可能ならば**“食”を携え、話し合いの席を**。
——東境管理官』
焚き火の周りがざわめく。
私は思わず、王子と顔を見合わせた。
「……“ご飯で和解しませんか?”って、向こうから言ってるようなものですね」
「こちらも同じ言葉を用意していたところだ」
王子は矢筒の文を丁寧に巻き直し、腰の鞘口を軽く叩いた。
「帰城する。夜明けに方針を決める。補給隊は交代で休め。カスミアーナ、君は献立と交渉の二本立て、頼めるか?」
「任せてください。胃袋外交、開店準備します」
兵たちから小さな笑いがこぼれる。
私は鍋の火を落とし、空になった皮嚢を洗いながら、胸の奥の高鳴りを確かめた。
(魔王領と食卓を囲む日が来るなんて——でも、きっとできる)
夜空には星。森には、さっきの巨獣の重い足跡。
そして私の前には、まだ温かい鍋がひとつ。
次は、席を整えて、皿を並べる番だ。
香草を添えたロースト肉、黄金色に輝くパイ、そして私が作った特製のスパイスシチューも、堂々と中央を飾っている。
王都での晩餐会――。
ここまで準備してきた日々を思えば、この光景だけで胸がいっぱいになる。
「カスミアーナ殿、こちらの料理、絶品ですぞ!」
口髭の立派な貴族が、シチューを匙で豪快にすくいながら笑う。
「おかわりもあるぞ!」と厨房仲間が声を上げ、会場は笑いと香りで満たされていた。
(よかった……。これなら、王都の人たちにも“食の力”が届くはず)
ちょうどその時だった。
――バンッ!
会場の扉が勢いよく開き、鎧姿の兵士が息を切らせて飛び込んできた。
「報告! 王都郊外に“黒角の巨獣”が出現! 農地を蹂躙し、こちらに向かって進行中とのこと!」
場の空気が一瞬で凍りつく。
皿を持つ手を止める者、ざわめきながら互いに顔を見合わせる者――。
セイル王子はすぐに立ち上がり、冷静な声で命じた。
「討伐隊を編成する。第一隊は先行、第二隊は防衛線を張れ!」
会場の華やかな雰囲気は一瞬で消え、緊迫感だけが残った。
✳✳✳
私は立ち上がったセイル王子の背中を見つめながら、胸の奥でぐっと何かが熱くなるのを感じた。
このまま見送るなんて、できるはずがない。
「王子、私も行きます!」
思わず声が大きくなって、会場中の視線が一斉にこちらへ集まった。
貴族たちが驚いた顔をする中、セイル王子は苦笑を浮かべる。
「……カスミアーナ殿、戦場は料理場ではない」
「わかってます。でも、みんなが戦うなら、私は“食”で支えます。
怪我をした人にすぐ食べられるものを用意できるし、力が出る料理も作れる。
私の仕事は、剣じゃなくても人を守れるんです!」
言い切った瞬間、厨房仲間のエリクやリサが「私も行きます!」と声を上げた。
会場の端では、農民出身の給仕たちも拳を握って頷いている。
「……わかった。ならば補給部隊として同行してくれ。君たちの食事があれば、兵も士気を保てる」
セイル王子はそう言って、私の肩を軽く叩いた。
それだけで、不安よりもやる気が一気に勝った。
(よし、戦場キッチンの開幕だ!)
✳✳✳
許可が出た瞬間、私たちは厨房へ全力ダッシュした。晩餐会の余韻なんて、鍋の底にこびりついたソースと一緒に後回しだ。
「エリク、非常用の鍋と羽釜、持てる?」 「任せてください! あ、でも羽釜は重——うおっ、とっと……!」 「リサ、乾物庫から豆と押し麦、干し野菜、スープの素をできるだけ。塩は小袋分け。砂糖は半分でいい」 「了解! あ、スパイスは“やさしめブレンド”でいいですか?」 「うん、緊急時だから刺激は控えめ。香りで落ち着くやつを」
私は無限収納(時間停止)の口をぱかっと開く。まるで底なしの井戸。放り込んだ食材は劣化しないし、鍋もスッと入る。便利だけど、取り出す順番を間違えると、鍋がどーんと出てくるのが欠点だ。
「順番マーカー、つけとこ……。鍋→釜→食材→食器→薬湯の束……よし」 「カスミアーナさん、携帯かまどと炭、積みました!」 「助かる! あと、応急食。“握らないおにぎり”も準備しよう」 「握らない……?」 「焼いた薄せんべい状のごはんに塩を刷いて、重ねて包むの。衛生的で崩れにくい、戦場向け」
鑑定眼を起動して、食材の状態を片っ端からチェックする。《保存良好》《水分過多》《発酵開始(良)》……OK、使えるものから優先。塩蔵肉は湯引きして臭み抜き、干し野菜は戻し水をスープに回す。無駄は一滴も出さない。
「護衛の人員はこちらで付ける。準備はいいか?」 入口からセイル王子の声。もう軍装に着替えている。切り替えの早さ、さすが王族。
「はい、出られます!」 「よし、出発だ」
私、エリク、リサ、それに臨時メンバーとして野戦経験のある給仕長ガルベラさんまで合流。王都門前にはすでに補給用の小型馬車が二台待機していた。ひとつは水樽と薪、もうひとつは私たちの“台所一式”。
夜の城門は、警鐘のリズムで開く。門番隊長が私たちを見つけて叫んだ。 「補給隊! 通せ、優先だ!」 「ありがとうございます、帰りに温かいの持ってきますね!」 「生きて帰ってきたら三杯もらう!」
馬車が石畳を離れ、土の道に入る。月は薄雲に隠れたり現れたり、街灯はここまで届かない。代わりに、騎士たちの杖先が淡い光で道筋を示す。
荷台で私は、揺れる箱の中身を押さえながら呼吸を整えた。心臓はバクバク。怖くないと言ったら嘘になる。それでも——
(私にできることがある)
腰のツールポーチを指で確かめる。小包丁、温度石、香袋、火打ち、圧縮布、薬草粉末。忘れ物なし。大丈夫。やれる。
「カスミアーナさん、これ……」 リサが小瓶を差し出す。中は半透明の琥珀色。 「“甘露塩”。疲労回復の微量ミネラル混合。水に一つまみで、兵士がしゃきっとします」 「最高! 補給水に溶かそう。さすがリサ」 「えへへ」
馬車が大きく跳ね、私たちは同時に手すりを掴んだ。前方から、低い地鳴りがゆっくり届く。最初は気のせいかと思うほど遠く、次第に確かな震動へ。
ガルベラさんが顔を上げる。 「……踏み荒らされた土の匂いが混じったね。近いよ」 「王子、隊列を詰めますか?」 「いや、間延びしたほうが危険だ。第二隊との間隔はそのまま——補給隊は我の直後。いいな?」 「了解!」
私は荷台の隅で、火を使わずに作れる準備に切り替える。戻し済みの豆と押し麦を、香袋と一緒に厚手の皮嚢へ。馬の揺れで混ざり、香りが移る。到着してすぐ湯を注げば、五分で“立つ”スープになる。
「エリク、握らないおにぎり、もう一段いける?」 「いけます! 塩刷いて、重ねて、包んで、紐で留める!」 「指差し呼称ありがとう、完璧!」
やがて、王都の灯りが背に遠のき、畑地帯の暗がりが広がる。折れた柵、潰れた畝、まだ新しい爪痕の黒影が月に照らされる。
「到着——前方、被害地帯。全員、警戒!」
セイル王子の声が風に乗って全員に届く。同時に、夜を切り裂くような獣の低鳴が一度。空気が震え、馬が鼻を鳴らした。
私は喉を鳴らして、ごくりと唾を飲み込む。 (大丈夫。怖いのは、みんな同じ。私の役目は、火と匂いで“帰れる場所”を作ること)
馬車が止まる。私は跳ね降りて、合図を出した。 「火はまだ起こさない。まずは水と甘露塩! それから——“香りの標(しるべ)”!」
香袋を三つ、風上へ。穏やかなハーブの香りが夜気に広がる。兵の呼吸が少し整うのがわかった。
次の瞬間、畑の向こうの闇で、月光が黒いものの輪郭をなぞった。大きい。角。肩が岩みたいに盛り上がっている。
“黒角の巨獣”。
遠い雷みたいな足音が、こちらへ一歩、また一歩。
「——来る」
私は背中の無限収納に手を差し入れ、最上段の鍋ではなく、あらかじめ温めておいた香り高い出汁嚢をそっと取り出した。湯に浸せば、戦わずに済むかもしれない一杯につながる。
戦いと炊き出しは、もう始まっている。
次に火を入れるのは、鍋か、勇気か。どちらにせよ、手は止めない。
✳✳✳
畑地帯は、まるで巨大な鍬で一気に耕し直したみたいに、無残だった。
潰れた畝、折れた柵、転がる水桶。土の匂いに、根が切れたばかりの青臭さが混じる。
「風は北西……香りはこっちへ流れるね。補給隊、風下に回って」
「はい!」
私は甘露塩入りの水嚢を配りながら、足跡をしゃがんで鑑定する。踏み跡は深い――ひづめじゃない、四趾。一歩が広い。体重は、ざっくり荷馬車三台ぶん。
地鳴りが一度、二度。
揺れる月明かりの中、畑の向こうの黒が、ぬるりと立ち上がった。
――黒角の巨獣。
背中は岩山みたいに盛り上がり、肩から胸にかけては甲殻。額から伸びる二本の角は墨のように黒く、根元に蔦が絡みついている。けれど――
(……引きずってる。右前脚)
私は反射的に《鑑定眼》を開く。視界の隅に淡い文字が浮かんだ。
> 名称:黒角獣(オルドブル)
体力:37% 精神:22%
状態:飢餓/脱水/外傷(右前脚・深部打撲)
敵対度:警戒(中)→食餌反応(弱)
備考:強い香り・温かい液体に反応して鎮静化傾向
(やっぱり……“戦いたい”んじゃなくて“食べたい”側だ)
「第一列、槍を上げ――」
「王子、待って! 風がよくない。香りで止められる!」
セイル王子がこちらを一瞥し、すぐに合図を変える。
「第一列“構え止め”。投射は許可待ち。補給隊、彼女の指示に従え!」
私は温度石で温めておいた皮嚢に、さきほどの出汁嚢を沈める。ナミロ玉の皮、干し茸、干し小魚粉、少量の甘露塩。火を使わず、湯気だけで殴るレシピ。
「リサ、湯を注いで。エリク、風上十歩先、低い位置で振って香りを漂わせる!」
「了解!」
「うわ、もう匂い来る……お腹空く……!」
ふわりと、あたたかい旨みの匂いが夜に溶けた。
その瞬間、巨獣の耳がぴくりと動く。鼻先が持ち上がり、空気を嗅ぐ仕草。蹄――じゃない、分厚い足が、ひとつ、こちらへ。
ざ……ざ……。
土が鳴るたび、槍の穂先が神経質に揺れた。ひとり、若い兵が恐怖で槍を上げそうになる。
「下ろせ!」
王子の短い叱咤が飛ぶ。
私は兵の前に半歩出て、笑う――震えてない風を装って。
「大丈夫。“ご予約なしのお客様”が匂いにつられて来てるだけ」
「そんなフロア係みたいな台詞を戦場で言うな……!」と小声でレオン副長。うん、私もそう思う。
巨獣は二十歩、十五歩――近い。
角の根元に、古い矢羽根の残骸。右前脚をかばうように着地するたび、わずかに顔が歪む。目は琥珀色で、怒りよりも渇きが濃い。
私は無限収納に手を差し込み、つぎの“香りの標”を取り出した。今度は干し果実を少量潰して、出汁に甘みを足す。飢えた体に“食べられる匂い”を、もう一押し。
「エリク、ゆっくり一歩ずつ後退。こちらが追わないことを見せるの」
「う、うん……!」
風が少しだけ回った。香りが巨獣の真正面にまっすぐ届く。
巨獣の喉がごくりと鳴り、硬い舌で鼻先を一度舐める。
そして、地面に膝をついた。威嚇の踏み鳴らしじゃない。重さを逃がす、傷の痛みをごまかす座り方。
(いける)
私は皮嚢の口を広げ、湯気だけを風に乗せながら、そっと地面に置く。武器には見えない“置き方”。
騎士たちの鎧が一斉に軋んだ。
巨獣が、首を――下げる。
黒い角が月光をはね返し、影が私の足もとまで伸びてきた。
呼吸の熱さが、指先に触れる距離。
「――さあ、“一杯目”だよ」
私は囁いた。
巨獣の大きな鼻面が、湯気の上で止まり、静かに吸い込む音がする。
夜風に、出汁と土と、ちいさな希望の匂いが混じった。
槍はまだ下がったまま。矢もつがえたまま。誰も動かない。
次の瞬間、巨獣の舌が、そっと湯気を舐め取った。
戦闘と炊き出しの境界が、やわらかく溶けはじめる。
✳✳✳
巨獣の舌が湯気をひと掬いした瞬間、全員の肩が同時に上下した。
緊張はまだ消えない。だけど、空気の“とげ”が一本、するりと抜けた感覚。
「……王子、敵対行動なし。どうします?」
「投射、保留。補給隊、続行」
短いやりとりの間に、私は二杯目の準備へ移る。香りだけじゃ足りない。**“飲める形”**を作って、飲み方を学習してもらう。
「リサ、押し麦パック、少量ね。エリク、干し果実は親指の先ほど。甘すぎると喉に張り付く」
「了解!」
「はいっ!」
皮嚢をもう一つ地面に置き、私は両手を開いて見せる。武器も敵意もない“給仕”の所作。
巨獣は私の動きを目で追い、鼻先で皮嚢をコツと押す。とぷん、と汁が揺れ、湯気が鼻面をくすぐった。
「そう、上手。熱いから、ゆっくりね」
巨獣は舌を深く差し入れず、湯気ごと啜るように少しずつ。喉の上下が落ち着いたテンポに変わっていく。
《鑑定眼》をのぞくと、文字が穏やかに更新された。
> 体力:37→41% 脱水:軽減
敵対度:警戒(低)→無害反応(弱)
備考:温飲摂取を学習/痛覚反応継続(右前脚)
(よし、飲み方わかった。次は“効く味”を)
私は無限収納から薬湯束を取り出す。痛みと炎症を鎮める香草(カメリア葉)、疲労回復の微量鉱塩、胃を温める生姜根を糸でまとめたもの。湯にくぐらせると、穏やかな青い香りに生姜の温もりが重なる。
「カスミアーナ殿、近づきすぎだ!」
レオン副長の声。分かる、でも今は引けない。
「大丈夫。**“魔食効果付与”**を乗せます」
私は掌を鍋口にかざし、呼吸を整える。体内の“料理研究家の経験値”を、火加減のように落とし込む感覚。
脳裏にひとつの文字が光った。
> 《魔食効果付与:痛覚緩和(小)+安堵(微)》
対象:摂食者(単)/持続:短
「——いただきます、どうぞ」
合図みたいに、巨獣がまた一口。次の瞬間、強張っていた肩の盛り上がりがわずかにゆるむ。右前脚の荷重が半拍だけ軽くなった。
「……効いてる」
私は自分の声が落ち着いているのに驚いた。膝は少し震えてるのに、手は迷わない。
「第一列、楯はそのまま。槍はさらに下げろ。誰も動くな」
セイル王子も、待つ選択を続ける。
巨獣は三杯目、四杯目とゆっくり口に運び、やがて鼻息に温度が戻った。吐く息が白い霧ではなく、湯気と混じって透明になる。体の芯まで温まった証拠だ。
「今だ、右脚を見る。王子、十歩だけ接近して確認させて」
「護衛二名、同行。最小限でいけ」
私は皮嚢を新しいのと交換しつつ、巨獣の右前脚の外側に回る。光の杖を低く向け、眩しさで刺激しないよう角度を調整。
毛の間に乾いた黒泥。腫れ。古い打撲に加えて、柵板のささくれが刺さっている。
「抜くよ。痛いけど、一瞬」
私は圧縮布で温め、消毒粉を振る。呼吸を合わせて——抜く。
巨獣の喉が低く鳴る。けど、跳ねない。すぐに薬草ペーストを塗り、布で軽く固定。
「いい子。もうちょっとだけ、がんばって」
背中で鎧がわずかに鳴る。護衛の二人が息を止めた気配が伝わってくる。
私は最後の一杯に薄めの甘味を足し、皮嚢の口を巨獣の前へ差し出す。
「カスミアーナさん! 兵が数名、足に来てます!」
エリクの声。振り返ると、緊張と冷えで青い顔の新兵たち。手が震えて槍がガタつくの、危ない。
「はい、“握らないおにぎり”配って! 甘露塩水も。——兵は兵、獣は獣。同時に温めるよ」
リサとガルベラさんが走り、包みを配る。塩気と米の甘み、薄い出汁の香りが列に沿って広がって、若い肩の上下が落ち着く。
「王子、敵対度、無害反応のまま。撤収の導線、作っていい?」
「やれ」
私は風下に香りの標をさらに三つ置き、巨獣から森への緩い道を匂いで示す。
巨獣は皮嚢を最後まで舐め、鼻先を地面に一度押し付けた。感謝の仕草——と、信じたい。
「——帰ろっか」
囁くと、巨獣は重い体を持ち上げ、右脚に無理をかけないよう斜めに歩き始める。槍の列を見ない。私たちも見送るだけ。誰も追わない。
やがて、黒い背中は畑の影に溶け、角の先が月を切って——消えた。
静寂。夜風。遅れて安堵のため息が、波みたいに広がる。
「……戦闘、なしで終わった、のか」
レオン副長の声は、驚きと、少しの笑い。
私はようやく足の震えを認めて、ぺたんと座り込んだ。手の中には、ぬるくなった温度石。
(よかった。間に合った)
《鑑定眼》の隅で、最後の行が光る。
> 備考:味覚学習・帰巣反応(弱)
記録:安全領域に“食の記憶”を紐づけ
セイル王子が歩み寄り、手を差し出す。
「見事だ、カスミアーナ。君の鍋は、今夜この王都で一番強かった」
「鍋は武器ですから」
つい、いつもの軽口が出る。王子が声を出して笑った。兵たちの笑いが連鎖する。
「——撤収。負傷者は補給隊で温かいものを摂ってから帰城する。記録係、**“討伐:非武力収束(食介入)”**と記せ」
私は頷き、立ち上がる。火を起こす番だ。
戦いは終わったけれど、台所戦線はこれから夜食タイムに突入するのだ。
✳✳✳
黒い背中が闇に溶けていったあと、張り詰めていた空気が一気にゆるんだ。
でも——ここからが補給隊の本番だ。
「火、起こします!」「水嚢、こっち!」「握らないおにぎり、追加いきます!」
ぱちぱちと焚き火が走り、鍋底が温度石とともに温まっていく。私は“立つスープ”に刻み野菜を足し、塩気を微調整。甘露塩をひとつまみ、香りづけにナミロ葉を。湯気が夜に花を咲かせた。
「はい、新兵くん、まずは温かいの一口だけ。飲んだら深呼吸」
「……あ、あったか……落ち着きます……」
「えらい。次、二口目はゆっくり噛むみたいに飲むの」
列はすぐに短くなり、頬に色が戻る。エリクは“握らないおにぎり”を三段重ねで器用に包み、リサは薬湯を薄めて“体ぽかぽか茶”に。ガルベラさんは器回収と洗い場を一人で回し、まさに台所戦線の鬼軍曹だ。
「王子、こちら士気、だいぶ回復してます」
「見ればわかる。——カスミアーナ、礼を言うのは勝利後というのが我が家のしきたりだが、今言う。助かった」
「じゃあ、勝利後にもう一回、言ってもらいますね」
「欲張りだな」
「おかわり自由ですから」
笑いが焚き火の上で弾ける。緊張で縮こまっていた肩が、ひとつずつ下がっていくのが見えた。
私は記録用の板に“現地レシピ”を書き起こす。
——黒角対応:香りの標三点→温出汁(甘露塩・干し茸・干し小魚粉)→押し麦+少果実→薬湯束(鎮痛・胃温)→退路誘導(風下)
誰がやっても同じ結果が出せるように、段取りを残しておくのが私の流儀。
「レオン副長、見回りどうです?」
「足跡は森へ一直線。追撃の必要なし。……しかし“食わせて帰す”討伐記録は前代未聞だぞ」
「討伐じゃなくて“送迎プラン:夕食付き”で」
「名付けのセンスが軽い!」と一同につっこまれ、焚き火の周りがまた和む。
ひと息ついたところで、《鑑定眼》を自分に向ける。
体力:62%/精神:68%/料理集中度:高
——まだ動ける。よし、夜食第二波。
「薄めカレー、いきます!」
鍋の端でスパイス袋をごく少量。昨日の“王都版”より刺激を落とし、代わりに香味油をひとしずく。戦のあとは、胃の機嫌最優先だ。
「カレー……だと……」「さっき戦場だったのに……」
「戦場“だから”だよ。心に灯りがいるでしょ?」
兵たちの目がきらりと光る。スプーンが当たる音、ほう、と漏れる息。
さっきまで震えていた手が、今は器をがっちりつかんでいる。生きる力は、ちゃんと腹から上がってくるのだ。
「カスミアーナ殿」
セイル王子が真顔に戻り、小さく声を落とす。
「巨獣の来訪、偶然にしては出来すぎている。農地直進、王都目前での停止、そして……君の ‘香り’ にまっすぐ反応した」
「うん。飢えと傷だけじゃない“理由”、ありそうですね」
王子は頷き、遠くの森を一瞥した。風向きがひとつ変わる。火の粉が小さく跳ね、夜は少しだけ濃くなった。
「帰城したら、被害の補償と農地の復旧段取りを。補給隊は休養を回したのち、報告書を作成……それと、“香りの標”を正式装備に申請しよう」
「やった、王都正式採用……! じゃ、名前は“安心ハーブパック”で」
「だから名付けが軽い」
また笑い。けれど、笑いの底に、全員同じ予感がある。
——今夜は序章にすぎない。
鍋底をさらい、最後の一杯を自分の器に移す。ほどよい温度。疲れた体に、やさしい辛みと甘みが広がった。
(来るなら来い。私たちには鍋がある)
台所戦線の夜は、更けていく。
そして、森の向こうから吹く風が、うっすらと金属の匂いを運んできた。
(……鉄? いや、刻印の油……?)
私は顔を上げる。次の“謎”が、もうすぐこちらに届く。
✳✳✳✳
撤収の準備を進めていると、見張りについていた新兵が駆けてきた。
「王子! 畑の端の茨に、黒い……これ、何かが引っかかってました!」
手渡されたのは、親指ほどの黒い樹脂片に、細い革紐がちぎれてくっついたもの。鼻を近づけると、さっき風の中で感じた金属と油の匂いが濃い。
「“刻印油”の匂いだね」
私は《鑑定眼》を開く。
> 品名:樹脂封蝋(軍務用)
由来:魔王領・辺境警護局
意味:搬送・護送識別用タグ/刻印:東境紋
(やっぱり……“ただの通りすがり”じゃない)
私は膝に板を置き、さっき間近で見た角の根元の焼き模様をスケッチする。黒曜の輪に三本の稲妻、輪の外に小さな点が四つ。
「レオン副長、この紋、心当たり?」
「……ある。魔王領の東境紋だ。境界の出入りを正規に認めた個体につける目印——本来は人里に近づかない約定の印だが……」
「約定つきの個体が、王都の畑に来た?」
セイル王子が眉を寄せる。
「偶発の迷い込みでは整合しない。誰かが“通した”か、“誘った”か、あるいは約定そのものが変化したか」
風が森から吹き、焚き火の煙が少し揺れた。私は樹脂片を布に包み、革紐と一緒に丁寧に袋へしまう。
「記録物、保全。——それと、もう一つ」
私は自分のメモ板を見せた。
“非武力収束(食介入):巨獣、温出汁と薬湯で鎮静/退路誘導成功/右前脚応急処置済。”
「……正式記録に残す。史上初だ、胃袋で撤退させた討伐は」
王子は苦笑し、それから真顔に戻る。
「明朝、対魔王領連絡班を招集。接触の糸口を探る。——カスミアーナ、君にも同席を頼みたい」
「もちろん。ごはんで話せるなら、やってみたいです」
その時、森の方角から、ひゅ、と風を裂く音。護衛が即座に楯を上げ——地面に黒羽の矢が突き立った。矢羽根に結ばれた細い筒。
レオン副長が慎重に回収し、王子へ手渡す。封蝋は……さっきと同じ黒い紋。
王子が封を切り、短い文を読み上げた。
> 『境界にて不測の逸走、陳謝す。
養護に預かった恩、受領した。
可能ならば**“食”を携え、話し合いの席を**。
——東境管理官』
焚き火の周りがざわめく。
私は思わず、王子と顔を見合わせた。
「……“ご飯で和解しませんか?”って、向こうから言ってるようなものですね」
「こちらも同じ言葉を用意していたところだ」
王子は矢筒の文を丁寧に巻き直し、腰の鞘口を軽く叩いた。
「帰城する。夜明けに方針を決める。補給隊は交代で休め。カスミアーナ、君は献立と交渉の二本立て、頼めるか?」
「任せてください。胃袋外交、開店準備します」
兵たちから小さな笑いがこぼれる。
私は鍋の火を落とし、空になった皮嚢を洗いながら、胸の奥の高鳴りを確かめた。
(魔王領と食卓を囲む日が来るなんて——でも、きっとできる)
夜空には星。森には、さっきの巨獣の重い足跡。
そして私の前には、まだ温かい鍋がひとつ。
次は、席を整えて、皿を並べる番だ。
99
あなたにおすすめの小説
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~
たまごころ
ファンタジー
転生したら特にチートもなく、村人としてのんびり暮らす予定だった俺。
ある日、精霊カメラ「ルミナスちゃん」で日常を配信したら──なぜか全世界が大騒ぎ。
魔王を倒しても“偶然”、国家を救っても“たまたま”、なのに再生数だけは爆伸び!?
勇者にも神にもスカウトされるけど、俺はただの村人です。ほんとに。
異世界×無自覚最強×実況配信。
チートすぎる村人の“配信バズライフ”、スタート。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』
チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。
そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた!
畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる