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1話「コーヒーとゲームと、謎のメッセージ」
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午前十時。
洗濯機は二回目を回し、朝食の食器も片付き、掃除機がけも終了。幼稚園に送り出したひなのはお友達と元気に登園し、小4のはるとは今ごろ教室でこっくり船でも作ってる頃だろう。
旦那の雄一は出社済み。ということは――
「はい、麻衣さんのお昼前フリータイム、始まりました~!」
エプロンを外し、ソファにふわっと座る。
淹れたてのコーヒーを手に、スマホを手に取る。画面に表示されたのは、先日始めたばかりの放置系ファンタジーRPG『レジェンドクエスト∞(インフィニティ)』。
推しポイントは「ログインだけでレベルが上がる」ところ。もうそれ、やる意味ある?って突っ込まれそうだけど、家事と育児の合間にちょこっと遊ぶにはちょうどいいのだ。
「さて、今日のデイリーボーナスは……スライムゼリー10個。うん、かわいい。」
ついでにギルドチャットを覗いてみると、「育児で深夜しかINできません」って人が複数いてちょっと安心。どこも一緒なのね、と妙な連帯感にほっこりしていた、そのときだった。
――ピコッ。
通知音が鳴り、ゲームとは別に、スマホの画面に見慣れないメッセージが浮かんだ。
『あなたに、スキルの権利が付与されました。選択してください。』
「……は?」
固まる麻衣。コーヒーの湯気だけがふわふわと現実感を漂わせる。
一瞬、ゲームのイベントかと思ったけど、これは完全にシステム外だ。どこにも「キャンペーン中!」とか「広告です」とも書いていない。しかも、選択肢がこうだ。
---
《スキルを選んでください》
①コーヒーが冷めにくくなる(Lv1)
②忘れ物を一つだけ思い出せる(Lv1)
③他人の小さな困りごとを察知できる(Lv1)
---
「……え、地味。でも地味に便利……?」
最初に思ったのはそれだった。いやいや、これはただのドッキリアプリか何か?と思い直し、画面を閉じようとしたけど――なぜか×ボタンが見つからない。
「え、閉じれない系!? ちょっとちょっと、怖いやつじゃない?大丈夫?ウイルスとか……?」
試しに画面をロックして開き直しても、LINEを立ち上げても、Safariに飛んでも、この“スキル選択画面”が前面に居座ってくる。
「ええい、分かったよ。押せばいいんでしょ押せば!」
ヤケになって、直感で③をタップした。
ピコン、と効果音と共に画面が消える。そして何事もなかったかのように通常のホーム画面に戻った。
「え?……終わり?え、ほんとに終わり?」
狐につままれた気持ちのまま、麻衣はコーヒーをすすり、ゲームの続きに戻った。だが。
――ピンポーン。
玄関チャイムが鳴る。慌てて出ると、そこには近所のママ友、川島さんが立っていた。普段は穏やかな彼女の表情が、今日は少し曇っている。
「ごめん、麻衣さん……急なんだけど、うちの凛花(りんか)、預かってもらえないかな?
保育園のお迎え、仕事で間に合いそうになくて……」
「え、もちろんいいよ!任せて!」
とっさに言葉が出た自分に、自分でもちょっと驚いた。でも、何より驚いたのはその瞬間。
(――川島さん、スマホの電源が切れてる。充電器忘れてるんだ)
と、頭の中にふわっと情報が浮かんだのだ。……まるで、さっき選んだスキルが発動したかのように。
「充電、忘れてない?もしよかったらうちの予備、貸そうか?」
「え?え、なんで分かったの?そうなの!やだ、助かる~~!」
なんだろうこの、じわっと嬉しい感じ。
偶然?それとも、まさか――
「……いやいやいや、あるわけない。ファンタジーの読みすぎだよ、麻衣さん」
自分にそうツッコミを入れつつも、ふと口元には微笑みが浮かんでいた。
その日、麻衣のコーヒーはいつもより少しだけ、温かいままだった。
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洗濯機は二回目を回し、朝食の食器も片付き、掃除機がけも終了。幼稚園に送り出したひなのはお友達と元気に登園し、小4のはるとは今ごろ教室でこっくり船でも作ってる頃だろう。
旦那の雄一は出社済み。ということは――
「はい、麻衣さんのお昼前フリータイム、始まりました~!」
エプロンを外し、ソファにふわっと座る。
淹れたてのコーヒーを手に、スマホを手に取る。画面に表示されたのは、先日始めたばかりの放置系ファンタジーRPG『レジェンドクエスト∞(インフィニティ)』。
推しポイントは「ログインだけでレベルが上がる」ところ。もうそれ、やる意味ある?って突っ込まれそうだけど、家事と育児の合間にちょこっと遊ぶにはちょうどいいのだ。
「さて、今日のデイリーボーナスは……スライムゼリー10個。うん、かわいい。」
ついでにギルドチャットを覗いてみると、「育児で深夜しかINできません」って人が複数いてちょっと安心。どこも一緒なのね、と妙な連帯感にほっこりしていた、そのときだった。
――ピコッ。
通知音が鳴り、ゲームとは別に、スマホの画面に見慣れないメッセージが浮かんだ。
『あなたに、スキルの権利が付与されました。選択してください。』
「……は?」
固まる麻衣。コーヒーの湯気だけがふわふわと現実感を漂わせる。
一瞬、ゲームのイベントかと思ったけど、これは完全にシステム外だ。どこにも「キャンペーン中!」とか「広告です」とも書いていない。しかも、選択肢がこうだ。
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《スキルを選んでください》
①コーヒーが冷めにくくなる(Lv1)
②忘れ物を一つだけ思い出せる(Lv1)
③他人の小さな困りごとを察知できる(Lv1)
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「……え、地味。でも地味に便利……?」
最初に思ったのはそれだった。いやいや、これはただのドッキリアプリか何か?と思い直し、画面を閉じようとしたけど――なぜか×ボタンが見つからない。
「え、閉じれない系!? ちょっとちょっと、怖いやつじゃない?大丈夫?ウイルスとか……?」
試しに画面をロックして開き直しても、LINEを立ち上げても、Safariに飛んでも、この“スキル選択画面”が前面に居座ってくる。
「ええい、分かったよ。押せばいいんでしょ押せば!」
ヤケになって、直感で③をタップした。
ピコン、と効果音と共に画面が消える。そして何事もなかったかのように通常のホーム画面に戻った。
「え?……終わり?え、ほんとに終わり?」
狐につままれた気持ちのまま、麻衣はコーヒーをすすり、ゲームの続きに戻った。だが。
――ピンポーン。
玄関チャイムが鳴る。慌てて出ると、そこには近所のママ友、川島さんが立っていた。普段は穏やかな彼女の表情が、今日は少し曇っている。
「ごめん、麻衣さん……急なんだけど、うちの凛花(りんか)、預かってもらえないかな?
保育園のお迎え、仕事で間に合いそうになくて……」
「え、もちろんいいよ!任せて!」
とっさに言葉が出た自分に、自分でもちょっと驚いた。でも、何より驚いたのはその瞬間。
(――川島さん、スマホの電源が切れてる。充電器忘れてるんだ)
と、頭の中にふわっと情報が浮かんだのだ。……まるで、さっき選んだスキルが発動したかのように。
「充電、忘れてない?もしよかったらうちの予備、貸そうか?」
「え?え、なんで分かったの?そうなの!やだ、助かる~~!」
なんだろうこの、じわっと嬉しい感じ。
偶然?それとも、まさか――
「……いやいやいや、あるわけない。ファンタジーの読みすぎだよ、麻衣さん」
自分にそうツッコミを入れつつも、ふと口元には微笑みが浮かんでいた。
その日、麻衣のコーヒーはいつもより少しだけ、温かいままだった。
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