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27話『なんとなく場が丸くなるスキル、発動?』
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「ひなのー、靴、左右逆~!」
保育園のお迎え時間。園庭で遊ぶ子どもたちを見ながら、麻衣は小さくため息をついた。今日も一日おつかれさま、自分。
「すごいなあ、子どもって元気だよねぇ……」
午後の陽射しの中、遠くのベンチでママたちが数人集まって話しているのが見えた。その中心にいたのは、最近入園したお子さんのママ・杉山さんと、すっかり顔馴染みになった高梨さんだった。
──でも、なんだろう。なんとなく空気が……かたい?
ふたりの間に漂う、妙な緊張感。笑ってはいるけど、ぎこちない。少し距離もある。
(うーん、なんかあったのかな……)
ひなのが砂場に夢中になったのを確認して、麻衣は軽く手を振りながらふたりに近づいていった。
「こんにちは~。今日もあっついですねー! ひなの、砂場でスープ作ってるらしいです~」
「あ、田仲さん。こんにちは……」
高梨さんが少しほっとしたような顔をして、麻衣を迎えてくれた。杉山さんも小さく会釈する。
「杉山さん、こんにちは! あの、こないだ教えてくれた無印のカレー、買ってみたんですよ。家族でドはまりしました~」
「え、本当ですか?」
「はい。雄一が『これ会社にも持って行けるな』って言って、3日連続カレーにされました」
「うふふ、それはすごいですね」
ようやく、杉山さんの顔に自然な笑みが浮かぶ。なんとなく、さっきまでの硬さがほぐれてきた気がする。
(ふぅ……でも、原因ってなんだったんだろう?)
ふと目を向けると、少し離れたところで遊ぶ女の子──高梨さんの娘・まゆちゃんが、地面に置いてあったおもちゃのスコップをぎゅっと握っていた。
そのすぐそばには、杉山さんの娘さんらしき子が泣きそうな顔で立っている。
「あー……」
麻衣はすべてを察した。
(たぶん、まゆちゃんが先に使ってたか、もしくは途中で取っちゃったか。どっちでも、まだ“順番”って難しい時期なんだよね……)
「うちのひなのも、すーぐ『かして』が言えなくて、押しちゃうんですよ~。こないだなんて、絵本を頭に乗せてましたし」
「えっ、絵本を頭に……?」
「たぶん、“自分のものです”っていう主張ですかね~。新しい知能戦かもです」
高梨さんと杉山さんが、思わずぷっと笑った。笑い声が交わった瞬間、場の空気がふわっと軽くなった気がした。
(……あれ?)
そのとき、麻衣の頭の中で、ふっと風が吹いたような感覚があった。
──スキル発動:調和の息吹(パッシブ)
──対象エリア内の緊張状態を5%軽減しました。
(な、なにこれ!? 今のメッセージ!?)
突如現れた謎のウィンドウに、麻衣の思考は軽くフリーズしたが、目の前の会話が自然と続いていることに安心する。
「そういえば、高梨さんとこのまゆちゃん、今朝も『今日はピンクのスカートにする!』ってこだわってましたよね?」
「ええ……あのスカート、3回洗ってます。愛が深すぎて」
「うちは今日、靴下の左右で朝バトルでした。しかもどっちもユニコーン柄……違いがないのに、違うらしいです」
「うちもです~!」
3人のママたちが子育てあるあるで盛り上がる。笑いが混じったその空間は、さっきまでの緊張が嘘のように柔らかく、優しくなっていた。
***
帰り道。
「さっきは、ありがとう」
高梨さんがふと麻衣に言った。
「杉山さん、きっと気まずかっただけで、怒ってたわけじゃないんだと思う。でも、どう話しかければいいかって……」
「いえいえ、私なんて全然。ただ無印のカレーの話しただけですし~」
「いやいや、それが絶妙だったよ。ほんと、麻衣さんって“空気を整える人”だよね。ヒーラーみたい」
「ヒーラー……それ、ちょっと憧れますねぇ。でも私、普段は“マヨネーズの賞味期限を3回見直す主婦”ですよ」
「それでもヒーラー」
二人で笑い合いながら歩く夕暮れの道。その足元で、風がまたふわりと吹いた。
麻衣はまだ知らない。
この日発動したスキルは、今後もっと大きな出来事の“空気”にも、関わっていくことになるのだと──
---
保育園のお迎え時間。園庭で遊ぶ子どもたちを見ながら、麻衣は小さくため息をついた。今日も一日おつかれさま、自分。
「すごいなあ、子どもって元気だよねぇ……」
午後の陽射しの中、遠くのベンチでママたちが数人集まって話しているのが見えた。その中心にいたのは、最近入園したお子さんのママ・杉山さんと、すっかり顔馴染みになった高梨さんだった。
──でも、なんだろう。なんとなく空気が……かたい?
ふたりの間に漂う、妙な緊張感。笑ってはいるけど、ぎこちない。少し距離もある。
(うーん、なんかあったのかな……)
ひなのが砂場に夢中になったのを確認して、麻衣は軽く手を振りながらふたりに近づいていった。
「こんにちは~。今日もあっついですねー! ひなの、砂場でスープ作ってるらしいです~」
「あ、田仲さん。こんにちは……」
高梨さんが少しほっとしたような顔をして、麻衣を迎えてくれた。杉山さんも小さく会釈する。
「杉山さん、こんにちは! あの、こないだ教えてくれた無印のカレー、買ってみたんですよ。家族でドはまりしました~」
「え、本当ですか?」
「はい。雄一が『これ会社にも持って行けるな』って言って、3日連続カレーにされました」
「うふふ、それはすごいですね」
ようやく、杉山さんの顔に自然な笑みが浮かぶ。なんとなく、さっきまでの硬さがほぐれてきた気がする。
(ふぅ……でも、原因ってなんだったんだろう?)
ふと目を向けると、少し離れたところで遊ぶ女の子──高梨さんの娘・まゆちゃんが、地面に置いてあったおもちゃのスコップをぎゅっと握っていた。
そのすぐそばには、杉山さんの娘さんらしき子が泣きそうな顔で立っている。
「あー……」
麻衣はすべてを察した。
(たぶん、まゆちゃんが先に使ってたか、もしくは途中で取っちゃったか。どっちでも、まだ“順番”って難しい時期なんだよね……)
「うちのひなのも、すーぐ『かして』が言えなくて、押しちゃうんですよ~。こないだなんて、絵本を頭に乗せてましたし」
「えっ、絵本を頭に……?」
「たぶん、“自分のものです”っていう主張ですかね~。新しい知能戦かもです」
高梨さんと杉山さんが、思わずぷっと笑った。笑い声が交わった瞬間、場の空気がふわっと軽くなった気がした。
(……あれ?)
そのとき、麻衣の頭の中で、ふっと風が吹いたような感覚があった。
──スキル発動:調和の息吹(パッシブ)
──対象エリア内の緊張状態を5%軽減しました。
(な、なにこれ!? 今のメッセージ!?)
突如現れた謎のウィンドウに、麻衣の思考は軽くフリーズしたが、目の前の会話が自然と続いていることに安心する。
「そういえば、高梨さんとこのまゆちゃん、今朝も『今日はピンクのスカートにする!』ってこだわってましたよね?」
「ええ……あのスカート、3回洗ってます。愛が深すぎて」
「うちは今日、靴下の左右で朝バトルでした。しかもどっちもユニコーン柄……違いがないのに、違うらしいです」
「うちもです~!」
3人のママたちが子育てあるあるで盛り上がる。笑いが混じったその空間は、さっきまでの緊張が嘘のように柔らかく、優しくなっていた。
***
帰り道。
「さっきは、ありがとう」
高梨さんがふと麻衣に言った。
「杉山さん、きっと気まずかっただけで、怒ってたわけじゃないんだと思う。でも、どう話しかければいいかって……」
「いえいえ、私なんて全然。ただ無印のカレーの話しただけですし~」
「いやいや、それが絶妙だったよ。ほんと、麻衣さんって“空気を整える人”だよね。ヒーラーみたい」
「ヒーラー……それ、ちょっと憧れますねぇ。でも私、普段は“マヨネーズの賞味期限を3回見直す主婦”ですよ」
「それでもヒーラー」
二人で笑い合いながら歩く夕暮れの道。その足元で、風がまたふわりと吹いた。
麻衣はまだ知らない。
この日発動したスキルは、今後もっと大きな出来事の“空気”にも、関わっていくことになるのだと──
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