『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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28話『懐かしい声と、ちょっとした奇跡』

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ある日曜日。
麻衣は、ひなのの手を引きながら、近所のショッピングモールに来ていた。

目的は、ずばり「カレーうどんのつゆを落とした白シャツの代わりを探す」こと。
金曜日に洗濯して、悲しみのにじんだあのシャツ……さようなら、私のアイロン努力。

「ひなの、今日はお約束ね。走らない、お菓子は一個、ママの服を引っ張らない!」

「うん!」

返事は元気だけど、すでにお菓子コーナーのポスターに釘づけ。小さな誘惑に勝てる日なんて、何年後なんだろう。

麻衣がユニクロの棚を見ていると、ふと、後ろから聞き覚えのある声がした。

「……だからさ、あの資料は“最終”じゃなかったってことよ。ね? そういう確認、大事よね?」

(……あれ?)

このちょっと早口で、テンポ良く理屈を詰めていく声。間違いない。
会社員時代、別の部署だったけど、何度か話したことがある──

(篠原さん……!?)

麻衣はそっと振り返る。
そこには、スマホを片手に歩きながら話す、スタイル抜群のスーツ姿の女性がいた。
記憶の中より少し髪が長くなっていたけど、間違いない。

(やっぱり篠原さんだ……! 懐かしい!)

と、そのとき。

「……え?」

篠原さんが、スマホの画面を見つめながら足を止めた。

向こう側から、幼い男の子が走ってきて──

「危ないっ!」

麻衣は、無意識に手を伸ばして、男の子の手をぎゅっとつかんだ。
数歩先、フロア清掃中の床はぬれていて、もしそのまま走っていたら、転んでいたかもしれない。

「ご、ごめんなさい! うちの子が……!」

駆け寄ってきたのは、その子のお母さん。
男の子も「ごめんなさい」としょんぼりしている。

「いえ、大丈夫です~。うちのもよく走っちゃうんで……ね、ひなの?」

「まま、すごい、かっこよかったね!」

「え、う、うん。反射的に……」

そのとき、麻衣の視界にまたウィンドウが現れた。

──スキル発動:加護の手(即時型)
──対象への軽度な事故予防を行いました。

(なにそれ!? 事故予防!? すごっ!)

でも同時に、ちょっとゾッとした。あのまま走ってたら、もしかして──

(……このスキル、今までも無意識で出てたのかな?)

しばらくして、先ほどのバタバタも落ち着き、麻衣は再びシャツの棚に戻る。

……と、後ろから声がした。

「……田仲さん、だよね?」

「え?」

振り返ると、そこにはさっき電話していた女性──篠原さんが立っていた。

「やっぱりそうだ! 久しぶり。会社辞めてから何年? 三年?」

「わ、わぁ……お久しぶりです! 篠原さん、お変わりなく!」

「いや~びっくり。まさかこんなところで会うなんてねぇ。お子さん?」

「はい、ひなのっていいます」

「かわいい~。え、田仲さんがママ……うわぁ、なんか時の流れ感じる~!」

しばらく話すうちに、自然と当時の雰囲気がよみがえってきた。

篠原さんは今も同じ会社で働いていて、なんと麻衣の夫・雄一のいる部署と、たまに資料のやりとりがあるらしい。

「……田仲さんの旦那さんって、田仲雄一さんだよね? あの人、最近なんか雰囲気変わったって評判よ。柔らかくなったっていうか、すごくチーム内が穏やかになってて」

「え……?」

「なんか“人が辞めなくなった”とか言ってたなあ。家庭円満オーラでも出てるのかな~、って話題だったのよ?」

麻衣は思わず吹き出しそうになった。

(まさか……家庭内スキルが、じわじわ会社にまで影響出てる……?)

「ふふっ、そうだと嬉しいです。本人、結構がんばってるみたいなので」

「いや~すごいなぁ。今度またランチでもしようよ! 元同僚でママになった人たち、たまに集まってるんだよ」

「ぜひ! 行きたいです!」

***

その日の夜。

「今日、篠原さんに会ったんだよ~。あなたの会社の人でしょ?」

「え? 篠原さん? あの、超バリキャリの?」

「うん。なんか、あなた最近“柔らかくなった”って評判らしいよ?」

「……へぇ? え、なにそれ、こわ……俺、なにか無意識にやってる……?」

「多分ね、我が家のスキル効果です」

「スキルってなに……?」

麻衣は、にやりと笑った。

(言うわけにはいかないけどね~)

彼女の持つスキルは、日々、確実に家族や周囲に「ほんの少しの幸せ」を分け与えていた。


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