『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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47話『占い師の正体と、もう一つのスキル』

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それは、ある平日の昼下がりだった。

 麻衣が働いているカフェ「こもれび」に、ふらりと現れたその女性は、どこか見覚えがあった。

 「……あの、以前いらっしゃったお客さまですよね?」

 カウンターの奥から声をかけると、女性はやわらかく微笑んだ。

 「あら、覚えててくれたのね。嬉しいわ」

 ――間違いない。この人は、以前“占い師”を名乗って、麻衣の手を取り、「あなたは大きな波を越えるでしょう」と言ってきた女性だ。

 「今日は、お仕事の合間に?」

 「ええ、ちょっとこの辺に用事があってね。ついでに、あなたの顔が見たくなったの」

 なんとも意味深な言い方に、麻衣は少し緊張しながらも微笑み返した。

 女性は「スミレ」と名乗り、カフェラテを一口すすってから、ぽつりと言った。

 「あなた……もう、“気づいてる”のよね? あの“ゲーム”のこと」

 カップがカウンターに軽く当たる音が、やけに大きく聞こえた。

 「……え?」

 動揺する麻衣に、スミレは穏やかな表情を崩さずに続ける。

 「不思議なアプリ。見えなかったものが見えるようになる仕組み。優しいようで、時に残酷なスキル。――あなた、きっと誰かを助けたことがあるでしょう?」

 麻衣は、ごくりと息をのんだ。

 (この人……やっぱり、私と同じ“プレイヤー”?)

 

 スミレは、店内に他の客がいないのを確認すると、小声で言った。

 「あなたと同じように、私も“あの本”……いえ、“あのアプリ”に導かれたの。最初はただのゲームだと思っていた。でも、違った。“見る力”が、本当に備わったのよ」

 「あなたのスキルは……?」

 「“感情の糸”。人の心のつながりが、細く光る線で見えるの。赤い糸とか、信頼の糸、怒りや悲しみの糸まで。あなたは?」

 「“気配の色”です。言葉にしない気持ちが、ふわっと色で見えるようになって……」

 麻衣の声が震えていた。まさか、本当に“同じような人”がいるなんて。

 

 そのとき、店の扉が勢いよく開いた。

 「す、すみませんっ、誰か! 助けてください!」

 飛び込んできたのは近くの会社員風の男性で、顔は青ざめ、手にはぐったりした女性を抱えている。

 「倒れたんです、急に苦しみだして……! 救急車は呼びました、でも……!」

 慌てて駆け寄った麻衣は、女性の顔を見て息を呑んだ。唇は紫色で、息が浅く早い。

 (やばい、これ……ただの貧血じゃない)

 そのときだった。

 麻衣の視界に、女性の体から“黒ずんだオレンジ”のもやが、渦を巻いて見えた。

 (この色……苦痛? 違う、これは“異物反応”……?)

 背中がゾクリとするほどの“拒絶”の感情が、そこに渦巻いていた。

 

 「薬、飲んでませんか? 何かアレルギーのある薬とか!」

 麻衣の叫びに、男性はハッとしたように叫び返す。

 「そういえば……さっき頭が痛いって、鎮痛剤を……!」

 「すみません! 私、アレルギー用の簡易キット持ってます!」

 すぐさまバッグから取り出して、女性の腕にアドレナリン注射を施したのは――スミレだった。

 「応急処置はしたけど、あとは救急隊に任せましょう」

 スミレの声は落ち着いていた。数分後、救急車が到着し、女性は搬送されていった。

 

 そのあと。

 麻衣とスミレは、カフェの裏のベンチに並んで座っていた。

 「さっきの……スキル、ですよね?」

 「ええ。あの人の“生命線”が細くなっていたの。見逃すわけにはいかなかった」

 「私も、色で分かりました。まさかこんな形で使うことになるなんて……」

 二人は顔を見合わせ、ふっと笑った。

 

 「どうして私に話してくれたんですか?」と麻衣が聞くと、スミレは少し空を見上げて答えた。

 「同じように悩んで、怖くなって、それでも“誰かのために”って思える人に、出会えた気がしたの。……あのゲームは、きっと試してるのよ。私たちが、“この力をどう使うのか”って」

 「……責任、感じますよね」

 「うん。だからこそ、繋がれる人がいるのは心強いわ」

 

 スミレは立ち上がり、スマホを取り出す。

 「ねえ麻衣さん。今度、情報交換しない? スキルのこと、ゲームのこと。……誰かのために使うなら、仲間がいてもいいと思うの」

 「……はい。私も、そう思います」

 画面越しに表示されたのは――
 《“記録の間”が更新されました》

 スキルと日常が、ゆっくりと、でも確かに重なり始めている。
 麻衣の冒険は、まだ始まったばかりだ。


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