『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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69話『夢に現れた手紙と、つながる記憶』

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 ――夢の中、少年が泣いていた。

 机の前に座って、便箋に何かを書いている。手は震え、涙がぽたぽたと紙に落ちてにじんでいる。

 「どうして……届かなかったんだろう」  「本当は、お母さんに……ありがとうって言いたかっただけなのに……」

 少年の声が、麻衣の胸に染み入るように響いた。

 そして、目が覚めた。

 

 朝。いつものようにひなのを保育園へ送ってから、麻衣は少しだけ遠回りしてカフェに向かっていた。

 (あの夢……ただの夢とは思えない)

 夢に出てきた少年は、どこか見覚えがあった。実際に会ったことがあるわけではないのに、不思議と「知っている」ような気がする。

 (あの“泣きながら手紙を書いていた少年”は……誰?)

 スミレさんの言っていた“他人の感情を夢として見る”という話が、頭の中でぐるぐるしていた。

 

 その日、カフェのランチタイムが一段落したあと。
 カウンターでまかない用のコーヒーをいれていると、店長の千夏さんがぽつりと口にした。

 「そういえば、昨日の午後、郵便局の前で迷子の子を保護したってニュース、見た?」

 「えっ……迷子?」

 「うん。小学三年生の男の子でね。どうやら、手紙を出しにひとりで来たらしくて……」

 麻衣の中で、何かがカチッとつながった気がした。

 「……手紙、って……お母さん宛だったとか?」

 「そうそう。今はおばあちゃんと暮らしてるらしいけど、手紙には“もうすぐ命日だから、ちゃんと気持ちを届けたい”って」

 (まさか……)

 麻衣は、スマホを取り出した。

 スキルアプリの履歴から、“夢の中で見た感情の残響”を表示してみると――やはりあった。

 >■感情の記録
 >名前:不明(推定年齢:9歳)
 >内容:母への後悔と感謝、強い思念による共鳴
 >発信地点:近隣郵便局付近/昨日午後14:12

 (やっぱり……この子……)

 

 麻衣は、昼休憩の時間を使って、郵便局へ足を運んだ。
 受付の職員さんに事情を話し、個人情報に配慮しながらも「手紙を届けたい少年」について聞いてみた。

 「昨日の子ね。ちゃんとおばあちゃんがお迎えに来て、無事に帰ったよ。でもね、その子の手紙……ちょっとだけ読んじゃったのよ。表紙に『見えない誰かでも、届けてくれる人がいたらうれしい』って書いてあって」

 「……“届けてくれる人”……」

 もしかしてその言葉、“麻衣”を指してる……?

 いや、きっと本人は何も知らない。
 でも、スキルによって“気持ち”が麻衣の夢に届いたというだけで、どこかでその願いは伝わっていたのかもしれない。

 

 その日の夜。

 麻衣は、いつものように夕食の準備を終え、リビングで洗濯物をたたんでいた。

 すると、雄一がちょこんと隣に座ってきた。

 「今日、帰りにニュース見たよ。迷子の子が、お母さんに手紙書いたって話。ちょっと、胸にきたな」

 「……うん。私も、夢で見たの。その子のこと」

 「やっぱり……スキル?」

 「たぶんね。でも……すごくあたたかい夢だったよ」

 雄一はしばらく黙っていたけど、ふと手に持っていたプリンを麻衣の方へ差し出した。

 「お疲れさま。なんか分かんないけど、ありがとうな」

 「……うん、ありがとう。プリンのスキルも、また発動してた?」

 「そ、それは……まあ、ご褒美スキルということで……」

 そんな他愛ない会話を交わしながら、夜は更けていく。

 

 そしてその晩、麻衣はまた“夢”を見た。

 今度は、少年がにこにこしていた。
 手紙をポストに入れて、振り返って笑っていた。

 「ありがとう、誰かさん」

 声はふわりと、風のように響いた。

 ――その誰かが麻衣だとは知らないまま。

 けれど、ちゃんと気持ちは届いていた。


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