『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

文字の大きさ
73 / 138

70話『スキルの代償と、過去からの警告』

しおりを挟む
 「ねえ麻衣さん。最近、変な夢……見てない?」

 カフェの休憩時間、スミレさんがカウンター越しにふと尋ねてきた。

 「夢、ですか? ……あ、見ました。昨日の夜。誰かが“スキルに呑まれるな”って、言ってたような……」

 「やっぱり……」

 スミレさんの顔が、ふと陰った。
 普段は飄々とした彼女が、こんなふうに真剣な表情を見せるのは珍しい。

 

 「ねえ麻衣さん。スキルって、確かに“人を助ける”ものよ。でもね、使い方を間違えると……自分が飲み込まれることもあるの」

 「……どういうことですか?」

 麻衣は、手にしたカップをそっと置いた。

 

 「スキルって、“感情に触れる”ことが本質でしょう? それってつまり、人の心の奥深くに入り込むってこと。優しくて真面目な人ほど、自分のことを後回しにして、誰かの気持ちを“背負っちゃう”のよ」

 「……それって……スミレさんが?」

 「ええ。私も昔、似たようなスキルを使っていた。でもある日、気づいたら“自分の感情”が分からなくなってたの」

 スミレさんの言葉に、麻衣の心が揺れる。
 そういえば、最近――疲れてるはずなのに、それを感じにくくなっている気がしていた。

 

 「私ね、ある人を助けたくて、スキルを使いすぎたの。でも、その人の悩みを全部“感じ取る”ようになって……結果的に、関係が壊れたの。私がその人を“自分の理想”で縛ってたことに、後から気づいた」

 「……」

 「でも、麻衣さんなら大丈夫。ちゃんと“自分を大事にすること”を忘れなければ」

 スミレさんの目が、まっすぐに麻衣を見つめていた。

 

 その日の夜。

 家に帰ると、いつも通りひなのと悠翔がにぎやかに出迎えてくれた。

 「ママ、今日ね、ひかりのリボンの新しい色、見つけたのー!」

 「悠翔は理科の実験で、“においのする水”作ったんだって」

 「うん! くさかったー!」

 家族の声が響くリビング。
 当たり前のようでいて、かけがえのない日常。

 

 「ねえ麻衣、今日、スミレさんに会った?」

 雄一がふと問いかけてきた。

 「うん。ちょっと……大事な話をしたの」

 「そっか……無理してない?」

 「ううん。むしろ、スミレさんのおかげで“無理しないこと”の大切さに気づけたかも」

 そう言って笑う麻衣に、雄一も小さくうなずいた。

 

 夜。子どもたちが眠ったあと、麻衣はスマホを手に取った。

 スキルアプリに、いつもとは違うメッセージが浮かんでいた。


---

> 【警告】
スキルの共鳴値が基準を超過しています。
現在の共鳴率:68%
このまま継続使用を続けた場合、感情混線のリスクがあります。
適切な休息と自己認識が推奨されます。




---

 「……やっぱり、来てたんだ」

 それは“スキルが進化した”という証であると同時に、リスクのサインでもあった。

 だけど、麻衣はスマホを静かに閉じて、リビングのソファに深く腰を下ろした。

 「大丈夫。私は私。私であり続けるから」

 

 月の光がやわらかく差し込む窓辺。

 その夜、麻衣は久しぶりに夢を見なかった。

 ――それは、“スキル”が麻衣の中で、静かに落ち着きを取り戻した合図だったのかもしれない。


---
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...