『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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121話『夕暮れのざわめきと、見えない予感』

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 「ママー、ちょっとこれ見てー!」

 ひなのが駆け寄ってきたのは、いつもの夕方のリビング。
 悠翔が宿題を広げ、麻衣はキッチンで明日の準備中だった。

 「どうしたの? あら、珍しい虫?」

 「ううん、違うの。なんか、光ってたの。でもすぐ消えちゃった……ここ!」

 ひなのが指さしたのは、窓辺のカーテンのそば。

 「……うーん、静電気かホコリじゃないかなあ?」

 そう言いつつも、麻衣はなんとなく胸の奥に引っかかるものを感じた。
 光の“揺れ”――以前、スキルが共鳴した時と似た、うっすらした感覚。

 

 その晩。麻衣がスマホを手にすると、通知がひとつ表示されていた。

 《スキルセンサー:低レベル異常波動を感知/強度:0.4》

 「……なんだろ、これ。初めて見る反応」

 「ママ、なにかあったの?」

 ふと顔をのぞかせた悠翔に、麻衣はにっこり笑って画面を隠す。

 「ううん、大丈夫。ちょっとお天気アプリが騒いでるだけ」

 「ふーん。あ、じゃあ明日は傘持ってく」

 

 一方その頃――

 夜のバス停。人影の少ない街灯の下に、ひとりの女性が立っていた。
 静かにスマホを見つめるその人物は、スミレだった。

 「……この揺れ。やっぱり、誰かのスキルが共鳴してるわね」

 彼女のスマホには、こう表示されていた。

 《観測スキル:共鳴反応あり/特定プレイヤー:非アクティブ中》

 「今はまだ静か。でも、波は確実に近づいてる」

 ポケットから取り出したペンダントを、そっと握りしめる。

 (麻衣さん、気づくかな……)

 

 翌朝。

 麻衣はいつものように保育園にひなのを送り、小学校に悠翔を送り出してから、カフェへと向かった。

 「おはようございます~」

 「麻衣さん、今日ちょっと空がざわざわしてない?」

 出勤途中の高梨さんが、なんとなくそんなことをつぶやいた。

 「え? 空が?」

 「うん、いや、気のせいだと思うんだけどさ。なんか、空気がぴりっとしてるっていうか……」

 

 麻衣は笑ってうなずいた。

 「もしかして、それも“女の勘”かもですね」

 「うわ、やだー! 言ったそばから鳥肌たってきた!」

 二人でくすくす笑いながら別れたけれど、麻衣の心には、どこか落ち着かない感覚が残っていた。

 ――ひなのの見た“光”、スキル通知の波動、そしてスミレの沈黙。

 (……何かが、始まろうとしてる?)

 それが不安なものか、あるいは新しい出会いの前触れなのか――
 まだ、麻衣には分からなかった。


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