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132話『定着前夜、選ばれた者たち』
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定着まで、あと二日。
この“ゲーム”が、現実と完全に接続されるまでの猶予はわずかだった。
スキルを持つ者たちにとって、それは「選ぶ」猶予。
“スキルと共に歩む”か、“スキルのない世界に戻る”か。
ひとりひとりが、その答えを出さなければならなかった。
***
火曜日。午前十時。
プレイヤーたちには《最終確認のための仮想空間》へのアクセス権が解放された。
「定着前夜会議」と銘打たれたその空間に、主要プレイヤーたちが一堂に集められる。
姿を現したのは、全国の有力プレイヤー十数名。
スミレ、川島、そして麻衣も、もちろんその中にいた。
(まさか、私がこういう場に出る日が来るなんて……)
麻衣は周囲を見渡す。
スキルバトルで名を馳せた者、災害対応で注目された者、
行政と連携し「スキルガイドライン」の草案に関わった者。
どの顔も、自分よりずっと“すごい”ように思えた。
そんな中、ひとりの青年が中央に進み出た。
「はじめまして、“ナユタ”です。かつてスミレさんの前に現れた“設計者の代理”」
麻衣の胸が一瞬で強く締めつけられる。
確かに、彼は“ただの人間”には見えなかった。
どこか、非現実的な雰囲気――人の言葉で、人の理屈を話す、でもどこか“異質”。
「この空間は、君たちの意見を“観測”するために存在する。
最終定着にあたり、システムは君たちの選択を優先的に取り込む」
ナユタの目が、ひとりひとりに注がれる。
「では、問おう。――スキルのある世界に、進みますか?」
沈黙。
誰もが、その問いに答える重さを知っていた。
最初に口を開いたのは、スミレだった。
「私は……進む。
なぜなら、ここまでに得た“力”と“責任”を、投げ出せないから」
次に、川島。
「私も同じ。
最初は戸惑ったし、正直、スキルがなければもっと楽だったとも思う。
でも、今は……この力を“支え”にできる未来を信じたい」
いくつかの賛同の声が続く。
そして、麻衣の番が巡ってきた。
(私が……答えを出す番)
麻衣は、一度目を閉じる。
浮かぶのは、夫・雄一の優しい笑顔。
朝、ふざけ合いながら走っていく悠翔とひなのの姿。
(私はずっと、守りたかった。ただそれだけ)
目を開き、しっかりと前を向く。
「私は――“進みません”。
スキルがあってもなくても、私の日常は変わらない。
もしスキルがあれば、使うことはあるかもしれないけど……
私は、“何も持たなくても幸せになれる世界”を選びたい」
静寂。
その言葉に、いくつかの視線が揺れた。
反論はなかった。否定もなかった。
ただ、「確かにそれもひとつの正解だ」と、空間に深い共感が流れた。
ナユタは頷いた。
「記録しました。
すべての回答は、世界定着のバランスに反映されます」
そして、空間がゆっくりと解散に向かう中、ナユタは麻衣にだけ、こっそりと話しかけてきた。
「あなたのような“重くない選択”こそが、最も強く作用することがある。
おそらく、次の時代の鍵を握るのは……“余白を残した者たち”でしょう」
「余白……?」
「すべてを使い切らず、ただ“生きている”ということを肯定できる者。
それは、最強の“未来適応者”です」
ナユタの姿が霧のように消えていく。
その背を見送りながら、麻衣はふっと力を抜いた。
(私は……これで、よかった)
(何かを変えたとか、導いたとかじゃない。
ただ、私は私の“ままで”いた)
それが、どれだけ価値のあることだったか。
世界は、これから教えてくれるのだろう。
***
夜。自宅。
麻衣は、台所で洗い物をしている。
リビングからは、子どもたちの笑い声。雄一の優しい声。
何も変わらない。
でも、確かに“何かを超えた”。
その実感だけが、静かに胸の奥に灯っていた。
> 【スキル世界:最終通知】
定着準備完了
あと24時間で、世界は「選択された未来」へと移行します
---
この“ゲーム”が、現実と完全に接続されるまでの猶予はわずかだった。
スキルを持つ者たちにとって、それは「選ぶ」猶予。
“スキルと共に歩む”か、“スキルのない世界に戻る”か。
ひとりひとりが、その答えを出さなければならなかった。
***
火曜日。午前十時。
プレイヤーたちには《最終確認のための仮想空間》へのアクセス権が解放された。
「定着前夜会議」と銘打たれたその空間に、主要プレイヤーたちが一堂に集められる。
姿を現したのは、全国の有力プレイヤー十数名。
スミレ、川島、そして麻衣も、もちろんその中にいた。
(まさか、私がこういう場に出る日が来るなんて……)
麻衣は周囲を見渡す。
スキルバトルで名を馳せた者、災害対応で注目された者、
行政と連携し「スキルガイドライン」の草案に関わった者。
どの顔も、自分よりずっと“すごい”ように思えた。
そんな中、ひとりの青年が中央に進み出た。
「はじめまして、“ナユタ”です。かつてスミレさんの前に現れた“設計者の代理”」
麻衣の胸が一瞬で強く締めつけられる。
確かに、彼は“ただの人間”には見えなかった。
どこか、非現実的な雰囲気――人の言葉で、人の理屈を話す、でもどこか“異質”。
「この空間は、君たちの意見を“観測”するために存在する。
最終定着にあたり、システムは君たちの選択を優先的に取り込む」
ナユタの目が、ひとりひとりに注がれる。
「では、問おう。――スキルのある世界に、進みますか?」
沈黙。
誰もが、その問いに答える重さを知っていた。
最初に口を開いたのは、スミレだった。
「私は……進む。
なぜなら、ここまでに得た“力”と“責任”を、投げ出せないから」
次に、川島。
「私も同じ。
最初は戸惑ったし、正直、スキルがなければもっと楽だったとも思う。
でも、今は……この力を“支え”にできる未来を信じたい」
いくつかの賛同の声が続く。
そして、麻衣の番が巡ってきた。
(私が……答えを出す番)
麻衣は、一度目を閉じる。
浮かぶのは、夫・雄一の優しい笑顔。
朝、ふざけ合いながら走っていく悠翔とひなのの姿。
(私はずっと、守りたかった。ただそれだけ)
目を開き、しっかりと前を向く。
「私は――“進みません”。
スキルがあってもなくても、私の日常は変わらない。
もしスキルがあれば、使うことはあるかもしれないけど……
私は、“何も持たなくても幸せになれる世界”を選びたい」
静寂。
その言葉に、いくつかの視線が揺れた。
反論はなかった。否定もなかった。
ただ、「確かにそれもひとつの正解だ」と、空間に深い共感が流れた。
ナユタは頷いた。
「記録しました。
すべての回答は、世界定着のバランスに反映されます」
そして、空間がゆっくりと解散に向かう中、ナユタは麻衣にだけ、こっそりと話しかけてきた。
「あなたのような“重くない選択”こそが、最も強く作用することがある。
おそらく、次の時代の鍵を握るのは……“余白を残した者たち”でしょう」
「余白……?」
「すべてを使い切らず、ただ“生きている”ということを肯定できる者。
それは、最強の“未来適応者”です」
ナユタの姿が霧のように消えていく。
その背を見送りながら、麻衣はふっと力を抜いた。
(私は……これで、よかった)
(何かを変えたとか、導いたとかじゃない。
ただ、私は私の“ままで”いた)
それが、どれだけ価値のあることだったか。
世界は、これから教えてくれるのだろう。
***
夜。自宅。
麻衣は、台所で洗い物をしている。
リビングからは、子どもたちの笑い声。雄一の優しい声。
何も変わらない。
でも、確かに“何かを超えた”。
その実感だけが、静かに胸の奥に灯っていた。
> 【スキル世界:最終通知】
定着準備完了
あと24時間で、世界は「選択された未来」へと移行します
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