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131話『過去と未来のプレイヤーたち』
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六日後に迫る「世界の定着」――
それは、ただのゲームのアップデートなどではない。
スキルと共に生きると決めた者たちの、
その決断が“現実に織り込まれる”日だった。
***
月曜日の朝。
麻衣はいつものように朝食を作り、子どもたちを送り出す。
一見、何も変わらない日常。
けれどどこか、空気が澄みすぎているような感覚があった。
(これは……“定着の前兆”?)
ジワジワと、何かが満ちていく気配。
スキルを持つ者にしか感じ取れない、微細な違和感。
麻衣はスマホを手に取り、プレイヤー連絡用のグループチャットを開いた。
> 川島:おはよう。なんか空気違うよね
スミレ:感じてるの私だけじゃなかったか。多分“収束”が始まってる
川島:あとで話せる?
麻衣:うん。午後ならOK
***
午後二時。スミレの指定したカフェ。
平日の静かな店内で、麻衣、スミレ、川島の三人が集まっていた。
「スキル異常の波は、少し前から下火になってる」
スミレはそう言いながら、手元のノートパソコンを麻衣たちに見せる。
画面には、全国のプレイヤーの活動ログやエネルギー変動のグラフが表示されていた。
「理由は、“記録”の発動率。
麻衣たちの“未来選択記録”が安定して機能してるんだと思う」
「過去の判断が、他のプレイヤーに影響してるってこと?」
「そう。“正しい選択”を共有するっていう、いわば“模倣型の最適化”。
これは“設計者”の思想に近いわ」
「設計者……。やっぱり、いたんだよね?」
川島の目が細くなる。
「スキルはただの偶然じゃない。
誰かが“仕掛けた”もの。それも、かなり高度な意図を持って」
スミレは静かに頷いた。
「もともと私は、スキル発現初期の“0期プレイヤー”の一人だった。
一般配布の三ヶ月前に、ある人物から“選ばれた”の」
「え?」
「名前は……“ナユタ”。たぶん仮名。
でも彼は“これは世界の模擬実験だ”ってはっきり言ってた」
麻衣は息をのんだ。
「模擬……って、何を?」
「“スキルを通して、人類の社会進化を試す”って。
技術と倫理、感情と選択がどう交差するか、
それをリアルに測るシステムとして」
川島も驚いた様子だったが、すぐに表情を引き締めた。
「つまり、“ゲームの裏側”には、明確な意思がある」
「そう。そして――来る“最終定着”は、その“意思”の出力結果。
私たちがどう選んだか、どう支え合ったか。
それが“世界を書き換える”」
「……それって、怖くない?」
麻衣の声は震えていた。
「私たちが選んだものが、世界を変えるなんて。
もし、間違ってたら?」
「怖いよ。でも、だからこそ――麻衣たちが必要だった」
スミレはまっすぐに麻衣を見る。
「最初から特別じゃない、日常の中の“普通の人間”が、
このスキルと向き合って、守ってきた生活。
それこそが、一番リアルな“選択”だと思う」
麻衣は黙って頷いた。
(私は……ただ、家族を守りたかっただけだった)
(でも、それが“未来”を選んでいたんだ)
***
夜。帰宅した麻衣は、子どもたちを寝かせたあと、夫・雄一とソファに座っていた。
「スミレさんから聞いたの。“設計者”がいたって」
「……ああ」
雄一はうなずき、少し考え込む。
「たぶん、麻衣の感じてることは正しい。
でも、それ以上に“麻衣自身の選択”が正しいと、俺は思ってる」
「……どうして?」
「だって麻衣は、どんな時も“日常を壊さないこと”を一番にしてたから」
それは、特別な言葉ではなかった。
でも、麻衣の胸の奥を静かに満たしていく。
(私は、大それたことなんてしてない)
(けれど――)
そのとき、麻衣のスマホが振動した。
> 【スキル世界:最終通知】
あと48時間で、スキル世界は“選択した未来”へと定着します
プレイヤーは再確認のうえ、最終合意へ進んでください
麻衣は画面を見つめた。
(次で、すべてが決まる)
(そして――私たちの日常が、本当に“未来”になる)
---
それは、ただのゲームのアップデートなどではない。
スキルと共に生きると決めた者たちの、
その決断が“現実に織り込まれる”日だった。
***
月曜日の朝。
麻衣はいつものように朝食を作り、子どもたちを送り出す。
一見、何も変わらない日常。
けれどどこか、空気が澄みすぎているような感覚があった。
(これは……“定着の前兆”?)
ジワジワと、何かが満ちていく気配。
スキルを持つ者にしか感じ取れない、微細な違和感。
麻衣はスマホを手に取り、プレイヤー連絡用のグループチャットを開いた。
> 川島:おはよう。なんか空気違うよね
スミレ:感じてるの私だけじゃなかったか。多分“収束”が始まってる
川島:あとで話せる?
麻衣:うん。午後ならOK
***
午後二時。スミレの指定したカフェ。
平日の静かな店内で、麻衣、スミレ、川島の三人が集まっていた。
「スキル異常の波は、少し前から下火になってる」
スミレはそう言いながら、手元のノートパソコンを麻衣たちに見せる。
画面には、全国のプレイヤーの活動ログやエネルギー変動のグラフが表示されていた。
「理由は、“記録”の発動率。
麻衣たちの“未来選択記録”が安定して機能してるんだと思う」
「過去の判断が、他のプレイヤーに影響してるってこと?」
「そう。“正しい選択”を共有するっていう、いわば“模倣型の最適化”。
これは“設計者”の思想に近いわ」
「設計者……。やっぱり、いたんだよね?」
川島の目が細くなる。
「スキルはただの偶然じゃない。
誰かが“仕掛けた”もの。それも、かなり高度な意図を持って」
スミレは静かに頷いた。
「もともと私は、スキル発現初期の“0期プレイヤー”の一人だった。
一般配布の三ヶ月前に、ある人物から“選ばれた”の」
「え?」
「名前は……“ナユタ”。たぶん仮名。
でも彼は“これは世界の模擬実験だ”ってはっきり言ってた」
麻衣は息をのんだ。
「模擬……って、何を?」
「“スキルを通して、人類の社会進化を試す”って。
技術と倫理、感情と選択がどう交差するか、
それをリアルに測るシステムとして」
川島も驚いた様子だったが、すぐに表情を引き締めた。
「つまり、“ゲームの裏側”には、明確な意思がある」
「そう。そして――来る“最終定着”は、その“意思”の出力結果。
私たちがどう選んだか、どう支え合ったか。
それが“世界を書き換える”」
「……それって、怖くない?」
麻衣の声は震えていた。
「私たちが選んだものが、世界を変えるなんて。
もし、間違ってたら?」
「怖いよ。でも、だからこそ――麻衣たちが必要だった」
スミレはまっすぐに麻衣を見る。
「最初から特別じゃない、日常の中の“普通の人間”が、
このスキルと向き合って、守ってきた生活。
それこそが、一番リアルな“選択”だと思う」
麻衣は黙って頷いた。
(私は……ただ、家族を守りたかっただけだった)
(でも、それが“未来”を選んでいたんだ)
***
夜。帰宅した麻衣は、子どもたちを寝かせたあと、夫・雄一とソファに座っていた。
「スミレさんから聞いたの。“設計者”がいたって」
「……ああ」
雄一はうなずき、少し考え込む。
「たぶん、麻衣の感じてることは正しい。
でも、それ以上に“麻衣自身の選択”が正しいと、俺は思ってる」
「……どうして?」
「だって麻衣は、どんな時も“日常を壊さないこと”を一番にしてたから」
それは、特別な言葉ではなかった。
でも、麻衣の胸の奥を静かに満たしていく。
(私は、大それたことなんてしてない)
(けれど――)
そのとき、麻衣のスマホが振動した。
> 【スキル世界:最終通知】
あと48時間で、スキル世界は“選択した未来”へと定着します
プレイヤーは再確認のうえ、最終合意へ進んでください
麻衣は画面を見つめた。
(次で、すべてが決まる)
(そして――私たちの日常が、本当に“未来”になる)
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