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135話『それでも、明日は来るから』
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目覚めた瞬間、柔らかな朝日がカーテン越しに差し込んでいた。
麻衣は静かにまぶたを開き、隣に眠る雄一と、足元にくっついて眠るひなのの姿に目を細める。
(ああ、今日もちゃんと“日常”だ)
それだけで、心があたたかくなる。
スキルが消えても、変わらないものがここにある。いや、変わらなかったのではなく、守ると決めたから、ここにある。
静かに布団を抜け出すと、台所で湯を沸かし、コーヒーを淹れる。
その手つきはもう慣れたもので、以前のような“時短スキル”も“焦げ防止スキル”も使わない。けれど、失敗しても不思議と楽しめるようになっていた。
やがて聞こえてくる、家族の足音。
ひなのがぱたぱたと駆け寄ってきて、麻衣に抱きつく。
「ママ~、きょう、なにか“ピカピカ”する~?」
「ふふっ、今日は普通の朝ごはん。でも、ピカピカのお天気だよ」
「そっかぁ。じゃあ、ピカピカ気分でいく!」
そう言ってぴょんとジャンプする娘の笑顔。
それだけで、心がふわっと軽くなる。
***
朝食を終えたあと、雄一が新聞を閉じながら、静かに言った。
「俺……しばらく、本社勤務になった。しばらく出張もない」
「えっ、ほんと?」
「うん。いろいろあったし……家庭を大事にしたい、って。ちゃんと上にも話したよ。俺も選んだんだ、これからの在り方」
「……ありがとう。すっごく嬉しい」
麻衣は思わず抱きついて、ひなのが「きゃー」と笑って逃げていく。
(スキルじゃなく、言葉で通じ合うって、こんなに嬉しいことなんだ)
ふと、スマホが震えた。
表示された名前は――“スミレ”。
> 【スミレ】
全スキルの再定義、完了しました。
必要とされるスキルは、必要な人に。
麻衣さんには、最終的に“生活支援スキル(非定着型)”が残されました。
ご家族も、ごく弱く影響を受けています。
たとえば、“あたたかくなる笑顔”や“疲れを癒す手のひら”など。
> 【麻衣】
……それって、もはやスキルって言わないような……
> 【スミレ】
ええ。でも、スキルの始まりは、きっと“そういう気持ち”だったんじゃないかと。
だから、これは“原点”に戻る形です。
麻衣はスマホを見つめたまま、ふわっと笑う。
> 【麻衣】
そうだね。じゃあ、最後にひとつだけお願いしてもいい?
> 【スミレ】
もちろん。
> 【麻衣】
誰かの“優しさ”が、ちゃんと届く世界にして。
> 【スミレ】
……了解。
システムログ:願い、記録。
それはもう、始まっている。
***
その日、麻衣は家族でピクニックに出かけた。
スキルがなくても、天気は良くて、おにぎりは美味しくて、風が気持ちよくて、娘の笑い声が青空に吸い込まれていった。
悠翔は四つ葉のクローバーを見つけ、得意げに見せた。
「これ、なんかスキル的なやつ出たりしない?」
「残念、もうそういうのはないよ。……でも、それでも、嬉しいね」
「ふーん。ま、オレはこれで“しあわせ”ってことにする」
そう言ってポケットにしまう悠翔の笑顔に、麻衣はそっと手を伸ばす。
(あなたたちと生きていけるなら、私はもう、それだけでいい)
***
夜。
家族が眠りについたあと、麻衣はリビングのソファに腰掛け、最後の記録を見つめていた。
スキルアプリの画面。そこにはこう書かれていた。
---
《生活支援スキル・非定着型》
・小さな幸せを感じやすくなります
・笑顔が誰かを元気にします
・手を差し伸べる勇気が持てます
・大切な人と過ごす時間が、少しだけ特別になります
(これらの効果は、本人が意識せずとも自然に発揮されます)
※このスキルは「世界そのもの」の一部に変換されました。
あなたの人生は、あなた自身の力で歩んでください。
---
画面が、静かに消えた。
麻衣はそっとスマホを伏せ、天井を見上げる。
(ねえ、スキルさん。……ありがとう)
もう、願いは伝えたから。
そして、明日もちゃんと来る。
きっと昨日より少しだけ、優しい世界で。
---
《完》
---
麻衣は静かにまぶたを開き、隣に眠る雄一と、足元にくっついて眠るひなのの姿に目を細める。
(ああ、今日もちゃんと“日常”だ)
それだけで、心があたたかくなる。
スキルが消えても、変わらないものがここにある。いや、変わらなかったのではなく、守ると決めたから、ここにある。
静かに布団を抜け出すと、台所で湯を沸かし、コーヒーを淹れる。
その手つきはもう慣れたもので、以前のような“時短スキル”も“焦げ防止スキル”も使わない。けれど、失敗しても不思議と楽しめるようになっていた。
やがて聞こえてくる、家族の足音。
ひなのがぱたぱたと駆け寄ってきて、麻衣に抱きつく。
「ママ~、きょう、なにか“ピカピカ”する~?」
「ふふっ、今日は普通の朝ごはん。でも、ピカピカのお天気だよ」
「そっかぁ。じゃあ、ピカピカ気分でいく!」
そう言ってぴょんとジャンプする娘の笑顔。
それだけで、心がふわっと軽くなる。
***
朝食を終えたあと、雄一が新聞を閉じながら、静かに言った。
「俺……しばらく、本社勤務になった。しばらく出張もない」
「えっ、ほんと?」
「うん。いろいろあったし……家庭を大事にしたい、って。ちゃんと上にも話したよ。俺も選んだんだ、これからの在り方」
「……ありがとう。すっごく嬉しい」
麻衣は思わず抱きついて、ひなのが「きゃー」と笑って逃げていく。
(スキルじゃなく、言葉で通じ合うって、こんなに嬉しいことなんだ)
ふと、スマホが震えた。
表示された名前は――“スミレ”。
> 【スミレ】
全スキルの再定義、完了しました。
必要とされるスキルは、必要な人に。
麻衣さんには、最終的に“生活支援スキル(非定着型)”が残されました。
ご家族も、ごく弱く影響を受けています。
たとえば、“あたたかくなる笑顔”や“疲れを癒す手のひら”など。
> 【麻衣】
……それって、もはやスキルって言わないような……
> 【スミレ】
ええ。でも、スキルの始まりは、きっと“そういう気持ち”だったんじゃないかと。
だから、これは“原点”に戻る形です。
麻衣はスマホを見つめたまま、ふわっと笑う。
> 【麻衣】
そうだね。じゃあ、最後にひとつだけお願いしてもいい?
> 【スミレ】
もちろん。
> 【麻衣】
誰かの“優しさ”が、ちゃんと届く世界にして。
> 【スミレ】
……了解。
システムログ:願い、記録。
それはもう、始まっている。
***
その日、麻衣は家族でピクニックに出かけた。
スキルがなくても、天気は良くて、おにぎりは美味しくて、風が気持ちよくて、娘の笑い声が青空に吸い込まれていった。
悠翔は四つ葉のクローバーを見つけ、得意げに見せた。
「これ、なんかスキル的なやつ出たりしない?」
「残念、もうそういうのはないよ。……でも、それでも、嬉しいね」
「ふーん。ま、オレはこれで“しあわせ”ってことにする」
そう言ってポケットにしまう悠翔の笑顔に、麻衣はそっと手を伸ばす。
(あなたたちと生きていけるなら、私はもう、それだけでいい)
***
夜。
家族が眠りについたあと、麻衣はリビングのソファに腰掛け、最後の記録を見つめていた。
スキルアプリの画面。そこにはこう書かれていた。
---
《生活支援スキル・非定着型》
・小さな幸せを感じやすくなります
・笑顔が誰かを元気にします
・手を差し伸べる勇気が持てます
・大切な人と過ごす時間が、少しだけ特別になります
(これらの効果は、本人が意識せずとも自然に発揮されます)
※このスキルは「世界そのもの」の一部に変換されました。
あなたの人生は、あなた自身の力で歩んでください。
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画面が、静かに消えた。
麻衣はそっとスマホを伏せ、天井を見上げる。
(ねえ、スキルさん。……ありがとう)
もう、願いは伝えたから。
そして、明日もちゃんと来る。
きっと昨日より少しだけ、優しい世界で。
---
《完》
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