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あなたの正しい時間になりたい
彼は誰のもの
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公園をランニングしながら柏木は最近の自分の行動を猛省していた。
澪緒の件だ。
どう考えても深入りしなくていい部分にまで首を突っ込んでいる自分を自覚せざるを得なかったからだ。
公の自分がなすべきことと、個の自分がしてやりたいことが完全に混在している。
一昨日、初めて澁澤を抱いた。
可憐な澁澤も抱きしめてみれば多少手荒に攻めてもびくともしなさそうな頑丈な男の身体を持っていた。
女の柔らかくか細い体とは雲泥の差。
これならヒートアップする危険性も無さそうだと安心して脱がしてみれば、球体関節人形のような真っ白で完璧な裸体が現れた。
柏木の前で一糸纏わぬ姿になり恥ずかしそうに俯く澪緒のまぶたには長いまつ毛がびっしりと生えていた。
一朝一夕では手に入らない美しい体は男に抱かれるためケアされているであろう質感で、全体的に色素が薄いのと相まって本物の人形のようだった。
体の芯が煮えたぎり、腹を空かせた猛獣のように澪緒の体をを執拗に責めた。
澪緒の方も途中で理性を投げ捨てたのか、自ら脚を開いて挿入を懇願してきた。
頭がカッと熱くなった。
こんな姿を、副島の前で晒しているのか?
あんな男なんか忘れろ。
俺がお前の今までの経験を完全消去してやる。
そう思ってふたりの激しい情事にどんどん溺れていったのは、紛れもなく柏木自身の方だった。
澪緒が途中、柏木にまたがって腰を振ってきた時。
あまりにも澪緒とのセックスが最高で、
自分のミッションなんてどうでもよくなった。
「ハァ、ハァ」
息が乱れてゆっくり立ち止まる。
澁澤を虜にできた手ごたえはあった。
でもーー自分自身も、澁澤の虜になってる。
「クソッ」
小雨が降ってきたのでランニングを早めに切り上げる。帰宅してバスルームへ直行しトレーニングウェアを洗濯機に放り込む。
裸になって熱めのシャワーを頭から浴びる。
普段ならここでリセットできるはずなのに、気持ちは散り散りに乱れたまま飛散していく。
否定すれば抑制された気持ちが爆発する。もう認めたらどうだ、自分。
手で顔を覆い、水しぶきをあげながら乱暴に洗う。
ーー俺は澪緒を、愛してしまった。
途中までは自分に余裕があった。それこそ『営業とデザイナーは一心同体』という名にふさわしいメンタルでいられた。
心根の真っ直ぐな澁澤を副島と別れさせて真っ当な道へ戻してやりたいという個の気持ちと、その手段のひとつとして上からの命令である澁澤を抱く、という業務を利用してやろうという公の気持ち。
それが完全に分離できていたのに。
澁澤は少しずつ自分の心に浸食してきた。
『お前の愛は…今だけのものじゃないよな?信じていいのか?』
昨日澪緒にそう聞かれた時、今までどんな修羅場をくぐっても感じることのなかった罪の意識を感じた。
大きな破綻が訪れる前に、襟元を正さなければ。
澪緒を愛してる。
でもお前のターゲットは副島だ。
澪緒じゃない。
柏木は自分にそう言い聞かせる。
リビングに出ると窓の向こうからいつもの愛しい声が聞こえてきた。
「ニャー」
ベランダに続く窓を開ける。
「おはよう。久しぶりだな。雨が降ってきたから雨宿りしていけ。いまミルクを…」
窓を開けてしゃがんだところで気づく。
こないだまでの彼には無かったはずの、印。
ふわふわの首につけられたターコイズブルーの首輪。
「お前…誰かに飼われたのか?」
「ニャンニャン」
前足が床をトントンする。
「失礼。ミルクだな。待ってろ」
ほぼ空っぽの冷蔵庫から牛乳を取り出し野良猫の前に出す。
新品らしき首輪をまじまじと見る。
野良猫の体の色に映えるターコイズブルー。金の金具が上品に輝く。
この首輪を選んだ人間のセンスの良さと愛を感じる。
「幸せな飼い主に出会ったな」
「ニャン!」
「お前もそう思うか」
こうやって、自分の欲しいものは自分の手から離れていく。
当然だ。この世と最小限の関わりで生きようとしてるんだから。相手にもそれは伝わるだろう。
「…ミオ」
「ニャア?」
「お前の名前だ。俺はミオと呼んでいいか?」
「ニャー」
ミオはミルクを飲むと屋根の下で目を閉じて休み始めた。
柏木は出社すべく立ち上がる。
フレックス制度の有川デザインオフィスは8、9時台に出社してる社員は稀だ。
今の時間から行けば1時間ほど人の目を気にせずにデータベースにアクセスできる。
ベランダの窓を閉める前にもう一度ミオを見る。
「ミオ、お前は誰のものだ?」
「ニャア?」
「分からないか…いいんだ。お前は好きなだけそこにいろ」
ミオは返事をせず一度だけ柏木を見て、また目を閉じた。
澪緒の件だ。
どう考えても深入りしなくていい部分にまで首を突っ込んでいる自分を自覚せざるを得なかったからだ。
公の自分がなすべきことと、個の自分がしてやりたいことが完全に混在している。
一昨日、初めて澁澤を抱いた。
可憐な澁澤も抱きしめてみれば多少手荒に攻めてもびくともしなさそうな頑丈な男の身体を持っていた。
女の柔らかくか細い体とは雲泥の差。
これならヒートアップする危険性も無さそうだと安心して脱がしてみれば、球体関節人形のような真っ白で完璧な裸体が現れた。
柏木の前で一糸纏わぬ姿になり恥ずかしそうに俯く澪緒のまぶたには長いまつ毛がびっしりと生えていた。
一朝一夕では手に入らない美しい体は男に抱かれるためケアされているであろう質感で、全体的に色素が薄いのと相まって本物の人形のようだった。
体の芯が煮えたぎり、腹を空かせた猛獣のように澪緒の体をを執拗に責めた。
澪緒の方も途中で理性を投げ捨てたのか、自ら脚を開いて挿入を懇願してきた。
頭がカッと熱くなった。
こんな姿を、副島の前で晒しているのか?
あんな男なんか忘れろ。
俺がお前の今までの経験を完全消去してやる。
そう思ってふたりの激しい情事にどんどん溺れていったのは、紛れもなく柏木自身の方だった。
澪緒が途中、柏木にまたがって腰を振ってきた時。
あまりにも澪緒とのセックスが最高で、
自分のミッションなんてどうでもよくなった。
「ハァ、ハァ」
息が乱れてゆっくり立ち止まる。
澁澤を虜にできた手ごたえはあった。
でもーー自分自身も、澁澤の虜になってる。
「クソッ」
小雨が降ってきたのでランニングを早めに切り上げる。帰宅してバスルームへ直行しトレーニングウェアを洗濯機に放り込む。
裸になって熱めのシャワーを頭から浴びる。
普段ならここでリセットできるはずなのに、気持ちは散り散りに乱れたまま飛散していく。
否定すれば抑制された気持ちが爆発する。もう認めたらどうだ、自分。
手で顔を覆い、水しぶきをあげながら乱暴に洗う。
ーー俺は澪緒を、愛してしまった。
途中までは自分に余裕があった。それこそ『営業とデザイナーは一心同体』という名にふさわしいメンタルでいられた。
心根の真っ直ぐな澁澤を副島と別れさせて真っ当な道へ戻してやりたいという個の気持ちと、その手段のひとつとして上からの命令である澁澤を抱く、という業務を利用してやろうという公の気持ち。
それが完全に分離できていたのに。
澁澤は少しずつ自分の心に浸食してきた。
『お前の愛は…今だけのものじゃないよな?信じていいのか?』
昨日澪緒にそう聞かれた時、今までどんな修羅場をくぐっても感じることのなかった罪の意識を感じた。
大きな破綻が訪れる前に、襟元を正さなければ。
澪緒を愛してる。
でもお前のターゲットは副島だ。
澪緒じゃない。
柏木は自分にそう言い聞かせる。
リビングに出ると窓の向こうからいつもの愛しい声が聞こえてきた。
「ニャー」
ベランダに続く窓を開ける。
「おはよう。久しぶりだな。雨が降ってきたから雨宿りしていけ。いまミルクを…」
窓を開けてしゃがんだところで気づく。
こないだまでの彼には無かったはずの、印。
ふわふわの首につけられたターコイズブルーの首輪。
「お前…誰かに飼われたのか?」
「ニャンニャン」
前足が床をトントンする。
「失礼。ミルクだな。待ってろ」
ほぼ空っぽの冷蔵庫から牛乳を取り出し野良猫の前に出す。
新品らしき首輪をまじまじと見る。
野良猫の体の色に映えるターコイズブルー。金の金具が上品に輝く。
この首輪を選んだ人間のセンスの良さと愛を感じる。
「幸せな飼い主に出会ったな」
「ニャン!」
「お前もそう思うか」
こうやって、自分の欲しいものは自分の手から離れていく。
当然だ。この世と最小限の関わりで生きようとしてるんだから。相手にもそれは伝わるだろう。
「…ミオ」
「ニャア?」
「お前の名前だ。俺はミオと呼んでいいか?」
「ニャー」
ミオはミルクを飲むと屋根の下で目を閉じて休み始めた。
柏木は出社すべく立ち上がる。
フレックス制度の有川デザインオフィスは8、9時台に出社してる社員は稀だ。
今の時間から行けば1時間ほど人の目を気にせずにデータベースにアクセスできる。
ベランダの窓を閉める前にもう一度ミオを見る。
「ミオ、お前は誰のものだ?」
「ニャア?」
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ミオは返事をせず一度だけ柏木を見て、また目を閉じた。
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