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あなたの正しい時間になりたい
お仕事の時間です
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「どうしよー!全然思い通りの色が出てないぃぃぃ」
中堅広告代理店・有川デザインオフィス制作室所属のデザイナー・可愛い系男子の澁澤澪緒の断末魔が響き渡る。
作業机に広げられたポスターの色校正。そこに印刷されているのは3人組の女性ポップアイドル『Lustre』。
本番の印刷の前にデザイナーのイメージ通りに色が出ているか確認するための試し刷りであるその「色校正」の前で澁澤はトレードマークの金髪の頭を抱えくりっとした二重の目に涙を浮かべて絶望していた。
「すみません、やはりシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のCMYKの4色では色の再現に限界がありまして」
色校正を持ってきてくれた島村印刷の夏目が申し訳なさそうに説明する。
「いえいえいえいえ夏目さんが悪いんじゃありません、色と紙の知識が足りない俺が悪いんです。モニタで見る色と実際印刷して出てくる色が違うのは基本中の基本ですし、紙の性質全然調べずクライアントの要望のままに紙指定しちゃいました。お前新人みたいなミスしてんなよって感じです。悪いのは俺ですぅ…」
ああ。それにしてもどうしよう。
澪緒はプレッシャーで吐きそうになる。
今回、澪緒が担当しているのはLustreの衣装展のポスター。
3人それぞれのイメージに合わせた同色・別デザインの衣装のポイントになっている鮮やかな青の模様。
その青が、澪緒の頭の中でイメージしていた鮮やかな青になっていない。
なんというか、沈んで見えるのだ。
こんなんでクライアントOKが出る訳がない。というか、とてもじゃないけどこの色校正をクライアントに見せられない。
澪緒の絶叫を聞いてデザイナーの先輩の井上と本案件の担当営業の西脇も作業室に入ってきた。
そして色校正を見て開口一番、言った。
「死相がでてる」
澪緒の先輩二人の声がハモった。やはりそう見えるか。
「でもどうしよう…これ、なんとか鮮やかになります?」
「まず指定されたこの紙が問題です。クライアント様の要望でこの紙を選んでいただきましたが、この紙質はインクを吸うからどうしても色が沈んで出てくるんです。画像の色調整をするか、やはりビビットな色を出すにはコート紙が無難かと思います。あとは衣装の青の部分だけ青の特色を入れるとか」
澪緒は神を見るような目で夏目を見た。
「青の特色!?」
「はい。この青の模様だけに蛍光の青をのせるんです」
「特色って、写真にも部分使いできるんですか?」
「できます。たぶん紙をコート紙に変更して特色をのせればガラリと色の出方が変わると思います。あとは、クライアント様が紙の質感にどこまでこだわりをお持ちかが問題ですね」
これは営業の西脇に向かって放たれた言葉。
ここからは営業の交渉力にかかってくる部分。
「澁澤さんはどうするのがいいと思います?」
西脇は迷いなく澪緒の意見を尊重する方向のようだった。
「ビビットで少し機械的に見えた方がLustreの曲のイメージとも合ってる気がします。あと、デザインの衣装的にも。俺的には特色プラスコート紙でいきたいです」
「夏目さん、金額はどう変わります?」
「コート紙の方が安いですから紙代は下がりますが特色のインクが1つ追加になるのでその分金額が上がります。再見積もりになりますが、予算内に収まると思いますよ」
「よし。じゃあ、ちょっと特色プラスコート紙、担当者に提案してくる」
西脇が作業室を出ていく。
「立て…!立つんだ澁澤、とりあえず特色の色決めよ?そしてその色番号、夏目さんに明日中に連絡しよ?」
「そうしていただけると幸いです」
夏目が深々とお辞儀をする。
そうだよな。納期迫ってるもんな。
灰になりかけた澪緒はそう思い直してようやく立ち上がる。
「はい…みなさんごめんなさい…そしてこんなクソ野郎に知識を授けてくださってありがとうございます…」
華やかなイメージがある、グラフィックデザイナーという職業。
それは意外にも日々心臓が止まるようなアクシデントの連続で、華やかどころか、体育会系並みのメンタルの強さが要求される職業なのであった。
「はぁ…」
生きた心地がしないまま澪緒がデスクに戻るとスマホの通知が目に入った。
『今日の色校、どうだった?俺的にはやっぱり紙をコート紙に変えた方がいいと思ったんだが』
「ぐふふふふ」
さすが副島さん。こんな事態は想定の範囲内だったか。
「どうした?」
「あっ、いえいえ、なんでもないです」
澪緒は慌てて不倫相手からのメッセージが表示されたスマホを裏返し、特色の色チップを選び始めた。
中堅広告代理店・有川デザインオフィス制作室所属のデザイナー・可愛い系男子の澁澤澪緒の断末魔が響き渡る。
作業机に広げられたポスターの色校正。そこに印刷されているのは3人組の女性ポップアイドル『Lustre』。
本番の印刷の前にデザイナーのイメージ通りに色が出ているか確認するための試し刷りであるその「色校正」の前で澁澤はトレードマークの金髪の頭を抱えくりっとした二重の目に涙を浮かべて絶望していた。
「すみません、やはりシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のCMYKの4色では色の再現に限界がありまして」
色校正を持ってきてくれた島村印刷の夏目が申し訳なさそうに説明する。
「いえいえいえいえ夏目さんが悪いんじゃありません、色と紙の知識が足りない俺が悪いんです。モニタで見る色と実際印刷して出てくる色が違うのは基本中の基本ですし、紙の性質全然調べずクライアントの要望のままに紙指定しちゃいました。お前新人みたいなミスしてんなよって感じです。悪いのは俺ですぅ…」
ああ。それにしてもどうしよう。
澪緒はプレッシャーで吐きそうになる。
今回、澪緒が担当しているのはLustreの衣装展のポスター。
3人それぞれのイメージに合わせた同色・別デザインの衣装のポイントになっている鮮やかな青の模様。
その青が、澪緒の頭の中でイメージしていた鮮やかな青になっていない。
なんというか、沈んで見えるのだ。
こんなんでクライアントOKが出る訳がない。というか、とてもじゃないけどこの色校正をクライアントに見せられない。
澪緒の絶叫を聞いてデザイナーの先輩の井上と本案件の担当営業の西脇も作業室に入ってきた。
そして色校正を見て開口一番、言った。
「死相がでてる」
澪緒の先輩二人の声がハモった。やはりそう見えるか。
「でもどうしよう…これ、なんとか鮮やかになります?」
「まず指定されたこの紙が問題です。クライアント様の要望でこの紙を選んでいただきましたが、この紙質はインクを吸うからどうしても色が沈んで出てくるんです。画像の色調整をするか、やはりビビットな色を出すにはコート紙が無難かと思います。あとは衣装の青の部分だけ青の特色を入れるとか」
澪緒は神を見るような目で夏目を見た。
「青の特色!?」
「はい。この青の模様だけに蛍光の青をのせるんです」
「特色って、写真にも部分使いできるんですか?」
「できます。たぶん紙をコート紙に変更して特色をのせればガラリと色の出方が変わると思います。あとは、クライアント様が紙の質感にどこまでこだわりをお持ちかが問題ですね」
これは営業の西脇に向かって放たれた言葉。
ここからは営業の交渉力にかかってくる部分。
「澁澤さんはどうするのがいいと思います?」
西脇は迷いなく澪緒の意見を尊重する方向のようだった。
「ビビットで少し機械的に見えた方がLustreの曲のイメージとも合ってる気がします。あと、デザインの衣装的にも。俺的には特色プラスコート紙でいきたいです」
「夏目さん、金額はどう変わります?」
「コート紙の方が安いですから紙代は下がりますが特色のインクが1つ追加になるのでその分金額が上がります。再見積もりになりますが、予算内に収まると思いますよ」
「よし。じゃあ、ちょっと特色プラスコート紙、担当者に提案してくる」
西脇が作業室を出ていく。
「立て…!立つんだ澁澤、とりあえず特色の色決めよ?そしてその色番号、夏目さんに明日中に連絡しよ?」
「そうしていただけると幸いです」
夏目が深々とお辞儀をする。
そうだよな。納期迫ってるもんな。
灰になりかけた澪緒はそう思い直してようやく立ち上がる。
「はい…みなさんごめんなさい…そしてこんなクソ野郎に知識を授けてくださってありがとうございます…」
華やかなイメージがある、グラフィックデザイナーという職業。
それは意外にも日々心臓が止まるようなアクシデントの連続で、華やかどころか、体育会系並みのメンタルの強さが要求される職業なのであった。
「はぁ…」
生きた心地がしないまま澪緒がデスクに戻るとスマホの通知が目に入った。
『今日の色校、どうだった?俺的にはやっぱり紙をコート紙に変えた方がいいと思ったんだが』
「ぐふふふふ」
さすが副島さん。こんな事態は想定の範囲内だったか。
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