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Main story ¦ リシェル
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まともな人間であれば、死んだ人間が生き返るはずなどないことくらい分かるはずだ。けれどアルベルトは、少しも疑いはしなかった。周りの人間が唖然としてしまうほど。彼はすんなりと受け入れてしまった。それどころか、“姉”に扮した私を一目見るなり、彼は端正な顔を嬉しそうに綻ばせ、
――どこへ遊びに行っていたんだい? 心配したんだよ。
と言って、見守っていた人々の心を凍りつかせた。何もかもがぐちゃぐちゃに狂ってしまった彼の中では、姉は死んだのではなく、ふらりとどこかへ遊びに出かけたことにすり替わっていたのだ。いつの間にか。いや、それは正にあの瞬間にそうなったのだろう、と、今ならば分かる。そうすることで、“死人が生き返った”という普通ではあり得ない事実を、何の違和感もない、ごくありふれた日常のひとつとして、呑み込めるようにしたのだ。恐らくは本能的に。
アルベルトの為に、ひいては侯爵家の為に、姉の身代わりとなってほしい――。そう頼まれた時の、地獄に突き落とされたような絶望と、安堵にも似た諦念。可愛がっていた娘の死と、まるで我が子のように大事にしていた娘婿の豹変に打ち拉がれ、憐れになるほど弱りきってしまった両親を前に、私はただ頷くことしか出来なかった。断る道などそもそも初めから存在しないのだ、と、よくよく分かっていたから。
身代わりなんて馬鹿げている、と怒る人もいたけれど。考え直せ、と何度言われただろう。死んだ人間はもうどこにもいないんだ、と何度言われただろう。その憤りはもっともだと頭の片隅で思いつつ、でも私の心はもう既に決まっていた。どんなに批判をされようとも。他に何を言われようとも。私の決意は、少しも揺るがないほど固まっていた。
好きだったのだ。ずっと、ずっと。姉のことしか見ていないことも、姉のことしか愛していないのも理解していながら、それでもアルベルトのことが好きだった。愛していた。儚く散ってしまった初恋の欠片をひとつひとつ拾い集め、それをもう何年も、胸の奥底に大事に大事にしまっていた。二人の婚約が決まった時も、盛大に執り行われた結婚式の時も、そして、常に周囲へ幸福を溢れさせていた二人の、その愛し合う様を誰よりも一番近くで見ていた最中も。
だから私は、“姉”になることを受け入れた。壊れてしまった、初恋の人の為に。私は自らの意思で、“オリヴィア・モランディーヌ”になることを選んだ。そしてその瞬間、この世から消えたのは姉ではなく、妹の“リシェル・モランディーヌ”になったのだった。あくまでも、私たちの歪んだ関係の中では。
――どこへ遊びに行っていたんだい? 心配したんだよ。
と言って、見守っていた人々の心を凍りつかせた。何もかもがぐちゃぐちゃに狂ってしまった彼の中では、姉は死んだのではなく、ふらりとどこかへ遊びに出かけたことにすり替わっていたのだ。いつの間にか。いや、それは正にあの瞬間にそうなったのだろう、と、今ならば分かる。そうすることで、“死人が生き返った”という普通ではあり得ない事実を、何の違和感もない、ごくありふれた日常のひとつとして、呑み込めるようにしたのだ。恐らくは本能的に。
アルベルトの為に、ひいては侯爵家の為に、姉の身代わりとなってほしい――。そう頼まれた時の、地獄に突き落とされたような絶望と、安堵にも似た諦念。可愛がっていた娘の死と、まるで我が子のように大事にしていた娘婿の豹変に打ち拉がれ、憐れになるほど弱りきってしまった両親を前に、私はただ頷くことしか出来なかった。断る道などそもそも初めから存在しないのだ、と、よくよく分かっていたから。
身代わりなんて馬鹿げている、と怒る人もいたけれど。考え直せ、と何度言われただろう。死んだ人間はもうどこにもいないんだ、と何度言われただろう。その憤りはもっともだと頭の片隅で思いつつ、でも私の心はもう既に決まっていた。どんなに批判をされようとも。他に何を言われようとも。私の決意は、少しも揺るがないほど固まっていた。
好きだったのだ。ずっと、ずっと。姉のことしか見ていないことも、姉のことしか愛していないのも理解していながら、それでもアルベルトのことが好きだった。愛していた。儚く散ってしまった初恋の欠片をひとつひとつ拾い集め、それをもう何年も、胸の奥底に大事に大事にしまっていた。二人の婚約が決まった時も、盛大に執り行われた結婚式の時も、そして、常に周囲へ幸福を溢れさせていた二人の、その愛し合う様を誰よりも一番近くで見ていた最中も。
だから私は、“姉”になることを受け入れた。壊れてしまった、初恋の人の為に。私は自らの意思で、“オリヴィア・モランディーヌ”になることを選んだ。そしてその瞬間、この世から消えたのは姉ではなく、妹の“リシェル・モランディーヌ”になったのだった。あくまでも、私たちの歪んだ関係の中では。
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