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Main story ¦ リシェル
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魔法だ、と気付いた瞬間、柄を握り締めていた手に何かが触れた。冷え切った皮膚に、じんわりと沁み込むやさしいぬくもり。そのあたたかさに、何故だか無性に泣きたくなった。声をあげて、子どものように泣きじゃくってしまいたい、と。
昔、同じような衝動に駆られたことがある。あれは確か、私も姉もまだ十六歳だった頃で、場所はいつもピクニックで行く森の中だった。アルベルトに告白されたのだ、と、あの時私は、姉の口から聞かされたのだ。あの慎ましやかで愛らしい色をした、やわらかな唇で。湖の畔で友人と談笑しているアルベルトを眺めながら、とても幸福そうに微笑んで。
その後のことを、私はなにひとつ憶えていない。気付いた時には森の中のどこかにいて、太く立派な幹をした欅の根本に蹲っていた。自分自身を抱き締める様に組んだ腕の中に、深く顔を埋めて。
そんな私を見つけてくれたのは、姉でもアルベルトでもなく、友人だった。友人の、ルシウス・ヴァレンティ。彼は私の傍に膝をつくと、深く溜息を吐き出しながら、多分やれやれと肩を竦めたのだと思う。馬鹿だな、と言うみたいに。実際、そんなことを言われたような気もする。はっきりとは憶えていないけれど。あの時の私は、頑なだった。頑なに、外の世界の全てを拒もうとしていた。分厚い殻に閉じ籠もって。ルシウスさえも遠ざけようと。
けれど彼は、その殻をこじ開けた。頭にぽんと手をのせて。いつの間にか私のそれより、ひと回りもふた回りも大きくなった掌で、くしゃりと髪の毛を撫ぜながら。そうして彼は、言ったのだ。
「――リシェル」
ゆっくりと、震える瞼をもちあげる。視界は隅々までぼやけ、滲んでいた。鋭く尖った刃も、黒くしっかりとした柄も、それを握る手も、渾然一体となるほど。瞬くと、しかし視界は一瞬にして透明感と鮮明さを増し、柄を握る手を覆うようにして被さる、大きな大きな、男らしく骨ばった手が目に映る。随分と立派な手だ、と思った。色が白く、長くすっとした指をしているのに、それでも男のそれだと分かる、とても綺麗な手。
昔、同じような衝動に駆られたことがある。あれは確か、私も姉もまだ十六歳だった頃で、場所はいつもピクニックで行く森の中だった。アルベルトに告白されたのだ、と、あの時私は、姉の口から聞かされたのだ。あの慎ましやかで愛らしい色をした、やわらかな唇で。湖の畔で友人と談笑しているアルベルトを眺めながら、とても幸福そうに微笑んで。
その後のことを、私はなにひとつ憶えていない。気付いた時には森の中のどこかにいて、太く立派な幹をした欅の根本に蹲っていた。自分自身を抱き締める様に組んだ腕の中に、深く顔を埋めて。
そんな私を見つけてくれたのは、姉でもアルベルトでもなく、友人だった。友人の、ルシウス・ヴァレンティ。彼は私の傍に膝をつくと、深く溜息を吐き出しながら、多分やれやれと肩を竦めたのだと思う。馬鹿だな、と言うみたいに。実際、そんなことを言われたような気もする。はっきりとは憶えていないけれど。あの時の私は、頑なだった。頑なに、外の世界の全てを拒もうとしていた。分厚い殻に閉じ籠もって。ルシウスさえも遠ざけようと。
けれど彼は、その殻をこじ開けた。頭にぽんと手をのせて。いつの間にか私のそれより、ひと回りもふた回りも大きくなった掌で、くしゃりと髪の毛を撫ぜながら。そうして彼は、言ったのだ。
「――リシェル」
ゆっくりと、震える瞼をもちあげる。視界は隅々までぼやけ、滲んでいた。鋭く尖った刃も、黒くしっかりとした柄も、それを握る手も、渾然一体となるほど。瞬くと、しかし視界は一瞬にして透明感と鮮明さを増し、柄を握る手を覆うようにして被さる、大きな大きな、男らしく骨ばった手が目に映る。随分と立派な手だ、と思った。色が白く、長くすっとした指をしているのに、それでも男のそれだと分かる、とても綺麗な手。
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