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Main story ¦ リシェル
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「リシェル」
あの時、私は――。乾いた唇をゆっくりと噛み締め、色白の大きな手を見つめながら、そっと微笑む。あの時私は、頭を撫でる大きな掌の感触に、そのぬくもりに堪えを失って、泣いたのだ。声をあげて、まるで子どものように。きりもなく泣きじゃくった。ルシウスただひとりに見守られながら。
あの時のことを思い出す度、「ブサイクな泣き顔だった」と、彼はよく言っていた。とても見るに堪えないものだった、と。あんな顔を我慢強く見ていられるのは俺くらいなものだ、とも。
「……私、あの時と同じ顔をしているのかしら」
漸く自分が泣いていることに気付き、弱々しい笑みをこぼしながら振り返る。そんな私の視線を、ルシウスは困った時によくする眉を下げた笑顔で受け止め、そうしてゆっくりと瞬いた。月明かりに照らされて淡く輝く白銀の髪の毛、くっきりとした二重と、長く濃い睫毛に縁取られた切れ長の目。彼の澄んだアイスブルーの瞳を初めて見た時、私はそれを、まるでブルーダイヤのようだ、と思った。最も美しい輝きを引き出す為に、計算し尽くされた角度でカットされたそれのようだ、と。
「そうだな。とても見れたもんじゃない顔をしてる」
嗤うでもなく、嘲るでもなく。どこまでもやさしい声音でそう紡ぐ彼の左耳で、紫色の細長いピアスが微かに揺れる。きらきらとした小さな輝きを放ちながら。それは私が、“リシェル”として彼に贈った、最後のプレゼントだった。
魔塔に所属する魔法師である彼が、数多いる同僚や先輩を一気に追い抜いて、歴代最高評価を叩き出して“大魔法師”の冠を戴いた時に贈ったもので、彼はその時からずっと、それを耳につけてくれている。左耳だけなのは、もう一方のピアスを私が持っているからだ。これは君が持っていてくれ、と、そう言われて。その片割れは今も、机の引き出しの中に、大事に大事にしまっている。それは、“リシェル”としての私がこの屋敷で持つ、唯一のもの。
あの時、私は――。乾いた唇をゆっくりと噛み締め、色白の大きな手を見つめながら、そっと微笑む。あの時私は、頭を撫でる大きな掌の感触に、そのぬくもりに堪えを失って、泣いたのだ。声をあげて、まるで子どものように。きりもなく泣きじゃくった。ルシウスただひとりに見守られながら。
あの時のことを思い出す度、「ブサイクな泣き顔だった」と、彼はよく言っていた。とても見るに堪えないものだった、と。あんな顔を我慢強く見ていられるのは俺くらいなものだ、とも。
「……私、あの時と同じ顔をしているのかしら」
漸く自分が泣いていることに気付き、弱々しい笑みをこぼしながら振り返る。そんな私の視線を、ルシウスは困った時によくする眉を下げた笑顔で受け止め、そうしてゆっくりと瞬いた。月明かりに照らされて淡く輝く白銀の髪の毛、くっきりとした二重と、長く濃い睫毛に縁取られた切れ長の目。彼の澄んだアイスブルーの瞳を初めて見た時、私はそれを、まるでブルーダイヤのようだ、と思った。最も美しい輝きを引き出す為に、計算し尽くされた角度でカットされたそれのようだ、と。
「そうだな。とても見れたもんじゃない顔をしてる」
嗤うでもなく、嘲るでもなく。どこまでもやさしい声音でそう紡ぐ彼の左耳で、紫色の細長いピアスが微かに揺れる。きらきらとした小さな輝きを放ちながら。それは私が、“リシェル”として彼に贈った、最後のプレゼントだった。
魔塔に所属する魔法師である彼が、数多いる同僚や先輩を一気に追い抜いて、歴代最高評価を叩き出して“大魔法師”の冠を戴いた時に贈ったもので、彼はその時からずっと、それを耳につけてくれている。左耳だけなのは、もう一方のピアスを私が持っているからだ。これは君が持っていてくれ、と、そう言われて。その片割れは今も、机の引き出しの中に、大事に大事にしまっている。それは、“リシェル”としての私がこの屋敷で持つ、唯一のもの。
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