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Main story ¦ リシェル
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学校に入学してしまったら、もうこれまでみたいに会えないかもしれない。学校は同じ王都にあるのに。でも、“学校”や“入学”というものを堺に、彼がどこか遠いところへ行ってしまうような気がして、私はその祝福すべき出来事を、素直に受け入れることも、素直に祝ってあげることも、どうしても出来なかった。
けれどルシウスは、頻繁に会いに来てくれた。もちろん今までのようにはいかなかったけれど。それでも顔を見せてくれたし、長く会えない時には手紙をくれた。今と変わらず、他愛もない内容をささっと綴っただけの、シンプルな手紙を。時々四人で出かけることもあった。私とルシウスと、姉とアルベルトの四人で。
ずっとそんなふうだったから――。大理石の床の上で小さく弾ける雫を見るともなく見つめながら、私はゆるりと弱々しく微笑む。そんなふうだったから、私の傍にはいつも、ルシウスがいた。どんな時でも。姉がアルベルトからの告白を明かした時も、ふたりが婚約を交わした時も、華やかな結婚式を行った時も、幸福ばかりが溢れるふたりの結婚生活を眺めていた時も、そして、姉が死んだその時も。時に励まし、時に怒り、時にくしゃりと頭を撫で、また或いは、ただただ静かに寄り添って。その全てが、彼のやさしさだった。ルシウスなりの、やさしさ。そのやさしさに、私は何度救われたことだろう。
「……私は……」
ぎこちなく唇を開くと、ぽたぽたっと、大きな塊みたいな涙が勢いよくこぼれ落ちた。目元も頬も口元もびっしょり濡れてしまっているせいで、吹き抜けるやわらかな夜風がひんやりと感じられる。睫毛に張り付いた小さな雫が邪魔で、口の中もしょっぱくてたまらないのに、次から次へと溢れ出る涙を、私は拭うことすら出来ない。手も足も、すっかり力が抜けしまって、少しも動かないのだ。まるで精巧に造られた人形のそれのように。私のものではない、別の何かのそれみたいに。
それでも、私は必死に唇を動かす。ゆっくりでも。小刻みに震えていても。動かすことを、とめられなかった。
「貴方が……傍に、いてくれたから……ここまで生きてこれたのかも、しれないわ」
けれどルシウスは、頻繁に会いに来てくれた。もちろん今までのようにはいかなかったけれど。それでも顔を見せてくれたし、長く会えない時には手紙をくれた。今と変わらず、他愛もない内容をささっと綴っただけの、シンプルな手紙を。時々四人で出かけることもあった。私とルシウスと、姉とアルベルトの四人で。
ずっとそんなふうだったから――。大理石の床の上で小さく弾ける雫を見るともなく見つめながら、私はゆるりと弱々しく微笑む。そんなふうだったから、私の傍にはいつも、ルシウスがいた。どんな時でも。姉がアルベルトからの告白を明かした時も、ふたりが婚約を交わした時も、華やかな結婚式を行った時も、幸福ばかりが溢れるふたりの結婚生活を眺めていた時も、そして、姉が死んだその時も。時に励まし、時に怒り、時にくしゃりと頭を撫で、また或いは、ただただ静かに寄り添って。その全てが、彼のやさしさだった。ルシウスなりの、やさしさ。そのやさしさに、私は何度救われたことだろう。
「……私は……」
ぎこちなく唇を開くと、ぽたぽたっと、大きな塊みたいな涙が勢いよくこぼれ落ちた。目元も頬も口元もびっしょり濡れてしまっているせいで、吹き抜けるやわらかな夜風がひんやりと感じられる。睫毛に張り付いた小さな雫が邪魔で、口の中もしょっぱくてたまらないのに、次から次へと溢れ出る涙を、私は拭うことすら出来ない。手も足も、すっかり力が抜けしまって、少しも動かないのだ。まるで精巧に造られた人形のそれのように。私のものではない、別の何かのそれみたいに。
それでも、私は必死に唇を動かす。ゆっくりでも。小刻みに震えていても。動かすことを、とめられなかった。
「貴方が……傍に、いてくれたから……ここまで生きてこれたのかも、しれないわ」
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