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第6章 誰ガ為ニ
89 恋話
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「まさか本当に何にもないなんて……つまんないわねぇ」
結局私は、千鳥ちゃんと氷室さんに引きずられて近くのチェーン店の喫茶店に連行された。
そして二人は、目立たないようにするためか隅の方の席に私を連れ込んだ。
四人がけのテーブル席の、ソファータイプの横長椅子の奥に私を押し込んで、その隣を氷室さん、正面を千鳥ちゃんに押さえられる。
おまけに話が聞こえないようにする魔法をかけるという徹底ぶりだった。
そこまでしてするのが恋話────ではないんだけど────なんだから、まぁ平和といえば平和でいいんだけれど。
思った成果をあげられなかった千鳥ちゃんは、不満たらたらでガムシロたっぷりのアイスティーを啜っていた。
「アンタさぁ、年頃なんだから浮いた話の一つや二つあってもいいんじゃないの?」
「そんなこと言われてもないものはないよ。じゃあ聞くけどさ、千鳥ちゃんはそこんとこどうなの? 私たちよりお姉さんな千鳥ちゃんは、そういう話あるわけ?」
「うっ……」
まったくもうと溜息をつく千鳥ちゃんにちょっとムッとした私は、『お姉さん』の部分を強調して嫌味ったらしく返した。
案の定ゲッという顔をした千鳥ちゃんは、あからさまに私から視線を外した。
それでもジトッと視線を投げつけていると、慌てた千鳥ちゃんはキッを眉を釣り上げた。
「う、うるさいわね! 何にもないわよ! 文句ある!? こちとらそんな余裕ないもの!」
「うわ、逆ギレだ! それにズルい!」
完全に開き直った千鳥ちゃんは、ピーキーとヒステリック気味な声を上げて勢いで誤魔化そうとしていた。
もう少し意地悪してあげてもいいんだけど、私も自分のことを掘り返されると面倒だから、今回は深追いをしないことにする。
「…………」
キャンキャン吠える千鳥ちゃんの声を聞き流しながら隣を見ると、氷室さんは静かに紅茶を飲んでいた。
最初こそ千鳥ちゃんと一緒になって無言の圧力をかけてきたけれど、創とはなんでもないということがわかってからはとても落ち着いている。
氷室さんもやっぱり年頃の女の子だし、そういった色恋には興味があるのかな?
それとも、私に腕を組むような人がいることに、ちょっぴり嫉妬をしてくれていた、とか?
昨日のことを考えると案外後者かもしれない。
氷室さんには見かけの大人しさによらず、独占欲というか、ちょっと拗ねるところがあるのは昨日わかったこと。
ああいう風な気を許した仲の良さに、思うところあったのかもしれない。
そう考えると、平然とした顔で我関せずと紅茶を啜っているこの友達が、たまらなく可愛く見えてしまった。
「…………?」
そう思って横顔を見ていたら、視線に気がついた氷室さんがゆっくりと首を傾げた。
さっきまでの圧力は綺麗さっぱり無くなっていて、いつも通りの穏やかで静かな氷室さんだ。
そんな彼女を見ていると心安らかになるなぁと思って、私は「なんでもないよ」と笑って腕を絡めた。
氷室さんは少しだけ驚いたようにミリ単位で目を見開いてから、またほんの少しだけ嬉しそうに口の端を緩めた。
「まったく、霰はアリスに甘いわねぇ」
喚くのに疲れたのか、千鳥ちゃんは今度は呆れたような溜息をついていた。
やれやれと、なんだか年上のお姉さんを気取って肩をすくめている。
その余裕あります感がちょっと鼻についたけれど、まぁ実際一つ上のお姉さんではあるから、そこについては突っ込まないであげた。
「……そうだ。そろそろ本題の話をしないとだよ」
ポツリポツリと取り留めのない話をした後、私がそう切り出した。
平和な何でもないお喋りは勿論いいし楽しいけれど、私たちには今日集まった意味がある。
喫茶店に腰を落ち着けたのも、隅の席に陣取ったのも、魔法で話を聞こえないようにしたのも、本来はその本題のためなんだから。
まぁ、話がそれるような、二人が気になる話題を持ち込んでしまった私が言うのもなんなんだけれど。
けれど私がそう促すと、二人とも頷いて顔を引き締めた。
「そうね。アリスが男連れで来るからすっかり話が逸れてたけど」
「だからぁ、その話はもう終わったでしょ!?」
せっかく空気を引き締めたのに、そうやって軽口を挟む千鳥ちゃん。
私が声を上げると、ニヤリとからかうように笑った。
「じょーだんよ。ほら、そんな不貞腐れた顔しないの────ちょっと霰、アンタまで不機嫌になんないでよ。ねぇ、ごめんって」
私のことをイジったかと思えば、千鳥ちゃんはオロオロと氷室さんにペコペコした。
隣を見てみれば、表情こそ変わらぬポーカーフェイスだけれど、醸し出す空気がまたさっきみたいに重苦しかった。
千鳥ちゃんに向ける視線がどこか冷たいように見えた。
まるで視線で凍てつかせてしまいそうなほどに。
予想外の方向からの批判を受けた千鳥ちゃんは、オロオロへこへこしていて、その覇気のなさがなんだか可愛らしかった。
元来の、小柄でちょこちょことしたところも合わさって、か弱い小動物を彷彿とさせる。
氷の彫像のように冷たい視線を静かに投げつけている氷室さんと、小さくなって困り果てている千鳥ちゃん。
側から見ると微笑ましい光景というか、普通の友達同士のちょっとしたやり取りといった感じ。
これが平和だよなぁなんて思いつつ、でもあんまり続いても可哀想だし、私はまぁまぁと二人を制しに入ることにした。
氷室さんは組んだ腕をきゅっとして、身を寄せたらすぐに機嫌を直してくれて。
そんな彼女を見て千鳥ちゃんはホッと安堵の息を吐いて、ようやく真面目な話ができる空気になってきたのでした。
結局私は、千鳥ちゃんと氷室さんに引きずられて近くのチェーン店の喫茶店に連行された。
そして二人は、目立たないようにするためか隅の方の席に私を連れ込んだ。
四人がけのテーブル席の、ソファータイプの横長椅子の奥に私を押し込んで、その隣を氷室さん、正面を千鳥ちゃんに押さえられる。
おまけに話が聞こえないようにする魔法をかけるという徹底ぶりだった。
そこまでしてするのが恋話────ではないんだけど────なんだから、まぁ平和といえば平和でいいんだけれど。
思った成果をあげられなかった千鳥ちゃんは、不満たらたらでガムシロたっぷりのアイスティーを啜っていた。
「アンタさぁ、年頃なんだから浮いた話の一つや二つあってもいいんじゃないの?」
「そんなこと言われてもないものはないよ。じゃあ聞くけどさ、千鳥ちゃんはそこんとこどうなの? 私たちよりお姉さんな千鳥ちゃんは、そういう話あるわけ?」
「うっ……」
まったくもうと溜息をつく千鳥ちゃんにちょっとムッとした私は、『お姉さん』の部分を強調して嫌味ったらしく返した。
案の定ゲッという顔をした千鳥ちゃんは、あからさまに私から視線を外した。
それでもジトッと視線を投げつけていると、慌てた千鳥ちゃんはキッを眉を釣り上げた。
「う、うるさいわね! 何にもないわよ! 文句ある!? こちとらそんな余裕ないもの!」
「うわ、逆ギレだ! それにズルい!」
完全に開き直った千鳥ちゃんは、ピーキーとヒステリック気味な声を上げて勢いで誤魔化そうとしていた。
もう少し意地悪してあげてもいいんだけど、私も自分のことを掘り返されると面倒だから、今回は深追いをしないことにする。
「…………」
キャンキャン吠える千鳥ちゃんの声を聞き流しながら隣を見ると、氷室さんは静かに紅茶を飲んでいた。
最初こそ千鳥ちゃんと一緒になって無言の圧力をかけてきたけれど、創とはなんでもないということがわかってからはとても落ち着いている。
氷室さんもやっぱり年頃の女の子だし、そういった色恋には興味があるのかな?
それとも、私に腕を組むような人がいることに、ちょっぴり嫉妬をしてくれていた、とか?
昨日のことを考えると案外後者かもしれない。
氷室さんには見かけの大人しさによらず、独占欲というか、ちょっと拗ねるところがあるのは昨日わかったこと。
ああいう風な気を許した仲の良さに、思うところあったのかもしれない。
そう考えると、平然とした顔で我関せずと紅茶を啜っているこの友達が、たまらなく可愛く見えてしまった。
「…………?」
そう思って横顔を見ていたら、視線に気がついた氷室さんがゆっくりと首を傾げた。
さっきまでの圧力は綺麗さっぱり無くなっていて、いつも通りの穏やかで静かな氷室さんだ。
そんな彼女を見ていると心安らかになるなぁと思って、私は「なんでもないよ」と笑って腕を絡めた。
氷室さんは少しだけ驚いたようにミリ単位で目を見開いてから、またほんの少しだけ嬉しそうに口の端を緩めた。
「まったく、霰はアリスに甘いわねぇ」
喚くのに疲れたのか、千鳥ちゃんは今度は呆れたような溜息をついていた。
やれやれと、なんだか年上のお姉さんを気取って肩をすくめている。
その余裕あります感がちょっと鼻についたけれど、まぁ実際一つ上のお姉さんではあるから、そこについては突っ込まないであげた。
「……そうだ。そろそろ本題の話をしないとだよ」
ポツリポツリと取り留めのない話をした後、私がそう切り出した。
平和な何でもないお喋りは勿論いいし楽しいけれど、私たちには今日集まった意味がある。
喫茶店に腰を落ち着けたのも、隅の席に陣取ったのも、魔法で話を聞こえないようにしたのも、本来はその本題のためなんだから。
まぁ、話がそれるような、二人が気になる話題を持ち込んでしまった私が言うのもなんなんだけれど。
けれど私がそう促すと、二人とも頷いて顔を引き締めた。
「そうね。アリスが男連れで来るからすっかり話が逸れてたけど」
「だからぁ、その話はもう終わったでしょ!?」
せっかく空気を引き締めたのに、そうやって軽口を挟む千鳥ちゃん。
私が声を上げると、ニヤリとからかうように笑った。
「じょーだんよ。ほら、そんな不貞腐れた顔しないの────ちょっと霰、アンタまで不機嫌になんないでよ。ねぇ、ごめんって」
私のことをイジったかと思えば、千鳥ちゃんはオロオロと氷室さんにペコペコした。
隣を見てみれば、表情こそ変わらぬポーカーフェイスだけれど、醸し出す空気がまたさっきみたいに重苦しかった。
千鳥ちゃんに向ける視線がどこか冷たいように見えた。
まるで視線で凍てつかせてしまいそうなほどに。
予想外の方向からの批判を受けた千鳥ちゃんは、オロオロへこへこしていて、その覇気のなさがなんだか可愛らしかった。
元来の、小柄でちょこちょことしたところも合わさって、か弱い小動物を彷彿とさせる。
氷の彫像のように冷たい視線を静かに投げつけている氷室さんと、小さくなって困り果てている千鳥ちゃん。
側から見ると微笑ましい光景というか、普通の友達同士のちょっとしたやり取りといった感じ。
これが平和だよなぁなんて思いつつ、でもあんまり続いても可哀想だし、私はまぁまぁと二人を制しに入ることにした。
氷室さんは組んだ腕をきゅっとして、身を寄せたらすぐに機嫌を直してくれて。
そんな彼女を見て千鳥ちゃんはホッと安堵の息を吐いて、ようやく真面目な話ができる空気になってきたのでした。
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