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第6章 誰ガ為ニ

88 待ち合わせに

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「ア、アリス!? ど、どどどどういうことよそれ!」

 創と二人で腕を組んだまま歩いて、駅前に到着した時だった。
 出口前には既に氷室さんと千鳥ちゃんが合流をしていて、私の姿を見た瞬間二人の顔色が変わった。

 氷室さんは辛うじてポーカーフェイスを崩さなかったけれど、それでも確実に目を見開いていた。
 顔は動かさず見開いた瞳で私と創を交互に見遣って、静かに押し黙っている。

 対する千鳥ちゃんはあからさまに飛び上がって、隠すそぶりも見せずに喚きたてた。
 綺麗な金髪をまるで猫のように逆立たせて、驚きと共にどこか警戒を見せている。

 そんな二人のリアクションを見て、というか千鳥ちゃんを見て、創は心配そうに私を見ろした。

「アリスが言ってた友達って……」
「うん。氷室さんと……もう一人は千鳥ちゃんって言って、あの子も魔女なんだ」
「そ、そうか……」

 一人でピーチクパーチク喚いている千鳥ちゃんを無視して問いかけに答えると、創は苦笑いしながら頷いた。
 まぁ確かに、千鳥ちゃんは普段私が関わりそうなタイプの子じゃないし、驚くのも無理はないかもしれない。

「まぁ、氷室が一緒なら安心か」

 この街ではあまり見かけない派手な金髪に加えて、キャンキャン喚いている千鳥ちゃんは、創にしてみれば不安の塊のようだけれど。
 見知った氷室さんの存在に、ホッとしたように緊張を解いていた。

 氷室さんも千鳥ちゃんほどではないにしろ、創の登場に驚いているようではあった。
 けれど態度には出さず、創の視線を受けておっかなびっくり会釈をしていた。
 その落ち着いた対応が、より創の安心感を増させたのかもしれない。
 多分創では氷室さんの表情の変化は読み取れないだろうし。

「じゃあ俺は行くよ。アリス、無茶すんなよ」
「うん、ありがとう創。気をつけてね」
「お前がな」

 さっと二人を見遣ってから、創はしゅっと私から腕を引き抜いた。
 魔女二人と待ち合わせているんだから、創は多分、私がこれから何かをしようとしていることは勘付いたと思う。
 それでもそのことには触れず、多くを語らず、後押しをしてくれた。

 だから私は笑顔でその姿を見送った。
 次に顔を合わせるときは、恐らく全てを思い出した私だと思う。
 それでもきっと、私はちゃんと私のままでいられるはずだから。
 だから私も、多くを口にはしなかった。

「────ねぇちょっと! アンタ聞いてんの!?」

 創の背中が見えなくなった時、千鳥ちゃんが痺れを切らして突っかかってきた。
 元々つり上がった目をキッと更に鋭くして、私の腕をぐわんぐわんと揺さぶってくる。

「今の一体何者!? アンタ、もしかして男いんの!?」
「ち、違うよ! 今のはただの幼馴染だよ。家が近所だからたまたま会って、ここまで一緒に来ただけ」
「はぁ!? そんな嘘が通用すると思ってんの!? 仲良く腕組んできちゃってさ! 見せつけか!」
「もぅ違うってば~」

 何だか執拗に聞いてくる千鳥ちゃんに、面倒になって氷室さんに助けを求める視線を送る。
 けれど氷室さんは無言のまま冷たい視線を返してくるだけで、助け舟を出してはくれなかった。
 それにそこはかとなく不機嫌そうに見えるのは、私の気のせいなんだろうか。

 氷室さんというヘルプを獲得できなかった私に、千鳥ちゃんは攻撃の手を緩めずにキンキンと甲高い言葉を投げつけてくる。
 元気があっていいけれど、なんだか面倒なことになってしまった。

 創とは本当に小さい頃からの付き合いだから、今まで自分ではそういう風に見てこなかった。
 それに今までは晴香もいて常に三人だったから、ずっと一緒にいても誰かにそういう見方をされることもなかった。
 でも確かに、あの登場は何も知らない赤の他人から見ると、そういう関係に見えるかもしれない。

「────あぁもう! はい、この話お終い! やめやめ!」
「ちょっと、私はまだ納得してないんだけど!?」

 あまりにもしつこいから、私はちょっと強めに言い放って千鳥ちゃんを振り払った。
 まだまだ問い詰め足りないらしい千鳥ちゃんは口を尖らせたけれど、私としてはたまったものじゃないから見えない振り聞こえない振りをする。

 まったく、色恋沙汰になると食いつくのはどの世界の女の子も同じなんだな。
 まぁ私たちの場合は全くもってそういうことではないんだけれど。
 でも多分、今までそういう話をする相手がいなかったであろう千鳥ちゃんにとっては、とっても新鮮なことだったんだ。

 それにしてもちょっとうるさいけどね……。

「ほら、いつまでもこんなところにいたら寒いし、どっか中入ろう? ね、氷室さん」
「…………」

 振り払った千鳥ちゃんの代わりに氷室さんの腕をとって促す。
 いつもなら無言で頷いてくれるだろう氷室さんは、しかし微動だにせず私のことをまじまじと見てきた。

「えーっと、氷室さん?」
「…………」

 なんだか不安になって顔を覗き込むと、スカイブルーの瞳を皿のようにして見返された。
 なんだか、妙な無言の圧力を感じる。これは、昨日の違和感にとってもよく似ている気がした。

「ほ~ら~。霰だって気になるってさ! 大人しく白状しなさい!」

 戸惑っている隙に千鳥ちゃんがまた私の腕をガシッと掴んできた。

「え!? だって氷室さんは創のこと知ってるよね!?」
「………………どれほどの仲かは、知らない」
「ただの幼馴染だってば!!!」

 ポツリと呟かれた言葉があまりにも予想外すぎて、つい大きな声を出してしまった。
 脇では千鳥ちゃんが、ほれ見たことかとういう顔していて、もう放さないと強く私の腕を握った。

「よし! じゃあまずはアリスの取り調べをするわよ! はーい連行!」
「うそ、ちょっと! 他にしなきゃいけないことあるでしょ~!?」

 これから真面目に今後のことについて話し合おうってことで集まったのに。
 でも千鳥ちゃんは何だか楽しそうだし、氷室さんも息を合わせて反対の腕をしっかり掴んでるし。
 私の意見を聞いてくれる味方は、この場にはいなかった。

 これから立ち向かわないといけないことの前の息抜きには、ちょっとくだらない話をするくらいがいいのかななんて思いつつ。
 でもこれは説明に相当苦労しそうだなぁなんて、ついつい溜息がこぼれる。

 そんなことを考えつつ、私一人ではどうにも抗うことはできなくて。
 両脇を押さえられて二人に引きずられるのを、良しとするしかなかった。
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