悪役令嬢の涙

拓海のり

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病気の正体

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 伯母の国はスレーベン連邦国だ。二つの王国を軸に、小さな公国や司教領や辺境国などが集まってできた国だ。首都はエルフルトに置かれ、そこに連邦政府と外務省他の各省庁が置かれ大学や研究施設がある。

 首都の近くの港に着くと従兄が迎えに来てくれた。もう結婚して子供もいる。兵隊を引き連れていて誰の迎えかと思った。
 首都エルフルトの伯母の屋敷はお城のように大きくて広い。伯母は余計なことは言わないで、グレイスに聞いた。

「あなた魔力検査を受けたのよね」
「はい伯母様」
「それで、属性魔法とか分かった?」
「いいえ、アゼルランド王国では魔力のある方は殆んどいらっしゃらなくて、王宮で水晶玉に手をかざしても光るだけで、それ以外は何も」
「そうなのね。わたくし魔力があるのよ、属性魔法二つに適性があるの、火と風ね」
「まあ、すごい。火と風って伯母様にお似合いの属性に思えます」
「ふふ、グレイスの属性は何かしらね」

 息子ばかりの伯母はグレイスを可愛がってくれて、傷薬のことでは父に散々に叱責の伝書鳥を送ったという。
「水でしょうか、土かもしれない」グレイスは首を傾げる。
「そうね、でも妹はわたくしと一緒なのよね」
 そう言って伯母はにこりと笑う。
「そうなんですか」
「そう、それに妹と結婚する時、リンスター公爵にも検査を受けていただいたのだけれど、彼にも魔力があったの。属性は水と土よ」
「まあ、すごい」

 母の属性魔法は火と風で父の属性は水と土だという。グレイスにも適正があるかもしれない。そう思うと心にパッと明るい火が点るようだ。魔法が使えれば未来の選択肢が広がる。

「お父様たちは大丈夫なのでしょうか」
「いざとなったら、この国に逃げて来るかもしれないと言っていたわよ」
「ああ、そうなのですね」
 どうも両親は伯母と密に連絡を取っているらしい。
「まあ、わたくしたちもいるからめったな事はできないわよ」
 たくさんの魔導士を擁し、最先端の魔道具を研究し製作し続けているこの国を相手にしようという者はいないと思うが。

 ふと、メアリーはどうやって癒しの魔法が使えたのだろうと少し疑問が沸いた。

「ヒールは魔法が使えればどの属性でも覚えるけれど、誰でも覚えるという訳ではないの。初歩の初歩なのだけれどね」
 日常的に魔法と関わりある国にいる伯母は、グレイスの疑問に答えてくれる。
「その子爵家の娘はどんな方なの?」
「ええと、一口で言えば色っぽい方でした。殿方との距離がとても近い方で、皆様でチヤホヤしていらして、本当に流行りの本のような感じで……、今思うと異常ですわね」
 グレイスは首を傾げる。
「それは魅了のようだけれど、公爵からの手紙には彼女はそんなに魔力はないようだし、闇魔法の使い手ではないわね。魅了は魔道具を使うか、食べ物に入れるか」
 うーんと伯母は考え込んだ。


 伯母は翌日、直ぐにグレイスを教会に連れて行った。教会で魔力検査を行う。
「魔力がありましたの。それに四属性に適性があると言われましたわ」
 はしゃぐグレイスに頷いて伯母が言う。

「やっぱりね。貴女の弟のアリステアもそうだから、もしかしたらと思っていたのよ」
「アリステアもですか。私、色々教えて貰わなくちゃ」
「ふふ、そうしたらいいわ。あの子、スジがいいらしいから」

 グレイスの覚えているアリステアは青白い顔をして苦しそうに咳をしていた。領地に居た時は二人で駆けまわって遊んでいたのに、それが無念で。毛布に包まれて父に抱きかかえられて馬車に乗ったのを見送ったのが三年くらい前だ。

「取り敢えず魔法学校に行って、基礎から学べばいいわ」
 伯母の言葉に頷く。グレイスの故国アゼルランド王国のように魔力検査をしない国もあるのだ。最近は特に魔炭に乗り換える国も多く、後から魔力があることに気付いて魔法学校に入学する者も多いという。
「小さい子も大人もいるから大丈夫よ」
「はい」


 グレイスは自分の行く道も決まり、屋敷に帰って皆でお茶をしていると「お姉様がこちらに来ていると伺って」
 何と弟のアリステアが寄宿学校から帰って来たのだ。
「学校は?」
「休暇だよ。お姉様は僕より学校の方が心配なんだ」
「違うわよ、アリステア。もう大丈夫なの、元気になった?」

 目の前に立つ弟はグレイスとそう変わらない身長になっていて艶々と顔色も良くなって元気そうだった。

「この通り、お姉様も抱えられるよ」
「きゃっ、止めてちょうだい」
「仲の良い姉弟ね」
「でも、本当にアリステアが元気になって嬉しいわ」
「僕はもう大丈夫。これからは僕が守ってあげる」
 グレイスにそっくりな銀の髪と紫の瞳を持つアリステアは非常に整った顔をしている。さぞかしモテるだろうなと弟ながら心配になる。


 その内、従兄が帰って来て賑やかになった。彼が弟の病状を教えてくれる。
「アリステアなんだが胸に変な影が出来ていてさ、取り除く方法は前は手術をして切り取るだけだったんだ。最近光魔法を発現された方の研究で光魔法を強く細くしたものを患部に照射する方法が編み出されたんだ」
 従兄が病状と施術を説明して、伯母が結果を言う。
「それで綺麗さっぱり消えてしまったのよ」
「もう検査しても影は無いって言われているよ。後は毎年病院に行けばいいって」
 すっかり見違えた弟に言葉もない。
「まあ、すごいわ」
「アリステアもグレイスも頑張れば光魔法を発現するかもしれないな」
「そうなんですか」
「ああ、水と風のレベルが上がると氷を覚える。土と火のレベルを上げると雷を覚える。氷と雷のレベルを上げると光と闇を覚える」
「闇?」
「人の心に作用する。なかなか扱いが難しい魔法なんだ」

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