婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり

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二章 自由都市へ

12 森の中の戦闘

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 身軽になったアルトは腕をぐるぐると回して、弓と皮バッグを背負う。
「それ、ボウガン?」
「クロスボウだ」
 アルトが使い方を説明してくれる。
「短い矢をセットし、弦を引っ張って止めて、トリガーを引く」
 試しに撃つと近くの木にぐさりと刺さった。
「うわっ」
 鳥とか簡単に撃ち落とせそう。
 武器って、私にも必要かな。バックパックにはハサミと懐中電灯が入っているけれど武器になるかな。

「ええと、怒るかもしれないけど」
「怒らない。あなたは落ち人だ」
 落ち人って何だ? まあ階段から転げ落ちて死んで、こっちに来たけど、小説に出て来る転生者とか転移者とかをいうのだろうか。
 ほかにもこの世界に来た人が居るんだなと、気楽に考えた。

「なにそれ。まあいいわ。その弓で連射出来たらすごいと思わない」
 そう、あのバリバリバリと撃ちまくる爽快感。
「思うけど、どうやって?」
「あ、そうか。装置分かんない」
「変な人だな」
 私を見て首を傾げる。
「そうだな、細工師に聞いてみたら出来るかもしれない」
 クロスボウをひっくり返して見ている。

「細工師って?」
「ギルドに組合があるよ。金属細工や皮細工や宝石細工やら色々ある」
「へえ、ギルドがあるのね」
「小国にあるよ」
「そうなの、楽しみだわ」
 何か自分に出来る仕事があるだろうか。


  ◇◇

 街道を東に行けば川に橋が架かっていて、渡ると割と近くに町があるという。森の中の獣道をアルトは知っていて、私たちはそっちを歩いた。
 兵士たちに出会うのは不味い。

 兵士や騎士は怖い。見ただけで身体が強張る。
 この子は守ってあげないといけない存在で側にいても怖くない。

 しかし、翌日の夕方になってやっと川に着いて、森の道から覗くと橋には検問所が設けられて見張りの兵士がいた。
 あれからまた、兵士たちは村に戻ったのだろうか。村人を葬った跡を見られたのかもしれない。

「夜に川を渡る事にする?」
 あの向こうに町があるのに。何とか行けないだろうか。
「急がない方がいいよ」
 逸る心を引き留められてしまった。
「そうね、急がば回れって言うもんね」
 仕方がないか。村に理由もなく火を放つような人たちだし、遭遇すれば危険だ。
「メリーは、時々分からないこと言うんだね」
「急いでいる時は回り道をして安全に行けって意味だった筈。昔の人は凄いのよ」
「ふうん」
 アルトが変な目で見ている。おかしな人になってしまったか。

「もう少し川上に行くと小国領に行く橋があるから、そっちから渡ろう?」
「わかったわ」
 段々アルトが慣れて私に合わせてくれる。


  ◇◇

 森の中を川沿いに歩いて、野営して三日目。
「起きて」
 夜中に揺さぶられて寝ぼけ眼で起きると、目の前にアルトの顔がある。
「どうしたの?」
「近くで戦っている、魔獣の咆哮も聞こえる」
「え、どうしよう!」
 こちらの世界に来て、まだ一度も魔物を見ていない。メリザンドの時には何度か遭遇したけれど、今の私には心の準備が出来ていない。
 アルトの方がよっぽど落ち着いている。

「行ってみる」
 それは質問じゃなくて決定事項のようだ。行くしかないのか。
 私は唾を飲み込んで「分かった」と頷いた。
 私たちはすぐに身支度を整えて野営場所の穴倉を出た。
 アルトが先導して森の中を移動する。

 真っ暗な森の中だ。月も出ていない。
 しかし戦闘場所は明々と明るくて道に迷うことも無かった。
「ああ、ライトか」
 生活魔法のひとつだ。

 突き当りに立ち塞がるように崖が見えた。その下に小さな道が曲がりくねって横に伸びていて、そこが戦闘場所だった。生活魔法のライトが街灯のようにふたつ灯っている。
 こちら側は私たちの居る森の中だ。

 少女とそれを庇う騎士がいる。真っ黒い大きな熊みたいな魔獣が、四つん這いから立ち上がって襲い掛かる。長い腕をブンと振って、騎士の剣がガキッと弾く。
「くっ」と声が漏れたのはどこか怪我でもしているのか。
 兵士たち十人余りは少し後ろで見ている。
 検問は私たちではなくて、この人たちの所為かもしれない。
 私とアルトは顔を見合わせる。さあどうする。


 私たちはここから崖を超えて行かねばならない。ここは通り道である。私にとってもアルトにとっても兵士は味方ではない。このまま見過ごしたら次は私たちの番なのかも知れない。これ以上回り道はしたくない。

 どっちが強いかと言えば、やはり魔獣を連れた兵士達だろう。というかこいつら、ふたりが魔獣に襲われるのを見物している。魔獣って人のいう事を聞くのだろうか。

「メリー、兵士たちの真ん中に水を落とせる?」
「いいわよ」
 少女と騎士の味方をする事にしたらしい。
『アクア』
 私は深く考えもせずに、手をあげて兵士たちの上に大きな水玉を作り落とした。
 ぼちゃん!
「雷撃!」
 すかさずアルトがそこに雷撃を叩き込む。
(雷魔法も出来るんだな)と呑気に考えた。

 バリバリバリドッシャーーーン!!
 ガガーーーン!! バチバチバチーーー!!

 雷魔法って結構派手だ。兵士たちの上に雷が幾つも落ちる。
「ぎゃああーーー!」
「わああーーー!!」
「ぐぎゃぎががっーーー!!」
 痙攣している。感電したの?
「惨い……」
 魔獣もついでに雷撃を浴びたようだ。
「ぐおおおぉぉーーー!!」
 断末魔を上げてドウッと倒れた。
 明かりがフッと消える。兵士が点けていたのだろう。黒々と魔獣と兵士たちの影が横たわっている。

「アルト、やり過ぎ……」
「僕、こんなになるなんて思わなかった」
 やった張本人ふたりがビビっている。

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