婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり

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三章 聖女見習いアデリナの事情

28 ノアの隠れ家にて

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「メリー、今は人の事より自分のことを心配しよう」
 アルトに言われて我に返った。
 私、国を揺るがす大騒ぎの原因を作ったんだった。
 反逆者だわ。

 宗主は仲間を語らって、引き入れて仲間を増やしていた。味方を増やして悪事を正当化する。近隣諸国を味方に引き入れ、腐った組織が増大する。
 あの部屋の偉いさんで、こっちに付いてくれそうな人なんているのだろうか。
 みんなが捕まえようと押し寄せて来たら、どうしたらいいのか?

「メリーは婚約破棄されたんだよね」
 そっちなのか。
「うん……」

 アルトに言われて口を尖らせる。私が悪いのか。女としての魅力が無いのか。
 拗ねちゃいそうだし、落ち込みそうだし、あの男が悪いのだとか、男はみんなそうなのかとか、様々な感情がせめぎ合う。
 乙女心は複雑なのだ。

「味方がこいつだけって、親は?」
 チラッとオクターヴを見据えて聞くアルト。
「私の親は父が養子で、母が死んで、再婚して養母と義妹がいるわ」
「他には?」
「祖父がいたけど死んじゃったし」
 ちょっと俯いてしまう。手が胸にあるペンダントを探す。

「祖父は領地に力を注いでいたの。父は官僚でね」
「マイエンヌ侯爵領か」
「ええ、隣に男爵領があって、その向こうは帝国ね」
「なるほど」
 帝国には近い。
 だから、ケプテンみたいに自由都市になる道がある訳だけど。


 コルディエ王国の東に広がる広大な領地。
 北に白き山が聳え、蒼き水を湛える湖を抱く豊かなるマイエンヌ。
 遠いわ。侯爵領が果てしなく遠い。
 でも、焦ってはいけない。


 私を見てアデリナが謝る。
「メリー、ごめんなさい。全部あなたに押し付けてしまって」
「いいのよ、やったもん勝ちよ」
「わたくしは馬鹿ね。こんな騒ぎになるなんて」
「騒ぎを起こしたのは──」
「「「みんなで起こしたんだよ」」」
「そうそう」
 ああ、私はいつの間に、こんなに素敵な仲間に囲まれている。

「じゃあ逃げようかー」
「ノア、逃げるとこあるの?」
 相変わらず軽く言ってくれるけど、アルトがそれに横槍を入れる。
「メリー、その話だけど」
「うん、なあにアルト」
「アデリナの方が片付いたのなら帝国に行かない?」
「え、何で帝国……」

 アルトが成敗する本妻は帝国の人だったの?
 私にフェイントかけていた? マジックバッグもそうだし、用心深いわね。
 いや、あんな隠れ里みたいな村まで探し出して、皆殺しにして火を放って行った連中だ。私が浅慮なのか。用心しても、し過ぎじゃないな。

「僕も片付けたい」
「分かったわ。一緒に行こう」
 これは結構な覚悟が必要だと、手を握りしめる。
「ありがとう。僕はメリーに出会えて本当に良かったと思っている」
 アルトがその手に手を重ねる。
「私もよ。ずっと一緒に居ようね」
「うん」
 私みたいなのがアルトの側にいて大丈夫なのかなって思うのよ。思うのだけど。

「そう言えば、ねえ、アルト。落ち人って何?」
「え、と、落ち人の伝説というのがあるんだ」

 稀にこの世界に、違う世界から落ちて来る者を落ち人と呼ぶ。
 落ち人は重複しない。
 落ち人は一人と番になる。
 落ち人は見知らぬ力を有して、周りの人々の運命を変える。

 異世界転移転生した人の無双するお話みたいなものだろうか。
 私は【救急箱】しか持ってないけど。危険なものが出る事が多くて、あんまり使えないし、私自身は全然、全く強くないし。

「その落ち人に、私は当てはまらないと思うけど」
 私、何か特別な人間っていう感じじゃないもの。
 特に何が出来るっていう訳でもないし、
 頭がいいってわけでもないし、
 まるっきり普通の人間だもの。

「どっちでもいいけど、そう言っとけばメリーは保護されるだろ」
「まあそうね。どっちでもいいという所が気に入ったわ」

 そういや宗主様が言っていたな。
『落ち人はただ一人。ソレを殺せば次が来るであろうよ』
「つまり、私一人って事は、私が死んだらすぐ次がポンと来るの?」
「そんなに次がポンポン来たら、伝説にならんだろうが!」
 オクターヴが呆れたように言って、この話を締め切った。

「取り敢えず、一休みしてケプテンに戻ろうか」
「分かったー」


  ◇◇

 翌日の朝まだき、
 ノアは卵を大事に抱えて飛んだ。
 私たちはケプテンの宿に戻った。

 そっと部屋に転移して、街の様子を探ったけれど、いつものような日常の声が聞こえるだけ。部屋の外を窺ったけれど兵士が見張っている様子もない。

「取り敢えず何か食べといた方がいいわね」
 私は七輪を出してお餅を焼くことにした。
「何だ、これは?」
 不審そうな顔をしてオクターヴが聞く。
「お餅だそうです。ゆっくり噛んで食べますの」
「腹持ちが良くて消化もいいのです」
 アデリナとスヴェンが説明してくれる。
「アルト、換気は大丈夫?」
「大丈夫だ」

「ふん、こんな物をこんな風に食べていると、仲間意識も芽生えるな」
 車座になって焼けたお餅をお皿に乗せてまわす。
 ついでに何かないかと探して、ソーセージと串焼き肉とフレッシュジュースを見つけたので出した。
「嫌味かしら」
「いや、普通に美味い」
 ツンデレだろうか、ヤンデレじゃないのか。まあいいか。
 お湯を沸かしてミソスープにして飲むと、ほうっと吐息が漏れる。
 一息ついて、まったりした朝になった。


 その後、見計らったようにふたりの客人が訪れた。
「わしはフッカーと申します」
「俺はこのケプテンのギルドを統括しているジャック・マルケだ」

 会議室に来ていた軍人とギルマスだった。
 一緒に来たギルドのマスターが、あの画像を魔石に保存したという。
 じゃあ上映会はこの方にお任せしよう。この街であんまり恨みを買いたくないし、こちらは手を引くわ。

 実はケプテンの街自体は素晴らしいと思っている。自衛団やら警備の人々も親切で、街は賑やかで。
 ただあの商会がね。もっと他の商会も入れていいんじゃないか。よそ者だし、余計な事は言わないけど。
 伯爵は気分が悪くなって領都に帰ったという。大丈夫なんだろうか。
 ギルドのマスターはすぐに帰って、軍人が残った。

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