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四章 帝国へ
30 そうだ、トンネルを掘ろう!
しおりを挟む商業都市の近くまで来て休憩になった。都市の城砦が遠くに見える。
街道沿いの小さな村に立ち寄ったのだ。
小さな市が開かれていて、物々交換等もあって賑わっていた。
都市の周りには衛星のようにこういった小さな村々があって、市の開催される日が持ち回りで決まっているという。
私たちは久しぶりに馬車から降りて、外の空気を満喫している。
村っていうのは初めてだ。アルトの村は隠れ里だったし人は少なかった。大体初っ端からアレだったし。
ケプテンは大きな街だったが、長くいなかった。
兵士たちは離れた場所で待機していて、村には補給係が数人立ち寄っただけだ。
「卵があるわ、目玉焼きかオムレツ食べたい。ベーコンがあったらベーコンエッグにして、レタスと玉ねぎのサラダ。コンソメスープ。ふかふかのパン。イチゴたっぷりのジャム」
ああ、妄想が止まらない。
「メリー、そこに野菜があるし、向こうにジャムがあったよ」
「わーい、全部買っちゃおう」
アデリナとスヴェン、ノアとオクターヴは別々に買い物をしている。
私も【救急箱】に補給しておかなくては。
「ベーコン見た?」
「あっちだ、鳥肉もあった」
「鳥肉?」
「丸鳥と雉鳥だ。どっちがいい?」
「どっちも!」
丸鳥はそのまんま丸い鶏で、雉鳥も縞々模様の鶏によく似た鳥でどちらも飛ばなくて、この辺りでは家畜みたいに飼っている。なので当然だが交雑が起きて丸雉鳥というのもいるという。
味は雉鳥の方が歯ごたえがある。丸鳥は淡白だ。
焼き鳥よ。焼き鳥なのよ。この世界には醤油と砂糖があるのだ。ワインもある。
帝国の兵士たちの野営地に戻って、バーベキューセットを広げた。
醤油と砂糖とワインを適当に突っ込んで大きな鍋にタレを作る。お肉とこの近辺特産のねぎモドキを適当な大きさに切るとアルトが代わってくれたので、たれに漬け込む。
お肉を混ぜて下の方から引っ張り出して金串に刺して焼く。皆がお肉やら野菜を出してくれたので、皆で適当に切ったり焼いたり混ぜたりを手分けしてやる。
村で買った野菜をサラダにしてドレッシングをかけ、コンソメと干し肉でスープを作って野菜と卵を散らす。
出来上がった焼き鳥を、野菜とスープと一緒に食べていると帝国の兵士たちが見ているので、焼いたのをお皿に盛って配った。買った鳥全部焼いてしまった。
美味しかったからまあいいか。
馬車に戻ってもしばらく妄想が止まらなかった。
「ああ、この卵生みたてで美味しそう。卵かけにしたい」
そう透明感があって──。
そして目の前に鎮座している大きな卵に目が行った。
「ねえ、ノア。何となく卵がくすんで見えるのだけど」
あの透き通った感がない。
「長旅だし疲れたのかしら」
そういえばここん所、ごとごと動いていないな。
「うーん。おいら、ちょっと置いてくる」
「何処かいい所があるの?」
「うん、目星を付けていた所があるんだ。こいつ連れて行っていい?」
指したのはオクターヴだ。じゃあコルディエ王国かな。
「うん、気を付けてね」
「卵が落ち着いたら帰って来るよ」
「うん」
ノアが卵を抱きかかえようとするのをオクターヴが持ち上げて、ふたりと一匹と卵は居なくなった。
「気になる?」
「そりゃあ、卵、大丈夫かしら?」
「卵はちょっと疲れていたんだよ、帝国には行きたくないようだったし」
「そうなの?」
卵の気持ちまで分かるんかい。
「僕がそう思っていただけ。気になる?」
だからアルト、その目は何?
「気になるわよ、でも今は考えない事にするの」
「そうか、そうだね」
そうよ、私達成敗しなきゃあいけないのよ。アデリナとスヴェンを巻き込んじゃって申し訳ないと思うけど。こういうの乗り掛かった船っていうのよね。
ひどい船に乗せてしまったという自覚はあるのよ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。魔王っぽいのはもう出たわね。
さすが帝国というようなのに出られても困るんだけど。
そう、期待外れのラスボスでいいわ。
◇◇
しかし、帝国領に着く前に敵は現れたのだ。どうしてもアルトを帝国に入れたくないらしい。考えれば分かる事だが、私はあまり考えない人だった。
帝国に行く前に谷のような所を通らないといけないらしい。道幅が狭く、上から何か仕掛けるに絶好の場所だ。街道の途中に何か所かあって、中に入り込むと引き返すのも難しい、難所なのだ。
川沿いの道だと狭い崖道になって、下を流れるのは急流で馬車だとかなり危険であるという。どっちもどっちだけれど、将軍はこちらの山道を選んだ。
これがどういう風に転ぶかね。
説明を受けたのが昼食の後で、少し開けた場所だった。そこから伸び上がって見ると、崖の下を隘路がうねうねと続いている。
斥候に行った兵士が帰って来て、どうやら敵はお出迎えしてくれるらしい。歓迎会は派手になりそうだという。
「帝国ってどっちの方なの?」
何の気なしに聞いた。
「あっちだ」
隘路の方ではなく山の方を指さすアルト。
「トンネルを掘ればいいのに」
「お嬢さんは面白いことを言う」
将軍は面白そうな顔をする。
「あら常識よ、ねえアルト」
アルト、その目は何?
こんな時は【救急箱】の出番だろう。
「ああ、《掘削機》が入っていたわ。こんな物どうやって入れたのかしら」
入れたからには出せるんだろう。動かせるんだろう。きっと。
隘路の手前に機械を出せそうな場所を確保して取り出す。
うわあ。ドーンと音が出そうなほど立派な機械が出て来たわ。
前に立派なドリルも装備しているし。足回りはキャタピラー、動力源は何かしら。魔石かな。魔道装置ってヤツね。
将軍やら兵士やらがあんぐりと口を開けて見ている。
「まあいいわ。これでもフォークリフトは動かせるのよ」
機械の運転席に乗り込んだ。アルトが一緒に乗り込んで来る。
「ちょっと、いや大分フォークリフトと違うわね。まあいいわ」
動かそうと外を見ると、まだみんなが目を丸くして見ている。
「動かしますので、ちょっと下がって下さーい」
お願いしてエンジンをかける。指一本をキーを入れる所に当てて魔力を流すと始動した。ブルルと機械が身震いをしてエンジンがかかった。音に驚いてみんなが後ろに下がる。よし、ドリルを動かす。ゴウンゴウンと結構な音がして前方のドリルが回りだした。
「行くわよー」
「分かった」
「オーケーとか、ラジャーとか、了解とか言って?」
「うーん、ラジャー!」
「よっしゃ」
ゆっくりと山めがけて発進する。アルトは前と後ろを交互に見ている。
ドリルは山に着くとゴウンゴウンと山を削っていった。削った土が後ろに吐き出されてゆく。
「やっぱり土が出るな」
「え、どうしよう」
「ゴーレムを出す」
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優秀だわ。こんな優秀な子、敵だと殺すわよね。
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アルト、前途多難よ。私も、うかうかしていられないわ。
『出でよゴーレム』
アルトの魔法で小さなゴーレムがぞろぞろと出て来た。
「土を固めてトンネル内を整備するんだ。行け!」
アルトが出した小さなゴーレムが土を掬って掘削機の通った後を固める。丁度馬車一台分が通れるくらいの大きさの穴だ。
そんなに長くない小さな急造のトンネルは無事開通した。
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