推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん

文字の大きさ
61 / 232
8歳

58 アルフレートside

しおりを挟む
先に帰ってきたテオ様はここ来た時と同じように頬を染めていた。
クラウス様の真似をして落ち着いている雰囲気を心がけているのに珍しい。なにかテオ様の心に刺さることでもあったのか。

「お帰りなさいませ。坊っちゃま。」

テオ様の乳母がテオ様の上着を受け取りに出ている。クラウス様はいらっしゃらないようだし私は仕事に戻ろうか。

「ノーラ。兄上が優勝した!!今日のパーティの主役は兄上だぞ。」

なるほど…。クラウス様は優勝したのか。ならば少し華美な宝石をつけても問題ないだろう。仕事に戻る前に磨いておこうか。

それにしても子供というのはあんなにも無邪気なのだろうか。クラウス様があんな風に勝って喜んだことがあっただろうか。

…ないな。ない。
いつも当然。とでも言うような顔で勝利を奪い取ってきた人だ。8歳児には見えない見えないと思っていたし、私も子供として接したこともない。
だからクラウス様は子供らしいテオ様を可愛がるのだろうか。子供には興味無さそうなお人なのにな。

キャンキャンと鳴くように乳母に報告するテオ様は年相応。クラウス様の前でもキャンキャン吠えればいいのに。テオ様であれば犬のように可愛がってもらえるだろう。今だってペットのように愛でられているから変わりはない。

あ。だから獣人を飼い始めたのか…。
アレは狼だと言い張っているがどう見ても犬だ。クラウス様もいないところでわんちゃんと呼んでいる。

クラウス様は犬が好きなのか…。理解した。

「アルフレート!兄上が優勝したぞ!!」

はは。捕まってしまった。私はあまり犬…いや、動物全般好きではない。
さっさと移動しておけばよかったな。

今気づきましたとばかりにテオ様に頭を下げる。

「お帰りなさいませ。テオ様。それはお祝いしなければいけませんね。」

「俺からもプレゼントしたいと思う。なにが喜ばれるだろうか。」

正直雑草でも喜ぶと思う。今回の紐だっていつもなら捨てるのにつけて行ったし。品格が落ちると言うのに何を考えているんだろうか。
ともかく、なんでも喜ぶんだろう。

「なんでも喜ばれると思いますよ。また、テオ様の手作りなどいかがでしょう?」

口を尖らせているから望んた答えではなかったのかもしれない。

「もうすぐテオ様の誕生日でしょう。その時にお小遣い制を頼んでみてはいかがですか?そうすればサプライズでもなんでも出来るでしょう。」

「いい考えだな。言ってみる。」

「はい。」

クラウス様に伝えとこうか。いや、あまり口を挟んで怒られたくないな。言わなくても怒られそうだが。





次に馬車が見えたから今度こそクラウス様だろうと当てをつけて磨き終わったカフスを元に戻す。


「お帰りなさいませ。クラウス様。」

テオ様とは対象的にげっそりとしたクラウス様のお帰りだ。気づいたのは私とメラニーくらいだろうか。
相変わらず仮面のような微笑みを貼り付けている。

「1時間だけ寝る。起こさないでね。」

「承知致しました。」

機嫌が悪いな。こういう時は関わらないに限る。
これでも当主代理みたいな人だから寝室まで後ろを着いていく。雑談もないということは相当お疲れなのだろう。前の先生が魔法や剣を教えていた時は帰ってくる度こんな感じだった。いつ八つ当たりされるかと思っていたがなかったんだよな。
そういうところは大人より大人だ。





はぁ。機嫌が治っていますように。
部屋をノックして中に入る。

「クラウス様、お時間です。」

うぅ"と唸り声だけが帰ってきた。

「クラウス様。いくら優勝者とは言えそんな姿見られたら失望されますよ。」

「アル、うるざい。」

機嫌は治ってるな。これなら二度寝もないだろう。
私はお茶の準備を進めようか。


部屋でお茶を入れていたら冬眠の熊のようにのそりとベットから降りてソファに着いた。
奥様の寝起きなど見たことないだろうにこの一連の流れは奥様そっくりだ。クラウス様が代理になられる前、奥様が亡くなられた日も朝の紅茶の準備をしていたのは私だった。

本当にそっくりだ。紅茶の匂いで起きられるところも。朝にぐずるところも。

奥様が亡くなられた日は朝の挨拶をしても起きず、紅茶を入れても起きなかった。そこでやっと気づいて息を確認した。

だからこうやって紅茶を入れるのは嫌いじゃない。奥様のいた日々を思い出せるから。きっとクラウス様も気づいている。

この屋敷…いや、皇族か侯爵様奥様の兄君が殺したことを。知った上で仲良く関係を紡ぎ直しているんだろう。

いつかの復讐のために。







しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...