九鬼妖乱 『鬼』

冬真

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第3章

№48

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「なにか分かりましたか? 」
「いいえ、まだ」

 首を捻る雅也。

「№48ってなんのことでしょう」

 持ち帰った紙辺をテーブルに置いて伊坂、香坂、雅也が頭を突き合わせているが未だこれというものは浮かんでいなかった。

「ヒントのつもりですかねー、答えを教えてくれればいいのに。佐久間のじい様は食えないお人だから。」
 香坂が顎をさすって言う。

「うーん、そうですよね。この数字に何か意味があるんでしょうけど…そもそも何を見つけさせようとしているんだろう」
「やっぱり犯人じゃないですか? 」

 ひょいっと紙片を拾い上げる香坂。

「あぶってみるとか。水につけてみます? 」
「そういうんじゃないと思いますけど」と、思わず笑ってしまう雅也。
 腕を組んで悩む伊坂の眉間にしわが寄る。

「この紙ツルツルしてますね。カレンダーの裏みたいな、」
「佐久間さんがわざわざカレンダーとかチラシの裏紙なんか使うか? 」
「分からないな」

 双子の大きな手の中で弄ばれる紙片。

「すべてに意味があるんだと思うんですけど…。佐久間さんがあの場所にいたことも気になるし。古い桜の木、№48、上尾でなければならない理由、」

雅也の言に「え? 」と、香坂が声を上げた。

「うちじゃなきゃならない理由なんてあります? 押しつけるのにちょうどよかったんじゃないですか。単に舐められてるのかと」
「香坂、口が過ぎるぞ」
 
伊坂に窘められて「すみません」と軽く首を竦める。
そんな様子に苦笑する雅也。

「そうですね~。まあ、舐められてるとしたら僕なんだけど」
 
名門上尾家の次期当主がまだ年若い青年であればこそ、佐久間なら試すようなことをしないとも限らない。

「これくらいの謎が解けないと当主としては不足ってことですかね? 」

雅也のほっそりした指がコツコツと机を叩いた。

「そんなことはないと思いますが」
「俺たち探偵じゃないんだけどな」
「まぁそうなんですけど。この紙、なにか触ったことがあるような気がするんですよね…どこでだろう」
 
うーん、と天井を見上げてしまう。
閉塞した空気を打ち破るように軽いノックの音。「どうぞ」と声をかければ板チョコのような扉が開かれる。折よく現れたのは京子と望だった。
コツコツとハイヒールの音を響かせる京子。後に続く望は配膳台を押している。

「あら随分お悩みみたいですね。なにか分かりました? 」 
「京子さん」「いいえ。まだ」と、それぞれがお手上げとばかりに首を横に振った。

「そうですか、根を詰めすぎてもよくありませんわよ。お茶でもいかがです? 」
「ありがとうございます」
 
雅也に感謝されて和んでいる京子の影から顔を出す望。

「まぁ、実際にそのお茶の用意したのはオレなんですけどね! 」
「ちょっと望君! 言ったのは私でしょ? いきなり裏切るとは…」
 
きりりと眉尻を上げる京子。ペロッと舌を出した望は、長身の香坂の後ろに回って彼を盾にした。

「もう俺を挟まないでくださいよー! 」
「あとで覚えておきなさいよ…」
 
低くつぶやかれて望が悲鳴を上げる。

「怖い怖い! 」
「まぁまぁ、」
「二人で用意してくれたんですよね。ありがとうございます。」
「え、ええ…まぁ」

雅也にニッコリ微笑まれれば京子もひとまず角をひっこめるしかない。気を取り直すように眼鏡を押し上げた。

「なんでもいいから早くお茶入れてくださいよ」と肩を竦める香坂。さすがの伊坂も苦笑せざるを得ない。
咳払い一つ、びしっと指図する京子。

「望君、淹れて差し上げなさい」
「やっぱり俺がやるんじゃないですか~」
「いいから早くしなさい」
 
きっぱり言われて慌てて望が給仕にかかる。
白磁のティーカップに注がれる琥珀色の紅茶。手際はぎこちないが、それでもふわりと漂う格調高い香りに一同は肩の力が抜ける。温かな湯気を見ているだけでほどよく緊張が解けていくのを感じられた。

「雅也さんには私がお入れしますわ」
「ありがとうございます」
 
明らかな贔屓だと思ったが突っ込むものは誰もいなかった。
伊坂は黙って紅茶をすすり、香坂は気にしないフリをした。望だけが「えぇ~」と嘆いた。
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