九鬼妖乱 『鬼』

冬真

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第3章

佐久間という人

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「日本術者協会」の定例会はその名の通り定期的に行われており緊急招集でもない限り顔ぶれも変わらず内容も平和なものだ。
お決まりの報告と歓談を聞き流し、そつなく挨拶回りをこなせば本日のノルマは達成だ。「懇親会」という名の二次会に向かう者もいるが未成年の雅也は酒の席を断ることができる。
さっさと座を離れ先に席を立った佐久間を探す。
ほどなくして会場の立派な庭園で佇む老人の姿を見つけた。

「佐久間さん、」

おもむろに声をかける雅也。振り向いた相手は驚いた様子もない。おそらく相手も雅也がくるのを予想して待っていたのだろう。

「おやおや、これは上尾の坊ちゃん」

佐久間は孫を迎える祖父のようにニコニコと優しい笑顔で雅也を招き寄せた。若干わざとらしい。丸眼鏡の奥の瞳は老人というには鋭い光を宿らせている。好々爺然としているがなかなかに食えない人物なのは確かだった。

「いやいやこの間は悪かったね」
「いえ、でも急なお話で驚きましたよ」
「上手くやってくれたようで推薦した儂も鼻が高い」
「先生もお人が悪い。まさか鬼が出るとは思いませんでした」
「いや~悪かった悪かった。あそこはねぇ、儂が目をかけていた男の親戚筋でな。どうしてもと泣き付かれてしまってねぇ」
 
にこやかに笑い合うが腹の探り合いだ。
佐久間はだいたい事のあらましを知っていて、上尾に水を差し向けのだろう。

「そうですか、ご懇意の方のご依頼ではお断りできませんね。お役に立てたようで「上尾家」としても喜ばしいことです」
「そうか、そうか、わかった。そう怒ってくれるな、儂もあそこに鬼がいるとは知らなかったんだからね」
「もちろんそうでしょうね」

にこやかに頷く雅也。
泣き付いてきた男可愛さに佐久間が協会に圧をかけて依頼をねじ込んできたのだ。そうでなければこの件は派遣組で解決されたはずだ。上尾は良いように舞台に押し上げられたに過ぎない。

「詫びにいいことを教えてあげましょう、ほれ、ぼっちゃん機嫌を直しておくれ」

飴玉の代わりに佐久間がくれたのは紙片だった。
四つに折りたたまれた紙を開いてみれば「№48」とだけ書かれていた。




 帰りの車中。
 コツンと窓に頭を預けて雅也は口を開いた。

「伊坂さん、あの木って…」
「ああ、桜ですね。たしか樹齢は60年以上だったか…。古い木ですけど春にはちゃんと桜が咲きますよ。」
「桜か」と呟く。

佐久間がいたのは桜の木の下だったのか。
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