6 / 13
5 浄化の輝き
しおりを挟む魔境の最深部に差し掛かると、魔物の強さが格段に上がった。
周囲には硫黄のような異臭と、肌を焼くような熱気が漂い、誰もがジリジリと汗をかいてしまう。
襲い掛かる魔物たちは強靭で、騎士たちではもはや太刀打ち出来ていない。騎士団長などは、ぽっちゃりお腹を上下させながら汗を垂らしているだけの置物と化している。
(ほんっとうに足手まといだわ)
ミリアは心の中で毒づきながら、魔女っ子ステッキを振るい、魔物を倒し続けた。
ゼインは、熱気の中でも涼しい顔で討伐を続けている。その動きには一切の無駄がない。
(はぁぁ……今日のゼイン様もカッコイイわぁ。少し汗ばんだお顔なんて色気増し増しで、キュンキュンしすぎて顔が見れないわ)
そう思いながら、ミリアはゼインをガン見し続けた。
討伐を続け、魔王城の近くまで来た一行は、不気味な湖を発見した。
湖水はどす黒く、水面からは湯気のようなものが立ち上っている。
(これは水着でセクシーアピールチャンス!? なんて考えたけど、流石にこんな色をした湖で、そんなことしてたらドン引きよね)
ミリアが冷静に判断を下していると、宰相閣下が「湖だ!」と言って駆け出した。暑さと疲労、流れた汗のせいか、いつにもましてガイコツな彼は、汗を流そうと顔を湖にツッコんだ。
「うわぁぁ顔が! 顔があぁぁ!!」
すぐに宰相閣下は叫びながら悶え始める。
(流石にこの色は瘴気溜まりの湖でしょうね。そんなところに顔を突っ込んだら腐るわよ。でも、あの顔がもっと崩れたらもっとイケメンってことになるのかしら?)
ミリアはそんなことを思う。皆、湖の瘴気を恐れて誰も宰相閣下に近寄れないでいた。
ふと、ゼインが宰相閣下に近づき、水場でばしゃばしゃしている彼の首を掴んだ。そのまま力任せに湖から引き離す。宰相閣下を引き上げたとき、瘴気の水が、ゼインの手や顔にかかった。ミリアはその箇所の色が、みるみるうちに赤黒く変色していくのを見て、血の気が引いた。
(ゼイン様の美しいお顔に傷がつくなんて!)
するとその時、湖の中からゆらりと巨大な影が立ち上る。
「ふはははは、勇者と聖女一行よ。よくぞここまで来たな。私は、魔王様の直属の部下、セルウェイだ。私は水を操る魔物。この瘴気の水がお前たちを腐らせ……」
「お黙りなさい」
セルウェイが言い切るのを、ミリアの静かな力強い声が邪魔をした。魔女っ子ステッキを力強く握りしめ、魔力を限界まで開放した。ミリアはセルウェイに見向きもせず、むしろ、セルウェイを背後にし、ゼイン様に向けて浄化魔法を発動した。
『浄化の光よ、今こそ大地に満ちよ。闇の穢れを焼き払い、万物の原初の姿を取り戻せ!』
ミリアのプラチナブロンドの髪が光を放ち、アメジストの瞳が強く輝く。ステッキの先端に集束した膨大な魔力が、あたり一面に爆発するように広がり、黄金色の光の渦が野営地一帯を包み込んだ。
その瞬間、ゼインにかかっていた瘴気による赤黒い変色が、光とともに消え去り、元の健康的な肌の色に戻る。宰相閣下の顔の腐食もたちまち治癒された。
瘴気の湖のどす黒い水は、光の奔流に洗われるように透明になり、清らかな輝きを放つ真水へと変わっていった。
そして、瘴気の湖の水を操ろうとしていた魔物セルウェイは、浄化の光に直接さらされ、「うわぁぁぁ」という断末魔とともに、あっという間に蒸発するように消滅した。
「凄いな……」
ゼインは目を丸くして、ミリアを褒めてくれた。彼の表情に、驚きと、純粋な称賛の念が見える。ミリアは、ゼイン様の無事を確認し、ようやく安堵の息をついた。
「この湖を、この魔境を正常な森へと戻したかっただけですわ」
(ゼイン様の美しいお顔に傷をつけるなんて許せないんだから!!)
ミリアの真摯な態度に、宰相閣下が駆け寄り、顔を光らせて感謝の意を述べた。
「ミリア様! 私への熱い思い、この命の恩義、決して忘れませんぞ!」
ミリアは辺りを見渡し、ここでの野営を決めた。
「この先はさらに危険ですわ。ここで今日は野営しましょう。明日はおそらく、魔王との対決となります」
ミリアはそう言い切ると、力強く続けた。
「ここに、強力な結界を貼っておきますので、魔王との決戦は宰相閣下、騎士団長様と皆さんはここで待っていてください」
騎士たちは、ミリアの言葉に感動して、涙ぐんだ。
「ミリア様は、我々の命を惜しまれているのですね……! 俺達は最後までご一緒します!」
口々にそう言う騎士たちを前に、ミリアは淋しげに微笑んだ。
「まぁ……みなさん………」
( 足手まといだから言ってるのよ。最後くらい二人っきりにさせなさいよぉぉ!!)
そんなことを考えているミリアを、ゼインは静かに見つめていた。彼の視線は、ミリアの聖女としての振る舞いと、その裏にある芯の強さを観察しているようだった。
13
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります
樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。
勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。
平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし!
影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。
色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。
前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。
※この作品は小説家になろうで完結済みです
乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~
天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。
どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。
鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます!
※他サイトにも掲載しています
周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます
鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。
そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。
そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。
ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。
「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」
聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。
【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます
小豆缶
恋愛
なんちゃって聖女認定試験で、まさかの「勇者認定」を受けてしまったリン。
実は戦う気ゼロ、しかも金なし・仲間なしの超ポンコツ。
そんな彼女に下されたのは、魔王復活の危機を理由に街の外へ放り出されるという無茶な命令!
途方に暮れながら魔王城のあるダンジョンを目指すも、道中で遭難。
絶体絶命のピンチを救ってくれたのは――なんと、あの魔王だった!?
帰る場所もなく、頼み込んで魔王城に居候することになったリン。
戦えない勇者(?)と、戦いを嫌うツンデレ魔王。
この不器用で奇妙な共同生活が、今、始まる――!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる