召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸

文字の大きさ
7 / 13

6 魔王討伐

しおりを挟む


 魔王城へ辿り着いた一行は、最後の緊張感に包まれていた。


 慎重に城の中を進むのは騎士たちだけだろう。ミリアは次々と出てくる魔物をサクサク倒しながら、ゼインと共に足を進めた。しかし、ミリアの顔には焦りの色が浮かんでいる。

(終わっちゃう、終わっちゃう、この旅が終わってしまうわ! 全然、ゼイン様にアピール出来ていないんだけど、どうしましょう!?)

「大丈夫か?」

 ゼインがミリアに声をかける。ミリアは気丈に答えた。

「ええ、大丈夫ですわ。ゼイン様の支援はお任せください」

 ミリアは、ゼインに身体強化や防御などの魔法を惜しみなく駆使しながら、ずんずん奥へと進んでいった。


 やがて、一行は荘厳な巨大な扉の前にたどり着いた。中からは、強烈な魔力の気配が滲み出る。恐らくここに魔王がいる。
 ミリアは、手に緊張が走った。あることを考えてしまったからだ。

(ここに魔王がいる。これで、ゼイン様との旅が終わってしまう……。でも、もしもこの扉の先にいる魔王様が、この世界で言う“醜い顔”だとしたら?)

 ミリアの肩がふるふると震えだした。

(もしも“醜い顔”ならば、もしかすると日本基準で言うイケメンっていう可能性があるかも? そしたら、次に発生する魔王討伐イベントは、イケメンのゼイン様と、イケメン魔王の戦いって事!? いやーん、そうなったら眼福すぎるわ! 討伐できなくなったらどうしましょう? ゼイン様にフラれた時のために魔王をキープしちゃう? いやいや、今までゼイン様と短い旅だったけど、こんなにもカッコよくて、気遣いができて、旦那様にしたい男性は彼以外ありえないわ。一瞬でも浮気心を抱いてしまうなんて、私ったら本当に悪い子よぉ!!)

 震えるミリアの肩に、ゼインの温かい手が置かれた。

「大丈夫だ、俺がいる」

 その言葉に、鼓動が跳ねる。

(え? もしかして、魔王との対決の前に怖がっているように見えたのかしら? ゼイン様にそんな熱い瞳で見つめられたら、私溶けちゃうんですけどぉ! 一瞬でも、魔王をキープしようかな? なんて思ったりしてごめんなさぁいぃっ!!)

 彼の気遣いが胸に染みる。ミリアはトキメキ過ぎて、扉の前で倒れそうになるのを必死でこらえた。よくぞ踏ん張ったと自分を褒める。

 そして、震えるミリアの代わりに、ゼインがゆっくりと扉を開いた。




 その先は、巨大な空間だった。

 禍々しい魔力の源となる黒いオーラが淀み、部屋全体を覆っている。中央には、巨大な岩と黒曜石で造られた玉座があった。その玉座に座る一人の男性が、響くような低い声で言う。

 ミリアは、魔王の容姿に視線が釘付けになった。

「よくぞ、この玉座まで来たな。我こそが魔王だ。その執念は認めるが、お前らの命はここで……」

──ドゴォぉぉン!!!

 轟音が響いた。玉座から魔王が弾け飛ぶ。

 その音は、ミリアが魔法を放った音ではない。
 興奮したミリアが、魔女っ子ステッキで魔王の横っ面をぶん殴った音だった。

(くうぅ、イケメンを期待したのにトロールじゃねぇかよぉぉぉ!)

 魔王は、エラが張り、鼻が低く、目が離れた、このナザール王国で最も美しいとされる「オーク顔」をさらに野蛮にしたような、完璧なトロール顔だった。

 予想外の事態と、ここに来るまでのゼイン様へのアピールチャンスを逃した絶望感で、思わずその場に崩れ落ちるミリア。

(おっと、こんなことで落ち込んでいる場合じゃないわ)

 ミリアが立ち上がろうとすると、ゼインは華麗な剣さばきで魔王に止めの一撃をくらわせていた。鍛え上げられた背中をこちらに向け、黒髪がサラリと舞う。大剣から魔王の血液を払い落とすその動作は、一切の迷いもなく、静謐で、美しかった。彼は魔王を一撃で仕留めた戦神そのものだった。

(やっぱりゼイン様は最高だわ。この世界で最高のイケメンは、もうゼイン様で決定よ)

 禍々しい魔力が消え、城内に澄んだ空気が流れ込む。消滅した魔王を見て、後続の騎士たちは歓喜の声を上げた。

 
 戦闘が終わり、ミリアはそっとゼインに近づいた。そして自分のローブの袖で、汗と魔王の血が混じったゼインの頬を拭った。ゼインは少し驚いた表情をしたが、払いのけたりはしなかった。

「……お前は、本当に、俺を恐れないのだな」とゼインが改めてミリアに尋ねた。その冷徹な瞳には、微かに迷いが宿っている。

「ゼイン様は、このナザール王国にとっての希望。国のために命をかけて戦ってくださった貴方様を、どうして私が恐れましょうか」

 ミリアは真摯な眼差しで答えた。しかし、魔王討伐の旅が終わってしまったことで、ミリアの瞳には涙が込み上げて来る。

(もちろん、ゼイン様のその美しさも強さも笑顔も優しさも筋肉も、恐れるどころか全部大好きよぉぉ!!  でも、私、今まで周りに魔物男子しかいなかったから、男性へのアプローチなんてしたことなくて、全然うまくできなかったじゃないのぉぉ!!!)


 こうして、ミリアの涙の悶絶と共に、魔王討伐ピクニックの短い旅はあっさりと終わりを告げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界推し生活のすすめ

八尋
恋愛
 現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。  この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。  身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。  異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。​​​​​​​​​​​​​​​​ 完結済み、定期的にアップしていく予定です。 完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。 作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。 誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。 なろうにもアップ予定です。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。 友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。 人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。 その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。 そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。 婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。 もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。 婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。 すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。 新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。 人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。 これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...