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6 魔王討伐
しおりを挟む魔王城へ辿り着いた一行は、最後の緊張感に包まれていた。
慎重に城の中を進むのは騎士たちだけだろう。ミリアは次々と出てくる魔物をサクサク倒しながら、ゼインと共に足を進めた。しかし、ミリアの顔には焦りの色が浮かんでいる。
(終わっちゃう、終わっちゃう、この旅が終わってしまうわ! 全然、ゼイン様にアピール出来ていないんだけど、どうしましょう!?)
「大丈夫か?」
ゼインがミリアに声をかける。ミリアは気丈に答えた。
「ええ、大丈夫ですわ。ゼイン様の支援はお任せください」
ミリアは、ゼインに身体強化や防御などの魔法を惜しみなく駆使しながら、ずんずん奥へと進んでいった。
やがて、一行は荘厳な巨大な扉の前にたどり着いた。中からは、強烈な魔力の気配が滲み出る。恐らくここに魔王がいる。
ミリアは、手に緊張が走った。あることを考えてしまったからだ。
(ここに魔王がいる。これで、ゼイン様との旅が終わってしまう……。でも、もしもこの扉の先にいる魔王様が、この世界で言う“醜い顔”だとしたら?)
ミリアの肩がふるふると震えだした。
(もしも“醜い顔”ならば、もしかすると日本基準で言うイケメンっていう可能性があるかも? そしたら、次に発生する魔王討伐イベントは、イケメンのゼイン様と、イケメン魔王の戦いって事!? いやーん、そうなったら眼福すぎるわ! 討伐できなくなったらどうしましょう? ゼイン様にフラれた時のために魔王をキープしちゃう? いやいや、今までゼイン様と短い旅だったけど、こんなにもカッコよくて、気遣いができて、旦那様にしたい男性は彼以外ありえないわ。一瞬でも浮気心を抱いてしまうなんて、私ったら本当に悪い子よぉ!!)
震えるミリアの肩に、ゼインの温かい手が置かれた。
「大丈夫だ、俺がいる」
その言葉に、鼓動が跳ねる。
(え? もしかして、魔王との対決の前に怖がっているように見えたのかしら? ゼイン様にそんな熱い瞳で見つめられたら、私溶けちゃうんですけどぉ! 一瞬でも、魔王をキープしようかな? なんて思ったりしてごめんなさぁいぃっ!!)
彼の気遣いが胸に染みる。ミリアはトキメキ過ぎて、扉の前で倒れそうになるのを必死でこらえた。よくぞ踏ん張ったと自分を褒める。
そして、震えるミリアの代わりに、ゼインがゆっくりと扉を開いた。
その先は、巨大な空間だった。
禍々しい魔力の源となる黒いオーラが淀み、部屋全体を覆っている。中央には、巨大な岩と黒曜石で造られた玉座があった。その玉座に座る一人の男性が、響くような低い声で言う。
ミリアは、魔王の容姿に視線が釘付けになった。
「よくぞ、この玉座まで来たな。我こそが魔王だ。その執念は認めるが、お前らの命はここで……」
──ドゴォぉぉン!!!
轟音が響いた。玉座から魔王が弾け飛ぶ。
その音は、ミリアが魔法を放った音ではない。
興奮したミリアが、魔女っ子ステッキで魔王の横っ面をぶん殴った音だった。
(くうぅ、イケメンを期待したのにトロールじゃねぇかよぉぉぉ!)
魔王は、エラが張り、鼻が低く、目が離れた、このナザール王国で最も美しいとされる「オーク顔」をさらに野蛮にしたような、完璧なトロール顔だった。
予想外の事態と、ここに来るまでのゼイン様へのアピールチャンスを逃した絶望感で、思わずその場に崩れ落ちるミリア。
(おっと、こんなことで落ち込んでいる場合じゃないわ)
ミリアが立ち上がろうとすると、ゼインは華麗な剣さばきで魔王に止めの一撃をくらわせていた。鍛え上げられた背中をこちらに向け、黒髪がサラリと舞う。大剣から魔王の血液を払い落とすその動作は、一切の迷いもなく、静謐で、美しかった。彼は魔王を一撃で仕留めた戦神そのものだった。
(やっぱりゼイン様は最高だわ。この世界で最高のイケメンは、もうゼイン様で決定よ)
禍々しい魔力が消え、城内に澄んだ空気が流れ込む。消滅した魔王を見て、後続の騎士たちは歓喜の声を上げた。
戦闘が終わり、ミリアはそっとゼインに近づいた。そして自分のローブの袖で、汗と魔王の血が混じったゼインの頬を拭った。ゼインは少し驚いた表情をしたが、払いのけたりはしなかった。
「……お前は、本当に、俺を恐れないのだな」とゼインが改めてミリアに尋ねた。その冷徹な瞳には、微かに迷いが宿っている。
「ゼイン様は、このナザール王国にとっての希望。国のために命をかけて戦ってくださった貴方様を、どうして私が恐れましょうか」
ミリアは真摯な眼差しで答えた。しかし、魔王討伐の旅が終わってしまったことで、ミリアの瞳には涙が込み上げて来る。
(もちろん、ゼイン様のその美しさも強さも笑顔も優しさも筋肉も、恐れるどころか全部大好きよぉぉ!! でも、私、今まで周りに魔物男子しかいなかったから、男性へのアプローチなんてしたことなくて、全然うまくできなかったじゃないのぉぉ!!!)
こうして、ミリアの涙の悶絶と共に、魔王討伐の短い旅はあっさりと終わりを告げた。
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