召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸

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 魔王討伐を終えた一行は、野営地で待機させていたルナたちと無事に合流した。
 その後、勝利の凱旋を果たし、歓呼の声が響く王城へと帰り着いた。

 王城の門前には、ミリアたちの帰還を待ちわびた人々が鈴なりに集まり、歓喜の声が天を突く。人々は手を振り、花束を投げ、討伐隊を大いに祝った。その歓声と祝福の渦こそが、彼らが成し遂げた偉業の大きさを物語っていた。



 しかし、ミリアの心は浮かないままだった。ゼインとの別れが近いからだ。


 旅の埃を落とし、湯浴みを済ませ、美しいドレスに着替えたものの、自室に戻ったミリアはベッドで項垂れていた。
 この後、国王陛下への討伐隊の謁見がある。それが終われば、ゼインは辺境へとすぐに帰ってしまう。

 ミリアの心の中は、これから来るであろう永遠の別れを予感し、寂しさでいっぱいだった。

(くうぅ……こんなことなら、あの逞しい背中にどさくさに紛れて抱きついておけばよかったぁぁ。いや、せめて、もっと大胆にアピールすればよかった!)

 ミリアは後悔に苛まれていた。

「ミリア様、お疲れなのですね。ですが、そろそろお時間です」

 ルナに優しく促され、ミリアは重い足取りで謁見の間へと向かった。


 謁見の間には、国王陛下を筆頭に、王族や貴族たちが居並んでいた。
 国王陛下は、討伐隊の一行を、惜しみない賛辞をもって褒め称えた。

「聖女ミリア、そして勇者ゼイン。お前たちの功績は、このナザール王国の歴史に深く刻まれよう! 騎士たちもよくぞ聖女を守り抜いた。その勇気、誠に見事である!」

 ゼインが魔王を倒し、ミリアが後方支援と浄化を担ったにも関わらず、騎士団長ぽっちゃりオークや、宰相閣下ガイコツまでもが功績を褒められているのが、ミリアにとっては憎らしかった。

(まぁ、この国の美醜基準では、ゼイン様は「醜悪な異形」、宰相閣下ガイコツは「美しき精鋭」だものね……)

 ミリアは、もうゼインの顔を見るのも最後かもしれないと思い、ちらりと彼に視線を送る。

(くぅぅ、かっこよすぎる。やっぱり好きぃぃ! 今ここで抱きついてしまおうかしら)

 そんなことをミリアが思っていると、国王陛下が、ゼインに対して、その絶大な功労への褒美を下賜すると言い出した。

「勇者ゼイン。此度の魔王討伐の功労、まことに得難い。ゆえに、褒美として望むものを下げ渡そう。望みはあるか?」

 ゼインは一歩前へ進み出た。
「それは、どのようなものでも良いのでしょうか?」

 ゼインの問いに、国王陛下は大きく頷く。
「ああ、何でも良いぞ。金銭でも、宝飾品でも、領地でも。それだけの功労であった」

 その言葉を聞いた瞬間、ゼインの瞳が、獲物を捕らえるかのように鋭いものに変わった。ミリアはその変化に、息を飲む。
 そして、ゼインは張り詰めた静寂の中、重厚な低い声で、はっきりと告げた。


「では褒美として、ミリア嬢を貰い受ける」


 ざわつく、謁見の場の人々。静寂は一瞬でかき消され、場は騒然となった。

「何を恐ろしいことを言うのだ!」
「ミリア様がお可哀想です」
「あの化物辺境伯は聖女様を囲う気か!」

 多くの貴族や騎士から、反対意見や非難の声が飛び出す。

「え?  え?  え?」

 ミリアは、自分の耳に入った言葉が飲み込めず、その場で立ち尽くしていた。
 ゼインは、そんな周囲の喧騒を一切無視し、ミリアへと歩み寄る。

「では、辺境へ帰る」

 次の瞬間、ゼインはミリアの細い腰の下に腕を滑らせ、軽々と抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。

「ひゃあぁっ!」

 ミリアは動揺のあまり、変な声を出してしまった。
ゼインはミリアを抱き上げたまま、廊下をどんどん歩いていく。止めに入ろうとする人々。

「国王陛下が仰せになったことだ」

 ゼインは、ただそれだけを言いながら、止まらない。騎士団長ぽっちゃりオークが力づくで止めようとしてきたが、ゼインが冷たい殺気を込めた睨みを効かせるだけで、彼は恐怖にすくみ動けなくなる。
 ゼインは次々と人を威嚇だけで払い除けていき、そのまま王城の正門へと向かった。


 王城の正門には、辺境伯の紋章がついた馬車が待機していた。何も言えずに、涙を浮かべてふるふると震えるミリア。ゼインはそんなミリアをちらりと見て、微かに表情を緩ませた。

「すまない、ミリア。辺境に連れて行く。王城には帰れないと思ってほしい」

 そう言われて、ミリアは嬉しさでぐっと言葉に詰まる。ちらりと馬車を見ると、ゼインの側近らしき人物が目を見開いている。

「ゼ、ゼイン様!? その方はどなたですか? まさか、拐ってきたのではないでしょうね!」

 側近は驚きを隠せていない。そのまま、ミリアを抱いたまま馬車に乗り込むゼイン。側近も慌てて馬車に乗り込んだ。
 走り出した馬車の中でも、ミリアは涙を浮かべたまま震えていて何も言えない。そんなミリアを見て、側近は頭を抱えていた。

「アルフ。心配するな、ちゃんと国王陛下には許可を取ってある」
「そうはいっても……」

 アルフと呼ばれた側近は、苦悶に満ちた表情を浮かべ話し出す。

「正直に申しますが、ゼイン様は、直視を避けてしまうほどの異形の醜貌しゅうぼうと威圧的な体躯をお持ちです。ですが、辺境騎士団を率いるお姿は、まさに戦神の再来のように勇猛果敢で人望も厚い。女性陣には、顔を見ただけで『悪魔だ』と泣き叫ばれてしまう呪われた容姿ですが、その心根の優しさと知性は王国随一です。幼少からそのグロテスクな見た目のせいで石を投げられても、それを跳ね返す鋼の精神を持った素晴らしい人だとは、重々理解しているのですが……」

 ゼインは、怪訝な表情で聞き返す。

「アルフ。お前、それは褒めているのか貶しているのか」
「もちろん、最大級に褒めております! そんな醜貌と言われるゼイン様を、辺境の者はみなお慕いしております。いや、女性陣には避けられていますがね。ですが、いつかそんなゼイン様の内面の良さを理解してくれる女性が、素敵な奥様として現れないものかと、皆が陰ながら願ってはおりましたが……」

 アルフは、ちらりとミリアを見て項垂れた。

「まさか、このレベルの方をお連れするとは夢にも思いませんよ。ご令嬢には許可を得たのですか? どう見ても、泣いてるじゃないですか」

 ゼインは黙った。

 ミリアは、感激、感動、動揺、歓喜、興奮、とあらゆる感情が入り混じり、涙がこぼれそうになる。何か話さなければと思うが、胸が詰まって声が出ない。

(だって、あのゼイン様が私をお姫様抱っこしてる。熱い瞳で見つめてくる。しかも、今も馬車の中で、私を逃がすまいと、抱きしめたまま離してくれない。さっきだって、褒美として、この私を求めてくれた!!)

 こんな、狂喜乱舞したくなるような展開あるだろうか。

(嬉しすぎる! 私のことをほ、ほ、欲しいって言ったわ!! それってお嫁さんってことよね!?)

 聞きたいけど、話したいけど、少しでも気が緩めば、鼻血が大噴射してしまいそうだった。嬉しすぎて全身がカタカタと震えてしまう。

 ミリアの極端な動揺を見て取ったのだろう。ゼインは、ミリアの顔を覗き込むように視線を合わせた。

「すまないが、俺はもうお前を手放せそうにない」

 ゼインが真剣な声で、瞳の奥に燃える情熱を込めて告げる。
 その言葉は、ミリアの耳元で甘い雷鳴のように響き渡った。求めてやまなかったゼイン様からの独占宣言。
 全身を駆け巡る歓喜の波が、ミリアの意識を飲み込む。

 ミリアは「はわぁぁ……」と恍惚とした息を漏らすと、愛する男の腕の中で、極限の幸福感と興奮で、意識を手放してしまった。


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