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13 終演
しおりを挟む歓声がまだ空を震わせていた。観客たちの叫び、歓喜、驚嘆。
それらの渦の中、ユイは両手を胸の前でぎゅっと組み、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……カイルさん、すご……」
喉の奥でかすれた声が漏れる。
先ほどまで闘っていた青年、ゼルフィの氷の世界。それをたった一瞬で、黒い炎で飲み込んだ男。無表情のまま、世界を支配するみたいに。
心臓がばくばく鳴っている。
魔法の構築、力の差、そしてあの一瞬の静けさ。どれを取っても、完璧すぎて。美しすぎた。
あの人がこの国を支えているのも当然だと、思い知らされる。
隣でセレナが苦笑しながら肘でつついた。
「惚れた?」
「へっ!? ち、違うよっ! ただその……すごいなって思って!」
「ふふっ、顔が真っ赤だけど?」
「なっ、なってません!」
慌てて両手をぶんぶん振る。けれど、頬の熱は収まらない。心臓がうるさい。あんなカイルさん、初めて見た。冷静で、無駄のない動き。圧倒的な力の中に、ほんの一瞬だけ見えた優しさ。
ゼルフィを庇ったあの仕草が、どうしても頭から離れない。
「……だって、あんなの反則でしょ。かっこよすぎる」
ぽそりと呟くと、セレナがにやりと笑った。
「やっぱり惚れてるじゃない」
「そ、そんなんじゃ……ないから!」
耳まで熱くなって、セレナから慌てて視線を逸らした。
(違う……違うんだけど……でも、あの時の目が……)
戦いの最中、彼がふとこちらを見たような気がして。あの鋭い灰青色の瞳に、心を掴まれた気がして。胸の奥がまだ、ざわざわとしていた。
大会が終わると、魔道士団の行進が始まった。
それぞれの団員が観客に手を振り、カイルさんは最後尾に静かに立つ。彼の姿をひと目見ようと、女性たちが前へ押し寄せる。
「キャー! 団長ー!!」「見てこちらを見て!」と黄色い悲鳴が飛び交った。
その光景を遠目に見ながら、ユイは小さくため息をつく。
(すごいなぁ……あれだけかっこよかったら当然か)
けれど胸の奥が、少しだけちくりと痛んだ。
──
閉会の鐘が鳴り、人々がぞろぞろと帰路につく頃。屋台の灯りも少しずつ減っていき、会場の裏通りはひっそりとしていた。
ユイとセレナも出口へ向かおうとしていた、そのとき──
「……君が、あの時の治癒師だよな」
背後から、低い声がした。振り返ると、そこにいたのは氷の青年ゼルフィだった。
額にはまだ少し汗が残り、戦いの痕跡をまとったままの彼の表情は、どこか悔しそうで、けれど澄んだ瞳をしていた。
「え、あの……」
ユイは少し戸惑いながらも、彼を見つめ返す。ゼルフィは口を開いた。
「……助けてくれて、ありがとう。あの時、君がいなければ、たぶん俺はこの舞台に立てなかった」
あの暴発のあと。彼の対戦相手も、彼自身も満身創痍だった。私が治療したうちの一人が、目の前の青年。わざわざ声をかけに来てくれた律儀さに、温かな気持ちになる。
「今日はお疲れさまでした。すごく、素敵な戦いでした」
にこりと微笑むと、ゼルフィの表情が一瞬だけほころんだ。
「……そう言われると、少しは救われるな」
彼は短く息を吐き、少しだけ視線を落とした。そして、静かに続けた。
「俺はゼルフィ・アークウェル。氷魔法を専門にしてる。……君の名前を、聞いてもいいか?」
「えっと、ユイです」
「ユイ……か」
彼はその名を、まるで何かに刻むように、静かに繰り返した。
「次の機会があれば、今度は君に誇れる勝ち方をしたい。……その時は、また見に来てくれるか?」
「もちろん。楽しみにしてますね」
そう答えると、ゼルフィは満足そうに目を細めた。
「……ありがとう。じゃあ、また」
そう言って、彼は背を向け、静かに歩き出した。夕闇に溶ける銀髪が、夜の灯に淡く光る。
セレナが後ろからユイの肩を軽く突いた。
「……ユイってさ、ほんと放っておけないタイプよね」
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