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「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子とはしたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして早急に屋敷を出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
「畏まりました。今までお世話になり、ありがとうございました」
離婚届にサインをすると執事が確認してくれた。
問題は無いようだ。
確認が終わると使用人に役所に届ける様に指示し、テーブルの上に前以て用意していたのであろうお金の入った袋を置いた。
「これは今まで侯爵夫人として努めていたお前への慰謝料だ。伯爵家への慰謝料は、後日届けさせる。今までご苦労であった。さあ荷物を纏めて早急に出て行ってくれ!」
私は、慰謝料を受け取ると部屋へと戻り荷物を纏めた。
執事から、私の物は全て持って行って良いと告げられた。
と、言っても、この侯爵家の経済状況は、あまりよろしくない。
それを知る私は、社交界に出る為の最低限の枚数のドレスと装飾品しか購入していないかった。
全てを詰めてもトランク3個分。
それでも、これからの事を考えると持ち出せるのは有難い。
荷物は、あっという間に詰め終えた。
カイロが貸してくれた馬車に詰め込むと、屋敷の使用人達が見送りに出て来た。
「奥様が嫁いで来て下さったお陰で、侯爵家は、少しずつ立て直す事が出来て来ましたのに…とても残念です。ご主人様だけでは、きっと、また元に戻りましょう」
「貴方達に、侯爵家と最後まで共にして欲しいとは言わないわ。旦那様が、侯爵家の現状に気付かれて動いてくれれば良いのですが…。皆も、身体に気を付けて元気でね」
馬車が走り出す。
御者は、当然の様に伯爵家へと向かおうとしていた。
私は小窓から街へ向かう様に告げる。
離縁をされたのだ。
お父様は、激怒し、恥さらしだと私を部屋に監禁するだろう。
私を蔑み、駒としか思わない男、それが私の父親だ。
お父様が怖いからと見て見ぬ降りをするお母様。
私と違い、お父様に可愛がられているお姉様。
そして嫡男である今年10歳になる弟。
カイロとの結婚も、本当は姉に来た縁談だった。
姉を手離したくないお父様は、侯爵家との繋がりが欲しい事から先代侯爵に私を薦めた。
先代侯爵は、私が嫁で良いと言った。
後で聞いたのだが、姉と私が話している会話を聞いて、姉では侯爵夫人は務まらぬと判断したのだとか…。
カイロを支え、侯爵家の立て直しの為に動ける嫁でないといけないのだそうだ。
先代は、先々代が抱えた負債を自分の代で終わらせようと頑張っていたが、領地が悪天候に見舞われ農作物が育たなかったりと有り、半分程しか返す事が出来なかった。
私が嫁いで執務を手伝う様になると、それまでの無理が祟ったのか体調を崩し、流行り病にかかり儚くなってしまった。
カイロは、先代の眼がなくなると執務をサボる様になり、最近では私に任せて遊び呆けていた。
浮気している事も耳には入ってきていたけれど、まさか子供が出来るなんてね。
これは今まで頑張ってきた神様からの私へのご褒美なのかしら?
街に着くと、直ぐにドレスを売った。
御者は、思い出の品を持っているのが辛いから売ったのだと勘違いした様だか、そんな事はない。
これからの暮らしにドレスは不要だからだ。
あとは自分で帰れるからと渋る御者を無理矢理帰し、その足で不動産屋に向かう。
治安の良い所で、直ぐに借りれる部屋を借りた。
最低限の家具も買った。
届くのは明日らしい。
今日は床で寝なければならないのは残念だ。
あとは仕事を探さないと…。
事務仕事が良いのだけれど、贅沢は言えない。
慣れない接客業でも頑張るしかない!
街を散策していると、パン屋の窓に求人募集の貼り紙を見付けた。
「いらっしゃいませ!」
「失礼します。表の求人募集の貼り紙を見たのですが」
「まあ可愛いお嬢さん。じゃあ面接しましょうか♪」
名前と年齢と住所を聞かれ、少し世間話をしたら「じゃあ明日から働ける?」と言われ、採用された。
こんなに簡単に決めて良いのだろうか?
「キリアちゃんは、きちんとしているし、応対も問題なし。何?採用されたくなかった?」
面接してくれたのは、この店の奥さんでリサさん。
ご主人がパンを作り、奥さんが店に立ち接客している。
2人の他に奥さんの弟が手伝いをしてくれているそうだ。
求人募集をしたのは、奥さんが臨月に入るから。
子供が産まれてからも育児も有り、人を雇う事にしたのだという。
パン屋の仕事は楽しかった。
買いに来るお客さんも常連さんが多く、とても良い人ばかり。
ご主人も無口だけれど、奥さんを大事にしていて、とても良い人だ。
奥さんの弟のアルトは、口は悪いが根は良い人で、面白い。
ここで働けて良かった。
1年が過ぎた頃には、すっかり私も仕事に慣れて、笑顔で雑談しながら接客が出来る様になっていた。
「お前が店に立っているのを見た時は、なんで姉貴は、こんなヤツを雇ったのかと思ったが、さすがに1年も経つと接客も何とかなるもんだなぁ~」
「あ、あの時は、緊張して顔が引きつっていたのよ!もう1年前の私の事は忘れてよ!」
「話し方も変わったしなっ!お前、どこか良い所のお嬢様だったんだろう?商家の娘か何かなのか?」
さすがに貴族令嬢だとは思わないか…。
「私は、ただのキリアよ!あっ、いらっしゃい……」
店の扉が開き、入って来たのは侯爵家の執事。
「キリア様。お久し振りでございます。こちらで働いていると耳にしましたので、ご無礼かとは思いましたが訪ねて来てしまいました。お元気そうで何よりでございます」
「貴方も元気そうで何よりです。今日は、どうされたのですか?」
「先日、侯爵家が没落致しました。国の救済により選ばれた方が次期当主となるとの事でございます」
やはりカイロ様では執務をこなす事も、借金を返済する事も不可能だった様だ。
「そう。貴方達は、どうなるのですか?」
「陛下より、そのまま侯爵家で働いて欲しいとのお言葉を頂きました。前当主は、平民になられ侯爵の領地の外れで暮らしております」
「そう。奥様も乳飲み子を…」
「それが、産まれたお子は前当主の子では御座いませんでした。髪の色も、瞳の色も、前当主にも、あの女の色にも違う色で御座いました。あの女には前当主の他に付き合っている男が居たのでしょう。子供が産まれると、その子と金目の物を持ち居なくなってしまいました。前当主は、侯爵家の為に尽くされていたキリア様を捨てた罰を受けたので御座いましょうね。ああ、すっかり長話をしてしまいました。キリア様、お薦めのパンは、どれで御座いますか?」
執事は、皆にお土産だと言って沢山買っていってくれた。
「キリアは、元貴族だったのか?」
「…もう昔の事よ。伯爵家に生まれ、侯爵家に嫁いだんだけれど、夫に浮気され、愛人に子供が出来て離婚した。侯爵家を出て、そのまま、この街に来たの。もう貴族令嬢だったキリアは居ない。ここに居るのは、平民のキリアだよ!」
「親は、お前が居なくなって捜しているんじゃないのか?」
「あの人は、私が居なくなっても何とも思わないよ。侯爵家からの慰謝料も入り、厄介者も戻らずに消えてホッとしているんじゃないかな?」
「自分の子を心配しないなんて、貴族って、よく分からないなぁー」
貴族の中でも、子供を大切にし愛する人も居る。
けれど政略結婚の為、伴侶となった者を愛する事が出来ず、義務だけで子供をもうけ、後継ぎ以外は家の繁栄の為に駒とする貴族も居る。
私の両親は親が決めた政略結婚。
お父様には婚約前に他に愛する人が居たのだと使用人達が話しているのを聞いた事がある。
では何故お姉様は、お父様に溺愛されるのかって?
お姉様は、両親の子ではない。
お父様が心から愛した人の忘れ形見なのだ。
今でも、お父様は、お姉様に好きな様に贅沢をさせ、釣書は全て断っている。
お父様は、お姉様を自分の元から離す事はないだろう。
私が嫁ぐ前のお父様がお姉様を見る眼は、親の眼と言うより異性を見る眼だった…。
日に日に儚くなった愛する人に似てくるのだとか…。
だから私は、政略結婚でもカイロと結婚し、伯爵家を出られた事が嬉しかったのだ。
伯爵家に残す弟と離れるのは辛かったけれど、彼は賢く家の状況も理解している。
成人すれば、強引にでもお父様から爵位を譲位させ領地で1人隠居させるだろう。
「……ス、キリス、大丈夫か?」
「ごめん!ちょっとボゥーとしちゃった。大丈夫だよ。さぁ仕事、仕事!!」
「お前、無理すんなよ!辛かったら口に出せば良いんだ。いつでも俺が聞いてやる」
アルトは優しい。
私が困ったら助けてくれて、落ち込めば黙って側に居てくれる。
「いつも優しくしてくれて、ありがとう。本当に…こんな傷物に優しくして…」
「傷物とか言うなよ!キリアはさぁー、元旦那に未練とか…」
「無いっ!絶対に無い!」
「そうか。もしかして結婚は懲り懲りとか思ってる?」
「ん~どうかな?私の過去も全て受け入れて愛してくれる人なら、結婚しても良いかなぁ~」
「そうか、そうか。あのさぁ~俺はキリアの過去なんて気にしないぞ。俺の目の前に居る今のキリアが好きだ!俺と結婚を前提に付き合わねぇか?」
えっ!?
ボカッ!
「痛っ!」
「そこは付き合わねぇかじゃなくて、付き合って下さいでしょう?まったく、あんたは何で上からなの?ごめんね、キリアちゃん。こんな弟だけれど、キリアちゃんを大切にするのは間違いないよ!あたしも、あの人もキリアちゃんが義理の兄弟になってくれると嬉しいんだけれどなぁ~」
突然の告白に、何と答えて良いのか分からない。
「あー直ぐに返事しなくて良いぞ。一生の事だ。ゆっくり考えてくれて構わない。あっ、断ったら、ここで働けなくなるとか思うなよ。俺は、振られたからって、そんな事をする様な心の狭い男じゃないぞ!」
「何を言ってるのよっ!あんたとキリアちゃん、どっちを取ると言われたら、間違いなくキリアちゃんを取るわよ!キリアちゃんは、この店のアイドルなんだからね!キリアちゃんが働いてくれてから売り上げが、どれだけ上がったと思っているのよ!キリアちゃんが気まずいのであれば、あんたが出禁よ!!」
旦那さんも後で頷いている。
この空気感、とても好きだ。
アルトの事も、真剣に考えてみよう。
ある晴れた日、街の小さな教会に沢山の人が集まっていた。
白いワンピースを着て、小さなブーケを持つ私は、緊張からガチガチに固まり、変な動きをしているアルトの腕に手を絡める。
「アルト、緊張し過ぎだよ。右手と右足が一緒に出るって、ほら、ちゃんと歩いてくれないと私が転んじゃうよ!」
「わ、分かってる」
今日、私とアルトは結婚する。
告白を受けてから、交際するまでに半年掛かった。
交際してからプロポーズされるまで更に半年。
この人なら共に歩んで行けると思えた。
「アルト、必ず幸せになろうね♪」
「ああ、絶対に幸せにする!」
ここが私の大切な居場所になった。
End
*****
最後まで読んで頂き ありがとうございます。
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
「畏まりました。今までお世話になり、ありがとうございました」
離婚届にサインをすると執事が確認してくれた。
問題は無いようだ。
確認が終わると使用人に役所に届ける様に指示し、テーブルの上に前以て用意していたのであろうお金の入った袋を置いた。
「これは今まで侯爵夫人として努めていたお前への慰謝料だ。伯爵家への慰謝料は、後日届けさせる。今までご苦労であった。さあ荷物を纏めて早急に出て行ってくれ!」
私は、慰謝料を受け取ると部屋へと戻り荷物を纏めた。
執事から、私の物は全て持って行って良いと告げられた。
と、言っても、この侯爵家の経済状況は、あまりよろしくない。
それを知る私は、社交界に出る為の最低限の枚数のドレスと装飾品しか購入していないかった。
全てを詰めてもトランク3個分。
それでも、これからの事を考えると持ち出せるのは有難い。
荷物は、あっという間に詰め終えた。
カイロが貸してくれた馬車に詰め込むと、屋敷の使用人達が見送りに出て来た。
「奥様が嫁いで来て下さったお陰で、侯爵家は、少しずつ立て直す事が出来て来ましたのに…とても残念です。ご主人様だけでは、きっと、また元に戻りましょう」
「貴方達に、侯爵家と最後まで共にして欲しいとは言わないわ。旦那様が、侯爵家の現状に気付かれて動いてくれれば良いのですが…。皆も、身体に気を付けて元気でね」
馬車が走り出す。
御者は、当然の様に伯爵家へと向かおうとしていた。
私は小窓から街へ向かう様に告げる。
離縁をされたのだ。
お父様は、激怒し、恥さらしだと私を部屋に監禁するだろう。
私を蔑み、駒としか思わない男、それが私の父親だ。
お父様が怖いからと見て見ぬ降りをするお母様。
私と違い、お父様に可愛がられているお姉様。
そして嫡男である今年10歳になる弟。
カイロとの結婚も、本当は姉に来た縁談だった。
姉を手離したくないお父様は、侯爵家との繋がりが欲しい事から先代侯爵に私を薦めた。
先代侯爵は、私が嫁で良いと言った。
後で聞いたのだが、姉と私が話している会話を聞いて、姉では侯爵夫人は務まらぬと判断したのだとか…。
カイロを支え、侯爵家の立て直しの為に動ける嫁でないといけないのだそうだ。
先代は、先々代が抱えた負債を自分の代で終わらせようと頑張っていたが、領地が悪天候に見舞われ農作物が育たなかったりと有り、半分程しか返す事が出来なかった。
私が嫁いで執務を手伝う様になると、それまでの無理が祟ったのか体調を崩し、流行り病にかかり儚くなってしまった。
カイロは、先代の眼がなくなると執務をサボる様になり、最近では私に任せて遊び呆けていた。
浮気している事も耳には入ってきていたけれど、まさか子供が出来るなんてね。
これは今まで頑張ってきた神様からの私へのご褒美なのかしら?
街に着くと、直ぐにドレスを売った。
御者は、思い出の品を持っているのが辛いから売ったのだと勘違いした様だか、そんな事はない。
これからの暮らしにドレスは不要だからだ。
あとは自分で帰れるからと渋る御者を無理矢理帰し、その足で不動産屋に向かう。
治安の良い所で、直ぐに借りれる部屋を借りた。
最低限の家具も買った。
届くのは明日らしい。
今日は床で寝なければならないのは残念だ。
あとは仕事を探さないと…。
事務仕事が良いのだけれど、贅沢は言えない。
慣れない接客業でも頑張るしかない!
街を散策していると、パン屋の窓に求人募集の貼り紙を見付けた。
「いらっしゃいませ!」
「失礼します。表の求人募集の貼り紙を見たのですが」
「まあ可愛いお嬢さん。じゃあ面接しましょうか♪」
名前と年齢と住所を聞かれ、少し世間話をしたら「じゃあ明日から働ける?」と言われ、採用された。
こんなに簡単に決めて良いのだろうか?
「キリアちゃんは、きちんとしているし、応対も問題なし。何?採用されたくなかった?」
面接してくれたのは、この店の奥さんでリサさん。
ご主人がパンを作り、奥さんが店に立ち接客している。
2人の他に奥さんの弟が手伝いをしてくれているそうだ。
求人募集をしたのは、奥さんが臨月に入るから。
子供が産まれてからも育児も有り、人を雇う事にしたのだという。
パン屋の仕事は楽しかった。
買いに来るお客さんも常連さんが多く、とても良い人ばかり。
ご主人も無口だけれど、奥さんを大事にしていて、とても良い人だ。
奥さんの弟のアルトは、口は悪いが根は良い人で、面白い。
ここで働けて良かった。
1年が過ぎた頃には、すっかり私も仕事に慣れて、笑顔で雑談しながら接客が出来る様になっていた。
「お前が店に立っているのを見た時は、なんで姉貴は、こんなヤツを雇ったのかと思ったが、さすがに1年も経つと接客も何とかなるもんだなぁ~」
「あ、あの時は、緊張して顔が引きつっていたのよ!もう1年前の私の事は忘れてよ!」
「話し方も変わったしなっ!お前、どこか良い所のお嬢様だったんだろう?商家の娘か何かなのか?」
さすがに貴族令嬢だとは思わないか…。
「私は、ただのキリアよ!あっ、いらっしゃい……」
店の扉が開き、入って来たのは侯爵家の執事。
「キリア様。お久し振りでございます。こちらで働いていると耳にしましたので、ご無礼かとは思いましたが訪ねて来てしまいました。お元気そうで何よりでございます」
「貴方も元気そうで何よりです。今日は、どうされたのですか?」
「先日、侯爵家が没落致しました。国の救済により選ばれた方が次期当主となるとの事でございます」
やはりカイロ様では執務をこなす事も、借金を返済する事も不可能だった様だ。
「そう。貴方達は、どうなるのですか?」
「陛下より、そのまま侯爵家で働いて欲しいとのお言葉を頂きました。前当主は、平民になられ侯爵の領地の外れで暮らしております」
「そう。奥様も乳飲み子を…」
「それが、産まれたお子は前当主の子では御座いませんでした。髪の色も、瞳の色も、前当主にも、あの女の色にも違う色で御座いました。あの女には前当主の他に付き合っている男が居たのでしょう。子供が産まれると、その子と金目の物を持ち居なくなってしまいました。前当主は、侯爵家の為に尽くされていたキリア様を捨てた罰を受けたので御座いましょうね。ああ、すっかり長話をしてしまいました。キリア様、お薦めのパンは、どれで御座いますか?」
執事は、皆にお土産だと言って沢山買っていってくれた。
「キリアは、元貴族だったのか?」
「…もう昔の事よ。伯爵家に生まれ、侯爵家に嫁いだんだけれど、夫に浮気され、愛人に子供が出来て離婚した。侯爵家を出て、そのまま、この街に来たの。もう貴族令嬢だったキリアは居ない。ここに居るのは、平民のキリアだよ!」
「親は、お前が居なくなって捜しているんじゃないのか?」
「あの人は、私が居なくなっても何とも思わないよ。侯爵家からの慰謝料も入り、厄介者も戻らずに消えてホッとしているんじゃないかな?」
「自分の子を心配しないなんて、貴族って、よく分からないなぁー」
貴族の中でも、子供を大切にし愛する人も居る。
けれど政略結婚の為、伴侶となった者を愛する事が出来ず、義務だけで子供をもうけ、後継ぎ以外は家の繁栄の為に駒とする貴族も居る。
私の両親は親が決めた政略結婚。
お父様には婚約前に他に愛する人が居たのだと使用人達が話しているのを聞いた事がある。
では何故お姉様は、お父様に溺愛されるのかって?
お姉様は、両親の子ではない。
お父様が心から愛した人の忘れ形見なのだ。
今でも、お父様は、お姉様に好きな様に贅沢をさせ、釣書は全て断っている。
お父様は、お姉様を自分の元から離す事はないだろう。
私が嫁ぐ前のお父様がお姉様を見る眼は、親の眼と言うより異性を見る眼だった…。
日に日に儚くなった愛する人に似てくるのだとか…。
だから私は、政略結婚でもカイロと結婚し、伯爵家を出られた事が嬉しかったのだ。
伯爵家に残す弟と離れるのは辛かったけれど、彼は賢く家の状況も理解している。
成人すれば、強引にでもお父様から爵位を譲位させ領地で1人隠居させるだろう。
「……ス、キリス、大丈夫か?」
「ごめん!ちょっとボゥーとしちゃった。大丈夫だよ。さぁ仕事、仕事!!」
「お前、無理すんなよ!辛かったら口に出せば良いんだ。いつでも俺が聞いてやる」
アルトは優しい。
私が困ったら助けてくれて、落ち込めば黙って側に居てくれる。
「いつも優しくしてくれて、ありがとう。本当に…こんな傷物に優しくして…」
「傷物とか言うなよ!キリアはさぁー、元旦那に未練とか…」
「無いっ!絶対に無い!」
「そうか。もしかして結婚は懲り懲りとか思ってる?」
「ん~どうかな?私の過去も全て受け入れて愛してくれる人なら、結婚しても良いかなぁ~」
「そうか、そうか。あのさぁ~俺はキリアの過去なんて気にしないぞ。俺の目の前に居る今のキリアが好きだ!俺と結婚を前提に付き合わねぇか?」
えっ!?
ボカッ!
「痛っ!」
「そこは付き合わねぇかじゃなくて、付き合って下さいでしょう?まったく、あんたは何で上からなの?ごめんね、キリアちゃん。こんな弟だけれど、キリアちゃんを大切にするのは間違いないよ!あたしも、あの人もキリアちゃんが義理の兄弟になってくれると嬉しいんだけれどなぁ~」
突然の告白に、何と答えて良いのか分からない。
「あー直ぐに返事しなくて良いぞ。一生の事だ。ゆっくり考えてくれて構わない。あっ、断ったら、ここで働けなくなるとか思うなよ。俺は、振られたからって、そんな事をする様な心の狭い男じゃないぞ!」
「何を言ってるのよっ!あんたとキリアちゃん、どっちを取ると言われたら、間違いなくキリアちゃんを取るわよ!キリアちゃんは、この店のアイドルなんだからね!キリアちゃんが働いてくれてから売り上げが、どれだけ上がったと思っているのよ!キリアちゃんが気まずいのであれば、あんたが出禁よ!!」
旦那さんも後で頷いている。
この空気感、とても好きだ。
アルトの事も、真剣に考えてみよう。
ある晴れた日、街の小さな教会に沢山の人が集まっていた。
白いワンピースを着て、小さなブーケを持つ私は、緊張からガチガチに固まり、変な動きをしているアルトの腕に手を絡める。
「アルト、緊張し過ぎだよ。右手と右足が一緒に出るって、ほら、ちゃんと歩いてくれないと私が転んじゃうよ!」
「わ、分かってる」
今日、私とアルトは結婚する。
告白を受けてから、交際するまでに半年掛かった。
交際してからプロポーズされるまで更に半年。
この人なら共に歩んで行けると思えた。
「アルト、必ず幸せになろうね♪」
「ああ、絶対に幸せにする!」
ここが私の大切な居場所になった。
End
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最後まで読んで頂き ありがとうございます。
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