【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第一章

17. レイの一日

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 騎士団の朝は早い。騎士団は基本的に5時~14時まで、13時~22時まで、21時~6時の3交代制だ。役職によって違いはあるが私の所属する隊は王都の護衛が通常任務だ。隊を半分に分け、見回りをするチームと鍛錬を行うチームに分かれ勤務時間の半分は鍛錬、半分は見回りという任務になる。

「ねむっ・・・。」

あくびをかみ殺して軽く目をこすった。
午前4時50分。少しひんやりとした空気と活動する前の街の静けさが早朝を物語っている。ちょっと遅くなったか。足早に騎士団の建物へ向かった。

「よう、レイ。随分と眠そうだな。」

幼馴染のロッチェが頭を小突いてきた。

「さては昨晩、レベッカとデートだったな?」

レベッカは同じ歳の侯爵令嬢で近頃なにかと誘ってくる。肉食女子とでもいうのだろうか、気の強そうな瞳とグイグイくる感じが苦手で一度食事をしたきりになっていた。

「いや、ちょっと苦手で随分前に食事をして以来、誘いを断っている。」
「へぇー、勿体ない。美人なのに。じゃあ、昨夜は何をしてたんだ?」

ロッチェの言葉に昨晩ライファと話をしたことを思い出す。リトルマインを突然送るなんてやりすぎだったかと心配したが、なんの疑問も抱かずに受け入れてくれたようだった。ホッとした反面、あんまりにもなんてことの無いような素振りに若干がっかりもしたのだが、この先もライファの姿を見ながら話せる嬉しさの方が大きかった。それに、両親が言いだしたことではあるが祭りの期間にライファが我が家に滞在すると思うと、ソワソワしてなかなか寝付けなかったのだ。

「特に何も。ただ寝付けなかっただけだ。ほら、早く並ぶぞ。」

ロッチェを急かして、鍛錬の列に並んだ。
鍛錬はストレッチをしてから筋トレ、走り込み、剣の練習へと続く。獣魔石に乗りながらの剣の打ち込みもあり、複数でのフォーメーションも行う。近頃は世界も平和になり戦争など起こることはなくなったが、フォーメーションは魔獣討伐の際にもよく役立つのだ。9時までみっちり鍛錬を行えば、その後は楽しい朝食の時間になる。

「腹へった・・・。」

そう言いながらお腹を押さえてよたよたと歩くロッチェと一緒に食堂へ向かう。昼食は基本的に自由だ。外に食べに行ってもいいし、食堂で食べてもいいし、お弁当を持ち込んでも良いことになっている。食堂に着くとレイは持ってきたお弁当を広げ、ロッチェは配膳の列に並んだ。

今日のレイのお弁当はジェンダーソン家に仕える料理人の力作サンドイッチだ。四角い箱の中にサラダのサンドイッチと卵のサンドイッチが綺麗に並べられている。端の方に焼いた肉が入っているのが嬉しい。そんなお弁当を眺めながらも、つい思い出してしまうのはライファのことで。


ブンの木に挑んでいたあの勇ましい姿とか、
ふとした時の横顔の綺麗さだとか、
料理が絡むと突然幼くなる感じとか、
思わず触れてしまった頬のこととか。


急に恥ずかしくなってサンドイッチをくわえれば、「そんなに大きく食うとむせるぞ」という声に我に返る。

「なんで赤い顔してんだ?」

ロッチェのニヤニヤした顔がむかつく。

「なんでもない。」

ぶっきらぼうに言い返して、もうひとつサンドイッチを頬張った。


朝食後は王都の見回り任務になる。見回りは先輩と後輩で組んで二人一組で回るのが原則だ。不審者はいないか、事件は起きていないか目を光らせつつ、情報収集を行う。

「あら、騎士様。今夜うちの息子の飲み屋がオープンするんですよ。そこの大通りを一本曲がったところにある【ナイトパーラー】ってお店なんですけど、もしよかったら行ってやってください。」

よく行くパン屋の奥さんが話しかけてきた。王都に住む平民は騎士団との距離感が結構近い。王都を守ってくれているという安心感があるからだろうか、気さくに話しかけてくれるのだ。そんな雑談にこそ有力情報が隠れていたりするので、騎士団員も雑談にはにこやかに応じる。

「えぇ、ぜひ。飲み屋が増えるのは大歓迎ですからね。」

先輩のユーリさんが答える。24歳のユーリは標準より細い体つきでナヨナヨした印象を受けるが、実は大酒飲みで腕が立つ。優しい物腰なので平民人気の高い騎士団の一人だ。つまり、王都の情報通である。

パン屋の奥さんに手を振り見回りを続ける。

「そういえばユーリさん、女性に人気の食べ物屋、どこかいいところ知りませんか?」
「おぉっ、なんだ。デートか!?」

ユーリさんが面白そうに顔をこちらに向けた。

「そういうんじゃないんですけど」と言いつつ、小さな声でたぶん、と付け足した。
「ジェーバ・ミーヴァの向うにある野営地で起こった事件の時に助けてくれた女性が、祭りの期間、家に滞在することになったので、どこか案内しようかと。」

「あぁ、あの時の。」

ユーリさんはその場にはいなかったが、調査団のメンバーとして現地に赴き調査を行っていたので、ことの顛末は知っているのだ。徹底的に調査はしたのだが、現段階でも犯人は不明とのことで上層部で引き続き調査を行っているらしい。

「大きいフードを被っていたとかで顔を見た者は少ないが、見た者の情報によるとかなりの美人らしいな。」
「えぇ、まぁ。」

確かにライファは美人なのでそこは素直に認めるが、ユーリさんのニヤニヤ顔が気に入らない。

「隠すつもりはないですけど、家に滞在するなんて情報、積極的に流さないでくださいね。」

一応釘を刺しておく。

「騎士団は男の集まりだからなぁ。美人さんの噂を聞いたら浮き足立つだろうなぁ。」

私の話など全く聞いていない様子にこめかみを押さえた。
頭いたい。

「あはははは。そう考え込むなって。そうそう、最近女性に人気なのはユーリスアの西の外れにあるスィーツ屋さんかな。オシャレな空間で食べるオシャレな甘味が女子力を上げてくれるらしいぞ。」

オシャレな空間でオシャレな甘味。
ライファはオシャレって興味あるのだろうか。

女子力とか気にしなそう。

んーと考え込んでいると、ユーリさんが味は確かだそうだぞ、と付け足したのでその店の名前を教えてもらった。
【スィートホーム】というお店らしい。


その後、夫婦喧嘩の仲裁をし、落ちかかっていた看板を魔力で撤去した。

「レイ様。」

マオ婆が何かを持って寄ってきた。マオ婆は自身の子供たちが亡くなってしまったせいで一人暮らしをしている老人で、見回りの際は必ず話しかけるようにしているのだ。

「2、3日前、家の前をふらふら飛んでいた妖精を保護したのですが、日に日に弱っていって私の力ではもうどうしようもありません。なんとか助けていただけないでしょうか。」

手元を覗けばグッタリとした妖精がくるまれたタオルを持っている。
妖精は普段、自分の身を隠す力を持っている。自ら相手に見えるようにすることも出来るが、妖精にとって身を隠すということは人間が息をするのと同じくらい自然に行える力だ。姿を隠すことも出来ないということはそれだけ弱っているということになる。

「わかりました。こちらで引き取りましょう。きっと元気にして元の世界へ返しますよ。」

私はそう言ってマオ婆の背中を優しく撫でた。

きっともうこの妖精は助からない。
マオ婆に助からないことを伝えるよりも騎士団の元で元気になって旅だったとそう信じる方が
マオ婆にとって痛みは少ないだろう。
これ以上、誰かが亡くなる姿は見せたくないと思った。


妖精を受け取った後、足早に騎士団の元へ帰る。
ユーリの目がいつになく真剣だ。

「レイ、あの事件の調査の過程で、実は妖精の関与が疑われている。もしかしたら、この妖精は手掛かりの一つになるかもしれない。」

「え?」
「マオ婆はいつも気にかけてくれるお前だから話せたんだろうな。」

ユーリはそう言って私の頭をポンっと叩くと、騎士団長の元へと向かった。


14時。ようやく騎士団の仕事が終わった。

「レイ、飯食ってかえろうぜ。」
「おー。」

ロッチェと連れだって行きつけの食堂に向かう。
ここ【フェニックス】は騎士団がよく通う食堂だ。店主がお客を見て勝手にその人のメニューを決めるという変わった食堂で、嫌いな物でも出されたからには食べないといけないという決まりがある。噂では店主はスキルを持っていて、その人にどの栄養が足りないかが分かるらしい。それでその人に足りない栄養がたっぷりとれるメニューを出してくれるのだそうだ。

日々訓練で体を酷使する騎士団としては、ありがたいお店なのだ。

席に着くと、ロッチェにはスパイシーでおいしそうな野菜炒めが出てきたが、私に出てきたのはフルーツたっぷりの特大スイーツだった。

できることなら、ご飯ものの後に出てきてほしかった。

ふっと遠い目をしていると、目の前のロッチェは私を見て笑いをかみ殺していた。
それでも、一口食べれば驚くほど体に沁み渡ってゆくのがわかる。

「美味い・・・。」

ほぅっとスイーツを見つめていると、窓の外にチョンピーが現れた。口に手紙をくわえたチョンピーはどうやら私に用事があるらしい。窓をあけて手紙を受け取る。差出人はレベッカだった。
そうっと手紙の封を切ると中から小さなレベッカが這い出てきてちょこんと座った。
自分型の手紙を使ったらしい。このタイプはただ伝言するだけなので、相手のことが見えたりする機能はない。

「こんにちは、レイ様。近頃ずっとお会いすることができなくて、レベッカは寂しく思っております。6の日から始まる王都のお祭り、もしよろしければご一緒しませんか。」

小さなレベッカはおねだりでもするかのように上目づかいで私を見つめた。

「レイ様のお好きなカレッチャもご用意しますわ。よいお返事をお待ちしております。」

小さなレベッカはスカートの端を左手で持つと右手を自身の胸に当て頭を下げた。
そして顔を上げると同時に消えた。


「レベッカは随分とお前に執着のご様子ですな。」

ロッチェは言う。

「わざわざ自分が出てくるタイプの手紙を選ぶとはよほど自分に自信があるらしい。」

そうかもしれない。
でも、もしかしたら、忘れないでほしいというメッセージなのかもしれない。

ライファに送るためのリトルマインを買いに行ったときに、互いの声だけを聴くための物もあったのだ。それでも、自身の姿に変化するタイプを選んだのは、ライファに私を忘れてほしくなかったから。
会えなくても私を思い出してほしいと、独占欲に似た感情が確かにあったのだ。

「なんて顔してんだよ。なんか、わかんねぇけど、こう、キュンってなるわ、その顔。」

ロッチェがそう言って私の顔真似をする。

「そんな変な顔はしていないはずだぞ。」

ふんっと拗ねる。

「レベッカはどうするんだ?」
「祭りの期間は来客があるから断るよ。このまま誰か他の人のところへ行ってくれるといいけど。」

言葉は諸刃の剣だ。
自身が言った言葉をライファが私に言ってきたらと思うと、胸が締め付けられる思いだった。


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