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第三章
38. 不安と不安
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「次の町で宿を探そうか。」
空が赤くなり始めた頃レイの提案で街に下りた。オーヴェル王都から北東の方角へ飛び、フランシールとの国境まではあと一日といったところだ。いつものようにコテージを借り、レイと手をつないだまま部屋の中に入る。
「あー、レイ、先にお風呂入ってきなよ。ベタベタで気持ち悪いでしょ。」
「うん、じゃあ、先に入るね。」
レイがお風呂に入っている間に今日のメニューはスパイシーチキンにすることにした。お肉に酒やトンビャなどで下味をつけ、柔らかさをアップさせるためのフルーツと、カレー粉を思わせるスパイスを数種類入れて漬け込む。その間にサラダとドレッシングを作った。
キュンキュン
「ベル、つまみ食いがしたいの?」
先ほどお肉を柔らかくするために使った果物の半分をベルが指さす。
「仕方ないなぁ。少しだけだよ。」
「ライファもどうぞ。」
お風呂上りのレイがキッチンに顔を出す。髪の毛から滴る水をタオルで拭く姿は、こういっては何だがいつ見ても色っぽい。
「今日のメニューは?」
「スパイスを使ったお肉料理だよ。お風呂からあがったら焼くよ。あとはスープも作るつもり。」
レイは私に近寄ると後ろから私を抱きしめた。
「レ、レイ?私まだお風呂に入ってないから、汚いからちょっと・・・。」
「少しだけ。」
レイはそう言うと私に軽いキスをした。
「お、お風呂入ってくるよ。ベル、行くよ!」
逃げ出すかのようにキッチンを出てお風呂に向かった。
「なんか、今日のレイ、変じゃない?」
風呂桶で水遊びをしているベルに話しかけると、ベルもうんうん、と頷く。そして、手振り身振りを交えて私に何か伝えてこようとするあたり、やはり今日のレイはおかしいのだと思う。
「どうしたんだろう。」
レイが手を繋いできたことも、恋人だと言われたことも嬉しかったけれど突然な気がした。さっきのキスもそうだ。もしかして、オーヴェルの王宮で過ごして平民である私と一緒に生きていくことは無理だと思ったのではないだろうか。王族に構えることもなくちゃんと話をし、テーブルマナーも完璧だったレイ。もともと貴族は貴族同士、共に生きていくのが普通だ。そう考え始めるとレイの全ての行動が別れの前兆のような気がしてくる。
「・・・気のせいだよな。別れようと思っていたら恋人だなんて発言はしない・・・よな?」
一度膨れ上がった不安はそんなはずはないと打ち消しても胸の中にしこりのように残る。
「気にしない、気にしない。」
声に出して呟くことで心の中の声を消した。ベルの体を泡だらけにし、自身の体にも石鹸を塗る。そろそろ洗い流そうかという時、パチッと音がして明かりが消えた。
「あー、遊びに行っちゃったか・・・。」
このコテージ、灯りは火の妖精がその役目を負っているのだ。だが妖精とは本来気まぐれな生き物だ。こうして時々遊びに行ってしまったりする。すると当然部屋は真っ暗になるのだが、大抵そういう時用のランプが火の妖精がいた透明な部屋の隣に置いてあるのだ。が、立ち上がってランプをつけようと足を置いた場所が悪かった。
あっ!!と思った時にはもう遅い。突然灯りが消えたことに気をとられ、石鹸を床に置生きっぱなしにしていたのを忘れ、その上に足を置いたのだ。当然、足は滑り大して受け身も取れないまま盛大にひっくり返った。
ガシャドンっ!!
あまりのことにひっくり返ったまま呆然としていると、ベルが私のお腹に乗ったのがわかった。
「ライファ!?大丈夫か?なんか凄い音がしたけど。」
「あぁ、灯りが消えてランプをつけようとしたら転んだ。大丈夫だと・・いっ。」
ガタンっ!!
立ち上がろうとして右足に痛みが走って、また転ぶ。同時にベルがまた飛び立った。
「大丈夫か!?」
「・・・大丈夫・・・。」
そうは言ったものの、背中も痛い。痛みを堪えながら動いていると浴室のドアが少しだけ空いてタオルが差し出された。
「体にこれ巻いて。」
レイに言われて体にタオルを巻くと、レイが浴室に入ってきた。
「とにかくここから出ないと。私につかまって。」
「でも、まだ泡が。」
私がそう言うとレイがお湯を桶に溜めてくれた。
「私は外にいるからこれで泡を落として終わったら教えて。」
「うん。ごめん、ありがとう、レイ。」
何とか体の泡を落として、体を拭いて、レイに新しいタオルを貰って巻いた。
「あ、あのさ、灯りはつけないでおいて。」
「それだと何も見えなくて危ないよ。」
「じゃあ、暗めにお願い・・・します。」
だって恥ずかしいじゃん、と付け足すように呟いた言葉がレイに届いたのか、レイがくすっと笑った。薄明かりの中、タオル一枚でレイに抱きかかえられる。タオル一枚越しに感じるレイの腕に、体に、恥ずかしくていっそのこと気を失ってしまえば良かったのではないかとさえ思う。
いや、だめか。そんなことになったらタオルで隠す暇もない。
よく分からないことを考えているとリビングの明るい光が見えてきた。あ・・・。と思っているとレイが体をかがめてしゃがみ、私をそっと床に置くと指を鳴らした。パチンとい音と共に明るさが落ちる。
「これでいい?」
「うん。」
またレイに抱えられてベッドに下された。
「どこが痛いの?」
「右足首と背中。」
ベッドに腰を下ろした私の足元に跪くようにしてレイの手が私の足に触れる。オレンジ色の柔らかい灯りがレイのレイの綺麗な顔を浮かびあがらせる。その綺麗な人が私の足に触れている。
「・・・っ。」
何とも言えない熱が体の奥から湧き上がってくるような気がして、顔を逸らした。
「あぁ。少し腫れているね。ちゃんと見たいからもう少し明るくしていい?」
「だめ!それはだめだ!」
レイは真剣に足を見てくれているというのに顔を真っ赤にしている自分を見られたくなくて強く言えば、またくすっと笑われた。
「このまま治さないでいたらライファは私がいないと動けなくなるね。」
「え?」
「うそ、ちゃんと治してあげるよ。ひとりでもどこにでも行けるように。」
レイの言葉がズキッと胸に刺さった。レイの手が触れた部分が温かくなり、その温かさが足の痛みをとってゆく。それなのに他の部分が痛み出して、ぽたっと雫が落ちた。
「ひとりでもどこにでも行けるようにってどういう意味だよ・・・。」
「ライファ!?」
レイが驚いて私の顔を覗き込む。私は顔を上げることも出来ずに俯いたまま体に巻いてあるタオルを握りしめた。
人の前で泣くのは嫌いだ。ましてや、その原因となる人の前で泣くのはもっと嫌いだ。
「・・・私のことが要らなくなった?・・・いや、ごめん、なんでもない。」
思わず呟いてから、余計なことを言ったと気付いて訂正する。
「もう、大丈夫。ありがとう、治してくれて。」
立ち上がってバスルームに戻ろうとすると腕を捕まれた。
「待って。まだ背中が終わってないでしょう?私に背中を向けてベッドに座って。」
言われた通りにベッドに座る。レイはベッドの脇に膝立ちになると私のタオルに触れた。
「タオル緩めて。でないと背中が見えないから。」
タオルを緩めるとレイの手でタオルが下へと引かれ、腰から上、背中が全部露わになった。首の下から背中の中心までレイの指が私の背中をなぞるから、体がビクッとなる。
「私がライファを要らないって?誰がそんなことを言ったの?」
問い詰めるようなレイの口調。指は更に下がって痛みを伴う部分へと走ってゆく。
「・・・っ、レイがいつもと違うから・・・。優しすぎて・・・不安になっ・・・ひっ。」
レイの指が痛い部分を押し、思わす声が出た。
「ライファは私のことが好き?」
言葉にできずに、コクと頷く。
「じゃあ、クオン王子は?昨夜抱き合っていたでしょう?私の部屋の窓から見えていた。」
「あれはそういうんじゃなくて・・・いっ!」
レイがまた私の痛い部分を押す。
「じゃあ、どういうつもりなの?」
「慰め合っていただけだ。」
「ふぅん、体で?」
「その言い方っ・・・ひっ。」
今度は背中に生温かい湿ったものを感じ、ビクッと体を反らせて声をあげた。
もしかして、レイに舐められているのか?そう思った瞬間、見えもしないのに私の背中に口づけているレイの姿が脳裏に浮かんで眩暈がした。レイの唇が肩甲骨の辺りに触れた。チュッと音を立てて強く吸った後、離れていく。肩、脇腹、腰。レイの唇が触れるたびに、チュッと吸う音が聞こえるたびにゾクゾクした熱が弾けるかのようだ。
「っ、レイっ・・・。」
堪らずレイの名前を呼ぶ。
「ライファの方こそ私のことが要らなくなったんじゃない?」
「そんなこと・・ないっ。・・・っ!!」
ふっとレイの唇が背中から離れた。
レイの手が私の背中に触れ、撫でるように痛い部分を包むと温かさが広がり痛みが完全に消えた。
「・・・クオン王子の元へ行ってしまうのかと思った・・・。」
レイの頭が背中に当たり、言葉と共に吐き出された息が私の背中をざわつかせる。私がお風呂場で抱いたような不安をレイも抱いていたのだ。しかも昨日の夜からずっと。
「行かないよ。」
私が片手でタオルを押さえながらレイを振り返ると顔を伏せたままのレイがいた。レイの頬に触れて顔を上に向かせる。
「不安にさせてごめん。」
レイの目に吸い込まれるように近くなる顔と顔。おでこをくっつけて、それから顔の角度を変えて唇を重ねた。少し離れて、また重ねて、もう一度重ねようとした時、レイがグッと私の体を押して顔を背ける。
「ライファ、その恰好は、ちょっと色々とヤバい。」
レイに言われて、自分がどんな格好をしていたのかを思い出した。
「うわっ、ごめんっ!!」
慌てて布団を被る。
「ぷぷっ、さっきはあんなに大胆だったのにね。」
「ちゃんと服着るから、向う行ってて。」
「ん~、どうしようかな。」
「レイっ!!」
怒ったように言うと、レイが笑いながら部屋を出ていった。
空が赤くなり始めた頃レイの提案で街に下りた。オーヴェル王都から北東の方角へ飛び、フランシールとの国境まではあと一日といったところだ。いつものようにコテージを借り、レイと手をつないだまま部屋の中に入る。
「あー、レイ、先にお風呂入ってきなよ。ベタベタで気持ち悪いでしょ。」
「うん、じゃあ、先に入るね。」
レイがお風呂に入っている間に今日のメニューはスパイシーチキンにすることにした。お肉に酒やトンビャなどで下味をつけ、柔らかさをアップさせるためのフルーツと、カレー粉を思わせるスパイスを数種類入れて漬け込む。その間にサラダとドレッシングを作った。
キュンキュン
「ベル、つまみ食いがしたいの?」
先ほどお肉を柔らかくするために使った果物の半分をベルが指さす。
「仕方ないなぁ。少しだけだよ。」
「ライファもどうぞ。」
お風呂上りのレイがキッチンに顔を出す。髪の毛から滴る水をタオルで拭く姿は、こういっては何だがいつ見ても色っぽい。
「今日のメニューは?」
「スパイスを使ったお肉料理だよ。お風呂からあがったら焼くよ。あとはスープも作るつもり。」
レイは私に近寄ると後ろから私を抱きしめた。
「レ、レイ?私まだお風呂に入ってないから、汚いからちょっと・・・。」
「少しだけ。」
レイはそう言うと私に軽いキスをした。
「お、お風呂入ってくるよ。ベル、行くよ!」
逃げ出すかのようにキッチンを出てお風呂に向かった。
「なんか、今日のレイ、変じゃない?」
風呂桶で水遊びをしているベルに話しかけると、ベルもうんうん、と頷く。そして、手振り身振りを交えて私に何か伝えてこようとするあたり、やはり今日のレイはおかしいのだと思う。
「どうしたんだろう。」
レイが手を繋いできたことも、恋人だと言われたことも嬉しかったけれど突然な気がした。さっきのキスもそうだ。もしかして、オーヴェルの王宮で過ごして平民である私と一緒に生きていくことは無理だと思ったのではないだろうか。王族に構えることもなくちゃんと話をし、テーブルマナーも完璧だったレイ。もともと貴族は貴族同士、共に生きていくのが普通だ。そう考え始めるとレイの全ての行動が別れの前兆のような気がしてくる。
「・・・気のせいだよな。別れようと思っていたら恋人だなんて発言はしない・・・よな?」
一度膨れ上がった不安はそんなはずはないと打ち消しても胸の中にしこりのように残る。
「気にしない、気にしない。」
声に出して呟くことで心の中の声を消した。ベルの体を泡だらけにし、自身の体にも石鹸を塗る。そろそろ洗い流そうかという時、パチッと音がして明かりが消えた。
「あー、遊びに行っちゃったか・・・。」
このコテージ、灯りは火の妖精がその役目を負っているのだ。だが妖精とは本来気まぐれな生き物だ。こうして時々遊びに行ってしまったりする。すると当然部屋は真っ暗になるのだが、大抵そういう時用のランプが火の妖精がいた透明な部屋の隣に置いてあるのだ。が、立ち上がってランプをつけようと足を置いた場所が悪かった。
あっ!!と思った時にはもう遅い。突然灯りが消えたことに気をとられ、石鹸を床に置生きっぱなしにしていたのを忘れ、その上に足を置いたのだ。当然、足は滑り大して受け身も取れないまま盛大にひっくり返った。
ガシャドンっ!!
あまりのことにひっくり返ったまま呆然としていると、ベルが私のお腹に乗ったのがわかった。
「ライファ!?大丈夫か?なんか凄い音がしたけど。」
「あぁ、灯りが消えてランプをつけようとしたら転んだ。大丈夫だと・・いっ。」
ガタンっ!!
立ち上がろうとして右足に痛みが走って、また転ぶ。同時にベルがまた飛び立った。
「大丈夫か!?」
「・・・大丈夫・・・。」
そうは言ったものの、背中も痛い。痛みを堪えながら動いていると浴室のドアが少しだけ空いてタオルが差し出された。
「体にこれ巻いて。」
レイに言われて体にタオルを巻くと、レイが浴室に入ってきた。
「とにかくここから出ないと。私につかまって。」
「でも、まだ泡が。」
私がそう言うとレイがお湯を桶に溜めてくれた。
「私は外にいるからこれで泡を落として終わったら教えて。」
「うん。ごめん、ありがとう、レイ。」
何とか体の泡を落として、体を拭いて、レイに新しいタオルを貰って巻いた。
「あ、あのさ、灯りはつけないでおいて。」
「それだと何も見えなくて危ないよ。」
「じゃあ、暗めにお願い・・・します。」
だって恥ずかしいじゃん、と付け足すように呟いた言葉がレイに届いたのか、レイがくすっと笑った。薄明かりの中、タオル一枚でレイに抱きかかえられる。タオル一枚越しに感じるレイの腕に、体に、恥ずかしくていっそのこと気を失ってしまえば良かったのではないかとさえ思う。
いや、だめか。そんなことになったらタオルで隠す暇もない。
よく分からないことを考えているとリビングの明るい光が見えてきた。あ・・・。と思っているとレイが体をかがめてしゃがみ、私をそっと床に置くと指を鳴らした。パチンとい音と共に明るさが落ちる。
「これでいい?」
「うん。」
またレイに抱えられてベッドに下された。
「どこが痛いの?」
「右足首と背中。」
ベッドに腰を下ろした私の足元に跪くようにしてレイの手が私の足に触れる。オレンジ色の柔らかい灯りがレイのレイの綺麗な顔を浮かびあがらせる。その綺麗な人が私の足に触れている。
「・・・っ。」
何とも言えない熱が体の奥から湧き上がってくるような気がして、顔を逸らした。
「あぁ。少し腫れているね。ちゃんと見たいからもう少し明るくしていい?」
「だめ!それはだめだ!」
レイは真剣に足を見てくれているというのに顔を真っ赤にしている自分を見られたくなくて強く言えば、またくすっと笑われた。
「このまま治さないでいたらライファは私がいないと動けなくなるね。」
「え?」
「うそ、ちゃんと治してあげるよ。ひとりでもどこにでも行けるように。」
レイの言葉がズキッと胸に刺さった。レイの手が触れた部分が温かくなり、その温かさが足の痛みをとってゆく。それなのに他の部分が痛み出して、ぽたっと雫が落ちた。
「ひとりでもどこにでも行けるようにってどういう意味だよ・・・。」
「ライファ!?」
レイが驚いて私の顔を覗き込む。私は顔を上げることも出来ずに俯いたまま体に巻いてあるタオルを握りしめた。
人の前で泣くのは嫌いだ。ましてや、その原因となる人の前で泣くのはもっと嫌いだ。
「・・・私のことが要らなくなった?・・・いや、ごめん、なんでもない。」
思わず呟いてから、余計なことを言ったと気付いて訂正する。
「もう、大丈夫。ありがとう、治してくれて。」
立ち上がってバスルームに戻ろうとすると腕を捕まれた。
「待って。まだ背中が終わってないでしょう?私に背中を向けてベッドに座って。」
言われた通りにベッドに座る。レイはベッドの脇に膝立ちになると私のタオルに触れた。
「タオル緩めて。でないと背中が見えないから。」
タオルを緩めるとレイの手でタオルが下へと引かれ、腰から上、背中が全部露わになった。首の下から背中の中心までレイの指が私の背中をなぞるから、体がビクッとなる。
「私がライファを要らないって?誰がそんなことを言ったの?」
問い詰めるようなレイの口調。指は更に下がって痛みを伴う部分へと走ってゆく。
「・・・っ、レイがいつもと違うから・・・。優しすぎて・・・不安になっ・・・ひっ。」
レイの指が痛い部分を押し、思わす声が出た。
「ライファは私のことが好き?」
言葉にできずに、コクと頷く。
「じゃあ、クオン王子は?昨夜抱き合っていたでしょう?私の部屋の窓から見えていた。」
「あれはそういうんじゃなくて・・・いっ!」
レイがまた私の痛い部分を押す。
「じゃあ、どういうつもりなの?」
「慰め合っていただけだ。」
「ふぅん、体で?」
「その言い方っ・・・ひっ。」
今度は背中に生温かい湿ったものを感じ、ビクッと体を反らせて声をあげた。
もしかして、レイに舐められているのか?そう思った瞬間、見えもしないのに私の背中に口づけているレイの姿が脳裏に浮かんで眩暈がした。レイの唇が肩甲骨の辺りに触れた。チュッと音を立てて強く吸った後、離れていく。肩、脇腹、腰。レイの唇が触れるたびに、チュッと吸う音が聞こえるたびにゾクゾクした熱が弾けるかのようだ。
「っ、レイっ・・・。」
堪らずレイの名前を呼ぶ。
「ライファの方こそ私のことが要らなくなったんじゃない?」
「そんなこと・・ないっ。・・・っ!!」
ふっとレイの唇が背中から離れた。
レイの手が私の背中に触れ、撫でるように痛い部分を包むと温かさが広がり痛みが完全に消えた。
「・・・クオン王子の元へ行ってしまうのかと思った・・・。」
レイの頭が背中に当たり、言葉と共に吐き出された息が私の背中をざわつかせる。私がお風呂場で抱いたような不安をレイも抱いていたのだ。しかも昨日の夜からずっと。
「行かないよ。」
私が片手でタオルを押さえながらレイを振り返ると顔を伏せたままのレイがいた。レイの頬に触れて顔を上に向かせる。
「不安にさせてごめん。」
レイの目に吸い込まれるように近くなる顔と顔。おでこをくっつけて、それから顔の角度を変えて唇を重ねた。少し離れて、また重ねて、もう一度重ねようとした時、レイがグッと私の体を押して顔を背ける。
「ライファ、その恰好は、ちょっと色々とヤバい。」
レイに言われて、自分がどんな格好をしていたのかを思い出した。
「うわっ、ごめんっ!!」
慌てて布団を被る。
「ぷぷっ、さっきはあんなに大胆だったのにね。」
「ちゃんと服着るから、向う行ってて。」
「ん~、どうしようかな。」
「レイっ!!」
怒ったように言うと、レイが笑いながら部屋を出ていった。
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