【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第三章

52. オーヴェル騎士団宿舎

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クオン王子の計らいでオーヴェル騎士団の宿舎内に私も泊らせてもらえることになり、ジョンに案内されてオーヴェル騎士団長の元へと足を運ぶ。

「本当はあまり顔を合わせたくないのですが・・・。これもグショウ隊長の為っ!」
ジョンがぶつぶつと呟きながら騎士団長室をノックした。

「はい。」
「ゼノウ団長、ジョンです。クオン王子の命によりグショウさんをお連れしました。」
「入れ。」

ドアの向うから低くて渋い声がした。とたんにジョンが小さなため息をつく。

「グショウ隊長、これを持っていてもらえますか。」

ジョンに手渡されたのはここに来る途中に会った王宮食堂料理長からの差し入れのお酒だ。ジョンがもう一度ため息をついてからドアを開けた瞬間、ジョンの顔を目がけて茶色のボールのようなものが跳んできた。

バシャっ!

ボールはジョンの顔に当たって弾けジョンの顔が茶色い泥のようなものに塗れる。うへぇ、と心の中で叫びつつジョンを見ると見た目とは裏腹に花の香りのようないい香りが漂った。

「見た目は酷いですが、いい香りですね。」
顔を拭っているジョンから少し距離を取りつつ褒めると中から大きな笑い声が聞こえた。

「はっはっはっは、そうだろう。そうだろう。うちの調合師に作らせたフレグランスだからな。ジョンに投げる用のボールに混ぜて貰ったのだ。今日も派手にぶつかったな、ジョン。」

「団長、避けると怒るじゃないですか。もういい加減、こういうことはやめて欲しいのですけどね。」
「お前が私を怒らせるようなことをしなくなればやめるぞ。」
「団長が勝手に怒っているだけですよ。私は悪いことはしてないですよ?」

「ジョン、あなたが悪いに決まっているでしょう。ゼノウ団長、お初にお目にかかります。ターザニア騎士団隊長のグショウと申します。この度はお世話になります。」

会話に口を挟むのはどうかと思ったが永遠に続きそうな二人の会話に思わず割り入った。

「うむ。私がオーヴェル騎士団、団長のゼノウだ。ターザニアのことはなんと言ったらいいのか・・・。皆の魂が安らかであることを祈っている。」

ゼノウ団長が神妙な面持ちで目を伏せた。

「ありがとうございます。」

「クオン王子から話は聞いている。確か3階の角部屋が空いていたな。そこを使っていいぞ。騎士団のトレーニングにも自由に参加して良い。」

「助かります。すっかり体がなまってしまって。この機会に勘を取り戻したく思っております。」
「あぁ、王が許す限りここにいるといい。ジョン、部屋の案内を、それからお前もその良い香りを落として来い。」

ジョンは小さな声で、あなたがやったんでしょうが、と呟いた後、大きな声で返事をした。

「それからこれは料理長からの差し入れです。」
「おぉ、これこれ。」

ゼノウ団長は嬉しそうに顔を綻ばせた。




騎士団長室を出ると廊下を冷やしているコオリーンがいた。目が合ったような気がしたのでなんとなく微笑むと、パッとその姿を消した。

「あーあ、オーヴェルのコオリーンは恥ずかしがり屋さんなんですよ。そんな風に微笑んだら、照れて消えてしまうじゃないですか。」

「そうなのですか。」
「私は消えませんからいくらでも微笑んでいただいて大丈夫ですよ。」
「あなたが私が微笑むようなことをすればいいのですが、なかなか無さそうですねぇ。」
「そんなっ。」

わざとらしくシュンとしたジョンを追い越してスタスタと歩く。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよー。場所も知らないくせに。」
「じゃあ、余計なことは話さずにさっさと案内してくださいね。」

ふんっと笑うと、いつもそんな笑みなんだから、と拗ねた声がする。あぁ、面倒くさい。

「ちょっと2階に寄って行っていいですか?」
「どうぞ。」

ジョンは階段を上ってすぐの部屋の中に消えると、5分も経たずに出てきた。

「もういいですよ。グショウ隊長の部屋に行きましょ。」


案内された部屋は二つの机と二つのクローゼット、二段ベッドがあるシンプルな部屋だ。
必要最低限の物を置いた部屋の感じはどこの騎士団も一緒か。ターザニアの騎士団を思い出し、感慨深くなっているとジョンが二段ベッドの上の段に枕とタオルケットを投げた。

「グショウ隊長は下の段ね。」
「え?あなたもここに泊るのですか?」
「えぇ。そうですよ。私はグショウ隊長と離れるつもりはありませんから。」

ジョンが当たり前のことのように言う。

「ゼノウ団長には話してあるのですか?」
「話すわけないでしょ。絶対に面倒なことになる自信があります。」

そんな自信を持たれても・・・。いつもこんな感じなのだろうか。ジョンにボールを投げつけたくなる団長の気持ちが少し分かる気がした。きっと実力がなければ追い出していたに違いない。

「はぁ・・・。ジョン、そろそろシャワーでも浴びたらどうですか?」



夕食は食堂でいただき、ジョンの紹介で何人かに挨拶をした。シャワーとトイレは各階にあり、入浴は自由に済ませて良いようだ。

なんだか疲れたな。

慣れない環境に気を遣ったせいかまだ22時を回ったところだというのにもう眠い。ベッドに寝転がって薄眼でうとううとしているとベッドの上の段からブラッと頭が垂れ下がった。

ひっ!!

思わず目を見開く。その存在が何か分かっていても心臓に悪い現れ方だ。

「ジョン、その覗き方、まるで死人のようですよ。」
「驚かせてしまいましたか?」

二階のベッドの端に立ち膝になってベッドの枠に体をくの字に折り曲げているのだろう。こちらからは逆さまになった目とクルクルの頭が半分見えているだけだ。

「なるほど、そうやって覗くために上の段を選んだというわけですね。」

「うつ伏せになってスキルでベッド越しにグショウ隊長を覗く方法もありますけどね。グショウ隊長が心配なんですよ。あのような事態にはるのは二度と御免です。」

「わかりました。それであなたが安心するというのなら思う存分覗いてください。私はもう寝ますよ。もう、眠くて・・・眠くて。」

そこまで話すのがやっとで夢の中に吸い込まれていった。




薄暗い部屋。誇りの臭いがする。
5、6歳~10代の少女が10人程その部屋には居た。

ここはどこだ?

夢の中で自問自答する。
前回は波の音で目が覚めたはずだ。殺されて海に捨てられて、死んだと思ったら波の音で目が覚めた。一人きりで待ちへ歩き濡れてボロボロの恰好のまま、毒と海によって体力も奪われ動けるのが不思議だった。人の視線が注がれているのは分かったが、気にする余裕もなくただ歩いて・・・・倒れた。

「目が覚めたかぃ?」

声をかけてきたのは50代半ばと思われる女性だ。ギラついた目と左手の中指に大きな宝石のついた指輪をつけているのが印象的だ。

「お前、行くところがないんだろう。ボロボロの雑巾のような服を着て街で倒れていたお前をここまで運んできてやったんだ。」

ボロボロの雑巾のような服・・・。この少女が王宮で来ていた服は上等な服のはずだ。装飾品は与えられなかったから持っていなかったが、ちゃんと刺繍の施された高級な布の服を着ていた。海に濡れて傷ついたってボロボロの雑巾という表現にはならないはずだ。

まさか・・・捨てる前に孤児用の服に着替えさせたのか。

少女の返事も待たずにギラついた目の女性は続けた。

「ここに居てもいいよ。ただし、ちゃんと働いてもらうよ。あんた生娘だろう?生娘の初めては高く売れるのさ。」

少女は考えることを放棄したかのようだった。何も感じない。何の動揺も見せない。
そしてその日の夜、体の回復もままならぬまま、客を取った。痛みに声を上げたのは一度だけで、それからは揺さぶり続けられる体をなすがままにした。

そこには苦痛も快楽もなかった。

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